風上家に生まれて   作:新六毛

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あやかは金色の国の夢を見る6

あやかは帰り道、その十字路を直進した

左に折れれ最短帰宅ルート、所謂通学路…

この十字路はあやかに取って魔の分岐点である

屡々、彼女の遅刻を決定付ける事となる、文字通りの分かれ道となった

ベッドタウンとして発展し、歴史の浅い織平市は、少し街を外れるだけで豊かな自然環境が目の前に広がる

取り分け、あやかが進んだ先には、彼女の感性を刺激して止まない、様々なプレイスポットが待ち構えていた

先ずは住宅地の外れにある公園

鎮座する滑り台やジャングルジムは、中学生になった今でも、あやかの好奇心を強く刺激する

その先には田園地帯が広がり、そこはオタマジャクシやザリガニなど、都会では珍しくなった生き物達が、あやかとの触れ合いを待っていた

更にその先、緩やかな丘陵の斜面に広がるのが、あやかにとって最高のリラクゼーションポイントにして、最大のワンダーアメージングステージ、"菜の花畑"なのである

そして今日の目的地もそこであった

 

「……………………」

 

丘の下から吹き上げて来る風が、既に花を落とした菜の花の緑色の草原を撫で、あやかの短い前髪を揺らしてから、初夏の澄んだ青空へと登って行った

ほんの少し前、あの十字路で出会った黒揚羽さんに誘われ、辿り着いたこの場所…

今はもう、あの日の金色の絨毯も、ちょっとおしゃまで意地悪で、それでいて人懐っこかった黒揚羽さんも、そこに姿は無い

それでもあやかが瞳を閉じれば、その瞼に浮かぶのは、この場所でのあの楽しい一時…

金色の世界で、黒揚羽の小間使いを従えたプリンセス…

菜の花のプリンセス…

 

「もうちょっとだけ… プリンセスで居たいのだ……」

 

あやかは菜の花畑に踏み込むと、近くの低雑木の茂みの中に分け入り、そこで制服からワンピースへと着替えを済ませる

実を言えば、給食時の恍惚の半分は、大好きなこの場所での"プリンセスごっこ"を想像しての事だった

夢だったプリンセスに、このワンピースが変身させてくれるのだ

これは姉達に気付かれる前に返さなくてはならない

だが、明日もまた借りられる保証は無い

だから今… ワンピースが手元にある今… あやかはこの場所で、本物のプリンセスに成っておきたかったのだ

 

「シャララララ~ン♪ シャララララ~ン♪」

 

自分の鼻歌をBGMに、菜の花色のワンピースを纏ったプリンセスが、緑草の舞台の中に踊り出る

手を伸ばし、クルクルと独楽の様に回り続ける

スカートも風を纏い、花びらの様に咲き誇る

 

「風上あやか、カンカンカン! とっても好評、最新バ~ン!!」

 

鼻歌は歌声になり、奇声に近い叫びとなった

知恵故障の単純な脳回路が、キャパの限界を迎えようとしていた

楽しい、嬉しい、楽しい…!

溢れる感情を制御出来なくなり始めた

 

「バ~~~ン!!」

 

自分でもそれに気付いたのか、はたまたはしゃぎ過ぎて疲れたのか、あやか一際大きい奇声をあげると同時に大の字になり、緑の草布団に横たわった

青い空を流れて行く雲を眺めながら、乱れた呼吸を整える

青い空、白い雲、緑の草原、菜の花色のプリンセス…

紛うことなく、そこはあやかの夢見た世界だった

あやかプリンセスダムだった

 

「…………おやつタイムなのだ」

 

上半身を起こして呟いたあやかは、鞄の中身に思いを馳せる

あやかはこの時の為に大好きなプリンをお残ししたのだ

特別なプリンを味わう為に…

低雑木の茂みに戻り、地面に無造作に捨て置かれた鞄を抱き上げ、再びこの場所に戻る

腰を下ろし、鞄の蓋を開け、その中に手を伸ばす

 

「プップクプ~♪ ペッペクプ~♪」

 

多分そのメロディは、あやかプリンセスダムのファンファーレ的な物なのだろう

それに乗って国主の前に威厳ある姿を現したのは、給食で供されたプリンの四銃士である

コクも香りも無い、ただ甘く安いだけの量産品

それでも滅多におやつを食べる事の出来ないあやかにとっては、最上級のデザートなのだった

少なくともケーキを囲うセロハンよりは遥かに好きだった

それが今回は四つもあるのだ

プリンセスだからである

あやかには分かる

あやかが可愛いプリンセスだからこそ、みんなはあやかを心配し、プリンを差し出したのだ

菜の花のプリンセスはプリンプリンセスでもあるのだ

 

「……いただきま~す、なのだ!」

 

早速一つの蓋を開け、プラスチックのスプーンを刺し込む

カラメルソースを纏ったクリーム色の軟体が、ぷるぷると身を揺らしながら、あやかの口に収まる

 

「……ぱくっ!」

 

その次の瞬間、あやかは身体の何処かを痛めたかの様に身を縮め強ばらせる

そして更に次の瞬間、弾ける様にその身を仰け反らせた

 

「お、お、おいち~~~! のだっ!!」

 

美味しいのは当たり前だった

だが、青空の下でプリンセスとして食するそれは、今までのプリンとは一味も二味も違かった

まさに選ばれし者の味だった これを味わいたかったのだ

何時もなら勿体ながって、砂山崩しの様にチマチマと味わっていくそれ

だが今日は違う

早速一つ目を平らげると、次のプリンの蓋を歯で開ける

こんなに美味しい物をくれるなら、麦波ちゃんはあやかプリンセスダムの大臣にしてあげよう

鹿目ちゃんはメイド長にしてあげよう

お絵かきの好きな月火ちゃんは、宮廷画家にしてあげよう

あやかの中で、楽しい楽しいあやかプリンセスダムの妄想が広がる

 

「あふふ……」

 

にやけた口の角からプリンが零れ落ちる

とろとろのどろどろが、あやかの胸元を滑り、お腹を撫でて、スカートの上で止まる

それを指で掬おうとして手こずり、それはぐちゃぐちゃに砕けてしまう

 

「ああ~ん… 汚れちゃったのだ… プリンセスのワンピース…」

 

スプーンを口にくわえながら、あやかは手の甲で無礼なプリン片を払い、付いた茶色の染みを指で擦る

大事な大事なプリンセスの為の衣装が汚れてしまった

可愛いプリンセスが台無しになってしまう

 

「まどか姉にお洗濯してもらうのだ……」

 

せっかくのあやかプリンセスダムでの一時に水を差された国主は、口をへの字に曲げてアンラッキーに不貞腐れる

お洗濯頼むにも、まどか姉がお疲れモードならお仕置き物…

何とかまどか姉の歓心を… ご機嫌を……

お庭掃除… は二度しないと誓ったし……

そだっ… 早く帰って廊下掃除というのはどうだろう…?

廊下掃除ならピカピカにすれば良いだけ…

流石にまどか姉の理想を大きく外れる事はない筈…

今度はきっと褒められる筈…

そだっ! そだっ! 早く帰って廊下掃除をしよう…!

早く帰って…

 

早く帰って……

 

早く…… 帰って…… ん……?

 

そう…… あやかは…… 早く帰らなきゃ……

 

 

 

「………………ん?」

 

あやかは何かを思いだした

 

 

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!!!」

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