『キ~ンコ~ン、カ~ンコ~ン…』
楽しい時間は瞬く間に終わってしまう
だが知恵故障娘達にとっての楽しい時間はまだまだ続く
「今日はホイコーローなんだよ~!」
「ウェヒヒ! ホイ! コーロー! …なんちてw!」
「プラチナ意味不!」
その日は月に一度のデラックス給食デー
給食室のおば様方が舌打ちしながら、何時もより手間の掛かるワンランク上のお昼御飯を供してくれる日である
何時もの様に、教室の中央で互いの机をくっ付ける仲良し四人組のテンションは、天井知らずに高まって行った
ただ一人、あやかだけはそのベクトルが皆と違う方向に向いていた
「「……………………」」
三人の視線がじっと注がれても、あやかはそれ気付く事無く、夢の世界を放浪し続けていた
先割れスプーンを握ったまま、宙空の一点を見詰め、ニタニタと不気味な笑みを浮かべる
「あやかちゃん… 食べないの~?」
知恵故障娘達の感覚でも異常を感じる程の余りの惚けぶりに、麦波ちゃんが声を掛けた
「ん? んあぁ… あやか、なんだか食欲がないのだ…」
あやかは只々、胸が一杯だった
「「えぇっ!?」ウェヒ!?」
そして皆はその言葉に驚きの声を上げた
「あ、あやかちゃん!? 身体、具合悪いの~!?」
「ウェヒヒ!? ホイ! コーロ! …なのに!?」
「プラチナ心配……」
仲良し学級に於いて、"三度の飯より給食が好き"、という良く分からない印象を持たれているあやかが、その給食、しかもデラックス給食に手を付けない…
それは仲良し学級始まって以来の大事件であった
「あやかちゃん… 死んじゃ嫌だよ~… うぅっ……」
早くも涙声の麦波ちゃんが、あやかとの永久の別れを惜しみだす
「ウェヒヒ… 風上のあやかちゃんが居ないと… 学校… 楽しくない……」
それに釣られたのか、何かとあやかと波長の合う好敵手、鹿目ちゃんも、極めてレアな涙目を見せた
「……プラチナ…… この間は… ごめんね…… うぅ」
月火ちゃんに至っては、言語野の障害を乗り越え、先日の取っ組み合いをあやかに謝罪する
己の感情に実直に生きる知恵故障娘達の中では既に、あやかは不治の病で余命十五分という事になっていた
「……あ… あやか、死んじゃう… のだ!?」
クラスメイト達の普段見せない湿っぽさに、当のあやかでさえ夢の世界から引き戻され、自分の天命が尽きようとしていると錯覚しだす
恐るべき知恵故障思考…
「死んじゃいやだよ~!」
「死にたくないのだ~!」
「ウェヒヒ~!」
「プラチナ~!」
四人は立ち上がり、あやかを中心として抱き合った
皆号泣していた
「あやかちゃん、私のプリンあげるね~…」
「い、いいのだ!?」
「せめてもの… 私にできる事だよ~!」
デラックス給食のデザート、プリン…
仲良し学級では金に等しい価値を持つと言われるそれを、麦波ちゃんはあやかに捧げた
永久の友情の証である
「ウェヒヒ… 風上のあやかちゃん、はいどーぞ!」
「鹿目のまどかちゃんもなのだ!?」
好敵手の手向けとしては物足りないぐらいであろう
「プラチナ献上…」
「ありがとうなのだ!」
当然月火ちゃんもプリンを差し出す
「みんなありがとうなのだ! あやか、みんなとお友達になれて、嬉しかったのだ!」
「「あやかちゃん!!」」
四人の知恵故障娘達は滂沱の涙を流しながら、何時までも何時までも抱き合っていた
「ど、どうしたのみんな!?」
雫先生の声はやや裏返っていた
当然であろう
教室に入って見れば、生徒達がプリンを片手にスクラムを組んで号泣しているのだ
状況が飲めなかった
「先生~! あやかにちゃんが死んじゃうよ~!」
「死にたくないのだ~!」
「ウェヒヒ… ヒック…」
「プラチナ悲劇…!」
しかしそこは若いとは言え、知恵故障学級の教師
直ぐに冷静さを取り戻し、生徒達を落ち着かせる
「そうね、ちゃんと座って給食を食べられないなら、お腹が痛くなって死んでしまうかも知れないわね… こんなに美味しそうな給食を残したら、バチも当たっちゃうわ…」
「グスン……」
「ズク……」
「ズズ~……」
「ヒック……」
ハープの調べの様な雫先生の透明な声は、まるで不思議な魔力を持っているかの様だった
知恵故障娘達は憑き物が落ちたかの様に、落ち着きを取り戻す
「私は残さず食べるんだよ~…」
「ウェヒヒ… 残したら勿体ない…」
「プラチナ再食…」
「あやかも… あやかも食べるのだ…!」
「!! …良かった~! あやかちゃん、元気になったよ~!」
「ウェヒヒ! これはチャンスかも!」
「プラチナハッピー!」
結局何時もの賑やかな給食時間となった
ちょっぴり塩味の効いたホイコーローを掻き込む四人…
あやかの机に置かれたプリンに手を方向伸ばす者は居なかった
それは友情の証なのだ
たとえあやかの死の淵から蘇ったとしても、たとえ八十歳まで長生きしようとも、あやかを思った気持ちに偽りも変化もないのだ
その証左なのだ
雫先生は教卓の上から四人を優しく見詰めていた
心無い同僚は、知恵故障相手に教鞭を振る雫を哀れんだ
"普通"のクラスを持てる様にと、便宜を謀ろうと申し出る者もあった
だが雫は、仲良し学級の担任である事を悔やんだり、恥じたりした事は一度も無かった
これからも無いだろう
"自分の生徒は世界一……"
教師が誰しもそう思おうと努力するそれを、自分が心から思える事を神に感謝した