南方提督は唸っていた。
レ級を連れ戻しに行ったル級の報告により、レ級が撃沈された事を知る。せっかく新たな個体が出来上がったというのに暴走を起こし、あまつさえ撃沈されるとは。
三人の艦娘を葬ったらしいが、それはどうでもいい。
作り上げた新型が早々に喪われる。それが問題だ。
「どうすれば……作り直すか……? また暴走を起こせば……その原因がわからなければ同じことの繰り返しだ……!」
瞳の光が激しく明滅する中、傍らに置いてあったユニットが突然投影を始めた。そこに映っていたのは中部提督だった。唸り続けている南方提督を確認すると、わざとらしく大きなため息をつく。
その声に気付いた南方提督が振り返ると、
「やれやれ、哀れなことだね、南方。どうしてそんなに唸っているんだい?」
「と、突然何だ、中部……?」
「いやなに、面白いものを見せてもらったなぁ、と礼を言いたくてね」
と、映像がゆっくりと他を映すように動いていく。そこには物言わぬガラクタと成り果てたレ級があった。それを見た南方提督が息を呑む。そして震える声で「ど、どうしてそれが……」と指さす。
「どうして? 回収したからに決まっているじゃないか」
「回収、だと……? 現場にお前の手の者がいたとでも? い、いつから……!?」
「いつからだろうね? しかし、嘆かわしい。せっかく面白そうな子が出来たのに暴走を起こしたんだって? もう少しうまく調整しようじゃないか。そうすればこんなことにならずに済んだろうに」
と、慈しむようにレ級を撫でる。その目が南方を射抜くように細められると「データを寄越せ、南方」と有無を言わさぬ声色で告げる。
「ふ、ふざけるな! よこせ、だと? これは私が作り上げた新型だ!」
「こうして完成し、戦ったんだ。艦娘側に存在が知られてしまっている。ならば、これは君だけのものじゃあない。我らのものだ。となれば、この子のデータは共有されるものだろう? 僕らにも使えるように、さ」
そう言ってコンソールを叩く。するとレ級の姿が映し出され、その呼称もまた表示されている。「戦艦レ級、だってさ。こうして向こうに姿、武装、特徴と登録されてしまっているんだよ?」と丁寧に見せてくれる。
「な、人間側のデータ、だと? どこからそんなものを!?」
「さあ? そんなのどうでもいいじゃないか。問題なのはこうして存在が明らかになってしまっているっていう事実だよ。暴走したんだから仕方がない? それは通用しないよ、南方。暴走を起こしたのは君の調整不足によるものだ。責任は君にある。その責任を果たすために、いったい何がダメだったのか。それを知るためにも、データは共有されるものだと僕は考える。故に、データを寄越せ。秘匿するんじゃない」
新たな深海棲艦が作られれば、それを提督同士で共有するのは当然のこと。艦娘であっても、深海棲艦であっても兵器であることには変わりなく、どういう性能をしているのか、作り方はどうなっているのかをデータとして知りうる権利がある。
そして新型を作ったならば、それを共有するために提供するのは当然の義務である。失敗すれば破棄することもあるだろうが、もうすでに人間側へと知られてしまったのだから、破棄ではなく新型として提供する義務を果たせ、と中部は告げるのだ。
このレ級を用いて新たな戦果を獲得するという南方の目論みはもう崩壊している。これ以上渋っていては余計に自らの立場を危うくするだろう。ここは素直に従うしかない、と諦めの中、データを送信した。
「確かに。……さて、南方。君に少し頼みたいことがあるんだけど、いいかな?」
「これ以上、何をしろと言うんだ?」
「なに、簡単なことさ。春あたりにちょっとした作戦を実行しようと計画しているんだけどね、君にも参加してもらおうかと考えているんだ」
「作戦? ずっと何かを作っていたお前が動くというのか?」
「そうだよ。とはいえ、ちょっとしたテストを兼ねているけれどね。君には、南方でラバウルやトラックの提督の目を引いてもらいたい」
