風上家に生まれて   作:新六毛

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あやかは金色の国の夢を見る3

「あやかちゃん、また今日も一人なんだw」

「!?」

 

また例のイジワルなオジサンだった

夕暮れの庭先、垣根の向こうで性悪そうな顔を歪めて、今日もあやかを侮辱する

 

「一人じゃないのだ! もうすぐお姉達も帰ってくるのだ!」

 

今日は珍しく反論した

事実、あやかはこうして姉達の帰りを待っていた

今日は怒られない

日曜日だけは許可を得ての外出が許されるのだ

その心強さがイジワルなオジサンに坑がわせた

 

「そのお姉ちゃん達はランチ&ショッピングな訳だけど、あやかちゃんは連れて行って貰えなかったんだw」

「むうっ…!!」

 

更なるオジサンの侮辱にあやかは口を尖らせ、必殺のあっかんベーを食らわせると、踵を返し玄関を潜った

もうバカなオジサンの相手はしてられない

そんな思いで玄関のドアを力一杯バタンと閉めた

 

 

 

 

 

「お帰りなさいなのだ!!」

 

玄関のドアが開く音を自室で待っていたあやかは、待望の姉達の帰宅に、一目散に階段を駆け下りて玄関口の前に滑り込む

やはり日曜日の今日だけは自室で"良い子"にしていなくても良いのだ

両手に山ほど荷物を下げた姉達が玄関を潜って来る

 

「あぁ~ 疲れた~」

「お疲れ様なのだ!」

 

「買ったケーキでお茶でも飲みましょう」

「あやかもセロハンだけでいいから舐めたいのだ!」

 

子犬の様に姉達に纏わり付き、キャンキャンと吠えるかの如く会話に交ざり込むが、姉達はまるであやかが見えないかの様に目も合わせず、今日の"戦利品"をソファの上に並べる

 

「ふふふふふ~ん ふふふ~ん」

 

いつになくご機嫌のさやか姉が、厚手の紙袋の中から丁寧にシートに包まれた、高級そうな何かを取り出す

 

(菜の花色の…!! フリルの付いたワンピースなのだ!!)

 

これでも女の子のあやかは直ぐに分かった

一瞬に沸き上がるあやかの血液

ありがとうなのだ…!! ……と言い掛けて、だがそれは直ぐに冷まされる

 

「どう? やっぱりちょっと派手かな~?」

 

ニコニコのさやか姉は、広げた菜の花色のフリルのワンピースを己の前に掲げ、全身鏡の代わりにリビングの食器棚の前に立つ

 

「そんな事ないですわ 似合いますわよ 本当に可愛いですわ、さやか」

「ありがとう、まどか姉! こんなに高い物、本当にありがとう!」

「ふふっ 貴女が喜ぶなら安い買い物ですわ」

 

さやか姉はまどか姉の肩に顔を埋め、まどか姉はその頭を優しく撫でた

美しい姉妹の、美しき抱擁…

それを見詰めるあやかの心も、なんだか温かくなってきた

自分もそこに加わろうと思ったが、お疲れであろう二人を思って取り止めた

 

「さぁ お茶でも飲んで一休みしましょう」

 

まどか姉の言葉で、その美しい一枚絵は魔法を解かれ、再び命を得て動き始めた

 

「……………………」

 

あやかはまどか姉の顔をチラチラ覗きながらダイニングのテーブルに向かい、さやか姉の対面に腰掛ける

 

「さぁ、召し上がれ」

 

色とりどりのフルーツが沢山乗ったスポンジケーキと、湯気の立つ紅茶が運ばれて、さやか姉の前とまどか姉の席に出された

あやかの前にもケーキを包んでいたセロハンが二枚と、コップに入った水が出された

 

「美味しい~」

「美味しいのだ……」

「ふふっ 流石高級デパートの品ですわね」

 

二人の姉達は何事か楽しそうに今日の出来事を反芻している

あやかはそれをただ微笑みながら眺めていた

姉達の楽しそうな姿は、あやかにとっても幸せの光景なのだ

姉達はご機嫌で、今日は理不尽に感じるお仕置きが施される心配はなさそうだ

 

「ご馳走さまなのだ……」

 

