時間が空きすぎましたが、何とか帰ってきました。
様々な事情により、書く時間と気力が生まれましたので、投稿再開します。
動キダス計画
パラオに美空香月を送り届けると、初期艦として初めての建造が行われる。建造ドックに初期値が投入されバーナーを使用すると、生まれてきたのは駆逐艦叢雲だった。これが香月にとっての初めての艦娘ということになる。
補佐として新たな大淀もパラオ泊地に着任し、これで凪達の本来の仕事が終わることになる。まだ少し不安はある。香月がどういう風に運営していくのか気になるところだ。
今回の一件で何かしら思うところがあればいいのだが、それがいい方向か悪い方向かは香月のみぞ知る。大本営からの資材の搬入も済み、香月に別れを告げて日本へと針路をとる。
パラオ泊地はパラオという国に存在している泊地だ。香月は現地の人々との交流も自然とすることになるだろう。日本と同じ島国だが、大きさはかなり小さい方だ。そんな国が今まで深海棲艦に滅ぼされていなかったというだけでも奇跡的かもしれない。
あるいは小さな国だからこそ抵抗する力がないとして見逃されていた可能性もある。今回香月が入ったことで標的になる可能性も否定出来ない。だからこそトラック泊地などとの連携が必要になってくる。香月にそれが出来るだろうか。
遠くなっていくパラオをモニター越しに見つめる湊。深海棲艦に強い憎しみを抱く新たなる提督。従弟である彼はどんな提督になっていくのだろう。一抹の不安はあるが、彼が歩む道少しでも良いものであることを願うのだった。
中部提督は拠点の工廠で無言で作業していた。だが彼の頭の中には今行っている作業のことだけでなく、欧州提督に言われたことが存在している。
曰く、深海提督という亡霊は歪みを抱えて活動している。根本に存在しているものが深海提督を動かす要因であり、それぞれの深海提督によってそれは異なる。思えば南西提督もまた輸送による支援が彼の根本に存在しているもの。戦うことではなく、支援こそが第一の行動原理だった南西提督。深海提督に与えられた第一の任務といえば人間や艦娘を撃滅すること。それに反した行動が亡霊が抱える歪みといわれるものなのだろう。
中部提督にとってそれは開発。提督ならば工廠で行う作業が中部提督にとって一番の欲求であり、行動原理ともいえる。彼にとって深海棲艦を改良し、新たなる深海棲艦を生み出し、装備を開発することこそ喜びであり、日常である。
亡霊として生まれ、意思を獲得してからはずっと工廠にこもって作業をしていた。その噂は他の深海提督に知られるほど。時折戦いを行ってはいたが最低限だった。それ以上に工廠にいた時間の方が長い。
それでも彼が生み出した成果は存在している。
南方棲戦姫をはじめとする鬼、姫級である。
量産型は深海棲艦の基本だが、それを超える鬼、姫級の登場は近年になってからだ。始まりこそ泊地棲鬼、泊地棲姫だが、その構想は砲撃、雷撃、航空を一つの個体で行うものというコンセプトにある。
それを改良した装甲空母姫も登場しており、日本の海軍はいくつかの個体を発見している。だがコンセプトは悪くないがどうにも中途半端に終わっていた。だから日本の鎮守府の提督は新たに生まれたこの姫級らすら大きな脅威と感じなかった。
そんな中で生まれた南方棲戦姫。泊地、装甲空母というプロトタイプやその改良を経て、大和の残骸を利用して作られた南方棲戦姫が、三つの攻撃方法を獲得した深海棲艦の一つの完成形に至った。
これにより呉鎮守府の先代提督を釣り上げ、始末することに成功。それが認められて中部提督に移籍となり、呉の先代提督は亡霊・南方提督となった。
彼の根本に存在しているものが深海棲艦の成長に繋がったのだ。鬼、姫級の登場という形で。だから彼はそういう意味では深海勢力にとって有益な存在であり、消すには惜しい逸材といえる。
だが中部提督として行動していく中で、今代の呉鎮守府の提督である凪を知った。それが中部提督にとって人に近づくきっかけであり、歪みを促進させる要因になってしまったのは皮肉だろう。
