呉鎮守府より   作:流星彗

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迫りくる危機

 

 それぞれの先陣を切るのは水雷戦隊。パラオ艦隊から二水戦と三水戦、深海艦隊からはツ級やリ級率いる水雷戦隊が前に出る。見た目の印象からして水雷戦隊に属していそうな白い少女は、戦艦棲姫の近くから動かず、戦いの成り行きを見守っている。

 そして武蔵と戦艦棲姫がお互いに照準を合わせ、主砲を斉射。空気を震わせる振動音を響かせ、放たれた砲弾はそれぞれの体を貫くが、武蔵はそれがどうしたとばかりの笑みを浮かべる。それは戦艦棲姫も同様で、不敵な笑みを浮かべたまま次弾を装填させる。

 戦艦棲姫の近くにいた少女も降り注ぐ砲弾に巻き込まれないように少し離れ、交戦する水雷戦隊を眺め、そして動いた。空には再度送り込まれた艦載機が舞うが、制空権を争うだけに留められている。

 制空権を奪取できれば、もたらされた技術の一つ、弾着観測射撃を行える余裕が出てくるだろうが、今はまだそれができない。水上打撃部隊に属する重巡や戦艦が三式弾で援護をするも、機動力の高い白猫艦載機の全てを落とすには至らない。その漏らした艦載機を、艦戦たちが撃墜させる流れとなっていた。

 そのことに赤城は不甲斐なさを感じていた。数の不利は読み取れたが、それを覆すだけの練度が自分たちにはまだ足りていない。パラオ泊地が生まれて半年では、これだけの戦力しか備えられていない、という言い訳は、戦場では通用しない。敵は待ってくれないのだから。

 だからこそ、できることをする。訓練した成果を示すだけだ。

 

「一部部隊、プランBを遂行させます。実行はタイミングを合わせて」

 

 出撃している艦載機の一隊に対し、そう指示する。空戦を行っている艦載機の中から、敵の攻撃を回避し、逃げるようにして少しずつ距離を取り始めた。それをカバーするように他の部隊が動き、更に追加の部隊を送り込んでごまかしていく。

 それが通用するかはわからない。だが、やらないよりはマシだ。この部隊による攻撃が、きっと何かを変えることができることを信じ、赤城は敵空母の艦載機との戦いに専念した。

 

「状況はこちらが有利。では、より有利な状況へと持ち込みましょうか。丁度、私の力を試すに相応しい獲物もいるようですし、お相手願いましょうか?」

 

 黒い異形の左腕を軽く振ると、手のひらから刃の切っ先が生え、一振りの剣が握られる。左腕の色合いと同じく黒を基調としているが、それは艦娘の天龍が手にしていた刀のような艤装に似ている。艦首を模したような刀身には、見覚えのある艦娘もいるだろう。どうしてあんなものを取り出したのかという驚きが生まれるが、しかし来るならばやるしかない。

 パラオ三水戦旗艦鬼怒が「敵機接近! あの白い奴に気を付けて、てぇー!」と、主砲を斉射するが、飛来する砲弾を彼女は手にした刀で打ち払っていく。

 

「うえぇ!?」

「なるほど、こんな感じですか」

 

 払いきれずに一、二発は被弾したようだが、そのダメージの具合、そして払ったことによる刀の損傷具合を確かめて頷き、「では、沈めさせてもらいますよ。この私の戦果となってください」と赤い瞳を静かに輝かせ、冷たい笑みを浮かべる。

 マントを翻せば、その下から彼女の艤装が生えてくるかのように顕現する。

 それは魔物のような右腕。手の甲の上に駆逐艦の主砲が搭載されており、腕には対空砲らしき機銃が並んでいる。また足に巻き付いたベルトには魚雷発射管があるのだが、その艤装の装備の仕方には見覚えがあった。

 その顔といい、駆逐主砲と魚雷発射管を合わせると、一人の艦娘の姿が思い浮かんだ。魔物の腕から放たれる主砲を回避したが、接近して振りかぶられる刀を何とか切り抜けた鬼怒は、「君、まさかと思うけど、吹雪?」と問いかけてしまう。

