『今、大変なニュースが入りました!ミルヒオーレ姫がこの決戦に勇者召喚を使用しました!これはすごい!戦場に勇者が現れるのを目にするのは私も初めてです。さぁ、ビスコッティの勇者はどんな勇者だ⁉︎』
上空のモニターから声を発するのは、確か実況のフランボワーズ・シャルレイとか言う人だ。
「ビスコッティの皆さん、ガレット獅子団領の皆さん。お待たせしました。近頃、敗戦続きな我らがビスコッティですが、そんな残念展開は今日限りでお終いです!ビスコッティに希望と勝利をもたらしてくれる素敵な勇者様が来てくださいましたから!華麗に鮮烈に戦場にご登場していただきましょう!」
姫様の言葉と共に、モニターには木組みの櫓の上に立つシンクが映し出される。
そしてシンクは棒形態のパラディオンを高く放り投げ、背面から飛び上がり身体を捻って着地、パラディオンをキャッチするとポーズをキメる。
「姫様からのお呼びに預かり、勇者シンクただいま見参!」
その頃俺はと言うと。
「いやー流石にすげーなぁ、シンク。」
「とても印象的な登場だ。」
騎士団長のロラン・マルティノッジさんに挨拶していた。
一応戦のルールや通るルート等の確認もしてもらった。
「ユーリ殿はああ言うのはされないのか?」
「俺は、あんまりそう言うの得意じゃないんで。戦技にはそこそこ自信ありますけど、実戦でどこまで通用するか…まあやれるだけやってみます、可愛い姫様の為にも。」
「ああ!それで十分だ!」
そんな話をしていると、シンクがこっちにやってくる。
軽く挨拶を交わし、ロランさんは俺にした様にルールやルートの確認を行う。
「うん、ルールもルートもしっかり覚えてくれている様だね。」
「はい!姫様が教えてくれました。」
「勇者殿は召喚され、姫様と会ってどう思った?」
「可愛くて優しそうな、素敵な姫様だなって思いました!」
「素晴らしい!」
そう言って笑い合う2人。
ここまで色んな人を見てきたが、どうやら皆姫様が大好きらしい。
「「「うおおぉぉぉおお‼︎」」」
どうやら敵兵の一団がこっちに向かって来ている様だ。
「では、勇者殿!ユーリ殿!前へ進んで先陣のエクレールと合流を!」
「はい!」
「んーいや、俺はここに残ります。」
「えー!何で⁉︎」
「確かに敵陣を切り崩すのも大事だけど、敵兵がここまで来てるんだ。守るのも大事だろ?」
「なるほど、ユーリ殿の言葉も一理あるな。」
「そういうわけだ。前は任せたぜ、勇者様。」
「うん!任されました!勇者シンク、行きます‼︎」
そう言って駆けていくシンクは、パラディオンによる強打、攻撃を回避してからのタッチアウトで次々と敵を撃破しながら前へと進んで行った。
「守りに回る、嘘ではないんだろうがそれだけでもないんだろう?」
「バレました?」
「まあね。本当の目的は?」
「俺はシンク程順応性が高いわけではないので、輝力と紋章術、何より今の俺に出来る事と出来ない事をしっかり理解してから進もうかと。」
「ユーリ殿は慎重なんだな。」
「臆病とも言いますけどね。と言うわけで、紋章砲教えてもらっていいですか?」
「良かろう!まずは自身の紋章を発動!」
「紋章発動!レベル1!」
俺とロランさんが手を前にかざすと、それぞれの紋章が浮かび上がる。
「全身の力と気合いを込めて、紋章を強化!」
「レベル2!」
背中の辺りに手に現れた物と同じ紋章が浮かび上がる。
「「レベル3!」」
更に力を込めると、紋章がくっきりと力強く浮かび上がる。
「フロニャ力を輝力に変えて、自分の武器から解き放つ!」
「うおおぉぉおお‼︎」
俺は鞘に納めたままの桜嵐を振るい、ロランさんは槍を振るい、紋章砲を撃つ。
強烈な閃光と共に目の前にいた、多くの敵兵をけものだまに変えた。
それと同時に俺は違和感を覚えた。
