呉鎮守府より   作:流星彗

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開発

 

 工事が完了し、拡張された工廠に足を踏み入れる。凪の作業スペースは十分といっていい程に確保されている。新たな工廠の妖精もやってきたので、装備開発や整備も問題はないだろう。

 新たな自分の城だ。存分に趣味を堪能できるのだ。

 気分が上がらないわけがない。

 そして艦娘の中でも、工廠に興味を示した娘がいた。

 

「へぇ~、広くなったのね。あ、提督。私も時々ここに来てもいいかしら?」

「なんだい、興味あるのかい?」

「ええ。兵装実験軽巡だからかしらね。ちょっと、色々いじってみたくなっちゃうの」

 

 そう言いながら何やらオレンジ色のツナギを持ってきている。しかも白いタンクトップもある。作業する気満々のコスチュームだった。この性格は恐らく夕張を設計した平賀譲の影響かもしれない、と凪は推測する。

 

「じゃあ時間あるときには、ここ使ってもいいよ」

「ほんと? ありがとー! じゃ、これロッカーに入れておきますね!」

 

 と、嬉しそうにロッカーへと着替えを入れていく。

 視界の端では何やら道具をごそごそしている響が見える。何をしているんだ? とそちらを見やれば、溶接面を手にして顔に当て「コホー、コホー」とどこかの宇宙戦争のアレの真似をし始める。

 

「おーい、定番のやつをやるんじゃないよ、響」

「おっと、すまない。で、司令官。何か作るものは決まっているのかい?」

「まずは艦載機かな。でもその前に、千歳の改装だね」

 

 千歳を軽空母へと改装し、祥鳳と組ませて運用する方針へと切り替える。艦種ががらりと変わるため、訓練方法も当然変わる。軽空母であることに慣らさなければいつか訪れる南方での戦いについていけなくなってしまう。

 早速千歳を工廠ドックに入れ、改装を行った。しばらくして出てきた千歳の姿はあまり変わってはいない。だが装備ががらりと変化した。

 カタパルトも魚雷発射管も何もない。その右手にはからくり箱のようなものがあるのだが、それが飛行甲板を模したものらしい。箱の中に艦載機が収納されているようで、甲板へと押し出され、発艦していくのかもしれないのだが、左手にはマリオネットを操る小道具があるのでよくわからない。

 千歳航改。千歳航で軽空母になるが、それの改の状態だ。とりあえずは最終段階にする事が出来たので良しとしよう。

 

「おつかれさま。これからは祥鳳と組んで運用するから、一水戦から離れる事になる。大丈夫かな?」

「はい。軽空母になった私も、どうぞよろしくお願いします」

「では、早速空母としての訓練へ。……俺は艦載機の開発をするよ」

 

 他の艦娘はもう訓練や遠征に向かっている。千歳も軽空母としての訓練のため、祥鳳や鶴姉妹の元へと向かっていった。この場に残った艦娘は大淀だけ。資料を手に、凪と共に作業場へと向かった。

 

「では、こちらが現在公開されている艦載機です」

 

 手渡されたものに軽く目を通していく。大本営が現在構築した艦載機の一覧だ。艦戦、艦攻、艦爆と彩雲。これらを確認し、どれから作ろうか、と考える。

 攻撃機は重要だろうが、それよりも艦隊を守るには艦戦が必要だろう。敵の艦載機や攻撃機を撃墜し、自分達に有利な状況へと持って行くための艦戦。まずはこれから着手する事にした。

 

「性能的に一番は烈風か。次いで紫電改二、ね」

 

 ぶつぶつと呟きながらロッカーに向かって作業着へと着替える。そこに大淀がいる事も気にすることなく、提督の制服を脱いでさっと作業着へとシフトすると、工具を手にする。

 そして作業台へとつけば工廠妖精達が集まってくる。ボーキサイトをこねこねしはじめ、艦載機のボディを作り始める。他の資材を弄り始め、パーツを作りあげていくと、道具を手にそれらを凪が組み立ていくのだ。

 それはまるでプラモデルのよう。妖精達がパーツを作り、凪がそれらをつけていく。数十分かけて飛行機の形が出来上がっていく過程で、妖精達がそれにパワーを送り込んでいく。これによって艦載機の種類が変化していくらしい。

 見事、それが成功すれば何らかの艦載機としての姿を見せていくのだが、失敗すれば飛行機は崩れていく。何もなかったかのようにただのガラクタと成り果てるのだ。

 さて、記念すべき一つ目はどうなったのだろうか。

 色が付けられ、飛行機の細かな部分も変化していく。そうして浮かび上がったその機体は、52型だった。

 