あやかはケーキのセロハンを舐め終わると、一足早くダイニングを後にする事にした

姉達の楽しい一時を邪魔してはいけないと思ったのだ

そして同時に、早く一人になりたかったのだ

自室に戻ったら、ちょっと泣いてしまうかも知れない…

そんな事を考えると、急に涙腺か刺激され始めた

廊下に通じるドアに手を掛けた時は、既に泣きべそをかいていた

 

(あやかは… もう何もかもダメなあやかなのだ……)

 

良く分からない台詞を胸を詰まらせ、ドアの向こうに身を繰り出そうとした瞬間…

 

「あぁ、あやか… そうそう、貴女にもお土産ですわよ… 欲しがっていた…」

 

「!! …ホント!? ホントなのだ!?」

 

まどか姉の言葉に振り返るあやかの顔は、笑顔と涙でぐちゃぐちゃになっていた

あやかは自分を強く恥じた

またしても…

またしても自分の勝手な思い込みで、血を分けた大好きな姉を、心の中で責める所であった

悪者にする所であった

まどか姉はリビングに戻ると、自分の荷物の山から安っぽい紙袋を掘り出し、後に付いてきたあやかの眼前に差し出した

 

「はい… 汚さない様に着ますのよ…」

「あ、ありがとうなのだ…! まどか姉、大好きなのだ!」

 

あやかは震える手と声でそれを受け取る

久しぶり… そう、本当に久しぶりに"妹"としての幸せを噛み締めた

 

「こ、ここで開けていいのだ?」

 

あやかの問いにまどか姉は黙って頷く

一瞬自室に持って帰ってから開けようかとも思ったが、やはりプレゼントはくれた人の目の前で開けて、最大限に喜んで見せるのが礼儀であろう

久しき仲にも礼儀あり

知恵故障なりにそんな気遣いをした

あやかはペラペラの紙袋を慎重に開き、中に手を差し伸べる

待望のフリルのワンピースが手に当たる

出来ればさやか姉の様な… あやかの大好きな、菜の花色が良い

鹿目ちゃんのピンクに対抗できるのは、菜の花色を置いて他に無い

せめて同じピンク、最悪水色でも良い…!

あやかは神様と天国のお母さんにそうお願いをしながら、その手を引き抜いた

 

「……………………」

 

あやかは固まった

その手の先にあったのは、菜の花色のワンピースとは程遠い、白のトレーナーだった

 

「……あんまり嬉しそうじゃありませんわね…」

「そ、そんな事ないのだ! あやか嬉し… 嬉しいのだ!! ありがとうなのだ!!」

 

わざとらしい大声を上げ、わざとらしい小躍りをかまし、あやかはリビングを出て行く

 

「お、おやすみなさいなのだ!!」

 

心の動揺を見透かされない様にと、目一杯の空元気を振り絞り、あやかはおやすみの挨拶をしてドアを閉めた

 

「あの子… 晩御飯要らないの……?」

「さぁ… きっと胸が一杯…… なんですわ……」

 

 

 

 

 

買って貰ったトレーナーを上半身に当てて、あやかは自室の全身鏡の前に立つ

白地にあやかの大好きなパンダのアップリケ…

これは… これはこれで… 確かに可愛い……

最初は期待を裏切られ落胆したが、こうして見てみると、少し気に入っている自分がいる

きっとまどか姉はあやかを思い、自分の大好きなパンダ柄を探してくれたのだろう

そう思うと心が熱くなる

そうなのだが… 可愛いのだが……

これはあやかの求める可愛さではないのだ

あやかはプリンセスに変身したいのだ

これでは只の村娘なのだ

あやかの脳裏に、さやか姉が買って貰った菜の花色のフリルのワンピースが浮かぶ

 

(あれは… プリンセスのドレスなのだ…… あやかもあれが欲しかったのだ……)

 

泣いてしまう予定だったが涙は出なかった

まどか姉が存外可愛いトレーナーを買ってくれたお陰であったが、それ以上に何者かがあやかの心に邪な囁きを繰り返して、彼女の思考を支配していたせいでもあった

 

 

 

(ほんのちょっと… さやか姉が帰って来る前に返せば… 綺麗に使えば…… バレないのだ…?)

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