「おーい、シンクー!シンク?」
一休みして体力が戻って来たのでシンクと合流しようと思ったら、シンクはタオルを巻いた緑の髪のタレ耳少女に足蹴にされていた。
「えーと、2人ともそういう趣味がおありで…?」
「なっ!違う!変な勘違いをするな⁉︎と言うか、貴様は誰だ⁉︎」
「そういや、ちゃんと自己紹介してなかったな。風巻悠莉だ、今あんたが踏んづけてる勇者の召喚に巻き込まれてやって来た。よろしく。」
手を差し出し握手を求める。
「エクレール・マルティノッジだ、親衛隊の隊長をやっている。」
ふんっと言いながらも握手に応じてくれるあたり、この子もいい子らしい。
「ところでエクレ、さっきの放送何なんだ?戦勝イベントがどうのとか、姫様が歌うとか何とか、姫様って歌手なのか?」
「へぇー、姫様って歌とか歌うんだ。」
「歌うんだとは何事だ!姫様は世界的な歌い手であらせられるんだぞ‼︎」
エクレのシンクを踏む力がどんどん増していく。
「世界⁉︎」
「そりゃ凄い!」
「そうだよ。お疲れ様だ、勇者殿、ユーリ殿、エクレール。」
そう言ってロランさんはエクレに替えの服を手渡す。
そしてエクレはロランさんの陰で服を着る。
正直隠せてるのかは微妙なところだ、まあ見ない様にすれば良いだけの話ではあるんだけど。
「姫様は他国との会議や交流の際、楽団を連れて世界中で歌われているんだ。」
外交レベルで通用する歌とか凄まじいな。
確かに綺麗な声ではあったけども、多分それ以上に人を惹きつける何かが姫様の歌にはあるんだろうな。
「戦続きでツアーもめっきり滞ってしまっていてね。我々も久しぶりに、姫様の歌を聴けるくらいなんだが。」
「貴様等も姫様の歌を聴けば納得するだろうよ。」
「勇者殿とユーリ殿には、特等席で聴いていただくとしよう。」
「「ありがとうございます!」」
「あ、でもちょっと一旦家に戻るか、向こうに連絡したいんですけど。」
「元々イギリスに帰る予定だったもんな。七海とか待ちぼうけになってるかもしれないしな。」
「「え?」」
凄い“何言ってんだ?”みたいな顔された。
嫌な予感がしてきたな。
「召喚された勇者は帰る事も、元の世界と連絡を取る事も出来ない。」
「それが召喚のルールだ。だからこそ勇者召喚は滅多に行われない。」
「ははは…そんなまたまた…。」
「事実だ。そもそも勇者召喚自体近年では行われていなかったため、勇者召喚に関する資料すら殆どない状況だ。」
「そ、そんな事言っても何だかんだと方法の1つくらい…。」
「ないものはない。」
「ええぇぇぇええー‼︎」
シンクは絶望に打ちひしがれ、絶叫していた。
その後、フランボワーズさんがロランさん、シンク、俺に話を聞きたいと言ってきた。
多分インタビューとかそんな感じなんだろうが、ロランさんが気を利かせてくれてシンクと俺にはなしという事になった。
そして、当の勇者シンクはと言うと。
「帰れないぃ…僕はここから帰れないぃ…。」
隅っこでいじけていた。
「すげー落ち込んでんな、シンク。」
「むしろ何で貴様はそんなに落ち着いているんだ?」
「そうだよ。ユーリだって帰れないんだよ?」
「俺は帰れる自信と確信があるからな。」
「「?」」
「忘れたのか?俺の爺ちゃんは若い頃にフロニャルドに召喚された。けどその時の事を俺に話してくれた。」
「ん?あ、そっか!」
「そう。つまり方法は不明だが帰る事は出来るはずなんだ。」
「なんの話だ?」
「実は俺の爺ちゃん、若い頃にフロニャルドに召喚された事があるらしいんだよ。」
「なんだと⁉︎しかし、それが本当なら確かに帰る方法もあるのかもしれないな…。」
「まあとは言え今は分からないんだし、こっちを満喫するとしようぜ。と言うわけでエクレ、案内お願いしてもいいか?」
「まあ一応は客人なわけだしな。良いだろう、ついて来い。」
可能性はあるものの方法が明確ではないためか、落ち込んだままのシンクを引き摺って、エクレについて城下町へと入る。
戦場からはそれなりに距離があったためベンチで休むことにした。
いつの間にかタツマキも付いてきていたのには驚いた。
「まぁそうだよなぁ…異世界だもんなぁ…。」
