今俺とシンクは、ハーランと言う名前のセルクルと呼ばれる動物の背に、姫様と一緒に乗って移動中だ。
セルクルの見た目は、あれだ、サイゴノファンタジーに出てくる黄色い鳥の様な生き物に酷似している。
「この子3人も乗って大丈夫なのか?」
「な、なんとか…。」
ちょっと苦しそうではあるが、なかなかのスピードで走っている。
元々移動に使われる動物なら、多少の無理は効くのかもしれない。
「隣国ガレットと我が国ビスコッティは、度々戦を行っているのですが。ここのところはずっと敗戦が続いていて、幾つもの砦と戦場を突破され、今日の戦では私達の城を落とす勢いで…。ガレット獅子団領国の領主、百獣王の騎士、レオンミシェリ様と渡り合える騎士も、今は我が国になく…。ですから、勇者様に力を貸して頂きたいんです!」
「あのー、僕はそのー、戦士とか勇者とかじゃなくて。その辺の中学生なんですけど…。何かお役に立てることあるのかな?正直武術に精通してる、ユーリの方が活躍出来そうなんだけど…。」
「そんなご謙遜を。勇者様のお力は、よく存じ上げております。」
切り立った崖の様な場所でハーランはその歩を止めた。
そしてそこから見えた、恐らく戦が行われているであろう戦場は想像していたものとは、大分かけ離れたものだった。
花火が幾つもの打ち上がる戦場には、雲梯や丸太の橋等、戦場と言うよりは障害物競争か何かの様になっている。
確かにこれならシンクの大好きなアスレチックに似てるし、大いに活躍してくれそうだ。
それに斬られたり叩きのめされた人は、ぬいぐるみの様な姿になって特に怪我をした風でもない。
てか、何かビームみたいなの出してる人までいるぞ。
上空の四角いモニターの様な物に、戦の風景は中継されてるし、実況に解説まで付いてて何かのイベント興行の様だ。
「これが…戦?」
「はい。戦場をご覧になるのは初めてですか?」
「いや、何つーか。思ってたのより大分愉快な感じで。」
「この戦で人が死んだり、怪我したりとかは……。」
「とんでもない!戦は大陸全土に布かれたルールに則って、正々堂々と行うものですから。怪我や事故がないように勤めるのは、戦開催者の義務です。もちろん、国と国との交渉の一手段でありますから熱くなってしまうことも、時にはありますが。だけど、フロニャルドの戦は国民が健康的に運動や競争を楽しむための行事でもあるんです!」
そして姫様はシンクと俺の手を取った。
「敗戦が続いて、我々ビスコッティの国民や騎士達は寂しい思いをしています。何より、お城まで攻められてしまったとなれば、ずっと頑張ってきた皆はとてもしょんぼりします。」
「しょんぼり?」
「しょんぼり…です。」
それを聞いて何かを考える様な表情のシンク。
そして俺は間違いなく、無関係で若干居た堪れない。
「えっと、姫様。」
「はい?」
「僕はこの国の勇者?」
「はい。私たちが見つけて、私が迷うことなくこの方と決めた、この国の勇者様です!」
「うん!じゃあ姫様の召喚に応じて、みんなをしょんぼりさせないように、勇者シンク、頑張ります‼︎それにユーリもいる事だしね!」
「俺は関係ないだろ。」
「何言ってんのさ。姫様、ユーリは凄く強いんだよ。きっと活躍してくれる!」
「本当ですか⁉︎」
「変にハードル上げるのはやめてもらいたいが、こんなに可愛い姫様がこまってるんだ、出来る限りの事はしてみるさ。」
「ありがとうございます!」
嬉しそうに尻尾を振る姫様。
どうやら形状通り、犬的な部分もあるみたいだ。
爺ちゃんの事とかこの世界の事とか、聞きたい事は山程あるけど、まずはこの戦をどうにかしないと落ち着いて話せそうもないし、頑張ってみますかね。
「では、急いで城に戻りましょう!装備も武器もみんな用意してありますから!ハーラン!」
姫様がハーランに声をかけ手を出すと、その手の甲に不思議なマークが浮かび上がり、ハーランをピンク色の光が包む。
それと共にハーランは閉じていた翼を、大きく広げ羽ばたいてみせた。
そして俺とシンク、姫様、タツマキを乗せて大空へ飛び立った。
「この子、空まで飛べんのか⁉︎」
「うおぉー!飛んでるー!」
「飛びますよー!ハーランは飛ぶの上手なんです!」
そのまま戦場の上空を飛び越え、城へと到着した俺達を待っていたのは姫様直属のメイド隊の方達だった。
