艦隊これくしょん―影に生きる者達― リターンズ   作:Mk-Ⅳ

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第十三話

横須賀基地の通路で壁に背を預けて立っている闘牙。

新型水上用自律型兵装のお披露目後の懇談会中、トイレに立ち寄った貴信を待っているのである。

 

「久しぶりだな闘牙」

 

そんな闘牙にある男性が話かけてきた。

国連海軍の軍服を纏っており、顔には老齢さを滲ませるシワがいくつも刻まれているが、その眼光は未だに衰えを見せない鋭さを持っていた。

中路章人中将――西部太平洋艦隊第一作戦群司令部の長を務める穏健派の重鎮である。

自身の本名を呼ばれたにも関わらず、闘牙には動揺した様子もなく。寧ろ親しい友人に久方ぶりに会ったかのような嬉しそうであった。

それもその筈彼は闘牙が正規軍に所属していた頃の上官であり、幾多の戦場を共に戦ってきた戦友(とも)言える関係なのだ。

そして特戦隊のことを把握している人物であり――闘牙自身の秘密も知っているからである。

 

「お久しぶりです中路大佐。失礼、今は中将でしたね」

 

にこやかな笑みを浮かべる中路中将に挨拶を返すと、自身の失言に気づき訂正する闘牙。

 

「いや構わんよ。それにお前は今は正規の軍属という訳ではないのだ。だから、そう畏まるな」

 

そういって笑う中路中将に敵いませんねと、観念したかのように肩をすくませる闘牙。

 

「元気そうでなによりだ。お前や配下の艦隊の活躍は風の噂で聞いているよ」

「そちらも先のネオ・ミッドウェー作戦では大活躍していたではありませんか。“人虎”の異名は健在ですね」

 

中路中将は先のネオ・ミッドウェー作戦での撤退戦の陣頭指揮を取り、絶望的な状況の中轟沈艦ゼロという快挙を成し遂げ、事態の収拾の立役者となっていた。

 

「それもお前達の支援があったからだ。例の新種がミッドウェーに現れていたらどれだけの犠牲が出ていたか…。本当に感謝している」

「頭を上げてください章人さん。我々はなすべきことをしただけですので」

 

深々と頭を下げる中路中将に、表情こそ変わっていないが恐縮している様子の闘牙。

 

「堅いところは相変わらずだな。だが、お前達のおかげで救われた命が多くあることは忘れんでくれ」

「我々は自分達の都合で戦っているだけです。礼を言われるような存在ではありませんよ」

「一先ずそういうことにしておこうか」

 

闘牙の性格をよく知っているので、これ以上は押し問答なるだろうと判断して一旦話題を切る中路中将。

 

「さて、話は変わるがお前に聞きたいことがあってな」

「なんでしょうか?」

「合田直樹中将を暗殺したのは、君達特戦隊か?」

 

その言葉に穏やかだった場の空気が凍りついた。

無表情でこそあるが、殺気を僅かながら滲ませている闘牙に、両手を挙げて敵意がないことを示す中路中将。

 

「安心しろお前さんらを裁くつもりは毛頭ない。ただ事実を知りたかっただけだ」

「……」

 

苦笑している中路中将に無言を貫く闘牙。それを答えとして受け取ったのか、彼は満足した様である。

 

「そうか合田中将は『彼』に逆らったのか…」

 

黙祷を捧げるように目を覆う中路中将。その姿はどこか羨ましがっているように闘牙には見えた。

 

「なあ、闘牙」

「はい」

「お前はいつまで生きれるかわからないと知った時、こういったな『ならば後悔を残さず、笑って死ねるよう生きていくまで』と」

「ええ」

 

人ならざる身になって保護され研究する中で、そういって優に『どんだけタフネスなハートしてんだよお前』と呆れられたことを思い出す闘牙

 

「その思いは今も変わりないか?」

「無論です。仮に今死んでも、あの世で先に行った人々に『どうだ俺は精一杯あんた達の分まで生きたぞ』と胸を張って言います」

「ふ、フフ…。アハハハハ!!」

 

闘牙がそういうと、突如腹を抱えて笑い出す中路中将。

 

「……」

「す、すまんすまん。馬鹿にしたつもりはないんだ。やはりお前は強いなと思ってな」

「強くなんかありませんよ。『彼女』すら守れなかった俺など」

「それでもお前は強いよ。私が知る誰よりもな」

 

不機嫌そうな様子の闘牙に笑顔で話す中路中将。

 

「礼を言うよ闘牙。おかげで私も前に進めそうだ」

「…章人さん、下手な(・・・)ことは考えない方がいい。できればあなたを手にかけたくはない」

 

中路中将の様子に何かを感じ取ったのか、元より険しい目つきを更に細めて忠告をする闘牙。

 

