「こんの、ドアホウがーー‼︎」
ジェノワーズが指定したミオン砦へ向かうため、城の外へ出ようと走っていると、逆方向から凄まじい勢いで走って来たエクレがシンクを蹴り飛ばした。
「痛いよ!何すんの⁉︎」
「それはこっちの台詞だ、このドアホ!勝手に宣戦布告を受けて、どういうつもりだ⁉︎」
「あー、やっぱりか。」
「はい?」
ジェノワーズの申し出は宣戦布告だったらしい、それを受け入れると言う事は姫様の奪還を勝利条件とした戦を受ける事になってしまうらしい。
宣戦布告の段階で拒否すれば姫様はそのまま返してもらえたみたいだ。
だが受けてしまった以上、何とかコンサートの時間までに助け出すしかない。
シンク、エクレ、リコと一緒にセルクルに乗りミオン砦を目指す。
「宣戦布告を受ければ、公式の戦と認めた事になる。普段の戦闘ならいざ知らず、よりによって姫様を、あまつさえこんなタイミングで…!コンサートの姫様の出番まで後一刻半しかないんだぞ!聞いてるのか勇者⁉︎」
「き、聞いておわぁ!聞いてる!」
「いやーしかし、結構揺れるなセルクルって。」
「大体貴様は何で、セルクルにもまともに乗れんのだ⁉︎ユーリは平気そうじゃないか‼︎」
「そんな事言われても‼︎」
「慣れだ慣れ、頑張れシンク。エクレもあんまりこいつを責めないでやってくれ、俺たちの世界じゃそこにどんな理由やルールがあっても姫様が攫われるのって大変な事なんだ。」
「ふんっ‼︎」
「エクレール、リコッタ、ごめん、勝手な事して。ユーリも言った様に僕の世界では、悪者が姫様を誘拐するのって大変な事なんだ。だから黙ってられなかった!でも大丈夫、姫様も助けるし、コンサートにも絶対間に合わせる!」
「そう来なくっちゃな!」
「ふんっ、当然だ!」
「自分も微力ながら頑張るでありますよ!」
「うん!ありがとう、ユーリ、リコッタ、エクレール!」
そして俺たちはミオン砦を目指し、駆けて行った。
その時、崖の上から俺たちを見下ろす人影があった。
「親方様〜!何か面白いものでもございましたか〜⁉︎」
「おお、ユキカゼ。どうやら戦の様でござるよ。」
そんな会話がなされている事など露知らず、俺たちはミオン砦を眼前に捉えていた。
「本隊を待ちたいが、待ってる時間はどこにも無い!ガウル殿下の兵は悔しいが精鋭だ、野戦であの数を相手にするのはぶっちゃけ厳しい。」
「でも、俺たちは止まる訳にはいかない!」
「その通りだ。それにかつての大戦では、千を越える騎兵隊を切り抜け、見事一騎駆けで敵将まで辿り着いた、伝説の騎士だって存在した‼︎」
「マジで⁉︎」
「それを思えば我々とて、百騎やそこらの相手など!」
「おう!リコのサポートだってあるんだし!」
「「「やってやれないことはない‼︎」」」
「やらねば時間に間に合わん!」
「姫様の歌を楽しみにしてくれている人達の為にも!」
「最短距離を最高速で!」
「「「正面突破‼︎」」」
真正面からたった3人で突っ込んで行く。
当然、敵にも迎撃の用意がある、弓兵達が弓を構えるのが見える。
しかしその瞬間後方から爆音が響き、無数の砲弾が敵陣を切り崩した。
恐らく3人だけと油断していたのだろう、突然の砲撃に砦の門前を固めていた部隊は瓦解し、部隊長と思われる男は困惑していた。
「まさか、砲兵が居るのか⁉︎」
後方の崖の上、森の中にその人は潜んでいた。
「居るでありますよー!ビスコッティ学術研究院主席、リコッタ・エルマール!戦場では砲術士をさせていただいてるであります!」
そしてリコは更に砲撃の雨を降らせ続ける。
砲撃の雨にやられ道が開けたため、一気に砦内部へ進入する。
しかし内部には門前よりも多くの敵が待ち構えていた。
「こりゃまた派手なお出迎え!」
「望むところだ!」
「誰が相手だって負けられねぇからな!」