何せ呉鎮守府の先代提督を殺さなければ、凪がそこに座ることはなかった。彼は今でも第三課の作業員として日々を過ごしていただろうから。
しかし運命は彼を提督として据え、中部提督はそれを見つけてしまった。
ならば中部提督がこうなるのもまた運命といえるかもしれない。
己の歪みを指摘され、自覚した。故にそれを改善するのか? と問われようとも、彼はそれを否と答えるだろう。何故ならこうして開発や改良に携わるのは生前からの趣味であり、彼が彼たらしめる要因なのだ。こうして亡霊と化してもなお変わることはないし、変えるつもりもない。
白い少女、加賀の調整が間もなく完了する。コンソールを叩き終えると、彼女を目覚めさせることにする。彼女と繋がっている複数のチューブが外されると、彼女の意識はゆっくりと目覚めに向かっていく。
「――――」
「おはよう、加賀。調子はどうかな?」
優しく声を掛ければ、加賀と呼ばれた少女はじっとその赤い瞳で見つめた。己の体を確かめると、そこには成長している少女の体がある。髪は白い長髪、女性としての特徴を兼ね備えた白い身体。
元は艦艇であった自分の鋼鉄の体が、こうして人の身体へと変化しているのは驚きに値するだろう。加賀は軽く左手を動かすと、そこに黒い粒子が集まっていく。自分の体に巡る深海棲艦としての力を行使しているのだろう。そうして作られたのは黒い紐だった。
何をするのかと思えば、それを使って左の髪をまとめ上げ、一房縛って垂れ流した。所謂サイドテールと呼ばれる髪型にしたらしい。
「――私ヲコウシテ目覚メサセタノハ、何カノ理由ガアルトデモ?」
中部提督にかけた最初の言葉はこれだった。自分がどうしてここにいるのか、中部提督が何者なのかは問いかけない。その必要すら感じない、といった雰囲気である。
「君の力が必要だ、加賀。僕達と共に戦ってほしい」
「私ノ力、ツマリ世ハ再ビ戦イノ日々ガ繰リ返サレテイルトイウコトカ」
ヲ級改のように途切れ途切れに喋るようなことはなく、深海棲艦ながらの言葉の響きの中でも流暢に喋っている。これもまた姫級の調整がうまく進んでいる証かもしれない。
肩を竦めながら首を振る加賀に、「協力してくれるかい?」と改めて問いかければ、
「必要トアラバ使ウガイイ。ソノタメニ私ハ再ビコノ世ニ生ヲ受ケタノダロウ。オ前ガ私ノ提督デアリ、私ハオ前ニ使ワレル存在。ソノ立場ハ認識シタ。故ニ、私ハオ前ノ矢トナリ、敵ヲ射抜キ、沈メヨウ。オ前ハ弓トナリ、私ヲ撃チ放ツガイイ」
「感謝する、加賀」
微笑を浮かべて手を出せば、加賀はその手を握りしめる。
去年から始まった彼女の調整はこうして完成を迎えた。だが完成したのは素体の方であり、艤装との繋がりがまだ残されている。また加賀には服がまだなく、裸体のままだ。彼女に服も着させてあげないといけない。それらを終えて初めて完成したといえるのだ。
それに加賀の外見的要素も自分で髪型を変えてしまっている。小さな変化だがこれもまた素体としての特徴の表れ。登録する際はこの変化も一緒にしなければいけない。
まだやることはある。
それに手を付けようとしたところで「……修復、完了シタ」とヲ級改が入ってくる。そして動いている加賀を見て「完成、シタ?」と問いかけてくる。
「いや、完全ではないよ。素体を目覚めさせただけさ。君も修復出来て何よりだよ。あ、加賀。紹介しよう。この子がうちの赤城だ。前は一航戦の相方だったね。仲良くしてあげてね」
「ホウ、オ前ガ赤城カ。ナルホド、確カニ赤城ノ気配ヲ感ジル」
「目覚メタカ……ヨロシク、加賀……」
二人もまた握手を交わす中、中部提督はヲ級改に「戻ってきて早々だけど、君達からの報告もチェックしておいたよ」と話を切り出した。コンソールを操作し、ヲ級改だけでなくあの戦場で戦った深海棲艦らの報告をまとめたファイルを映し出す。
「気になることを言っているね。呉の長門からの攻撃に何かがあると」