 

「ええ、そうですが、何か?」

「まじか……さっきの春雨といい、どうしてこんな……!?」

「ああ、でも私をただの深海側の吹雪と思わないでもらいたいです。私は、南方を管轄する存在。先代には消えてもらい、自らその座に就いたもの。それが今の私、南方提督の吹雪です!」

 

 そう宣言した南方提督、深海吹雪の渾身の一撃、構えた刀を鋭く突き刺す攻撃が、鬼怒の腹へと到達した。そうして捉えられた鬼怒を狙い、小脇にある腕の主砲が火を噴き、刃から無理やり引きはがされる。

 勢いよく吹き飛びながら、その軌跡に従って血が吹き上げる。刀身についた血を払うように、左腕を振り払い、次の獲物を探すように赤い瞳が動く。深海側の水雷戦隊と交戦している残りの三水戦を狙うか? と考えたが、そんな彼女へと飛来する弾丸に、深海吹雪は回避行動を取る。

 

「そこまでです。これ以上はやらせません」

「次の相手はあなたですか。えっと……? ああ、古鷹」

 

 記憶を探るように首を傾げ、艦娘のデータを思い返した深海吹雪は、目の前にいる少女が古鷹であることを思い出す。薄く光る左目で、三水戦の艦娘が鬼怒の救助に当たり、それをカバーするように他の艦娘が動いているのを確認しつつ、艤装の主砲が深海吹雪を捉えて離さない。

 傍らには青葉が控えているが、その二人を見た深海吹雪は静かに目を細めた。どことなく、嫌な記憶を思い出しそうだった。深海側に堕ちた存在として、何かが疼いているような気がするのだが、深海吹雪はとりあえずそれを流す。

 

「次はあなた方が沈みたいのです?」

「そうなる気はありません。これ以上の被害は出させるわけにはいかないわ」

「ですねえ。こちらとしてはここで押し留め、あなたたちには帰っていただきたいんですがねえ」

「はいわかりました、となるとでも? これらの優位性を捨て去るなど、どうしてできましょう? 私たちは何としてでもパラオを落とします」

「何故です? 今まで何もなかったのに、急に拠点攻めなんて、深海側に変化があったんですかねえ? ああ、そういえば先ほどおっしゃっていましたね? 先代がどうたらと」

 

 記者魂が震えるのか、青葉が主砲を構えながらも、ついついそれについて問いかける。背後では砲弾が飛び交い、それは両者の間にも飛来しているため、攻撃こそしてはいないが、それぞれが動いている中でだ。

 問われたことに関して思うところがあったのか、ゆらりと腕と魚雷発射管が動いた。それに合わせて古鷹と青葉も主砲の引き金を動かす。だがまだ攻撃は放たれない。撃てば次の攻撃までのタイムラグが生まれる。そこを突かれれば、形勢を変えてしまいかねない。

 一定の距離を保ちながら、深海吹雪は問われたことに答えず、攻撃の隙を伺っていた。すると古鷹の左目が、何度か明滅する。あれは何をしているのか? と深海吹雪が疑問を抱く。光の明滅で暗号でも打っているのかと、解読しようとしたその時、頭上から妙な音が聞こえてきた。

 はっとした刹那、頭上から爆弾が投下され、強い衝撃と爆風が襲い掛かってきた。

 

「っ、くぅ……!? 何が……!?」

「青葉! 今です!」

「応ともさあ! 主砲、魚雷、一斉射ぁ!」

 

 艦爆の攻撃に撃たれ、動きを止めてしまった深海吹雪めがけて、古鷹と青葉による主砲と魚雷の強撃が放たれる。先ほど赤城が動かしておいた艦載機の一隊が雲の中から急降下し、深海吹雪へと奇襲を仕掛けたのだ。

 青葉の問いかけによって意識を逸らしつつ、お互いがお互いを警戒して動き続ける緊張感。加えて古鷹の左目が意味深に明滅することで、赤城へと合図を送ると同時に、深海吹雪がその意味を探るように意識を狭めることで、艦爆の奇襲に気づかれる時間を遅らせる。