「……囮をしろとでも言うのか? この、私に……!?」
「拒否するのかい? それじゃあ仕方ないな。君の小噺でも作って語ろうかな? 東に、西に」
南方と中部だけに留まっていた不祥事を広める、と暗に語っている。南方提督にとっての恥を広められてはたまったものではない。完璧に弱みを握られている。無駄にプライドの高い南方提督にとって屈辱以外の何物でもなかった。
唸り、骨をカタカタと鳴らしながら「……わかった、引き受けよう……!」と苦虫を噛みしめるように呟いた。
「ありがとう。では、その作戦の肝は陸上基地だ。そっちで……そうだねえ。ソロモンはヘンダーソンというデータが取れたからいいとして、どうせなら人がいるところにでも作り上げてもらおうか。そうすれば、十分に囮としての役割を果たせるだろう?」
「人がいるところ? 港にでも作れと?」
「その辺りのことは君に任せよう。新たな陸上基地のデータが欲しい。それでいて囮として機能できるように、人間にも被害を与えかねないところに作り上げ、ラバウルやトラックの提督をそっちに向かわせてもらいたい。それが君に頼みたいことだ」
「お前はその時何をするんだ?」
「僕かい? トラックに奇襲を仕掛け、潰そうかな? と考えている。そうすればトラックを中継として南下することは少々難しくなるだろうからね。他のルートでいえば台湾、フィリピンと経由して回り込むしかないだろうし、日本にとっては苦しくなるだろう?」
パラオはまだ泊地として機能していない。トラック泊地が落とされれば、中継なしで日本とラバウル基地を行き来することになる。
現在行われているショートランド泊地やブイン基地の工事は間もなく終わるので、工事の邪魔はされないだろう。それでもトラック泊地という存在が失われれば、南北に伸びたラインに、支配権を奪われるという穴を開けられてしまう事になる。
「お前がトラックを落とすと? どういう風の吹き回しだ? お前はアメリカを主に相手にしているというのに。そっちはどうなっているんだ? 北米との合同作戦のはずだったが?」
「北米は相変わらずアメリカとやりあってはいるよ。ただ向こうもかつての時のように、数を揃えているからね。僕だけでなく北欧と共同しているけれど、どうにも展開に面白みがない。だからこそ僕は何か進展できそうなものを作っていたんだけど、もう一つ味が欲しいからね。そのためのテストが必要だ。それが今回の作戦だよ。それに君が協力するんだ。僕らの戦いに新たな流れを生み出すためにね」
「…………」
「ああ、別に僕はね、トラックを落とせなくても何も問題はない。君もラバウルやトラックの艦隊を完全に潰さなくても問題はない。あくまでもこれはデータをとるためのテストでしかない。陥落が果たせればそれはそれでいいが、失敗しても僕は責めないよ。ただその分、良い能力を持ち合わせた新たな陸上基地を作り出し、動かしてくれればいい。そうして得られたものを、僕に送ってほしい。それだけのことだよ」
つまり南方提督には囮とデータ収集しか期待していないという事だ。東地と深山に勝利する、という事に関しては全く想定していないように聞こえた。それが余計に腹立たしい。
二度も敗北を喫している、という事実があるからこその期待のなさなのだろうが、それを大人しく受け入れる南方提督ではなかった。見返さねば、と思いながら俯くも、今の彼に何が出来るというのか。
「では、よろしく頼むよ南方。進展があったら連絡よろしく」
「……わかった」
通信を終える。
俯く南方提督から、じわじわと黒いもやが発せられる。
怒りが、嫉妬心が、恨みが、そのまま放出されているのだ。そうしている姿はまさしく怨霊のよう。最初こそ普通の亡霊だったのに、敗北を重ね、中部提督に色々弄られるうちに、深い闇の存在へと堕ちていっている。
「……いいだろう。今は大人しく動いてやろう。覚えておけ、中部……いつか、貴様を……逆にこき使う程の立場を得てやる……!」