「……ン、霧島、ウェークナドガ、ソウ言ッテイル……」
「そして君からは呉の大和についての報告。……僕の大和だということだけれど」
「……ソウ……! アレハ、生カシテ……オケナイ……!」
大和のことを思い出して興奮し始めるヲ級改。そういった反応を見せるだけでも変わったと感じられるが、中部提督は腕を組んで大和の情報を見つめる。元は南方棲戦姫として生み出した存在だ。南方での戦いで呉の先代提督を殺害し、その後深海提督となったあとは、南方を任せるために彼に譲渡した。
そして南方提督はあのシステムを生み出し、南方棲戦姫にもそれを施している。ということはそのシステムを使った南方棲戦姫の魂やコアは、代償として傷ついているはず。傷ついた魂は死した時に霧散する。コアもまた失ったとなれば、南方棲戦姫の情報は摩耗する。その個体が復活することなど出来はしないはずだ。
「本当に僕の大和だったのかい? 艦娘に転じるという例は考えられないわけではないけれど、あのシステムを使ったんだ。大和が艦娘になる可能性はほぼゼロに近い。あり得ないなんてことはあり得ないという言葉もあるが、一概に信じられるものではないよ」
「……アノ大和ガ、ソウ名乗ッタ。艦娘ナノニ、提督ノコトモ知ッテイタ。普通、艦娘ガ……ソンナコトヲ知ッテイルハズガナイ……。深海側ニ通ジル……艦娘、イルワケガ、ナイ……」
「……なるほど。そして大和の艦娘も情報によればあの戦い以降生まれる存在。呉に大和が所属したのも……8月8日。随分と早いものだね。そして何より、あの海域での落し物を拾っている。これだけ揃っていれば、あれが僕の大和だったというのはほぼ確実か」
呉鎮守府から奪った情報も鑑みて整理すると、あの大和が南方棲戦姫ではないという要素はほぼなくなってくる。信じられないがあのシステムを使っていながら大和は艦娘へと転じたのだ。
それだけ応急修理女神の秘められた力が凄まじかったのだろう。だがそのことを知らない中部提督らは、南方棲戦姫と交戦した長門の方を注目する。今回の戦いでも長門からの攻撃には何かがあったという報告が上がっているため、長門に意識が向けられるのは自然なことだった。
「呉の長門には何かがあると見ていいのかな。大和を転じさせたのが長門の力ならば、ウェークや霧島などが感じたのはその力の一端を受けてしまったんだろう。実際に霧島修復の際に調べさせてもらったけれど、若干深海の力を失っている。それはデータが証明している」
傷の周囲には全身を巡っているはずの深海の力が弱まっていたのだ。熱いと感じたのは浄化の力を受けたサインだろうと中部提督は推測する。南方棲戦姫に発揮していた応急修理女神の浄化の力が未だに残っていたらしい。
あるいは長門自身が無意識にその力を自分のものとしてしまったのかもしれない。だが全てではない。時間が経つにつれて弱まったのか、それとも一部の力しか取り込めなかったのか。何にせよ長門も自覚していないその力を中部提督に気取られてしまった。
応急修理女神のことを知らない中部提督は更なる推測を重ねていく。
「艦娘は深海棲艦を浄化する巫女のようなもの。なるほど、そんな説が浮かび上がるのも納得だよ。あの長門はその巫女としての力に目覚めつつあるんだね。ならば、何としてでも潰さなければならない。……そうだ。僕は執着でこうするのではない。あの長門をこれ以上野放しに出来ないから潰すんだ」
欧州提督に言われたことを引きずっているらしい。自分と似たような存在である凪がいる呉鎮守府への執着。決して自分と似ているというのが全てじゃないと自分に言い聞かせる。ある意味それが余計に認めているようなものだ。欧州提督の言葉が案外効いているようである。
頭の中で元から立てている計画に必要な兵力を計算。ヲ級改と加賀が揃い、深海霧島も修復する。大和と戦った戦艦棲姫も体は失ったがコアや魂は回収済みなので、もう一度体を用意すれば戦えるだろう。