 それぞれがかみ合ったことで成功した、この奇襲の一手を逃すわけにはいかない。だが数発は深海吹雪へと届いたものの、戦艦棲姫が深海吹雪を守るように立ちはだかり、艤装の魔物へと残りが命中することとなる。だが盾になったそれにとっても、主砲と魚雷の強撃は無傷ではすまない。

 加えて盾になったことで攻撃の手が止まってしまっている。それを見逃さない武蔵ではなかった。

 

「好機! 全主砲、一斉射! ここで一気に落としきる!」

 

 武蔵の号令に従い、出撃している戦艦たちの主砲が一斉に火を噴いた。狙いを定め、武蔵をはじめとした一部の戦艦は強撃の構えで砲弾を撃ち出す。勢いをつけて空を切るそれらが、戦艦棲姫と庇っている深海吹雪へと到達する。徹甲弾ならばその体を貫き、その先にいる深海吹雪へと到達しうる。

 飛来する砲弾の嵐に、戦艦棲姫といえども耐え切れまい。そう思われたが、戦艦棲姫は耐えてみせた。体はボロボロだが、それでも彼女はここに健在だと言わんばかりに海上にいる。

 

「残念デスガ、私ハ吹雪ヲ守ルノガ役割デス。アナタタチノ力ヲ出サセル、ソレガ狙イデシテネ。デハ、後ハ任セマスヨ、山城」

「オ任セヲ、姉上。後方ノ翔鶴タチモ準備万端。反撃ノ時ヨ吹雪。力ハ充填サレタカシラ?」

「ええ、ありがとうございます。扶桑、山城」

 

 ふっと笑みを浮かべた戦艦棲姫が沈んでいくと入れ替わるようにして、その背後から現れたのはもう一人の戦艦棲姫。今まで海中で出番を待っていたのか、その姿はどこにも傷はなく、至って健在。そして深海吹雪もまた、呼吸を整えて調子を取り戻したのか、戦意をあらわにした眼差しで古鷹たちを見つめている。

 

「翔鶴、放ってください。彼女たちに終わりをもたらしましょう」

「承知」

 

 深海吹雪の命令に、通信越しに返答がくる。彼女の後方にて赤い力の放出が視認できる。稲光を纏って放出されたそれらに追従するように、無数の白いものが一斉に空に上がる。

 誰もが理解する。深海の力を付与された白猫艦載機が送り込まれようとしていることに。今までも何とか対応してきたというのに、それらよりも更に上の性能を発揮するものが送られてくる絶望感。それに加えて、何とか戦艦棲姫を一人退けたかと思ったら、もう一人現れるという絶望感。

 そして体勢を立て直した南方提督、深海吹雪という艦隊の旗艦がいるということ。誰もが言葉にはしないが、焦りと恐怖、敗北感がパラオ艦隊に広がっていた。通信越しで見守っていた香月もまた、歯噛みして机を叩く。

 

「ここで戦艦棲姫を叩き、あの白い奴を落とせば、まだいけると思ったのに……これか……ッ!」

 

 一筋見えた希望は、あっけなく潰える。何とか戦おうと奮い立ったが、前線に出ている艦娘たちに迫る赤の力を纏った白猫艦載機を目の当たりにしたことで、香月は折れかけていた。

 いや、もう折れてしまっているというべきか。

 もう一度机を叩き、力なく椅子に崩れ落ちる。だが戦場では何とか迫ってくる脅威に対し、赤城が指示を出していた。

 

「飛龍、瑞鳳、いけますか?」

「やるっきゃないでしょ。できないなんてこんな状況で言えるわけないわ」

「私も、やってみせます!」

「いい目です。他の皆さんも、いきますよ」

 

 主力艦隊に属する空母、飛龍と赤城が、それぞれ弓に矢を番え、空へと向ける。引き絞るその手から自分に出せる力を込めるが、しかし彼女たちの矢へと青の力は込められない。訓練を積み重ねても、自分の意思でその力を扱う領域までは達していなかったのだ。

 しかし赤城は信じている。一瞬ではあるが、先ほどパラオを守るために僅かに青の力の一端を引き出せたのではないかと。あの感覚がもう一度この手に宿ることができれば、みんなを守れるかもしれない。

 

(お願い、応えて、妖精たち……!)

