爺ちゃんによく聞かされた話がある。
爺ちゃんが若い頃に行ったと言う異世界の冒険譚。
その世界の名前は〝フロニャルド〟
その世界の住人は皆、犬や猫、兎なんかの動物の耳と尻尾の生えた人で皆優しくてとても平和な世界。
しかし平和なだけではなく、魔物と呼ばれる人に害なす凶悪な存在もいるのだとか。
爺ちゃんはその世界のある国の領主様に、呼ばれその世界へと赴き魔物討伐に尽力したらしい。
もし本当に異世界が存在するなら俺も行ってみたいところではあるが、今は先ず学校へ行こう。
既に時計は9時を回っており、遅刻なのは最早確定的に明らかだ。
そしてこんな時間まで俺が寝ていたと言う事は、我が友シンク・イズミとレベッカ・アンダーソンは非情にも俺を置いて学校に行ってしまったのだろう。
いや、多分起こしても起きないから置いて行かれたのだろうから8:2くらいでこっちが悪いか。
取り敢えず身支度を済ませ、鞄と爺ちゃんの形見の刀を刀袋へ入れて肩に掛ける。
仏壇の前に座り鈴を鳴らし、手を合わせる。
「行ってきます!」
そして俺は学校への道をひた走る。
そう言えばシンクやレベッカと出会ったのも、こんな桜の季節だったなと思い出す。
両親が死んだのが5歳くらいの頃だった、その時に俺を引き取ってくれたのが爺ちゃんだった。
もともと友達を作るのも下手で両親が死んだこともあって塞ぎ込んでいた俺に、爺ちゃんは色んな武術を教えて鍛えてくれた。
そしてそんな爺ちゃんが2年前に亡くなって、天涯孤独な身となった俺に声を掛けて友達になってくれたのがシンクとレベッカだった。
多分あの2人が居なかったら俺は引きこもりにでもなっていたかもしれない。
この紀乃川市に来てからの色んな事を思い出しながら走っていると学校が見えてきた。
そのまま校門を潜り抜け昇降口を目指すと、入り口の屋根に金髪の少年が立っている。
「シンクー!」
「あ、ユーリ!」
あの金髪の少年こそシンク・イズミ。
凄まじ身体能力の持ち主でアイアンアスレチックと言う競技大会で準優勝を果たした経験もあり、2階程度の高さからなら技をキメながら
華麗に着地出来る。
「もう帰るのか?」
「うん。飛行機の時間があるからね。」
そう言えば昨日イギリスの方に里帰りするとか言ってた気もするな。
「もう終業式始まっちゃってるけど、ユーリは今から?」
「おう。お前らに置いてかれたからな。」
「あはは。でもベッキーは結構頑張って起こそうとしたって言ってたよ?」
「あー…後で謝っとく。」
「うん、そうして。ふっ!」
そう言うとシンクは鞄を高く放り投げ、屋根から飛び降りた。
なんて事はない、いつもの事だ。
そのまま綺麗に着地して、落ちてくる鞄をキャッチするだけ
のはずだったんだが。
「ワウ!」
突然花壇の陰からオレンジ色のマフラーを巻いて短剣の様なものを咥えた犬が現れ、地面にそのまま短剣を突き刺した。
その瞬間ピンク色の光と共に魔法陣の様なものが表れ、その中心部分が巨大な穴になった。
そして見事その中心部分にいた俺は一瞬に浮遊感の後、一気に落下する。
そして飛び降りたシンクも見事ホールインワン、着地する地面が穴の位置になっており共に落下する事となった。
「おわああぁぁぁ…⁉︎」
「えええぇぇぇ…⁉︎」