「お帰りなさいませ、姫様。」
「リゼル!勇者様のお着替え、お願いします!」
「はい。しかし、困りましたねぇ。お2人ですか?」
「あぁ、どうしましょう⁉︎勇者様の分しか用意してないので、ユーリ様の分が…。」
「別に、俺はこのままでも構いませんよ?」
俺の分がないのは何となく予想できてたし。
「ですが、戦場で衣服が汚れたりしたら、お帰りの際困りませんか?」
「あー確かに。」
一応制服だし、汚れたりしたら確かに面倒か。
まあ春休みだし、戻ってからクリーニングって手もあるけど。
戦そのものは結構激しいみたいだし、破れたりしたら取り返しがつかんか。
「兵達の使う、予備の装備を用意させますので。リゼル、お願い出来ますか?」
「はい、姫様。」
「だったらなるべく軽装を。それこそ普通の服みたいなので十分なので。」
「承知しました。メイド隊、勇者様の着替えは任せましたよ?」
「「「了解‼︎」」」
その後リゼルと呼ばれていた人は装備を取りに、シンクは沢山のメイドさんに囲まれてお着替え中だ。
ちょっと羨ましいが、本人は結構恥ずかしそうだ。
「では勇者様、ユーリ様、改めてルールの説明の最終確認をさせていただきますね。」
「あ、はい!」
「お願いします。」
「まず、襲ってくる相手選手はドンドン倒していっちゃましょう!相手選手は、武器で強打を与えられればノックアウト!ノックアウト判定を受けた相手は“けものだま”獅子団の方達は、猫だまに変化、一定時間無力化します。」
「なるほど。」
「さっきの、ぬいぐるみみたいなやつになる現象か。」
「相手の頭部か背中に、手の平でタッチする事でもノックアウトです!タッチアウトはちょっと危険が伴う分、タッチボーナスが入ります。」
その他にも勝利条件や戦場を進むルートに関する説明を受ける。
説明を受けている間にシンクの着替えも済んだようだ。
「ここまでの説明に不明な点等ありませんか?」
「大丈夫です。」
「俺も問題ありません。」
「それでは、これが勇者様の武器“神剣パラディオン”」
姫様がシンクの指に緋い指輪をはめる。
「勇者様が望めば、どんな形にもなりますよ。」
「じゃあ、棒!」
そう言った瞬間、指輪が緋い光を放ち、シンクの目の前に棒が現れる。
「ま、また漠然とした武器ですが、大丈夫ですか?」
「平気です、長さも丁度いいし!」
そう言ってくるくると回してみせる。
「まあ、下手に剣とか持つより、扱い慣れてる物の方が良いと思うよ。」
「うん!」
「では最後に紋章術のご説明です。紋章術とはこのフロニャルドの大地と空に眠るフロニャ力を集めて使う技術。フロニャ力を自分の紋章に集めて、自分の命の力と混ぜ合わせることで、こんなふうに輝力というエネルギーに変換できるんです。」
そう言って姫様は手の甲にさっきのマーク、紋章を出して指先から線香花火の様に光とエネルギーを出す。
「この輝力を使えば、いろんな事が出来るのですが。勇者様方が一番使うのは、きっと紋章砲。」
「「紋章砲?」」
「はい、戦場を彩る決め技みたいなものですね。詳しくは前線に出てくれている、エクレールに聞いてみて下さい。エクレールは紋章砲、とっても上手なんですよ!」
「姫様!」
「あ、リゼル!」
丁度説明が終わったところで、リゼルさんが帰ってきた。
「遅くなってしまい、申し訳ありません。」
「丁度今、戦の説明が終わったところです。」
「そうですか。では、メイド隊!30秒…いえ、20秒で勇者様のご友人の着替えを完了させます!」
「「「はい!」」」
「え?や、ちょっ…着替えくらい1人で…。おわっ、無理矢理はやめてー!」
「問答無用に願います♪」
見てる分には良いけど、実際自分がされるとかなり恥ずかしいね。
あと、リゼルさんがすげー楽しそうな顔してた事だけは鮮明に記憶している。
「はぁ…はぁ…えっと、ありがとうございました…。」
「それでは武器はどうされますか?」
そう言ってリゼルさんは大量の武器を持ち出した。
この人まさか俺の装備抱えたまま、更にこれ全部1人で持ってきたのか?
もうこの人に戦ってもらえばいいんじゃないかな。
「俺はコレで戦います。」
肩からかけていた刀袋から爺ちゃんの形見の刀“桜嵐”を取り出す。
「分かりました。それでは戦場に向かいましょう!」
「「はい!」」
さあ、初陣だ!