「むしろよくそこに希望を感じたな。」
シンクは圏外の携帯を眺めて落胆する。
「まったく、覚悟もないのに召喚に応じるからだ。」
「覚悟⁉︎覚悟もなにもこのワンコが‼︎」
「ま、覚悟も何もなかったわな。急に落とされたわけだし。」
「そうだよ!踊り場から降りようとしたら落とし穴を仕掛けて‼︎」
「落とし穴?タツマキが?」
そう言われて心外に思ったのか、仕方ないなといった様子で召喚の魔法陣を小さく展開するタツマキ。
「何々…“ようこそ、フロニャルド。おいでませ、ビスコッティ。”」
エクレが読んでくれていたが、タツマキはここを見ろといった風に足で魔法陣の一部を指す。
「“注意、これは勇者召喚です。召喚されると帰れません。拒否する場合はこの紋章を踏まないで下さい。”」
「えっ⁉︎」
「いやいや…。」
確かに書いてあるだろう?と言いたげなタツマキだが。
こんな魔法陣の隅の隅に小さな文字で、しかも俺たちに読めない文字とか何だこれ。
悪徳業者の契約書かなんかかよ。
そもそもこれが読めても着地点に出した時点で、有無を言わさずなのは変わらねぇじゃねーか。
「こんなん分かるかーい‼︎」
「知るか!私に言うな!」
「まあ、実際エクレに当たっても仕方ないわな。落ち着けシンク。」
「ふん。まあ貴様等を帰す方法は、学院組が調査中だ。ユーリの話もあるし、時期に判明するさ。」
「…だといいけど。」
若干泣きそうなシンク。
「とりあえず、まあ、その、なんだ。アホウと言えど貴様等は賓客扱いだ、ここでの暮らしに不自由はさせん。一先ずはこれを受け取っておけ。」
そう言って俺とシンクに袋を差し出す、エクレ。
涙目なシンクを見たせいか、若干最初の頃のトゲトゲしさがなくなっていた。
と言うか俺もアホウなのか。
「これ、お金?いや、流石にお金は…。」
「何に対する金なんだ?」
「戦場での活躍報奨金だ。受け取りを拒否すれば、財務の担当者が青ざめる。」
「正当な対価ってんなら貰っとこうぜ。」
「う、うん…。」
「兵士たちも楽しいから、戦に参加している者も多いだろうが。報奨金の支給は、自分がどれだけ戦に貢献出来たかの大切な目安だ。少なくとも、参加費分を取り戻したいというのも本音だろうしな。」
「え⁉︎参加費⁉︎」
「マジかよ…。」
「やれやれ、これはかなり初歩的なとこから、教えてやらんといかんなぁ…はぁ…。」
かなり盛大に溜め息をつかれた。
「戦は国交手段でもあるが、同時に国や組織を挙げてのイベント興行でもある。今回はガレットと戦ったが、もっと規模の小さい、村同士や団体同士の内戦もあるな。」
「村対抗の競技大会兼…お祭りみたいなもの?」
「まぁ、そんな言い方も…出来るか。」
「んで、戦そのものはどうやったら出来るんだ?」
「戦の興行を行う際には、興行主が参加希望者から参加費用を集めて、それを両国がそれぞれに計上する。そして戦を行い戦勝国が約6割、敗戦国は残りの約4割を受け取る、これは大陸協定で決められた基本の割合だ。分配した費用の内最低でも半分は参加した兵士への報奨金へと当てられる。この割合も協定で決まっている。そして残り半分が戦興行による国益だ。病院を建てたり、砦を造ったり、公務のために働く者を養ったりと、国を守る為に使われる。」
「「へぇー。」」
大陸協定ってのはかなり良く出来てるらしい。
「あとさ、えーと、本物の戦争というか…大陸協定っててのを守らなかったり人が死んじゃったりする様な戦いとかは…。」
「歴史を紐解けば、そういった争いもなくはない。特に魔物との戦い等ではな。」
「魔物か…。」
爺ちゃんが召喚されたのは魔物との戦いのためって言ってたな。
「あぁ。我々が負傷せずにいられるのは、戦場指定地に眠る戦災守護のフロニャ力のおかげだ。それ以外の場所なら怪我もするし、死にもする。」
「じゃあ、守護されてる場所ってどれくらいあるんだ?」
「元々守護力が強い場所に国や街、砦が出来ているんだ。街道や山野は危険な場所が多いな。特に街道は大型野生動物の危険度も高い。だが、戦のために移動する隊列に加われば、逆に安全な旅が出来るという利点もある。」
