艦隊これくしょん―影に生きる者達― リターンズ 作:Mk-Ⅳ
内容は以前のにほんの少し修正を加えた程度ですが、暖かい目で見てもらえると幸いです。
海――
全ての生命を育む母なる海は暗闇に包まれていた。
既に陽は落ち、月から照らされた僅かな光のみが降り注いでいた。
そんな海に一部である日本の北方領土付近の海域を、ある二つの集団が進んでいた。
深海棲艦――
10年前に突如として現れ、人類に牙を剥いた者達の総称である。
個体によって差異はあれど、共通していることは人と同じ大きさであるにも関わらず。人知を超えた力を持っていことである。
人類の抵抗をあざ笑うかの如く圧倒的な力の前に、瞬く間に人類は母なる海から駆逐されていった。
海によって深く繋がっていた人類は機能不全を起こし、滅亡の危機に瀕した。
輸出入に頼っていた国々は深刻な食糧難に見舞われ、不安や恐怖から民族・国家間での争いが世界各地で勃発していった。
さらにそれらの問題によって多くの難民が生まれ、更なる混乱を引き起こしていった。
その深海棲艦が目指しているのは、日本の北方領土防衛の要である第二作戦群司令部が存在する幌筵島基地である。万が一この地が陥落する様な事態となれば、日本本土への侵攻を許す事態へと陥るだろう。
既に基地の索敵範囲内まで侵入されていても、闇夜に紛れていることに加え、隠密性に特化した個体らで構成されているため、幌筵島基地では今だに敵が迫っていることを察知できていなかった。
侵攻艦隊の旗艦である『雷巡チ級』と呼称されている個体。その中でも、elite級と呼ばれる上位の力を持つ個体が、周囲を見回していた。
深海棲艦は高等種になるにつれ、外見が人間的になると言う特徴を持つ。チ級は下等種の中では最も人間に近い外見をしていると言えた。
敵の重要地への二つの水雷戦隊による強襲。今のところ、目論見通り敵に気取られることなく目標まで接近することができた。
後は敵の基地を襲撃し、混乱したところを自分達の後方に控えている本体が雪崩込む手はずとなっている。
そうなれば太平洋における戦いを有利に進められるだろう。
事態が予定通りに進んでいることに、チ級はほくそ笑んでいた。
ザシュ――
不意に、チ級の耳に何かを切り裂く様な音が後方から響いた。
不信に思ったチ級が視線を後ろへ向けると、その瞳が驚愕に染まった。
なぜなら単縦陣を組んでいた自分達の背後に、何者かが立っていたのだから。
その存在を一言で表すなら死神――
それは周囲の風景に溶け込みそうな漆黒の装甲を身にまとい、死神を連想させる姿をしていたのだ。
その死神の目の前には、最後尾にいた『駆逐イ級』が真っ二つとなって海面に浮かんでいた。死神の両手には大鎌が握られており、今まさにそれを振り下ろしたと見られる体勢を取っていた。
チ級は混乱していた。死神の容姿もさる事ながら、警戒を厳としていた筈の自分達に気取られること無く、どうやってこの死神は現れたのか。瞬間移動でもしたと言うのだろうか?