「承知しているよ。私も老い先短いとは言え、まだ死にたくないからな」

 

そういって笑うと闘牙に背を向ける中路中将。

 

「そろそろ古鷹――秘書艦が心配する頃なので失礼する。お前達の武運長久を祈っているよ」

「ええ、そちらも」

 

年齢を感じさせない確かな足取りで去っていく中路中将の背中を見つめる闘牙。

 

「章人さん。あなたは何をしようとしているんですか…?」

 

闘牙の疑問に答えは帰ってこなかった…。

 

 

 

 

「提督!」

 

闘牙と別れた中路中将に、1人の少女が慌てた様子で駆け寄りながら声をかけた。

古鷹型1番艦で中路中将の秘書艦を務める古鷹である。

 

「もう、急にいなくなってしまったのでビックリしちゃいましたよ!」

「ははは、すまんな古鷹。懐かしい友人がいたので昔話をしていたのだ」

 

謝罪も込めて古鷹の頭を撫でると、彼女は嬉しそうに目を細めた。

 

「友人、ですか?」

 

興味津々といった様子で見上げてくる古鷹。

中路中将とのつきあいは長く、彼の交友関係には詳しいと自負している古鷹。

だが、今回のお披露目会に出席している人物で、彼がここまで嬉しそうに話す人物には心当たりがなかった。

 

「どなたなんですか?」

 

父親のように慕う中路中将のことをもっと知りたいと、純粋な気持ちで聞く古鷹。

 

「『鬼』のように強く、誰よりも優しい男さ」

「はあ…?」

 

そういって笑う中路中将に、言葉の意味が理解できず古鷹は首を傾げるのであった。

 

 

 

 

「観艦式?」

 

夜刀神のリビングに備えつけられているキッチンで、エプロンを身につけ料理をしている松が首を傾げた。

 

「フィリピンにあるマニアで行われるスールースルタン国観艦式に、月刀航輝以下ウェーク艦隊の一部が参加する。俺達はその障害を排除する」

「つーるつるたんおーこく?」

「何それ?」

 

ボケをかます桃に梅がツッコミを入れる。

 

「つーるつるたん王国とは、つるたん王が…」

「乗らんでいい。乗らんでいい」

 

桃に便乗した闘牙に手を顔の前で振りながらツッコむ竹。

 

「むぅ…」

「いや、なんでそんな残念そうなんだよ…」

 

しょんぼり気味の闘牙に呆れた様子の優。

 

「スールースルタンってーのはつい最近フィリピンにできた国だ」

 

優がモニターにフィリピンの地図を映す。

 

「第7共和政権と国王制の再建を望む民族との内戦が、第三次大戦の頃から続いていてな。そこに深海棲艦が現れたことで一時休戦。3年前に状況が落ち着いたので再度内戦が勃発して膠着していたが、1か月前に事態は急変した」

「何があったのだおとーさん?」

 

ひと息ついてお茶を啜る優に続きが気になっている桃が急かす。

 

「第7共和政権側の海軍が国王制側に寝返ったのさ。そんで勝利した国王制側が建国したのがスールースルタンだ」

 

言い終わると後は任せたと視線で訴える優に闘牙が頷いた。

 

「スールースルタン国政府を正当なフィリピンの政府として認めるように国連に要求したのが3週間前。国連議会がそれを承認したので、それを記念して内戦で先延ばしにしていた国王の即位式を執り行う運びとなった。ここまでは理解できるか桃?」

「つまり『俺達つーるつるたんおーこくがふぃりぴんで1番偉いのだ!』って自慢するなりね!」

「まあ、そんなもんだ」

 

桃の理解力ならこんなもんだろうと納得して話を進める闘牙。

 

「そのことをハッキリと示すために、国連軍の象徴とも言える艦娘を参加させる訳だ」

「で、それにあたし達が関わる理由は?」

 

新しい棒キャンディーの包装を剥がしながら、竹が面倒臭そうな顔をする。

 

「これ」

 

梅が手にしていた端末を操作するとモニターに、文章と見られる文字の羅列が映し出される。

 

「ナメック語?」

 

見知らぬ言語に?マークを大量に浮かべて首を傾げる桃。

 

「タガログ語。訳すとこうなる」

 

梅が端末を操作するとタガログ語が日本語に変わっていく。

 

 

 

 

『第7共和政権こそ正統なフィリピンの指導者であることを信じ、民主的なフィリピンを奪ったマジャハル・キレムⅦ世を我々は認めない。王たる位につくことを我々は認めない。武力でしか国を治められない王国を我々は認めない。即位式典などという茶番劇を始める前に母なるフィリピンの島々を解放しなければ、我々は武器をとり、その不正に立ち向かわねばならない。我々は民主主義の正義に則り、この母国の未来をきりひらかねばならない。我々“コモンズ”はスールースルタン国を認めない。即位式典などという茶番を始める前にマニラから撤退せよ、さもなくば公衆の面前で独裁者の首を落とすことをここに宣言する』