レ級の調整も良い感じに進んでおり、次の作戦には戦線に出せる見込みがある。量産型だが能力は姫級に迫る。その分コストも高いので、他の量産型のように多く生み出せるようなものではない。
また調整出来たからといってあの性格を矯正出来るようなものではないらしい。暴走は抑えられるが、あの危なっかしい性格まではどうにも出来ない。あれは生まれた時に固定されたようなものであり、その辺りは艦娘と変わるものではなかった。
なので使う際にはあの性格と上手く付き合っていくしかなくなった。兵器としては有能だろうが、扱いづらい存在となったといえる。そのため進んで量産する気には少しなれないのが欠点かもしれない。
そして計画に必要ともいえる存在。それはかの地に座する陸上基地型の深海棲艦。
そのための素体も用意しなければならない。種としては加賀のデータを再利用しても問題ないだろうと中部提督は考える。そこから陸上基地型向けに調整していけばいいだろう。
予定は夏。
間に合うようにスケジュールを調整しなければならない。これから忙しくなりそうだが、それを楽しんでいる自分もいる。また計画には北方提督や北米提督の協力も必要だ。そちらとも改めて連携をとっていかなければならない。
近いうちに北米提督と連絡を取らなければ。中部提督は再び作業を進めるためにコンソールと向き合うのだった。
「――と云うわけだ。故にそちらからアトランタ級の素材を輸送してもらいたい」
「オーケー、ノープロブレム。アトランタ級のものならば余っている。あなたが有効活用出来るってんなら、自分は喜んで差し出すとしましょうかネ」
北方提督はモニター越しに一人の人物と言葉を交わしていた。映し出されているのは深海提督らしい風貌をした存在。骸の部分が残されているが、深海提督としてはその肌は少し濃いようだ。話し方の雰囲気的にもどこか陽気な外国人を思わせる。
彼こそが北米提督であり、アメリカ西海岸やカナダ周辺の海域を担当している。
そしてアトランタ級といえばアメリカの軽巡の一種だ。とある特徴を兼ね備えた軽巡であり、その点においては敵に回すと脅威になりえる存在である。北米提督は部下の深海提督に輸送の件を伝え、そしてモニターに映る北方提督を横目で見る。
「しかしなんだってあなたが開発を? そういう趣味は中部の青臭いギークがやっていることでしょう? あなたには似合わないんじゃあないですかネ?」
「うむ、それは我も思う。仮に成功したとて、どこか歪なものが生まれる予感もある。が、今回の件は少々手を出してみたくなった」
「んんーどういう心境の変化で? ずっと北の海で静かに事を進めていた小さなあなたが何かをしようと自分から出てくるなんて、自分の短い時間の中でも初めてのことかもしれませんネ」
「大したことではない。先日の件があったからな、少々手を貸す気になっただけだ」
映し出されている北方提督は頬杖をつきながら微笑を浮かべているのだが、その昏い瞳は怪しい光を宿しているような気がした。
どういう意味か、と訊いてみると「欧州はあれを愚者と云った。その点において、我も異議はない」と一間おく。
「深海棲艦を更なる進化へと導く賢者にして、愚者のようでもあるあの小僧。あの小僧がどのような道を歩むのか。小さな興味が湧いた。だが、その全てに関わる気はない。所詮あの小僧は我の行く道とは違う方向を向いているからな」
「HAHAHA、要は歪みを抱えているギークを観察したいと! 何とも悪趣味なことですネ! ですが歪みといえばあなたの歪みは何でしたっけ?」
「我か? ……我は至極単純よ。『当時選ばれるはずのないものが選ばれ亡霊と化した』、それこそが歪み。亡霊という存在からして世界の歪みではあるが、そこに我が含まれていることもまた当時からしてあり得ぬこと。それが我の抱える歪みよ。歪みに歪み、捻じれたようなものよな」
「ふむー、わかるようなわからぬような。ま、かのクイーンと同じ初期勢であるあなたと違う自分が、深く気にするようなことでもないでしょう。ですが祈りましょう。あなたの行く道に祝福あれと」