3人で敵の大群へと突っ込む。
しかし多勢に無勢、倒しても倒してもキリがなく、俺たちは次第に追いつめられていく。
「フゥハハハァ!親衛隊長も勇者も恐るゝに足らず!レオンミシェリ閣下と渡り合ったと言う小僧も大した事は無いなぁ‼︎」
「リコからの砲撃、止まっちゃってるけど。」
「無理も無い、砲術士は歩兵に詰められれば無力なんだ。」
「前に進む事ばかり優先したからな。寧ろよく保った方だろう。」
「勇者の坊主は我等が主、ガウル殿下の御指名だ。広場まで来てもらおう。」
「小娘の親衛隊長と異界の小僧に用は無い。降参するなら許してやるぞ、んん?」
「断る‼︎」
「そのくらいで諦めるなら、最初からこんなとこまで来ないさ!」
「ん⁉︎そうか…なら、少々痛い目を見てもらおうか‼︎」
そう言うと将軍と思われる人物は巨大な鉄球の付いた巨大な斧を持ち出した。
「エクレール‼︎」「勇者‼︎」
「なんだ?」
「そっちこそ?」
「いいか?よく聞け。」
「エクレこそ。」
「「僕/私がここに残るから、エクレ/貴様は先に!」」
「「え?」」
見事にハモった。
「だーもう!なんで被んの⁉︎」
「それはこっちの台詞だ、スットコ勇者が!」
「良いから行けって!ここは危ないんだし、エクレなら砦の中とか詳しいでしょ⁉︎」
「足止めなんて難しい戦場、お前に出来るわけなかろうが⁉︎お前こそさっさと行け‼︎」
「お前ら喧嘩してる風に見えて、実はすげー仲良いだろ。」
「「誰がこんな奴と⁉︎」」
「つーか、お前らの痴話喧嘩のせいで向こうの大将、ぷるぷるしてんだけど。」
すげー怒り心頭って感じで爆発しそうなんだけど。
「んん!ぅぉおおぉぉおおらあぁぁあ‼︎ガキども!この土壇場で、楽しいやり取りしてんじゃねぇぇええ‼︎」
「くそっ!」
痴話喧嘩で反応の遅れた2人の前に出て、桜嵐で鉄球を受け止める。
しかし余りの重さに後ろの柱に叩きつけられ、地面に倒れる。
「がっ‼︎」
「「ユーリ⁉︎」」
「この俺様と百騎を越えるガレット戦士団を相手に、ひよっこ勇者のと見習いに毛が生えた程度の小娘が、抵抗出来るってんなら…やってみやがれ‼︎」
そう言って斧を大きく振りかぶり、今まさに振り下ろそうとしたその時。
「ああ⁉︎」
ガキンッ!と金属音が鳴る。
将軍は後方から飛来した、まるで丸ノコの様に回転した剣を斧で受け止めた。
「この刀は…⁉︎」
「遠間より失礼つかまつった。」
エクレは刀を見て驚いた表情をしている。
そして恐らくその刀を投げたであろう人は、砦の屋根の上に立っていた。
「おお、久しぶりでござるな、エクレール。暫く見ないうちに大きくなった。」
「ダルキアン卿‼︎」
「え?」
「ダルキアンだと⁉︎」
「如何にも。そこの斧将軍と勇者殿にはお初にお目に掛かる。ビスコッティ騎士団自由騎士、隠密部隊棟梁、ブリオッシュ・ダルキアン!騎士団長ロラン殿の要請を受け、助太刀に参った‼︎」
ダルキアンが口上を述べていると、後方の塔から弓兵が狙っていた。
「危ない、後ろ!」
「紋章剣…烈空、一文字‼︎」
シンクの言葉に反応して、後方目掛けて一閃。
凄まじい範囲と威力の紋章剣は、その一太刀で飛んで来た矢諸共塔を両断して見せた。
「すげーな、俺じゃあんな威力は出せそうにない。」
「ユーリ、無事だったんだね!」
「勝手に殺すな。しかしアレが大陸最強の剣か…。」
技名からして恐らく俺が爺ちゃんから教わったものと同じはず。
それでも威力はまさに桁違いだった。
「いやー助かったでござるよ、勇者殿。」
「あ、いえ。」
「おぉ、口上の途中でござったな。えーと…どこまで話したか。まぁ兎も角、押しかけ助っ人の推参でござる。さあ、いざ尋常に勝負でござるよ!」
その言葉と共に沢山の花火が上がった。
いや、何で花火?