「ま、最初はこんなもんか」

 

 成功の証としてもう一つ、その飛行機に妖精が生まれる事だ。一体どういう原理で新たな妖精が生まれるのかはもちろん不明。しかし、飛行機の中からちょこんと妖精が出てきて敬礼してくる。

 出来上がったそれを大淀に手渡し、凪はまた艦載機作りを始めていく。

 静かな時間だ。聞こえてくるのは、資材をこねる音、かちゃかちゃと工具とパーツがこすれ合い、組みあがっていく音。それくらいのものだった。だが凪にとっては少しだけ懐かしい匂いと空間であり、心地のいいものだ。

 気づけば時間が過ぎていき、昼食の時間となってくる。それでも凪の作業は終わらない。ただひたすらに艦載機を作り続けている。十個近い制作の中で失敗作がぽつぽつと出てきたが、いくつかの成功も出てきている。

 彗星、天山、流星、そして烈風。これらが一つは出てきていた。

 艦戦を求めているのに艦爆や艦攻が出てくる。こういうのは開発においてはよくある事だ。建造と同じく、全ては妖精の気まぐれで決まる。求めているものを彼らがすんなり叶えてくれる保証はどこにもない。でも、艦載機が欲しいなら、その内の何かを作ってくれるだけでもありがたい事ではある。全然関係ない砲や魚雷のパーツを作りはしないのだから。

 ふと、工廠に神通が入ってくる。遠征や午前の訓練が終わったことを報告に来たらしいが、凪は気づかずに作業を続けていた。これは邪魔してはいけないかな、と考えた神通は大淀へと手招きする。

 

「どれくらいやっているのです?」

「かれこれ三時間は……」

「ずっとあのままですか……?」

「はい。時々横に置いたペットボトルで水分補給するか、用を足しにいくくらいで、それ以外はずっとあのままです」

 

 大淀の言葉に神通は驚いた表情を隠せない。元はあの仕事をしていたという事を聞いていたし、その頃の凪の事も少しは聞いている。だがあそこまでとは思わなかった。こうして二人が話している事も気づいていないらしく、ただ黙々と艦載機を組み立てている。

 手馴れてきたのか、一つ作る時間も結構短縮されている。やがて完成されたそれ、烈風を脇に置くと、大きく息を吐いた。首に巻いたタオルで汗を拭き、ぐっと体を伸ばす。

 そうした中で、ようやく神通が帰ってきていることに気付いたらしい。

 

「……あれ? いつからそこに?」

「先ほどです。……ずっと作っていらしたそうですね」

「まあね。いやー、いいね、こういう時間は。余計な事を考えずにただ黙々と作れるってのはいい。その分資材は減ったけど、まだ大丈夫なラインは守っているはず。……だよね、大淀?」

「はい。一気にボーキが減りましたけど、まだ五千を下回っておりませんよ」

 

 まだ資材における心のボーダーラインは五千のままだ。遠征で増えはしたが、少しずつ減っていく。そして今、開発によって更にぐっと減ったようだが、まだボーダーラインを超えてはいない。

 そう、建造と同じで開発もまた資材を消費して行われる。やり過ぎれば意外と数字が減ってしまうものなのだ。

 

「二水戦と三水戦の遠征が完了、どちらも資材を多く持って帰って来たようです。私達一水戦の訓練も問題なく完了いたしました」

 

 訓練方法としては、長門率いる戦艦三人を相手に、立ち回る訓練だったようだ。長距離、高威力の砲撃をかいくぐり、攻撃を加えていくものだった。

 千歳と雪風を入れ替え、新生一水戦としての訓練である。襲い来る砲撃を掻い潜って魚雷をぶち当てる。それこそ水雷戦隊としての戦い方だ。雪風がそれについて来られるか、それも確認するための訓練でもあった。

 長門達の艤装は主砲だけではない。副砲も備え付けられている。主砲と違って威力は落ちるが、砲撃する早さが増している。またその口径は軽巡とそう変わらないが、駆逐艦にとってはこれでも十分にダメージが通る。

 その弾丸の嵐を掻い潜れるか。それも試されるのだ。

 

(雪風さんは……大丈夫そうですね)

 

