呉鎮守府より   作:流星彗

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誘致

 

 

 南方提督によってダーウィンの囮作戦が行われている少し前まで遡る。

 トラック泊地へと向かっていた凪と湊の指揮艦は、目的地であるトラック泊地が近くなってくる頃合いまで来ていた。日本を出て数日という旅路。ちらほらと深海棲艦が確認されはしたが、大きな戦いにまで発展することはなかった。

 美空香月は湊の指揮艦に乗船している。初対面の凪より従姉弟同士の方がまだ気が楽だろうということでそうしておいた。

 また湊なりの提督としての在り方もレクチャーしているようだが、香月としては参考程度に留めているらしく、自分の方針は変える気はないらしい。今はまだ提督を始めてすらいないので、とりあえずは話だけはしておくことにしたようだ。

 実際にやることで自分の方針が正しいのかそうでないのか。少しずつわかってくるだろう、という希望的観測をしておくことにする湊だった。

 

「それにしても、ダーウィンがやばいって……南方って、この間のソロモン海戦とやらで落ち着いたんじゃねえの?」

「この間といっても去年の秋の事。あれからそれなりに経っているのだから、戦力立て直しの時間はあったといってもいいんじゃないの? あたしは深海側じゃないし、鎮守府も南方担当じゃないから詳しくは知らないけれど」

「深海の拠点とやらが見つかれば存分に叩きに行けるってぇのに、それも見つかってねえらしいジャン?」

「見つけられるとでも? どこから来るのか未だにわかっていないし、拠点も海の下にあると思われているのに、去年まで潜水艦が出来ていなかった海軍よ? しかも数も揃っていないのに、大規模捜索なんて出来るはずもなし。深海憎しってのはわかっているけれど、もう少し現実を見ろってのよ」

 

 身内相手だからか、湊がいつもより容赦なく感じられる。しかし実際その言葉通りではある。

 そもそも南方だけでなく、世界中で深海棲艦は確認されているし、拠点もどこかにあるはずだとは思われている。だがその位置を完全に特定するには至っていない。

 そのせいで深海棲艦に色々と先手を打たれ続けているのが現状。それを打破しようとはしているが、その策を考えても現実的に無理なのだ。

 故に今は現れたところを叩き続けるしかない。歯噛みしているのは香月だけではない。艦娘を生み出し続けている美空大将をはじめとする第三課や、凪、湊だってそうなのだ。

 

「そういうわかりきったこと、改めて言わせないでくれる? そんなんじゃあパラオの提督、上手くやっていけないわよ?」

「ふん、わかりましたよっと」

 

 そんなやり取りをする中で、周囲を警戒していた加賀から報告がくる。

 それぞれの指揮艦上には偵察機を放っている空母が待機しているのだ。日本近海ではなく、ここは太平洋。周りに何も見えず、深海棲艦の拠点があったとしてもアタリをつけることすら困難な海。

 そしてどこからともなく下から襲ってくることもあれば、遠方から接近してきている可能性もある。そのためここに来れば自然と空母に索敵をさせることになる。

 加賀の索敵に何かが引っかかったようだ。偵察機と繋いだ視界から見えるものを凪へと報告する。

 見えたのは、深海棲艦の艦載機。それが東の方角から南東に向かっているようだ。凪達ではなく南東に向かっているとはどういうことなのか。それはすぐにわかる。

 南東には凪達の目的地であるトラック泊地があるのだ。とすればトラック泊地へと向かっているのだろうと推察できる。艦載機がいるならばその近くに放ったヲ級かヌ級がいるはずだが、今のところそれは見られない。索敵の範囲外にいるのだろう。

 トラック泊地は現在茂樹がいない。主がいない隙に攻撃を仕掛けるつもりなのか。

 

「タイミングがいいのか、あるいはそれを狙っていたのか。何にせよ艦載機をそのまま向かわせるわけにはいかないね。艦載機発艦、敵艦載機撃墜せよ!」

「艦載機発艦。敵艦載機を撃墜します」

 

 命令を復唱し、加賀達が艦載機をトラック泊地方面へと放つ。湊の空母たちは加賀の偵察機の方へと艦載機を放ち、敵空母の索敵を改めて行うこととする。

 状況が動き出したことで何やら香月がそわそわとしはじめる。「マジの戦いか? いよいよ始まるってのか?」とモニターを見ながらうずうずとしているようだ。

 