と、北米提督はごく自然に指で十字を切る。北方提督はモニター越しにその様子を何気なく眺める。北米提督とはそれなりに長い付き合いをしているが、彼はごくたまに無意識にあのように口上を発し、指で十字を切る仕草をする。
その仕草があまりにも自然で、そんなことをしなかったかのように、北米提督はそのまま言葉を続けた。
「とりあえず希望のものは輸送させたので、到着をお楽しみに」
「うむ、改めて感謝しよう北米」
そこで通信を終え、北方提督は一息つく。中部提督から持ちかけられた計画。そのための準備として彼女は北米提督に必要なものを輸送するように願い出た。これを用いて新たな戦力を作り出そうという試みだ。
北方提督が求められたのは北方において陸上基地型の深海棲艦の新たなる建造だが、それに加えた戦力を考えていたのだ。かの計画において北方提督の戦力は囮のようなもの。前回の南方提督のような立ち位置だが、ただ黙ってやられてやるほど北方提督はお人よしではない。
彼女としては仲間の深海棲艦は出来る限りは生かしておきたいと考えていた。また作戦の中で自分の拠点を発見されるのも困る。そのためには力が必要だ。
陸上基地型と新たな量産型。今までやったことがない開発に携わるのだ。どんなものが生まれるかはわからない。素体は中部提督が用意しようと提案したが、どうせなら最初から自分の手でやらせてほしいと北方提督は言った。
万が一に備えて北方提督の分の素体も中部提督は用意するようだが、北方提督が作ったものが問題ないならば、それについてはまた別の機会に流用することになる。
まずは飛行場姫の素体のデータを用いて種を作るところから始めなければならない。
参考にする基地はどこにするのかはある程度目星はつけている。アリューシャン方面にある軍港を利用すればいいだろう。あそこには過去にちょっとしたエピソードがある戦いがあったはずだ。それを取り込めばいいものが生まれるはず。
(――やれやれ。生まれが歪んでいるとは云ったが、その後の我もまた歪んでいる。死にたいのか生きたいのか……ちぐはぐになってきていると云えるな)
工廠に向かう道すがら北方提督はそう考える。
望まぬ目覚めというのは本当。だからまた眠りにつきたいというのも本当。
しかし部下である深海棲艦らに対して思うところがあり、見捨てられないという気持ちもまた本当だ。この辺りはかつて北の海で艦隊を纏めた存在が影響しているのだろう。長としての意思が、自分についてきている部下達を見捨てるんじゃないと、思考をある程度縛っている。
果たして自分は生きたいのか死にたいのか、それがわからなくなっている歪さが存在している。その自覚はある。だからこそ自問自答してしまう。どうして自分なのだろう、と。
どうにも欧州提督のようにきっぱりと決めることが出来ない。彼女と同じ時期に深海提督となり、意思を獲得し、この時まで生き延びてきたが、そういう点で差が生まれている。
この見た目の子供らしさのように単純であればいいのだが、中身は子供というよりも成熟した大人という歪さもあるだろう。見た目が子供のようだというのは生前の外見が関係していると思われるが、それはそれでどうなのだろうか。
様々な悩み、歪みを抱えているのが北方提督という存在だった。だからこそ意思を獲得してからはこのように陰で苦悩し続けている。人だから苦悩するのか、意思があるから苦悩するのか。こんなことになるならばやはり蘇るべきではなかったと思わずにはいられない。
それに最近は中部提督が呉鎮守府の凪に執着する心に感化されたのか、自分もある感情が芽生えてきている気もする。様々な感情が生まれてくる、それもまた自分にとって不可解な現象だった。
(人に近づくのも厄介なものだ。このような悩みを生み出すなど……だが、人らしいと云えばらしいか。人というものは真、難儀なものよ)
そんなことを考えながら北方提督もまた、夏の計画のために静かに動き出していった。