「と、まあこんな感じだ。威力はあるし、敵を一気に倒せるがその分体力も消耗する。使うタイミングには注意してくれ。」
「はい。あとロランさん。」
「ん?何かな?」
「この紋章術ってもしかして、身体能力の強化とかも出来るんですか?」
「どうしてそう思った?」
「いや、さっき紋章砲を撃つのに振った時、刀がいつもより軽かった気がして。」
この桜嵐はいつも振ってるし、どんな時でも持ち歩いていたから絶対に重さは間違えない。
「確かに、紋章を通じて出力出来る輝力はイメージが明確になるほど、確かな形と力になる。それを使えば可能ではあるが。」
「なるほど。分かりました、ちょっと色々試しながら前に出ようと思います!」
「ああ、守りは任せてくれ!ユーリ殿は思う存分戦ってきてくれ!」
「はい!」
それから俺は周辺の敵兵と戦いながら色々試してみた。
取り敢えず今俺に出来そうなのは、輝力による簡単な身体能力の強化と武器に輝力を纏わせる事で攻撃範囲を拡大するくらいみたいだ。
「こ、このスットコ勇者がー‼︎」
『おっと仲間割れか?そしてこの勇者、意外とアホか?』
どうやらシンクがロランさんの妹、親衛隊隊長のエクレール・マルティノッジに余計な事をしでかしたらしく殴り飛ばされていた。
「何やってんだか…。ん?」
中継を見ながら進んでいると、爆炎と共に前方の櫓が吹き飛ぶ。
そして、爆煙の中から黒い大きなセルクルに乗った女性が現れる。
あの人は確か中継で見たな。
「レオンミシェリ姫…。」
「んん?」
結構小さな声で呟いたつもりだったが。どうやら聞こえたらしい。
「誰じゃぁ、ワシを姫などと気安く呼ぶ無礼者は…閣下と呼ばんか‼︎」
まさに一喝、空気が震えるほどの一声だ。
「失礼しました、閣下!」
「ん、貴様は?見ない顔じゃが…。」
「ビスコッティの勇者シンクの召喚に巻き込まれました、風巻悠莉です。」
「ほう。その割には、先程の紹介にはおらんかったようじゃが。」
「俺はそう言うの苦手なので。そんなことより、一戦お願いできますか?」
「ふむ、良かろう。さっきのチビとタレ耳よりは期待出来そうじゃ。」
そう言うと黒いセルクル、ドーマから降り、右手にどこからともなく出した斧を持ち、左手にドーマが運んでいた盾を持った。
いや、斧はどこから出てきたんだ、アレも紋章術のちょっとした応用なのだろうか?
そしてどう見ても両手斧のサイズなのに片手って…。
「行くぞ!」
勢いよく駆け出した閣下は、凄まじい勢いで斧を振り下ろす。
「ふんっ!」
「はっ!」
振り下ろされた斧を、左手に持った桜嵐で受け、滑らせる様に左に受け流す。
「おお…⁉︎」
「だぁ!」
そのまま身体を捻り、右脚を軸に左脚を振り上げて、回し蹴りを叩き込む。
輝力で強化された蹴りは、閣下を吹き飛ばし岩場に叩き付けた。
『す、凄いぞこの少年!レオンミシェリ閣下を蹴り飛ばしたー‼︎ミルヒオーレ姫、どうして彼を紹介して下さらなかったのです⁉︎』
『あはは…ユーリ様から秘密にと言われたもので。』
実況の方では大分盛り上がってる様だが、多分閣下には全然ダメージ通ってないだろうな。
「ふむ、なかなかやるな。まさかその様な戦い方をしようとはな。」
砂煙の中から出てきた閣下は、案の定ほぼ無傷。
受け流しで完全に体勢は崩れていたはずだったが、左手の盾で防がれていたらしい。
「しかし、良い蹴りじゃ。ワシの盾に傷を付けるとはな。」
「お褒めにあずかり光栄です。」
閣下の言う通り盾にはほんの少し、ヒビが入っていた。
「じゃが、次はないと思え!」
「くっ!」
「ふん!はぁ!」
「ちっ!おお‼︎」
斧での攻撃を桜嵐で受け、拳や蹴りで応戦する。
さっきのを警戒してか、大振りな攻撃はなかなかこないため隙が生まれない。
「その剣は鞘から抜かんのか?」
「もうちょっと抜かずに頑張りたいところですね!」