 

 祈りを込めた一射が、空へと放たれた。矢に光が纏われ、それぞれの艦戦へと変化し、迫りくる白猫艦載機へと突撃する。だが、赤城たちにはわかっていた。渾身の一射となったそれらに、青の力はない。

 その上で赤の力を纏った敵艦載機と戦うのだ。状況が不利なことには変わりはない。それでも持てる力を出し切るしかない。残っている矢も空へと上げていき、主力艦隊に属する伊勢なども、瑞雲を発艦させて援護させる。

 矢を撃ち尽くした赤城は、唇を噛みしめてパラオ泊地へと戻るため、戦場に背を向ける。妖精たちは自分の祈りに応えられなかった。あるいは、応えてはくれたが、自分の力が足りなかったのかもしれない。どちらかといえば、後者かもしれないと、赤城は自分の不甲斐なさに拳を震わせる。

 

「……補給に下がった子たちはどう?」

「出られるようになっています。一水戦も修復も終えているようです」

「そう。では、それぞれ出撃を。私もいったん戻ります。伊勢、ここは任せます」

「わかった」

「……提督は?」

 

 指令室にいる大淀との通信は、そこでいったん途切れてしまう。言葉に詰まった大淀の様子から、赤城は何となく察したようだ。小さくため息をつき、しかし仕方がないという気持ちもあり、「そちらにも伺いましょう」と通信を切る。

 飛龍と瑞鳳とともに全速でパラオ泊地へと帰還する中で、放たれた艦載機たちが、ついに白猫艦載機と交戦を開始する。その下で、深海吹雪は刀を構えて宣告した。

 

「楽になることです。翔鶴たちの艦載機により、あなたたちは蹂躙されるのみです。抵抗は無意味。おとなしく敗北を受け入れてください」

「そんなこと、できるとでも!?」

 

 機銃で迫ってくる白猫艦載機に対抗しながら、古鷹が声を上げる。カタカタと歯を打ち鳴らし、高速で迫ってきた白猫艦載機から放たれる魚雷が、古鷹へと襲い掛かり、被弾してしまった。追撃するように艦爆も迫ってきたが、それを青葉の機銃が撃ち落とす。

 しかし山城と呼ばれた戦艦棲姫が、姉の礼を返すかのように狙いを定め、「撃チ抜イテ」と一言告げることで、艤装へと命令を下した。海面に手を添え、狙いすました一射が、的確に二人を撃ち抜き、呻き声を漏らしてその華奢な体が吹き飛んだ。

 一人、また一人と中破、大破へと追い込まれていき、中には耐え切れずに轟沈までしてしまう艦娘もいる中、しかし彼女たちは抵抗をやめない。きっとこの状況を切り開けるはずだと信じて戦い続ける。

 その涙ぐましい戦いぶりに、純粋に深海吹雪は疑問を感じた。

 

「何故無駄な抵抗を続けるのです? あなたたちの敗北は揺るぎません。抵抗しても無駄だとわかりきっているこの状況で、見苦しく足掻き続けるのは見ていられません。潔く終わりを迎えてはいかがですか?」

「はっ、生憎と、私たちはしぶといのが売りでなあ。お前も吹雪だったのならば、その胸にあったはずだぞ? かつての私たちの誇りというものがな」

 

 疑問に答えたのは武蔵だった。機銃をフル稼働させて迫りくる白猫艦載機を撃ち落とし、主砲や副砲で戦艦棲姫やタ級などを撃ち抜きながら、彼女は不敵に笑うのだ。飛来する砲弾を避けるも、避けきれずに被弾を重ねても、その身に赤い血が流れようとも、彼女はそこに在り続ける。

 かつて艦としての終わりの時のように、しぶとく海上にその存在感を示し続けていた。

 

