風上家に生まれて   作:新六毛

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雨蛙の憂鬱 14

「カテゴリーB、三回戦第二試合… 両チームリングの上へ……」

 

赤コーナーから風上三姉妹が這い上がる

 

「……青コーナー、セクシーボンバーバトルクィーン、番巣三姉妹……」

 

青コーナーから歩み出たのは、金髪を靡かせ、下着とほぼ変わらぬ露出衣装に身を包んだ三人組

見せつけたいだけあって、メリハリのあり過ぎるそのボディは、まどか姉やさやか姉のそれすら霞んで見える程だった

金髪も相俟って、あやかの目には外国人の様に映った

 

「……赤コーナー、両親のパイ遊びから偶然生まれた、存在テンパイ娘、風上三姉妹……」

 

良く分からない煽りと共に、赤コーナーの三人も一歩前へと歩み出る

 

「……カテゴリーBのジャッジは、私マシロが務めます…… それでは対戦演目選択……」

 

三回戦よりカテゴリーBに振り分けられた、風上三姉妹

それを代表して、今回はさやか姉がルーレットボタンを押す

 

『熱湯風呂、早押しクイズ対決』

 

珍しく微かなどよめきが、ギャラリーの中から巻き起こり、それが収まらぬうちに、例の黒子達が、風の様にリングにセットの設営を終える

外国映画に出てくる様な、白いバスタブが二つと、そこに向けて備え付けられた滑り台が二組…

相手にクイズを当てられた方の角度が上がり…

何処かで見たそんな光景が、あやかの脳裏で再現された

 

「あやか、お願いできるかしら?」

「ほぇっ!?」

 

まどか姉にまさかの先陣を依頼され、あやかは思わず声を裏返した

 

「あ、あちゅいのは……」

 

何故か赤ちゃん言葉になる

餡掛け対決の時には、初めはそれと分からなかったが、今回のこれは、端から熱いと分かっている

まどか姉に期待されたのは嬉しいし、風上三姉妹の為に役に立ちたいのはやまやまだが、火傷の傷も癒えぬうちに、更なる熱傷を負うリスクのある対決は…

 

「戦う前から負ける事を考える馬鹿がいるかよっ!」

 

狼狽えるあやかにさやか姉が吠える

 

「……いいわよ、アタシが行く… あやか…… まどか姉を宜しくね……」

 

そう続けて、さやか姉は踵を返し、そのままリングの中央に歩を進める

 

「駄目よさやか! やっぱりここはわたくしが行きますわ… あやか、さやかと幸せになりますのよ……」

 

今度はまどか姉がロープを潜り、さやか姉の肩を掴む

 

「まどか姉、幾らまどか姉の言葉でも、これだけは譲れない! アタシの命、風上三姉妹に捧げる!」

「聞き分けなさいな! 次の時代は貴女達若者が築きますのよ! ここはわたくしの死に場所ですわ!」

 

リング上で激しくやり合う二人

 

「………………………」

 

それを見てあやかは力無く項垂れた

またしても自分の嫌な所が出た… 云々では無く…

この流れはつまり…

 

「……あ、あやかがやるのだ」

 

「「どうぞ、どうぞ!」」

 

まどか姉より先陣を賜った時点で、逃れる事など出来ないのだ

意気揚々とリングコーナーに戻るお姉達と入れ替わり、あやかがリングの中央へと進み出る

 

「はぁ~……」

 

大きく溜息をついたのは、お姉達の身代わりになるのを苦に思ったからでは無い

戦いの虚しさを、この身を持って知っているからだ

そう自分に言い聞かせた

対戦相手は見た目で言うと次女格か、三つ編みを結わえ、何処を守っているのか分からない様な、半裸に近い西洋甲冑を身に付けていた

あれがビキニアーマーと言うものなのだろうか?

