「私、気になります!!」
いつもの放課後にいつもの教室。
そして、そこに集まるは好奇心の猛獣こと我等が部長【千反田える】
自称データベースの腐れ縁【福部里志】
里志LOVE折木DIE【伊原摩耶花】
省エネ主義でおなじみ【折木奉太郎】
そんな俺たちは、ここ神山高校地学準備室でいつもと変わらない平凡な日常を過ごしていた。
いや、…変わらないといえば語弊があるだろうか?
俺達が無事、二年に進級できたこと。
里志と伊原が恋人同士になったこと。
俺と千反田がどこか、ギクシャクしていること。
世間から見れば取るに足らない平凡な日常。
だから俺は怖かったのかもしれない。
変わりゆく世界を見ることが。
変わった世界で無知でいることが。
変えられない自分を知ることが。
どうしようも無く不安だったのろうか?
だからなのかこの時、柄にも無く俺は千反田の言葉に返事を返してしまっていた。
「…何がだ?」
「折木さんのことです!!」
「俺が?」
俺は頬杖をついたまま、視線は窓の外に向ける。
どうしてそうしたのかは分からなかった。
ただ、そうしていると少しだけ気持ちが落ち着いた。
「…はい。折木さんっていつも読書かお昼寝をなさっていて、私達の会話に極力参加しようとしないじゃないですか?」
「まあ…そうだな。」
「ですが今日は、私達の会話にきちんと耳を傾けていらっしゃいました。普段、物事に全く興味を示さない折木さんがどうして私達の会話に興味を示していたのか…!私、気になります!!」
「………。」
千反田らしいと言えばらしいのだが、この天然で無意識に人をDISれる能力はどうにかならないのだろうか?
俺が内心ため息をついていると、里志が口を開く。
「確かに興味深いね。去年、奉太郎が図書館に行こうって言い出した時以来の自発的行動じゃないかな?珍しいこともあるものだね。」
訂正。毒を吐く。
「なんだそれは?俺は省エネ主義なだけであって必要とあれば自発的に行動する。どれだけものぐさなヤツだと思われてるんだ…。」
「ナマケモノといい勝負なんじゃない?」
伊原が里志に続く。
お前ら付き合い始めてから性格似てきてないか?
少しだけ苛立ちを感じた俺は、伊原に言葉を返す。
「彼氏の腕に四六時中引っ付いているヤツに言われたくない。」
「ぶっ飛ばすわよ?」
「理不尽な…」
本当に理不尽なのだから救えない。
物語の主人公達はいつもこのような出来事に耐えて日々を生きているのか…。
…俺ならプロローグで首を吊るな。
だんだん心が荒んできたところで里志が伊原を止める。
「まあまあ、落ち着いてよ摩耶花。奉太郎も。」
「福ちゃんがそう言うのなら…」
恋は盲目とは良く言ったものだ…。
俺は伊原に掴まれ、乱れていた襟を正しながら里志に物申す。
「俺は最初から落ち着いている。」
「そうかい?僕には奉太郎が酷く動揺しているように見えるんだけど?気のせいかな?」
「え?そうなんですか?福部さん。私にはいつもの折木さんにしか見えませんが…?」
「伊達にこれまで奉太郎の友達を続けて無いよ。…それで?何かあったのかい?」
…いい機会なのかもしれない。
そう思えてしまうほど、俺は余裕が無かったのだろうか?