その頃砦の外にて。
「花火⁉︎誰だ、あんなものを上げたのは⁉︎」
そう怒りの声を上げながらガレット側の部隊長が振り向くと、控えていた兵士達が次々とけものだまに変わる。
その先には狐の耳と尻尾をした少女が立っていた。
「んな⁉︎」
「拙者、ビスコッティ騎士団、隠密部隊筆と「おのれいつの間にー⁉︎」
「うぅ…。最後まで言わせて欲しいでござる。紋章拳!」
狐耳の少女は紋章を発動すると、目にも留まらぬ速さで部隊長の懐に潜り込む。
「ユキカゼ式体術…狐流!蓮華昇‼︎」
「おわぁぁああ⁉︎」
鎧を砕く程の拳を叩き込み、浮いた体を凄まじい勢いで蹴り上げた。
「斬‼︎」
そして打ち上げられた敵に一気に近付き、懐から取り出した短刀で斬りつけ、けものだまへ変えた。
「ビスコッティ騎士団、隠密部隊筆頭、ユキカゼ・パネトーネにござる!ニン♪」
「ユッキー!花火も砲弾もゲットしてきたでありますよー!」
「ナイスでござる、リコ!あ、因みに、リコを捕まえていた兵士達は全員、眠ってもらっているでござるよ。」
けものだまになった部隊長にそう言うと、花火や砲弾の入った袋を持つリコを背中に背負うユキカゼ。
「ではリコ、早速お館様とエクレ達の支援に向かうでござるよ。」
「了解であります、ユッキー!」
ユキカゼは紋章を発動し、凄まじいジャンプ力で城壁を飛び越え、敵陣上空に飛び出す。
「おー、やってるでござるなぁ。」
「応援の一発、ドカンといくでありますよ!」
「ござる!」
そして袋の中の花火や砲弾を一気にばら撒き、2人で紋章を発動させる。
「リコ&ユッキー式砲術!」
「繚乱!」
「「大百華‼︎」」
2人が拳を打ち合わせると、花火や砲弾に次々と点火し爆発が巻き起こり、砦内部の敵をけものだまに変えていく。
「エクレ…何か、何か凄いんだけど⁉︎」
「ぼやくな!走れ!」
「まさにチャンスってヤツだ。ここは任せて、俺たちは目的を果たしに行くぞ!」
ダルキアン卿や砲撃の混乱に乗じて、俺たち3人は砦の奥を目指して駆けていく。
「ダルキアン卿⁉︎エクレール・マルティノッジです‼︎」
「おう!」
「我々は中に突入致します!姫様の救出に!」
「おう、存分に勤めてくるでござる!ここは拙者とユキカゼに…おおぉぉおお‼︎」
ダルキアン卿は振り向きもせずに背後からの攻撃を体捌きで回避し、紋章剣の一太刀で敵を一気に殲滅し、斧将軍へと向き直る。
「任せるでござるよ♪」
広場をダルキアン卿に任せ、先へ進むと姫様を攫ったジェノワーズの三人娘が待ち構えていた。
「足止め、どうしよう⁉︎」
「んーシンク、お前は先に行け。さっきの斧将軍もこの三人娘も、ガウル殿下って人がお前と一騎討ちしたいって言ってたろ?」
「うん。」
「つまりコイツらの目的は、あくまで俺とエクレの足止めのはず。ならお前だけなら通してくれるはずだ。さっさと行って姫様を救ってこい!」
「分かった!ユーリ、エクレ、気を付けて!」
「言われるまでもない!」
予想通り、ジェノワーズは先へ進むシンクには目もくれなかった。
「と言うか、やはり貴様ら3バカが出てくるか…。」
「バカなのか?」
「誰がバカですか⁉︎」
「バカって言う人がバカ…。」
「そうや、バーカバーカ‼︎」
確かにバカっぽい。
「貴様らの相手は色んな意味で頭が痛いが…。」
「同じ親衛隊同士、ここはこのノワール・ヴィノカカオが通せんぼ…!」
「同じくベール・ファーブルトン、エクレちゃん正々堂々勝負です!」
「まあ3対2やけどな!ジョーヌ・クラフティ、頑張るよー‼︎」
「親衛隊同士…俺無関係っぽいから見てるだけで良いか?」
「良いわけあるか⁉︎ちゃんとやれ‼︎」
すげー怒られたわ。
「全くどいつもこいつも!えぇい、ビスコッティ騎士団、親衛隊長エクレール・マルティノッジ!切り抜けて進ませてもらう‼︎」
「ま、異界の剣士、風巻悠莉!適度に全力でやらせてもらうか‼︎」
視点変更って難しいですね