「私たちの後ろには守るべきものがある。ここで戦いを投げ出せば、蹂躙されるとわかっているならば、私たちが踏ん張らずして何とする? 何もできずに終わる? それも良いだろう。しかし、ここで耐え続ければそれだけ時間が稼げる。何かを変えるきっかけというものはな、この時間の中で生まれるものだ。そこに希望があるならば、私は喜んでこの身を盾としよう! この武蔵を沈めるというならば、ありったけをぶち込んでくるんだなぁ!」

 

 その勇ましく吼える姿は、この絶望の中で戦い続けるパラオ艦隊にとって、強く、眩しく映った。この状況の中であそこまで啖呵を切れる姿を見せられては、奮い立たずにはいられない。

 一水戦や、三水戦の一部がいない中で、何とか戦ってきた由良率いる二水戦や、武蔵率いる水上打撃部隊、そしてその他の今まで耐え続けてきた艦娘たちも、震える体に鞭を打ち、戦意をみなぎらせる眼差しで敵を見据える。

 この様子に、後方にいる翔鶴と呼ばれた新型空母も、どこか興味深そうに呟かずにはいられない。

 

「……失ワレナイ誇リ、守ルベキ存在。ソレガ、光在ル側ニ立ツ存在ナラデハノ、戦ウ理由ッテコトカ」

 

 艤装の上で足を組み、その上で手を組む深海翔鶴は、そう分析した。守るべきもののために戦う、それは何とも人間らしい理由。いつの時代も、戦場に出る人間というものは、そうした大切なもののために戦ってきたものらしい。

 そうして胸に誇りというものが宿るのだ。その誇りがあれば、いつだってくじけずに戦える、精神の柱になるのだという。あの艦娘たちにもそれがあるのだろう。

 

「私タチニハナイモノダ。生マレタバカリノ私ニトッテ、ソンナモノハナイノカモシレナイケレド、ウン、トテモ眩シインジャナイカ? デモ、悲シイコトダ。ソウダネ、吹雪?」

「ええ、とても悲しいことです。誇り? そんなものでこの状況をどうにかできるとでも? おめでたいことです。では望み通り、武蔵に引導を渡しましょう」

 

 かっと見開いたその赤い瞳から、ひと際強く燐光が輝く。足にある魚雷発射管から飛び出た一本の魚雷を手にし、ぐっと握りしめれば目から放たれた燐光の一部がその手に宿り、魚雷へとまとわりついた。

 それはまるで魚雷を圧縮するように光が煌めき、数秒も経たずして右手に赤黒い玉へと変換される。それを左手に持つ刀へと強く当てれば、その刀身へと力が注ぎ込まれた。艦の艦首を模したその刀身、黒と赤のラインに分かれたその色。この内の赤のラインが、まるで力を受け継いだかのように脈々と明滅し始める。

 

「かの北方さんの真似事ですが、試し斬りするにはいい獲物となるでしょう。おさらばです、武蔵!」

「艦爆、艦攻、総攻撃!」

 

 両手で構え、腰を低くした深海吹雪。攻め込んだ艦載機の内、武蔵へと攻撃を仕掛けるべく指揮する深海翔鶴。それらを前に、いよいよ最期の時かと覚悟を決める武蔵。

 だが、それでも彼女は信じていた。

 この絶望の中でも、きっと自分たちが稼いだ時間には意味があるのだと。

 

(そうだろう、赤城、提督。例え今、この私が死んだとしても、意味のあるものにしてくれよ)

 

 死を告げる黒い刀から放たれる眩い(ひかり)。ウラナスカ島で見せた北方提督、三笠の赤の力による剣技。彼女の場合は突きだったが、深海吹雪のそれは振り下ろしの構えだ。

 空からは気味の悪い笑い声を響かせながら白猫艦載機が降下してくる。上から、前から、二方向から迫る死の気配。それにおとなしく身を委ねる武蔵ではない。例え山城の戦艦棲姫が庇おうとも、主砲を正面に向け、機銃を空に向け、最期の時まで抗うだけだ。

 そしてひと際強く、光とともに強い音が発せられたとき、運命はここに終わりの時を告げた。

 


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