「落ち着いたらどう? あんたが戦うわけじゃあるまいし」

「授業じゃ演習ばかり、実戦はデータを見ているだけだったからしょうがねえジャン? 実戦はやっぱり肌で感じねえとな」

「そうウキウキするようなものじゃあないけどね。それに今回の事、空き巣をやってるとするなら、向こうも相当頭を回している可能性が否定できないよ」

「何言ってんスかね、海藤サンよ。奴らが頭を回すなんてありえねえでしょ」

「それは昔の話。今はそうではないわ。……その辺り、まだテキストに追加されてないの? だとしたら授業内容はもう前時代のものになってるわね」

 

 この1年で深海棲艦が変化しているというのは現場が体験しているし、体感レベルで判断できるくらいになっている。凪も父である迅へと意見交換をすることにより、昔と比べて深海棲艦に知性があることを認識した。

 その一因として深海提督が関わっているだろうが、実際にそれを見たわけではないので報告していない。だがそれを抜きにしても、深海棲艦のそれぞれの行動に知性を感じるというのは間違っていない。

 凪、湊、そして大湊の宮下、更にこの南方の茂樹や深山もまたそれを口にしている。

 現場がそう感じているが、まだアカデミーではその旨を伝えきれていないようだ。テキストを更新することが出来ないというだけでなく、大本営側が「それは体感であり、実際にそれによって大きな被害が出ているわけではないだろう」などと処理している可能性がある。

 現場と上との間で認識の相違が生まれているのかもしれない。

 

「ダーウィンで騒ぎを起こして茂樹をトラックから遠ざけ、その隙に横からトラックを攻め落とす。までを想定しているのなら、立派に戦略が出来ているよね。基本的な釣りからの奇襲だ。どこから来るかわからない深海棲艦がそんなことをやってきたら、不利どころじゃあないよね」

「ま、今回はあたし達がいるから何とかなっているけど。……いや、そもそもあたし達がこっちに進路とってるってのは、途中の襲撃でわかっているようなものだと思うけれど、そこどうなの?」

「確かに。それに今か、ってのもあるね。俺達がトラックに着くのはまだ少しかかるってのはわかるはず。なのに今、艦載機を飛ばしている。茂樹が離れたすぐ後にやればいいのに、攻めるにしては遅いような気がするね。……まさか、わざわざ俺達と会敵するつもりだった?」

「……は、はは。だとしたら海藤サンよ。どうして向こうはそんな真似をしてまでうちらと戦いたがるってんだ? わざわざ空き巣するチャンスを作り出しておいて、トラックを落とすんじゃなく、海藤サンらと戦うって? バカバカしい。そんなことをして何の得があるってんだよ?」

「――そう、普通ならあり得ない。でも敵は深海棲艦だ。人間として普通の考え方をするようではわからない」

 

 と、モニターに映る香月を指さしながら凪は言う。

 そして手を出してくるっと反転させる。

 

「普通ではない考え方をする。トラックを攻め落とすつもりなど最初からない、と発想を変えてみるのさ、香月」

「――なるほど。そこであの猫、か」

 

 湊はふと思い出したように呟いた。猫、呉鎮守府に潜り込んでいたスパイと思わしき存在だ。

 

「本当にあれが情報を抜いていたのなら、あたし達がトラックに行くことはあらかじめわかっていた。その上でトラックを空けさせつつ、今ここで姿を見せたってのなら、最初からそういう意図の下で動いていた可能性があるわけね」

「うん。奴らの目的は、俺達にある。……あるいは、俺かな? 俺と戦うために、今、姿を見せたんだよ」

 

 大湊で宮下から言われたことを思い出す。

 足元を掬われる。気をつけなさい。

 内側の胸ポケットに入れている宮下からもらったお守りに思わず手が伸びる。もしかすると、危険は今ここに訪れているのだろうか。だが虫の知らせを告げる腹痛はない。まだその時ではないのだろうか。

 それに、仮に凪と戦うためだとしても、どうして凪なのか。

 凪より長く提督を務めている横須賀や大湊、舞鶴の鎮守府の提督もいるというのに。そんな提督を相手にするのではなく、凪を相手にする理由。

 新人狩りかな? と不意に推測してしまった。

 そうでないならば、最近ちょくちょくと大きな戦いに参加して戦果を挙げているせいだろうか、とも思い至れる。その噂を耳にした太平洋の提督が凪と戦ってみようか、と南方提督にでも声をかけて、今回の策を講じたのだろうか。と、凪は分析して結論付ける。

 そうしている内に加賀達の艦載機が敵艦載機と交戦しようとしていた。だが敵艦載機はそのまま反転し、帰っていくではないか。

 空戦は発生せず、敵艦載機が逃げるように東へ去っていく。

 その様子に凪だけでなく湊も訝しむ。

 