俺は里志の目を見ながら首肯する。
「…里志、お前に話があるんだが…ちょっといいか?」
里志は少し驚いたような顔をすると、すぐにいつもの表情に戻った。
「…うん、分かったよ。場所を変えようか?」
「…助かる。」
俺達は席を立ち教室をあとにする。
すると、千反田も俺達のあとに着いてこようとしてた。
「…折木さん、何か悩み事ですか?もしそうでしたら私もご相談に…」
里志は困った顔をしながら伊原を見ると、伊原は「しょうがないわね~」みたいな顔をしつつ千反田を引き止める。
「はいはい。ちいちゃんはこっちね。」
「摩耶花さん?いえ、私は折木さんに…」
「じゃあ、摩耶花。千反田さんのことよろしく。」
「任せて。」
「え?ちょ、ちょっと待って下さい!福部さん!折木さっ…」
俺は迷わず引き戸を閉めた。
思ったよりも力が入っていたようで、扉が柱を叩く音が廊下に響きわたる。
「とりあえず歩こうか?」
それに対して里志は何も言わずに廊下を進んでいく。
その優しさが今はありがたかった。
痛みを訴える右手が、俺の余裕の無さを露見させているようだった。
「どうしてですか、摩耶花さん。摩耶花さんは折木さんが心配では無いのですか?」
「まあ、心配して無いってことは無いけど…」
「ならっ…!!」
「ちいちゃんは折木に【答え】をあげられるの?」
私の一言に固まるちいちゃん。
「答え…ですか?ええと、何か課題などがありましたでしょうか?」
「その答えじゃないよ。もっと単純で、もっと曖昧な…そんな【答え】よ。」
「…なぞなぞの類ですか?」
「なぞなぞ…うん、そうかもね。私もまだ良く分からないし…」
「?」
「でも、折木にとってそれが今じゃないってのは、私にも分かる。…だからちいちゃん、ここは福ちゃんに任せよう?ね?」
「分かりません…摩耶花さんの言っていることが、福部さんの意図が、折木さんのお気持ちが…私には…どうしても…。」
「…ちいちゃんはいい子だね。」
「…え?」
「待ってるのも暇だからジュース買ってこよ。一緒に行こ?ちいちゃん。」
「え?ちょっと、摩耶花さん!?」
私は彼女の手を引いて駆け出す。
多分、ちいちゃんもなんとなく気づいてる。
そして、どうしていいか分からなくなってる。
でも、私じゃあ答えをあげられない。
その役目は私じゃない。
だから…
(仕方ないから手伝ってあげるわよ、折木。)
その顔は、ただムカつく友達のことを思う、少しだけ悪戯っ子な女の子の顔だった。
「それで?話って?」
入須先輩から謎解き道化師の役を演じさせられ、里志から手痛い一言をもらった場所。
棟と棟を繋ぐここには屋根が無い。
そこから視界いっぱいに広がる夕日と共に流れる茜色の空が、春の終わりを予感させていた。
話したいことはある筈なのに、いざ話すとなると喉に何かが閊えたかのように言葉が出なくなる。
「…お前なら分かってるんじゃないか?」
ようやく口から出た言葉がこれだ。
里志はあきれたように俺を見ながら、俺にとって決定的な言葉を言い放つ。
「奉太郎が
「!?」
「やっぱり…気づいて無かったんだね。」
「………。」
当然だ。彼女と会うことさえ避けてきたのだから。
「生き雛祭り…あの時からだよ。奉太郎の様子が変わったのは。」
「………。」
その通りだ。俺は桜の中で出遭った彼女の笑顔が、網膜に焼き付いているかのようにどうしても忘れられない。
「表情が固い、余裕が無い、いつものように安心できていない。」
「………。」
なら…どうしろって言うんだ。教えてくれ。何が正解なんだ…!
「なんてことない…君は、
辺りが暗くなる。
俯いている俺には夕日が沈んだからなのか、雲が光を遮っているからのか判断できない。
俺は震えそうになる声を押さえ込みながら、言葉を紡ぐ。
「…俺は、分からなくなったんだ…。」
「何が?」
「あいつと…千反田との距離感だよ…。」
「………。」
ポツリ、ポツリとアスファルトに花が咲く。
それは次第に増えていって、足元を流れるように灰色へ染めていく。
「俺はずっと、灰色のままでいいと思っていた。」
「………。」
「俺はお前達みたいになれない。そんな風に笑えない。」
「………。」
「分かってる…無駄なのは知っている。俺はそういう人種じゃ無い。でも…それなのに…!!」
「奉太郎…。」
俺は濡れた髪から伝い落ちるものとは別の何かが、頬を伝っていることに気がつく。
本当に、今日の俺はどうかしている。
だからこそ、今なら言えるのかもしれない。
信頼できる、こいつにだけなら。
俺は抑えきれなくなった胸の熱を吐き出すように小さく、か細い声で叫ぶ。
「どうして…こんなにも…俺は…!!」
「
どうも、九条明日香と申します。
自分にとっては、はじめてのジャンルとなります。
今のところ魔法科高校の劣等生のほうがメインなので、こちらは息抜きの作品です。
感想をお待ちしております。
(良さそうだったら、こっちをメインにするかも…)
それでは、またの機会に。