「ならば抜かせてみせよう!」
もう一度閣下は斧を大きく振り下ろしてくる。
そしてさっきと同じ様に桜嵐で受け流すも、今度はそのまま左手を振るい盾で殴りかかってくる。
それを身体を反らし、バク転の様に回避する。
結果今度は体勢を崩したのは俺の方だった。
「おりゃぁぁああ‼︎」
「この‼︎」
ガキン‼︎と金属音が鳴る。
体勢を崩した俺に閣下は飛びかかり、斧を両手に持って振り下ろしてきた。
回避も防御もままならない俺は、身体を捻り回転の勢いで抜刀し防いだ。
直撃は免れたとは言え、空中で受けたため大きく吹き飛び地面に叩きつけられた。
「いってて…。」
「ようやく抜いたのぉ。綺麗な剣ではないか。」
「ありがとうございます…。」
確かに綺麗な刀身の刀だとは思う。
透き通る様な半透明な赤味がかった桜の刃、それが“桜嵐”だ。
「お前との戦い、楽しいがワシも少々先を急ぐ故な。ここで終わらせるぞ‼︎」
閣下は全身に力を込め紋章を発動する。
「俺もビスコッティの姫様の為に戦う剣士。はい、そうですかと通すわけにもいかないんですよ‼︎」
俺も負けじと紋章を発動する。
そうだ、きっとここでなら爺ちゃんに習った技が使えるはずだ。
「獅子王!爆炎斬‼︎」
「烈空!一文字‼︎」
閣下の放つ強烈な爆炎の刃と俺の居合抜きから放った輝力の刃がぶつかる。
だが明らかにこっちの輝力の刃が押し負け様としている。
「だったら、これでどうだ‼︎」
居合抜きの勢いを使い、身体を捻りもう一度桜嵐を振るい刃を飛ばす。
「名付けて、重ね十文字‼︎」
2発目の輝力の刃がぶつかり、爆炎の刃と拮抗する。
そして暫く拮抗した後、大爆破を起こした。
『爆発ー!勝ったのはレオンミシェリ閣下か⁉︎それとも異世界の少年か⁉︎』
爆煙が少しづつ晴れていく。
そして立っていたのは。
「なかなかであったが、ちぃとばかし届かんかったようじゃな。」
レオンミシェリ閣下だった。
「はぁ…流石に強いなぁ。」
「いや、お前もなかなかであった!確かユーリと言ったな?」
「はい、閣下。」
「輝力の扱い、紋章剣の威力、どれもこの世界に来て初めてとは思えんものじゃった。お前の名、覚えておくぞ!」
「ありがとうございます!」
「うむ!ではワシは行くぞ、ドーマ!」
閣下はドーマを呼び、盾を持たせ、乗ろうと手をかけた瞬間。
パキン!と音がして手甲が砕けた。
「おお!なるほど、最後の違和感はこれじゃったか。」
「ちゃんと、当たってたんですね。」
「どうやらそのようじゃな、見事!」
重ね十文字と爆炎斬が爆発する瞬間に、残った輝力で砲とも呼べない程の紋章砲を撃っていた。
若干騙し討ちみたいな形だが、一矢報いることは出来たみたいだ。
とは言え手甲を破壊したくらいで止まる様な閣下ではない為、改めてドーマに乗り直し駆けて行ってしまった。
「おーい!ユーリー!」
「シンク?」
「大丈夫⁉︎」
「俺の事はいいからレオ閣下を!」
「うん!任せてー!」
「シンク、盾を狙え!閣下本人にはあんまりダメージ与えられなかったけど、盾にはヒビが入ってる!」
「分かった!ありがとうー!」
「いいから急げ!アホ勇者‼︎」
若干喧嘩しながらシンクとエクレールは駆けて行った。
その後、シンクとエクレールは見事コンビネーションでレオ閣下の武器及び防具を破壊した。
閣下本人はまだ戦えそうだったが、「これ以上はサービスが過ぎる」との事で敗北宣言。
戦の勝利条件が拠点制圧の為、戦自体はまだ続くがビスコッティには大将撃破ボーナスが加わりポイント差はおよそ倍以上となり、ビスコッティの勝利で戦は幕を閉じた。
余談だがレオ閣下へのラストアタックでシンクのパラディオンがエクレールの服を掠め、エクレールが全開になった所が中継されシンクは見事アホ勇者から変態勇者へとランクアップした。