「釣りかな? 湊はどう思う?」

「でしょうね。トラックを攻撃しようとしているのを見せておきつつ、何もせずに去っていく。あたし達を誘っているんでしょ、これは。こっちの偵察機も向こうが潜んでいそうなところまでは向かっているけど、まだ見えないらしいわね。これはヲ級らも一旦潜航しているんじゃない?」

「あちらさんは空母だろうと潜航出来るからなぁ……。しかしこのまま放置しておけば、またトラックに接近するだろうし。招待されるしかないか。二水戦、三水戦は対潜警戒として出撃を」

 

 進路を変更し、東に向かうことにする。同時に水雷戦隊を出撃させ、指揮艦周囲の潜水艦の警戒に当たらせる。そんな中で湊は「二水戦は前方に出て警戒。三水戦、四水戦は指揮艦について」と命を出す。

 

「おや? 君が前に出すのかい?」

「敵が本当に凪先輩を狙っているのだとしたら、そちらの主力は温存する方向になります。となれば、前方警戒するならあたしがいいでしょう。あたし的にも多少は艦隊を鍛えている自負はある。二水戦だからといって、後れを取る気はないですから」

「では、君の艦娘達を信じよう。お願いするよ」

 

 佐世保の二水戦のメンバーは旗艦を龍田に、由良、黒潮、初風、舞風、響となっている。空には入れ替わりで放たれた偵察機や艦載機が舞い、空から周囲を警戒させている。

 敵艦載機はまだ逃げの一手をとっており、それを追いかける艦載機の一隊によって見失わないでいるのだが、いつまで逃げ続けるのかという疑念がわく。

 仮にヲ級フラグシップが見つかったとしても、水雷戦隊という足の速さを活かして立ち回ればまだ勝機はあるだろう。直援隊もいるので問題はないはずだ。

 

「ではみんな、張り切っていくわよ~」

 

 龍田の緩やかな声の中、佐世保二水戦が指揮艦から出撃していく。

 敵艦載機の追跡、周囲の潜水艦の警戒と二つの様子をモニターしつつ、慎重に指揮艦二隻は前進し続ける。

 一見穏やかに見える広々とした海。

 変わり映えしない景色だが、その下から来るのが深海棲艦だ。龍田達は装備している電探やソナーに意識を集中させながら航行する。

 数分もの間、何もないまま進軍し続けたが、不意に由良が「……! ソナー、感あり! これは……魚雷です!」と報告する。由良が指し示した方へと意識を向ければ、確かに数本魚雷が迫ってきていた。

 すかさず砲撃を行い、魚雷を落としにかかる。方向からして指揮艦を狙ったものではなく、佐世保二水戦への先制攻撃のようだが、水上艦らしき影はどこにもない。ということは潜水艦が間違いなくいるのだ。

 幸い魚雷は落とせたので着弾することはなかった。

 続いて潜水艦を探しに向かうと、そう時間をかけず潜んでいると思われる反応が静かに伝わってきた。深海棲艦が放つ反応から分析し、恐らく潜水カ級のエリート以下と思われる。

 直ちに処理しに向かうことにする。手に爆雷を持つと反応が見られたポイントへと投擲。沈んでいく爆雷が間をおいて爆発することにより、カ級らを撃沈させるのだ。

 だが潜水艦はどうやらこちら側だけにいるわけではないらしい。

 

「――むむむ。向こうから魚雷反応クマよ。何としてでも落とすクマ!」

 

 呉の二水戦旗艦の球磨が指揮艦に直撃コースと思われる魚雷反応をキャッチ。すぐさま球磨と暁、吹雪が魚雷の処理に向かうことにする。川内、時雨、白露は指揮艦付近に残り、他にも魚雷がないかを探る。

 いつの間にか潜水艦が近づいてきていたのか、あるいは元からこの海域に潜んでいたのか。龍田達佐世保二水戦は素通りさせ、ゆっくりと息を潜めながら浮上してきたのかもしれない。

 迫ってきた魚雷は落とし、続けて撃ったと思われる潜水艦を探る。だがその中で急速に接近する反応を捉える。

 それは魚雷の強撃だ。

 通常の雷撃よりも速いスピードで指揮艦へと迫ってきている。

 主砲で迎撃しようにもその速さから着弾した頃にはもう魚雷はその先にいる。このままでは指揮艦に直撃してしまう。それだけは避けねばならない、と球磨は咄嗟に魚雷の方へと加速しようとしたが、それより早く身を投げ出したものがいた。