怨嗟に満ちた声が、静かに響いた。
通信を切った中部提督は一息つき、改めてレ級を見下ろす。
物言わぬ存在となったレ級。人や生き物で言えば死んでいるのだが、一度死した存在のため、木端微塵にでもならなければ終われないのが深海棲艦なのだ。体という器があれば、魂を再び定着させるか、体や艤装を修復すればいいのだから。
そして少し離れたところには艦娘の霧島がいる。レ級を回収する際に一緒に沈んでいたため、ついでと言わんばかりに一緒に持ってきてしまったらしい。
「霧島か。ふむ、戦艦……か」
少し考える中部提督。
沈んだ艦娘を量産型の深海棲艦へと変えたという事例はいくつかある。艦娘から深海棲艦へと転じる技術はもう何年も前に確立されていた。深海棲艦から艦娘へと転じたという事例はないが、その逆は彼らにとっては当たり前となっていた。
そのためいくらでも仲間を増やすことが出来る。艦娘らを沈め、自らの仲間を増やし、より多くの艦娘を沈めていく。これが深海棲艦にとって初めて成立させた戦術といえるものだった。
この霧島もまたル級かタ級にでもするんだろう、とレ級を回収してきたカ級やヨ級は思っていた。
「試してみるか」
だが、中部提督はそのどちらも選ばなかった。
霧島を深海棲艦の工廠区画に連れてこい、と指示する途中で、ヲ級改が話しかけてくる。
「ナニヲ、スルツモリ?」
「ふふ、ちょっとしたお試しさ、赤城。こちらには戦力が必要だ。かといって量産型をこれでもか、と増やすだけでは面白みがない。そんなありふれたものではなく、ちょっと踏み込んでみれば、新たな道がみえるというものだよ」
霧島を機械へと繋ぎ、電源を入れる。使用するデータを読み込むと、表示されたのは戦艦棲姫のものだった。深海棲艦でいえば武蔵なのだが、まさか霧島をこれに改造するつもりなのか、とヲ級改は驚きに目を開く。
「霧島ヲ、武蔵ニスルノ?」
「向こうでいうところの姫級へと引き上げる。確か呼称は『戦艦棲姫』だったか。……ふふ、同じ戦艦なんだ。上手くいけば大いに強化して戦力へと加える事が出来る。材料が届けば、武蔵を二人並べることが出来るんだ。これは大きいだろう?」
「確カニ、ソレハ大キイ。……デモ、加賀ノ事モアル。作業、増エル」
「なに、加賀に関しては今は手を付けなくても問題はない。彼女に関しては本格的に動かすのはかの作戦の時。春の作戦ではないさ」
加賀、と呼称しているのは白い少女の事だ。今もなお眠りについているが、その意識はすでに存在している。二つの艦の魂を融合させ、落ち着いた彼女の主人格は加賀となっているため、中部提督らは加賀と呼んでいる。
それに、とコンソールを叩けば、別の映像が表示された。そこには大部分が完成している艤装が存在していた。全身が漆黒の装甲に覆われ、サメのように突き出るかのような頭部、その大部分は口となっており、びっしりと人の歯が生え揃っている。
空母の特徴である滑走路が左右に二つ装備されているのだが、後部にはまだ作業途中の艤装が存在していた。どうやら砲門を作っているようで、装着されていない砲門が床に転がっている。
「艤装に関しても完成は近い。あの子に関してやることはほぼ終わっている。今は待つだけなのさ。あの子が成長するのをね。だから、こっちに手を向けられる。いい機会と考えようじゃないか、赤城。僕が新たな道を拓く機会が転がってきた、とね」
「……御意」
手を胸に当てながらヲ級改は礼をする。
そんな二人へと、一人のヨ級が礼をして近づいてきた。何事かを話すと、中部提督は彼女から一つのチップを受け取った。「ご苦労」と労いの言葉をかけ、コンソールにチップを挿入し、データを確認する。
そこには呉鎮守府のデータがびっしりと表示されていた。
そう、執務室から盗まれたデータがそこにある。
「……ふふ、いいね。よくやってくれたよ。やはり情報というものは大事だね。あの子にはそのまま、任務を続けろと伝えておいて」
「――――」