「「なるほどー。」」
「しかし、貴様等は本当に何も知らんな。」
「まあ、フロニャルド初心者だからな。」
すげー呆れた表情された。
「とりあえずリコの所へ向かうぞ。案外何か進捗があったかもしれない。」
そう言って大きな建物へと入って行くエクレ。
学院組がどうのとか言ってたから、この建物が学院ってことなんだろうか。
そして中を進むと、本がズラッと並んだ書庫の様な所に出る。
そこでは1人の少女が出迎えてくれた。
「申し訳ないであります!このリコッタ・エルマール、誠心誠意勇者様方のご帰還方法を探していたでありますが、未だ何とも、どうにもこうにも…。」
そう言いながら何度も頭を下げてくれる。
この子の小ささも相まって、こっちが悪い事してるみたいだから頭をあげて欲しいところ。
「いや、リコ落ち着け、私も勇者達もそんなにすぐ見つかるとは思ってない。」
「そ、そうだよ、うん…。」
「ま、今まで帰る方法はないってなってたのを探してるんだ。焦る事はないって。」
「本当でありますか?」
「おう。」
そう言って軽く頭を撫でてやる。
少し擽ったそうにもしたが、気持ち良さそうだ。
「期限について何か言ってたな、いつまでだ?」
「えーと、春休み終了の3日前…の前日には家に居ないといけないから…あと16日。」
「16日!希望が湧いてきたであります!」
「うん、お願いします!」
「何か予定あんのか、シンク?」
「あ、そっか。ユーリは今朝一緒に学校に行かなかったもんね。実は父さん母さんが帰ってくるから、一緒に和歌山の別荘に行かないか?って。」
「そうだったのか。」
「うん、ベッキー伝言お願いてたんだけど…。」
「まあこんな状況じゃな…。」
「それでは、自分は調査に戻るであります。」
「あ、待って。その前に…召喚された穴の所に行ったら、電波通ったりしないかな?」
そう言いながら携帯をリコに見せるシンク。
「電波?」
そして俺たちは謎の機械と一緒にリコ、エクレ達と召喚台へと来ていた。
「んんー!やっぱり、通れない!」
「だから言っているだろうが!」
エクレに頼んでこちら側から世界を繋げる穴を開けてもらったが、どうにも通れる様な大きさではなかった。
「人生なんでもチャレンジ!ネバーギブアップ‼︎」
「やっぱりアホか。」
「それがこいつの良いところなんだよ。」
怪訝そうなエクレに笑顔で返してやる。
「勇者様ー!準備整ったでありまーす!」
ここに着いてからずっと、持ってきた機械をいじっていたリコが手を振っている。
「来る途中からずっと気にはなってたんだが、それは一体何なんだ?」
「放送で使うフロニャ周波を強化、増幅させる機械であります。自分が5歳の時に発明したでありますが、今では大陸中で使われているのでありますよ。」
「それはすげーな。」
えへんと胸を張るリコ。
学院首席の肩書きは伊達じゃないって事か。
それにしたってどんな頭脳だよって話だが。
そしてリコが少し機械を操作して、レバーを引いて起動させる。
「では、勇者様?」
「あ、うん。」
シンクがリコの声に反応して携帯を取り出す。
するとこの機械の影響か、圏外だったのが3本立った。
「うわー!立ったー!すごーい、リコッタすごーい‼︎」
「ありがとうであります!感激であります!」
「なるほど。つまり俺たちの世界の電波と、こっちのフロニャ周波ってのは似たものって事なのか。」
「そうなのかもしれないでありますなー。」
そしてシンクはベッキーに電話をかけている。
「勇者様のご友人えーと…。」
「風巻悠莉、ユーリで良いよ。俺もリコって呼ばせてもらうし。」
「ではユーリ様。ユーリ様は電話しないのでありますか?」
「まあ、かける相手も居ないしね。両親は小さい時に死んじゃったし、その後面倒見てくれた爺ちゃんも2年前にね。」
「あ、ご、ごめんなさいであります!」
「気にするな。それに今はシンクやベッキーも居るからな。」
「ベッキー?」
「俺とシンクの友達だ。」
そう言いながらまたリコの頭を撫でてやる。
あといつも勝負勝負って言ってくるシンクの従姉妹もいるが、まあそれはまたの機会にしよう。