 

「――ッ、くぅ……ぁぁああ!」

 

 川内だ。その反応速度と咄嗟の行動が結びつき、魚雷の強撃をその身で受け止めることに成功した。だがさすがに強撃という一撃には耐えられず、その制服と共に体も吹き飛ばされてしまった。

 

「川内さん!」

「っ、来るんじゃない、吹雪! そこで待機……!」

 

 海面に叩き付けられて滑りながらも、川内は助けに入ろうとした吹雪を留める。じんわりとその体が沈み始めているが、川内は膝をつきながらも立ち上がろうとする。

 

「この一発だけとは限らない……あんた達は、ここで次の一発に備えて警戒を続行……! 私に気にかけるんじゃなく、自分の今やるべきことを見誤らないで」

「……は、はい……!」

「わかったよ!」

 

 吹雪と白露が川内の言葉に頷くと、指揮艦から縄が投下される。川内はそれに手を伸ばし、合図をすると指揮艦へと引き上げられていった。それを確認しながら「四水戦、五水戦も出撃。守りを固める! どうやら敵さんもやる気になっているみたいだからね。注意して!」と凪が命を出した。

 同様に湊も残りの水雷戦隊に出撃命令を出していく中で、モニターを見ていた香月が冷や汗を流していた。

 

「な、なんじゃあ!? あのスピード!?」

「強撃、あるいは渾身の一撃。まだ決まった名前はない。艦娘でも装備妖精との同調とかで撃てるけど、深海棲艦もまた撃てるようになっているわ」

 

 これもソロモン海戦の時から見られる深海棲艦の攻撃方法だ。もしかするとまだ更新されていないため、アカデミーのテキストに載っていないのかもしれない。

 

「見ての通り、奴らも日々進化を続けている。戦場に出ないとわからないこともある。それを把握せず、舞い上がっているようではとって食われるのはあんたよ、香月。気を付けることね。四水戦、五水戦も出撃。護衛隊、潜水艦警戒を厳に! もうそこまで来ている可能性があるわ!」

 

 指揮艦の装甲はそれなりにあるが、魚雷の当たり所が悪ければ沈められてしまう。そのために艦娘の護衛が必要だ。潜水艦の群れとなれば、水雷戦隊を各所に配置して位置を探らなければならない。

 負傷した川内などはすぐさま入渠させ、欠員を補充するように他の艦娘が配置につく。

 指揮艦に備えられている探知機にも、少しずつ敵潜水艦の反応を捉え始めた。潜水カ級、それもノーマルからフラグシップまで揃えられているようだ。その群れに囲まれているため、前進ではなく一時後進をしながら処理していくことにする。

 だがそこで前に出ている龍田達から通信が入る。

 

「遠方に島が見え始めたわ~。あれって何の島だったかしら~?」

「島? ……この辺りの島というと――ウェーク島のようね」

「ウェーク島? いつの間にウェークまできていたのか」

 

 トラック泊地から見てウェーク島は北東にある。二つの島は結構な距離がある。とはいえ凪達はもうトラック泊地に到着するというわけでもなく、途中で進路を変えた。だがそれでも結構な距離を誘い込まれていたことになる。

 そして今まで追跡を続けていた敵艦載機が緩やかに降下し始めた。それを出迎えるのは、海の中から出てきたヲ級である。

 だが、ただのヲ級ではなかった。

 左目から青い燐光を放つ、ヲ級改フラグシップ。

 帽子のように被っている艤装が口を開き、艦載機を収納していく。手にしている杖のようなものをとん、と左手に叩くとヲ級改の周囲に次々と深海棲艦が浮上していく。その中にはタ級フラグシップも存在していた。

 

「どう見ても主力艦隊ね……。一時離脱するわよ~!」

 

 状況判断は迅速に。この水雷戦隊では不利だということをすぐに察すれば、敵前逃亡だろうと命を出す。勝てない戦いにわざわざ挑みに行くメリットはどこにもない。

 しかし敵もおとなしく逃がしてくれるほど優しくはない。すっと杖で龍田達を示すと、どこからともなく魚雷の反応が見られたではないか。方向からしてヲ級改らの方ではなく、別の場所。まさかまだ潜水艦がいたというのか。

 それも魚雷のスピードが他の潜水艦よりも早く感じられる。使われている魚雷の性能がいいのだろうか。

 逃げる佐世保二水戦のメンバーを追いかけ続ける魚雷。そして背後からはもう一つ、ヲ級改から放たれた別の艦載機が追従している。それらについては直援についていた艦載機が交戦に当たり、何機かを撃墜させている。