ヲ級改がしたような礼をとってヨ級は去っていく。
表示されているデータは凪についての情報がずらっと並んでいる。どのようにして呉鎮守府に配属されたのか、その性格、特徴などを確認していった中部提督。ふと、その動き続けていた瞳の燐光が止まった。
見ていた情報は凪が呉鎮守府に配属された理由。
美空大将によって第三課から抜擢され、配属命令によって着任したとある。
そこに何か気になることがあったのか、とヲ級改はそっと中部提督の顔を覗き見る。相変わらずそこには骸の顔、右の頬から口元に少しだけ肉が存在するという歪な異形の顔がある。
「――――ああ、そうか。僕は……ふふ、なるほどなるほど」
囁くような声で呟き、そっと自分の手を見下ろす。そこには手袋をはめた骨の手がある。その手で肉がついている頬を撫で、そのまま顔を覆う。
面白くて、おかしくて、今までもやがかかっていたものが晴れたような気分だった。カラカラと骨をこするように体が揺れる程に笑いがこみあげてくる。
心配になって「……提督?」とヲ級改が声をかけると、顔を上げた中部提督の顔に変化が生まれた。ざわりと冷えるような空気を孕んだもやが吹き出し、その顎から首、右腕へと伸びていく。
まるで骨を隠すかのようにもやが動き、纏わりついていくのだ。
やがてもやが消えれば、そこには肉が存在していた。顔の下半分、首、胸から右手へ、というまだ完全ではないが、確かに生きるものの証である肉がある。しかし死んでいるのでその肉には温かみはなく、血色も悪い。いうなれば深海棲艦のような肉体の色をしていた。
そっと顎をさすり「なるほど、思い出したから、こうなったのかな?」と、呟き、モニターを見る。顔の上部分がないので、完全とは言いがたいが、それは自分の顔なのだろう、と何となくわかる程度には復活していた。
「思イ、出シタ……? 提督、生キテイタ、頃ノ、記憶ノコトカ……?」
「そうだね。やれやれ、実につまらない最期だったんだな、と実感するよ。しかし、それによってこんな第二の人生を歩んでいるんだ。悪くはない。それに、呉提督との奇妙な縁もあったようだし、やる気が出てきたような気がするよ」
「縁? 彼ト、提督ニ……ソンナモノガ? 会ッタコトガ、アルノ?」
「いいや、ないよ。会ったことはないけれど、繋がりはあったようだよ」
その口は笑みを形作っている。凪との縁が嬉しく思っているようだ。
「第三課出身、それでいて……ふふ、そうかそうか。あの子もいるんだったね。楽しみが増えたよ、赤城。記憶を思い出すと色々と縁を感じられる。それだけでこんなにもウキウキな気分になれるなんて」
「気分ガ、上ガルノハ、イイコト……」
「この乗ったテンションのまま、作業を進めていこうか。手伝ってくれ、赤城」
「御意」
現在戦艦棲姫を作るための資材が輸送されている。届くまでの間に、霧島の体を深海棲艦へと変えていく作業は可能だ。深海の力を集めて霧島へと纏わせ、外から内からそれをなじませていく。そうすることで艦娘である肉体に変化が訪れ、血色を失った肌はより深海棲艦の肌へと近づいていく。
霧島の魂は彼女が死んだとしても完全に消滅はしていない。どうやら艦娘は死んでも魂が完全にその器から抜けきることはないというのが、深海棲艦から見た現実だ。
元々深海棲艦と同じく、艦の記憶を持ってこの世に戻ってきた兵器。艦の時に過ごした記憶はその船体、武装などに染みついた経験に基づくもの、言うなれば付喪神のようなもの。
それを妖精の不思議な力によって、人とあまり変わらない程にまで洗練された魂へと変化し、艦娘の肉体という器へと定着させた。そのため艦娘が轟沈による死を迎えたとしても、妖精の力によって繋げられた魂は完全に器から消えることはない。それだけ艦娘ごとの器に深く馴染み、乖離しづらくなっている。
だが深海棲艦にとって魂が残ろうと残るまいと関係ない。