「学院でも思いましたがユーリ様はなかなかの撫でテクをお持ちでありますなぁ。」
「そうなのか?」
「姫様に匹敵するくらいであります!」
それがどれくらいなのかは俺には分からないが、とりあえずありがとうと言っておく。
「ユーリー!ベッキーが変わっててー!」
「おー。」
シンクから携帯を受け取り、電話に出る。
「もしもし、ベッ『ユーリ⁉︎』な、なんだよ?」
『なんだよじゃないわよ!学校にも来ないし、家にも居ないしで心配したんだからね!』
そう言えば今朝起こしに来てくれたのに、起きなかった件を忘れていた。
「わ、悪かったよ。」
『まったく。まあちゃんと元気にしてるみたいだから良いけど。シンクから春休みの最後の3日間の話聞いた?』
「ああ、シンクとも一緒だし、ちゃんと参加するよ。」
『良かった、きっと七海も楽しみにしてると思うし。あ、あと一緒ならシンクが無茶したりしない様に見張っててね。』
「分かったよ。」
その後少し話したあと電話を切った。
「ベッキーなんて?」
「いつも通りお小言言われた。あとお前が無茶しない様に見張っとけってさ。」
「あはは…。」
その後シンクは両親や多分七海辺りにも連絡をしていた。
そして流石発明家と言うべきか、こっちでは未知なる機械、携帯に興味を示したリコに分解したいと追い回されていた。
「それは心強い!」
エクレが嬉しそうな顔で大きな声を上げた。
「エクレ、何か朗報が?」
「ダルキアン卿が戻ってこられる!」
「本当でありますか⁉︎なら、ユッキーも一緒でありますね!」
「ああ!」
「「誰?」」
「ビスコッティ最強の騎士、ダルキアン卿と我らの友人ユキカゼだ!」
「2人共、とっても頼りになるであります!」
「へぇー。」
「そりゃ頼もしい。」
その後土地神様が姿を見せてくれ、暫く皆で眺めた後城へと戻る事となった。
城に着くとエクレに“姫様のコンサートに汗臭い姿で来られても困る”と言われ、風呂へ行くようにと言われたのだが。
「どこだろう?」
「リコが案内図もあるし人に聞けば分かるとか言ってたが、誰も居ないな。」
「うん。」
俺たちは見事彷徨っていた。
「はあ…俺はちょっと夜風に当たって行くわ。」
「そう?僕はもうちょっと探してみるけど。」
「もし見つけたら入って、出て来てからで良いから教えてくれ。」
「オッケー。」
シンクを見送ってから芝生に寝転がる。
しかし今日1日で色んなことがあったな。
異世界に飛ばされ、友人は勇者になるし、不思議な力で怪我をしない戦に参加するわで。
でもずっと憧れていた異世界、爺ちゃんが魔物と呼ばれる存在と戦った世界。
「あ、結局爺ちゃんの事とか魔物の事とか聞けてねーや。」
ま、急ぐことないか。
「きゃああぁぁぁあ‼︎」
「この声、姫様か⁉︎」
突然姫様の悲鳴が鳴り響く。
声のした方へ走ると、既にシンクがいた。
「シンク!」
「ユーリ、上!」
上を見ると屋根の上に3人の少女が立っていた。
そしてその真ん中の少女は、縄で縛られた姫様を抱えていた。
「我ら、ガレット獅子団領!」
「ガウ様直属、秘密諜報部隊!」
「「「ジェノワーズ‼︎」」」
3人がポーズを取ると爆煙が上がる、戦隊ヒーローみたいだ。
お蔭でちょっと冷静になれた。
よく見ると周りに放送の為か、撮影班がいる。
「ビスコッティの勇者殿並びにその友人殿、貴方方の大事な姫様は我々が攫わせて頂きます。」
「ウチらはミオン砦で待ってるからなー!」
「姫様がコンサートで歌われるまで後一刻半、無事助けに来られますか?」
「つまり大陸協定に基づいて、要人誘拐奪還戦を開催させて頂きたく思います。此方の兵力は200、ガウル様直轄の精鋭部隊。」
「で、ガウル様は勇者様との一騎打ちをご所望です。」
「勇者さんが断ったら姫様がどうなるか…。」
撮影班に大陸協定か。
つまりこれも戦興行に含まれるって事なのだろうか?
だとしたら断る事も可能なのか?
「そんなもの…!」
「待て、シンク!一度エクレ達に相談を…。」
「受けて立つに決まってる!僕は姫様に呼んでもらった、ビスコッティの勇者シンクだ!どこの誰とだって戦ってやる‼︎」
こうして宣戦布告とその受諾はつつがなく行われた。