 魚雷からも振り切るように加速し、水雷戦隊らしい足の速さを活かして逃亡を開始。そんな彼女達を見捨てるわけにもいかない。

 

「今回の敵の拠点はウェーク島とすると、あれで敵戦力の全力ということもないだろう。が、むざむざとやられるままというわけにもいかないね」

「主力艦隊、二航戦、一水戦を出していくわ。短期決戦を狙っていく形で!」

「では、こちらは主力艦隊、第二水上、一水戦を。一航戦は艦載機補充が終わり次第出られるようにしておいて」

 

 いよいよ出番か、と嬉々とした顔で大和が甲板へと躍り出、勢いよく飛び降りる。艤装を展開して着水すると、その衝撃で水が舞い上がる。そんな大和に「張り切り過ぎですって大和さん! ちょっとは自重ってもんを知っとこうじゃん?」と鈴谷がため息をつきながら着水する。

 

「久しぶりの実戦ですよ? 腕が鳴りますよ。鈍った体をほぐすにはちょうどいいだろうしね。さて、全員そろったならさっさとウェークに向かいますよ。長門に先を越される前に、敵を撃滅してやろうじゃないですか!」

「あ、やっぱりそうなんだ……。これも大和さんなりの長門さんとの勝負なのね……」

「仕方があるまい、村雨。これはそういうものだ。……ビスマルクも、少しずつわかってきただろうから、これ以上の説明はいらないな?」

「……ええ。まったく、せっかくの私の初陣だというのに、しょうもない」

「何を気落ちした顔をしているのですか。前を向き、敵を捕捉し、砲撃をする。そして死なずに帰還する。それだけを胸にいざ出撃の時です! 私についてきなさいな」

 

 旗艦である大和を先頭に第二水上打撃部隊がウェーク島を目指していく。だが後ろから追い越していくのが、神通を旗艦とする呉一水戦と、那珂を旗艦とする佐世保一水戦だ。水雷戦隊らしい高速航行で一礼しながら「お先に失礼します」と神通がウェーク島を目指していく。

 その際に指で位置を示すと、Верныйや夕立が爆雷を投げつけていった。すると静かに忍び寄っていたらしいカ級の反応が一瞬だけ見られ、そして消えていった。

 那珂の方も迫ってきている魚雷を処理するために砲撃しつつ、爆雷を投げつけてカ級エリート達を処理。「護衛は必要かなー?」と肩越しに振り返るが、「こっちはこっちで何とかやるから、そっちの仕事をしてくれて構わねえよ!」と呉の木曾が周囲を警戒しつつ応える。

 第二水上打撃部隊には木曾や村雨という対潜要因がいる。日向や鈴谷も瑞雲によって軽めではあるが潜水艦に対抗する手段がある。また後ろからは呉主力艦隊、佐世保主力艦隊が追従してきている。

 その中でも潜水艦に対抗する手段を持つ艦娘がいる。それぞれがフォローしあうだろうから大丈夫だと木曾は言う。

 

「わかったよ。それじゃあ行ってくるねー」

 

 敬礼した佐世保一水戦は加速し、呉一水戦に続いてウェーク島を目指す。それを追い越すように呉、佐世保の主力艦隊の空母や佐世保二航戦が放った艦載機が空を往く。艦娘達のスピードよりも速く佐世保二水戦の救援に駆けつけるのだ。

 湊が「すぐに艦載機の助けが入る。それまでは耐えて」と龍田に通信を入れる。

 

「了解したわ~。私達の根性を見せましょう」

 

 と、龍田は背後から追いかけてくる艦載機を肩越しに見上げる。空には艦載機、海上にはタ級ら、そして下には潜水艦。普通に考えてまともにやりあえるはずはない。

 だが身を守ることは出来るだろう。

 龍田はヲ級改へと振り返り、バック航行しながらその手に高角砲や機銃を展開。彼女に続いて佐世保二水戦のメンバーもまた対空防御の艤装を展開する。

 

「対空射撃、開始! 凌ぎ切るわよ~!」

 

 攻撃のために降下しようとしている艦載機に向け、対空射撃を敢行。直援機はもういない。ヲ級改らが放った艦載機と、深海棲艦の対空射撃によって全滅していた。

 また攻撃の手は艦載機だけではない。遠距離から砲撃してくるタ級らの弾丸を回避し続ける。今、仲間がこちらに向かっている。それまでの間、佐世保二水戦はこの窮地を乗り切ろうと踏ん張るのだった。

 

 


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