残らなければ新たな魂を用意すればいいし、残っていれば艦娘の記憶を消し去り、こちら側も思うが儘に操ればいいのだから。でもどちらかといえば、艦娘の記憶が残っていてくれた方が中部提督にとってやりやすい。
何故ならば艦娘の時の経験を引き継げる。
新たに魂を用意するとなれば、艦娘の時に培った経験が全て消え、ゼロの戦闘経験のまま送り出すことになる。そうするよりかは経験をそのまま引き継ぎ、深海棲艦として戦ってくれた方がより戦力になる。
中部提督はこのプランで霧島を戦艦棲姫へと変える事を選んだ。
「魂は?」
「残ッテイル……。コレヨリ、抽出ヲ開始スル……」
「そうか。まだ冥界に行っていなかったか。……いや、そもそも冥界なんてあるんだろうか」
不意に中部提督が呟く。自分はこうして亡霊になってまでこの現世に留まっている。そのため冥界というものを見たことがないし、そもそも存在するのかすらわからない。
艦娘の魂は人や動物らと同じく冥界に行くのだろうか。そんな謎もある。
しかしこうして死者が蘇って動いている、というのを自身で証明してしまっているし、艦娘や深海棲艦もまた死した艦が人の姿をとって動いている。作られた魂でも、あるかどうかわからない冥界に行くのだろうか。
それ以前に、いったい自分や深海棲艦を作ったかの存在は何者なのだろう。
誰もが持ちうる大きな疑問。
いったい誰が深海棲艦という存在を生み出し、制海権を奪っていったのか。
声だけしか聞こえないあの存在は何なんだろうか。
何を思って、自分のような人間達にもう一度命を与え、深海提督なんてものをさせているのだろうか。
記憶を取り戻したせいなのか。
以前ならば深く考えなかった事が、少しずつ頭に浮かんで問いかけてしまう。
(かの存在に対して疑問を抱くのに、裏切る気になれないというのがある意味恐ろしいね。人間側を裏切っているのに、舞い戻ることを許さない。僕は再び死ぬまでこっち側なんだろう)
姿を見たことがないのに、あれに従おうという気持ちが完全に刷り込まれている。
深海棲艦は敵だったのに、彼女達を滅ぼそうという気持ちも存在していない。逆に今では彼女達に愛着すら湧いている。
彼女達の成長を見るのが楽しい。
彼女達をどのように強くさせていくのかが楽しい。
そして新たな彼女達の仲間を作るのもまた楽しい。どんな姿をさせようか、どんな艤装を組み立てていこうか。そんな構想もまた楽しめるのだ。
そんな日々を過ごせば、愛着が湧くのも当然のことだった。
(生前出来なかった提督をやれている、というだけでもいいものだね)
あの頃の日々も悪くはなかったのは確か。
第三課で裏方に徹し、整備と製作を続けられた。彼の性分からしてその作業は苦ではない。むしろ好きな部類。それは今もなお変わることはなく、こうして深海棲艦を調整する日々へ変わっても何ら問題はない。
とはいえ生前は多少周りの声がうるさいのが問題だったように思える。親の影響というものだ。同じ第三課に所属していた親が行っていたプラン。彼もそれにいずれ参加するのだろうと期待されていた。
彼としても興味がないわけではないが、新人の自分にとってそれに触れられるのはまだまだ先だろうと思っていたものだ。結局、それは叶う事がなかったのだが、艦娘ではなく深海棲艦に対してそれが叶えられているのが今の状況だ。
そして今の自分が望むもの。
(この子達に、本当の勝利を。アメリカではつまらないシーソーをしてしまったからね。勝利の味を知らないまま終わるわけにはいかない。一つ、また一つと勝ち星を挙げ、その果てに――静かな時間をゆっくり過ごす。赤城達と一緒に)
それを果たすには、この人類と深海棲艦の戦いが終結する時なのだろうが、それをわかった上での願望なのだろう。そもそも中部提督側が勝つという事は、人類側の誰かが負けるという事でもある。
自分が何者だったのかを知ってもなお、失う事のない勝利への望み。
例え知人が敵となったとしても、手を緩めることなどありえない。もう自分は身も心も深海側の存在となってしまったのだから。
とりあえずイベは終わりました。