エロ知識にだけは造詣の深いあやかは、心の中で呟やき、その卑猥な姿を目に焼き付けた

 

「……両者、解答席へ……」

 

レフェリーの声に促され、あやかは滑り台に続くステップを上る

そして黒子に微妙な位置調整をされながら、滑り台に腰を下ろし、両足を突っ張って体重を支えた

滑り台の先には、もうもうと湯気が立つバスタブ

落ちればまた大火傷であろう

隣に視線を向ければ、丁度準備を終えた対戦相手と目が合った

さやか姉が言った通り、何て事は無い、クイズに勝てば良いのだ

 

「………………………」

 

ただその結果、隣の彼女が熱湯に落とされる事になるのが心苦しかった

傷付きたくも無いし、誰も傷付けたく無い…あやかは生来、争い事には不向きなのであった

 

「はぁ~……」

 

二度目の溜息は、そんな魂から溢れる喘ぎであった

 

「………それでは第一問」

 

あやかと対戦相手、その応援者達が、ハッと息を飲んだ

 

「………童謡、オーエ・ニャーモで、獲物を見つけたらちょっとやそっとで諦めないのは何の動『ピンポン!』

 

あやかは脇のボタンを強打した

 

「はい、赤コーナー…」

「ライオンさんなのだ!」

「正解です……」

 

あやかは赤コーナーに向かってVサインを見せる

クイズはあやかの数少ない得意分野の一つなのだ

仲良し学級に於ては、クイズは遊びの定番であるし、プライベートに於ても、テレビも無い自室でじっとしている事の多いあやかにとって、小一の時に買って貰ったなぞなぞ本を、擦りきれた今でも読み返すのが、最大の娯楽なのだ

赤コーナーのお姉達も、あやかの好調な出だしに手を振って応える

 

「……それでは青コーナー…… リフトアップ……」

 

レフェリーのその声で、隣の滑り台が角度を変えた

滑り台を支える巨大なジャッキが、スルスルと伸び上がるのが、あやかからも見えた

 

「……くっ!?」

 

たった一問で随分とキツくなったその角度に、対戦相手は必死に体重を支える

 

「……………………」

 

あやかはその光景に、胸が締め付けられる思いがした

 

「それでは第二問…… 人気デジタルアニメ、蒼天の拳で、主人公霞拳志郎が敵にやられて吐き出す物は『ピンポン!』

 

今度は青コーナーがボタンを叩いた

 

「はい… 青コーナー……」

「……い、胃液!?」

「残念、違います… 正解は牛乳… 青コーナー… リフトアップ……」

 

あやかの視線の隅で、またジャッキが背を伸ばす

それに合わせて、隣の滑り台の角度が一層キツくなる

 

「……くぅ!?」

 

誤答した対戦相手は必死にしがみつくが、最早滑り落ちるのは時間の問題にも見えた

あやかには到底耐えられない角度に思えた

 

「……第三問、行きます…… 凄腕美少女スナイパー、ミウの正業と言えば……」

 

「………………」

「………………」

 

あやかは固まる

問題の内容がなぞなぞの範疇を超え、皆目見当がつかないのだ

対戦相手も身動ぎしない、否、出来ないのか…?

重い数秒が流れる

 

「……両者無解答なら、両者リフトアップ…… 残り五秒… 四… 三……」

 

あやかの勝ちは決まった様だ

体力の限界か、熱湯への恐怖か、恐らくその両方だろう、滑り台の縁を押さえる対戦相手の腕が、小刻みに震えるのが見えた

 

「……うぅ… 怖い……」

 

そんな悲鳴にも似た呻きを彼女は上げた

 

「………………………」

 

俯いて一瞬目を閉じたあやかは、スッと顔を上げ、お姉達の居る赤コーナーを見遣った

勝ちを確信したお姉達の笑みが見える

 

「………ゴメンなのだ…… あやか、どうしてもアツいアツいに合わせたくないのだ…… 馬鹿なあやかを許してなのだ……」

 