『死ぬわよぉ。私の姿を見た奴はみぃんなねぇ!』
スピーカ越しに死神が少女の声でそう叫ぶと。新たな獲物を求めるかの様に大鎌を構え直し、事態が飲み込めず唖然としていた最後尾から二列目にいたイ級へと、大鎌を振り下ろした。
僚艦が両断されるのを見て、ようやく正気に戻ったチ級が迎撃を命じようとした瞬間。後方から飛来してきた砲弾によって、チ級の頭部が吹き飛んだ。
深海棲艦の進行方向の遥か先に、深海棲艦を襲撃している死神と酷似した、漆黒の装甲を纏った一人の少女がいた。
海面に片膝を突き両手には、自身の身長を有に超えるサイズのアンチマテリアルライフルと似た形状のライフルを構えている。
頭部にはガンカメラが設置されており、それが目元を覆う様に展開されており、少女はガンカメラ越しにライフルのスコープを覗く。その姿はまさにスナイパーと呼ぶに相応しかった。
スコープの先には自身が放った砲弾によって、頭部が吹き飛ぶ雷巡チ級の姿が映し出されていた。
それを確認すると、少女は通信回線を開いた。
「こちらシャドウ2。目標を撃破」
『シャドウ1了解。後はあいつらで十分だ。お前はその場に留まり正規軍の動きを監視しろ』
「シャドウ2了解。警戒態勢に移行する」
通信相手である男性の声に返答すると、少女はその場で立ち上がり、自身に装備されている電探で周囲を警戒するのであった。
もう一つの水雷戦隊を率いていたチ級は困惑していた。
突然総旗艦が率いる艦隊のいる方角から、戦闘音が響いてきたからである。
機密保持のため無線封鎖しているため連絡が取れず、暗闇のため爆発音と砲撃によって生じる閃光しか確認することができなかった。
慌てて電探で索敵するも味方の反応しか映らないが、総旗艦であるチ級の反応は既に無く、総旗艦が率いていた僚艦の反応も次々と消えていっていた。
一体何が起きているのか分からず混乱しているチ級に、自身が従えているイ級から何者かが接近しているとの報告を受ける。
慌ててその方角を向くと、チ級はギョッとした。
なぜなら。機械のボディをした漆黒の虎が、月夜に照らされながらチ級達目掛けて突進してきていたのだから。
よく見るとその虎は機械でできており、猛烈な速度でもって海面を駆け抜けていた。
動揺しながらも僚艦へ迎撃を支持すると、イ級達が砲撃を開始する。
しかし虎は身体を左右に振りながら、速度を殺すことなく軽々と砲撃の弾幕を避けながら、距離を詰めてくる。
チ級も、自身の最大の武器である魚雷を、虎の進路を塞ぐ様にして発射する。
イ級の砲撃を避けつつ、魚雷を回避することは不可能と考えていたチ級の予想は、大きく裏切られこととなる。
虎は魚雷が当たる直前に海面を蹴り大きく跳躍したのだ。そして重力に従い落下していく。
チ級達目掛けて――
虎は、単縦陣を組んでいた艦隊中央に位置するイ級へと落下してくると。そのままイ級を押しつぶしてしまう。
押しつぶしたイ級を右前腕で押さえつけた虎は、口を開けると鋭く尖った牙で、イ級の頭部を紙を裂くように軽々と引き裂いた。
『ガァォォォオオオッ!!!』
イ級を引き裂いた虎は威嚇する様に、チ級らへと吠えた。
今まで体験のしたことのない事態に、恐慌状態に陥ったイ級達が蜘蛛の子を散らす様に逃げ始める。
チ級が必死に隊列を立て直そうとするも、既に手遅れであった。
逃げていくイ級達の足元から、突然水しぶきが上がると次々と爆散していく。
チ級はそれが魚雷によるものだと気づいた瞬間、足元から起きた衝撃に飲み込まれていった。
漆黒の虎に襲撃されている深海棲艦から、僅かに離れた位置に立っていた少女は、自身が放った魚雷で撃破されていく深海棲艦を、感情の読み取れない目で見つめていた。
彼女も他の少女らと同様に、漆黒の装甲を身に纏っていた。重厚な装甲の至る所に魚雷発射管が装備されており、左腕に増設バルジと一体化した大型ガトリングをグリップ越しに保持しており。さらに背中には30連装のロサ弾が二つ設置され、まるで要塞を思わせる形状をしていた。