 単縦陣から三、三で二手に分かれての単縦陣。挟み込むように動きながら接近し、魚雷を撃ちこむ。だが長門達も回避しながら砲撃しており、そう簡単には当たらない。

 また三人は三方向に向いているため、死角をカバーしあっている。なかなか近づけないようにして防御しているため、副砲が時々一水戦に命中してくる。

 

「さあ、ついてきてください」

「突撃するっぽい!」

「がんばります!」

 

 神通の言葉に夕立と雪風が笑顔で追従する。至近距離で水柱が立ち昇ろうとも、軽快な動きで弾丸を回避していく様は、見ていて惚れ惚れする。そしてもう片方、北上達もまた山城達の砲撃を回避し続けている。

 

「さー、何とか避けてってよー」

 

 ゆるゆるの指示だが、それで何とかなるのが北上だった。追従する響、綾波も主砲、副砲の嵐を掻い潜って接近を試みる。全てを回避することは出来ない。副砲の内の数発が響と綾波に着弾し、バランスを崩すがすぐに体勢を立て直す。

 

「大丈夫です、撃ちます……!」

「よーし、そんじゃ神通さん達に当たらない方向へ!」

 

 挟み撃ちにしているという事は、魚雷が向かう方向には神通達がいるという事。神通の航行する向きを考え、魚雷を撃たなければ神通達に当たる可能性がある。それに気を付けなければいけない、という訓練にもなる。

 また上空には瑞雲が飛行している。山城と日向から発艦したもので、隙を見て爆撃を行うためだ。砲撃だけでなく、爆撃にも注意しつつ攻めていくのだ。

 そうして訓練を繰り返し、それが終わったのがつい先ほど。神通が報告に来て、他の艦娘達は休憩に向かっていった。

 

「雪風さんは問題なくついてきていますね。さすがの回避力です。あとは攻撃の命中力を上げれば良い感じになります」

「響や綾波は?」

「響ちゃんも回避の能力はいいですね。綾波ちゃんは、以前と変わらず攻撃と防御。どちらも平均的に高いとみています。訓練の成果はしっかりと反映されていますね」

 

 そして夕立は相変わらず戦闘好きだけあり、同時に自身が強くなる事に喜びを感じている。一番伸びているのはまず間違いなく夕立だった。一番練度が高い神通の動きに喰らいついていくのだから、強くなっている事は間違いない。

 そう、戦艦の砲撃の中で神通は凄まじい動きで回避していくのだ。近くで水柱が立ち昇ろうとも、恐れることなくしっかりと回避できる胆力。それだけでなく、飛来してくる砲弾を見切る力も必要だろう。どこに着弾してくるのかを予測し、被弾しないように動かなければならない。

 

「午後からも訓練漬けの予定です。砲弾を見切り、被弾を減らし、敵を撃滅する。それを育てていきます」

「期待しているよ。じゃあ俺は、次は砲や弾の開発でもするか」

 

 ボーキは減ったが、それ以外の資材はまだ余裕がある。これを使って主砲、副砲、弾丸の開発を行う事にする。艦娘ごとに初期装備というものがあるが、それよりも良い性能をしている装備を持たせるには、開発を行って作り出すしかない。

 長門に関しては41cm連装砲という、現段階では戦艦においての最高の装備がある。だが軽巡や重巡、駆逐に関しては初期装備より良い物を持たせる機会が多い。

 

「開発をするのはいいですか、提督、食事はきちんととってくださいね……?」

「……む、そうだね。ってか、今何時?」

「もう12時まわっていますよ」

 

 大淀が時間を教えてくれると、マジで? と驚いた表情を浮かべてしまった。備え付けの時計を確認すると、確かに12時を過ぎてしまっている。それを自覚すると、何となく空腹感を覚えた。

 

「間宮食堂……いくか」

「では私は入渠します」

「はい、私がお供しますね」

 

 タオルで汗を拭きながら作業着のままで大淀と共に間宮食堂へと向かった。だが食事にあまり気が回らない凪らしく、軽めのものを注文し、さっさと食べると工廠へと戻ってしまった。

 食べるだけ食べたからいいだろう、というスタイルに大淀も苦笑するしかない。その日はほぼずっと大淀は凪の近くに控え、彼の作業を眺め続けるのだった。

 

 

 




現段階では艦戦で烈風が最強となっています。
震電改? いえ、知らない子ですね。

泊地棲姫がラスボスの13春の最終報酬ですが、拙作では構築されていないという事にさせていただきます。

また千歳改が最終段階と描写していますが、現段階では改二は完成されていません。

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