寂しい笑顔でそう呟くと、あやかは体重を支える足と手から力を抜いた

引力に牽かれ、あやかの身体が滑り台を滑る

悲鳴とも歓声ともつかない叫びが聞こえた気もする

 

(これで良いのだ……)

 

あやかは思った

やっぱり誰かを傷付けて勝ち残る事など、自分にはできないのだ

これで良い

無惨な火傷を負うのは、自分一人で十分なのだ

次の瞬間には襲い来るであろう熱湯の刺激を覚悟して、あやかはギュッと目を瞑った

 

「!?」

 

風を感じた気がした

 

「グベボッッッ!?」

 

次の瞬間、あやかを襲ったのは熱湯の刺激では無く、強烈な衝撃だった

明らかに危険な破砕音が体内から聞こえて、その身体が宙を舞った

スローモーションの様に滞空を堪能して、そして地面に… リングに叩き突けられた

 

「ゲボハッ!?」

 

あやかが吐き出したのは、牛乳では無く胃液だった

 

「……お前、なんで負けようとした?」

 

頭の側で声がして、あやかは痛みを堪えながらゆっくり目を開けた

そこに立っていたのは、相手方の長女格… 長い赤毛を靡かせた、更に際どいビキニアーマーの痴女だった

 

「……レフェリー、このラウンドは我らの負けだ… 我々はこんな勝ちなど欲しくは無い!」

「……ルール上は認められませんが… 今の貴女の行為は明らかな反則… なので、勝者赤コーナー……」

 

漸くあやかは状況が飲めてきた

どうやら、熱湯に飛び込む瞬間のあやかを、この痴… 長女格が体当たりで阻止した様だ

再び彼女は此方に向き直り、そして屈み込んであやかの背中に手を回した

無理矢理起き上がらされる

 

「痛っ!?」

 

脇腹が強烈に痛い

知恵故障の感覚でも、あばら骨が何本かいっている気がした

 

「……お前……」

 

あやかを覗き込むその瞳は、涙に潤んでいた

助けるつもりが助けられた格好になってしまった

あやかは痛みを堪えて笑みを向ける

礼など要らない、自分の意志でやったのだ

その笑みには、そんな想いが込められていた

 

「ふざけんな!!」

「グホッ!?」

 

体重の乗った強烈なボディブローが、あやかの油断仕切ったがら空きの土手腹を襲う

噴水の様に再び胃液を吹き上げた

 

「舐めた真似するな!! 殺すぞ!!」

 

そう吐き捨てると、彼女はあやかを放り出して去って行く

 

「……第二ラウンド…… 演目選択……」

 

そのままレフェリーの差し出したボタンを叩いた

 

「うぅ…… ううぅ………」

 

あやかはリングの上を這いながら、赤コーナーへと戻る

痛く、苦しいながらも、何故か懐かしいこの感覚…

だかやはり、この感覚はお姉達からこそ、味あわされるべき物…

赤の他人からのそれには、愛情の欠片も感じられないのだ

 

「まどか姉… さやか姉… へへっ……」

 

ポスト際まで辿り着いたあやかを、まどか姉が出迎え、抱きかかえる

同時にさやか姉が次のラウンド、『乳合わせ、卵早割対決』に赴いた

 

「……あやか………」

「……ゴメンなさい………」

 

誉めてくれるなどとは思っていない

だが、あやかの気持ちは分かってくれる気がする

もしまどか姉が同じ立場なら、きっと同じ事をした様な気が、あやかにはしたのだ

 

『ドスッ!!』

「グベェバァァッ!!」

 

まどか姉の鉄拳があやかの左頬を打ち抜いた

そのままリングの下まで転がり落ちる

 

「この裏切り者がっ!! 死ねぇっ!!」

 

大の字になってそこに伸びたあやかは、血の味を噛み締めながら、"そうそう、やっぱりこの感覚…"と呑気な感想を抱いて、ゆっくり意識を飛ばした

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