「眠い…」
気怠そうに呟くと、少女の電探に一体のチ級がこの海域から離脱していくのを確認した。魚雷が直撃する前に回避行動を取られたのか、仕留め損なった様である。
そのことを気にしていないのか、少女は慌てることも無く通信回線を開いた。
「こちらシャドウ4。雷巡チ級1を仕留め損なった」
『こちらシャドウ1了解。俺が処理する。お前達は先に合流ポイントへ向かえ』
「シャドウ4了解」
男性の指示に返答すると、通信を聞いていた他の仲間も、それぞれに返答するのを確認した少女は、海域から離脱していくのであった。
からくも襲撃者から逃げ延びたチ級は、ほうほうの体で海面を走っていた。
咄嗟に回避行動を取ったことで、致命傷を避け魚雷の爆発に紛れて離脱できた。だが、身体中がズタボロとなり、特に右腕はちぎれ、青色の血が止めどなく流れ出ていた。
顔だけを後ろに向け安全を確認する。どうやた追撃はされていない様である。一安心し、いったんその場で立ち止まる。
だが、このままでは本隊と合流する前に力尽きてしまう。近くに無人の島でもあれば、身を隠して回復に専念できるのだが、電探も破損してしまったので、周囲の状況を探ることができない。
幸いまだ日が明けるまで時間があるので、この場で身体を休めるかとも考えるチ級。
チャプ――
不意に海面が揺れる音がし、ギョッとするチ級。追っ手かもしれないと周囲を見回すが、雲によって月が隠れてしまい何も見えない。
言い知れぬ恐怖に襲われ、今にも発狂しかねないまでにチ級は追い詰められていた。
『絶対に成功する』と、この作戦の指揮官にを言われていたのに、どうしてこうなったのか?一体何を間違えたのか?
絶望と後悔に駆られるチ級の耳に再び海面が揺れる音が響いた。それも先程よりも近かった、音のする方向が分かる程に。
音のした方を振り向くと、何者かの影がうっすらとだが見えた。その影が、一歩一歩とゆっくりとした足取りでチ級へと迫ってくる。それがチ級の恐怖心を煽っていく。
月を覆っていた雲が晴れていき、振り注ぐ光によって、徐々に影が照らし出されていく。
『遅かったではないか』
スピーカ越しの男の声と共に現れたのは。先程チ級達を襲撃した者達と同様に、漆黒の装甲に全身を包まれていたが、一回り大きな体格をしていた。
両肩から突き出ている、それぞれのアームに吊るされた二つ大型のバルジが特徴的だった。何よりも目を引くのは、右手に持っている、西洋の騎士が用いていたランスを思わせる形状の装備である。
何よりこの者から感じ取れる気配が、
だが、チ級は直感していた。目の前にいるのは、紛れもない敵であると。そして自分では逆立ちしても、どうにもならない程の力の差があることを――
「――――ッ!!!」
狂乱しながら左腕と一体化している発射管から魚雷を放とうとした瞬間――男はチ級の目の前にいた。まるで瞬間移動でもしたかの様に、一瞬で距離を詰めたのである。
チ級が反応する間も与えず、男が手にしていたランスがチ級の胸を貫いた。
男がランスの持ち手についているトリガーを引くと、ランスの刀身が展開されチ級の身体を抉り広げていく。
「――――ッ!!!」
あまりの激痛に悲鳴をあげるチ級を尻目に、展開された刀身から鍔と一体化している杭が露出する。
『撃ち抜く』
再度トリガーが引かれると、持ち手と一体化している回転式の弾倉が稼働すると、火薬が炸裂し杭が高速で撃ち出された。
抉り広げられた傷口から直接体内に撃ち込まれた杭は、その爆発的な破壊力を余すことなく発揮され、チ級の身体を粉々に粉砕した。
飛び散ったチ級の肉片を気にすることも無く、男は通信回線を開く。
『シャドウ1よりシャドウマムへ。目標を撃破』
『あーい、こちらシャドウマム。敵の反応消失。追加は無し。だけど正規軍の哨戒部隊が向かってきているな』
『了解だ。見つかる前に帰投するとしよう』
通信を終えた男はエンジンを吹かすと、その場から離脱していく。
後に残ったのは、海面に漂うチ級の残骸と静寂のみであった。