 

 

 

 

「犯行声明よねこれ?」

「第7共和政権の残党が送りつけてきた声明だ。スールースルタン国が正統政府になることがほぼ決定したとはいえ、内戦はまだ終わっていない」

「つまり観艦式が戦場になると…」

「十中八九な」

 

ヤレヤレといった感じで溜息をつく闘牙。

 

「正規の艦娘に対人戦をやらせるってのお偉いさんは?」

 

水上用自律型兵装は対深海棲艦用兵器であり、対人戦闘に使用されるのは非常事態を除き条約で固く禁止されているのである。

最も実際は特戦隊のように非公式に投入されているのではあるが。

 

「ああ。フィリピンは鉄やニッケルの宝庫で、その鉱山のほとんどをスールースルタン国政府の勢力地域にある。鋼材を安定的に得たいのさ上層部は。だからさっさと内戦を終わらせる腹づもりなのさ」

 

スールースルタンは国連に正式に認められることで、内戦を早期に終結させたい。

国連はその見返りとして、鉄鉱石等の資源をスールースルタンに提供させる。

両者の利害が一致した結果、国王の即位式を強行することとなったのだ。

 

「第7共和政権だけならば問題ないのだが、今回の件に『ライニグングパーソン(浄化する者)』が絡んでくることだ」

 

ライニグングパーソン

元は環境保護団体であったが、次第に活動が過激化していき、やがて『青き清浄なる世界に』をスローガンに、世界規模で爆破テロ等を引き起こすようになっていった組織である。

そして深海棲艦が現れると、『母なる星を汚し続ける人類を粛清するために地球が遣わした使者』と崇拝するようになり、現在はそれを排除しようとする国連軍を中心にテロ活動を行っている。

その関係で特戦隊も幾度となく交戦したことがある相手なのである。

 

「奴らも声明を出していてな。第7共和政権に便乗して観艦式を襲撃するようだ」

「国連軍が絡むことにやたら首を突っ込んでくるからなあいつら。それに無駄に力あるからタチが悪い」

 

ライニグングパーソンは国連軍に反発している国家や組織から支援を受けており。並みのテロ組織とは比較にならない、それこそ軍隊に匹敵しかねない程の戦力を保有しているのである。

 

「恐らく水上戦術歩兵が出てくるだろう。そうなると正規軍の艦娘だと対応が難しくなる」

 

ライニグングパーソンには、艦娘を採用した国連軍に不満を持ち軍を抜けた水上戦術歩兵隊所属者が多く参加しているのである。

 

「第7共和政権だけならば、出てくるのはせいぜい的の大きい魚雷艇程度だろう。それならば手加減のしようがあるが、水歩兵だとそうもいかん」

 

魚雷艇ならば人を傷つけずに無力化できるが、人間サイズの水歩兵だとそうはいかなくなる。

何より、死闘という言葉すら生温い深海棲艦との戦いを生き残った猛者ばかりである水歩兵が相手では、性能が勝る艦娘といえど苦戦は免れないだろう。

 

「人を撃つことに慣れていない正規軍の艦娘では、必ず水歩兵相手に苦戦を強いられる。なので今回の俺達の任務は観覧式の前までにライニグングパーソンを叩くことだ」

「内容はわかったけど、獲物のデータはあるの?」

「あるよ」

 

竹の問いに、優があるデータをモニターに表示する。

 

天崎光(あまさきこう)元極東方面隊水上戦術歩兵隊に所属していた男で、『雷光』の二つ名で呼ばれていたそうだ。軍を去ってからはライニグングパーソンに所属している。最近この男含めた組織の構成員がフィリピンに入っているのが確認されている」

「二つ名があるってことは闘牙と同じくエースだったんだよね。そんな人がどうしてテロ組織に?」

「あの男は正義感に溢れていたからな。お前達艦娘を戦わせて、自分達水歩兵を除け者にした世界が許せないのだろう」

 

松の言葉に闘牙がどこか懐かしんでいるような口調で話す。

 

「…もしかして知り合い?」

「ああ、士官学校の同期で友と呼べる男だ。戦場で背中を預け合うことも少なくなかった」

 

闘牙がそういうと気まずそうな顔をする他の面々。

つまり今度の任務は友を殺せと言われているも同然なのであるからだ。

 

「心配するな。この道を選んだ時から覚悟していたことだ。どのような結果になろうとも後悔はせん」

 

他の者達の不安を感じさせないように、闘牙は迷いなく告げるのであった。

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