艦隊これくしょん―影に生きる者達― リターンズ 作:Mk-Ⅳ
闇夜に染まる海を、男はパワードスーツと呼べる機械仕掛けの鎧を、身に纏い駆けていた。己が帰るべき場所へと向かって。
島影さえ見えない闇の中を、スーツのエンジンから聞こえるタービン音をBGMに、男は突き進んでいく。いくばくかの時が過ぎると、視界に山の様な影が映りんできた。
機体のバイザーに搭載された暗視機能によって、男にはその姿がはっきりと見えていた。どうやら視界に入ってきたのは船の様だが、100メートルは優にあろう船体と、先鋭されたフォルムから軍艦と見るべきだろう。
男は迷うことなくその艦に近づいていく。そう、この艦『
「シャドウ1よりシャドウ・マムへ。間もなく合流する着艦用意を」
『こちらシャドウ・マム了解しました。皆さんも先程到着されたばかりです』
艦へと通信を開くと、先ほどの男とは違うどこか機械的な少女の声が返ってきた。男にはそれが誰なのか分かりきっていたので、問題なく艦へと近づく。
艦の側面へと回り込むと、側面の一部がシャッターの様に開いていき、上昇用のエレベーターが姿を現す。
男がエレベーターに乗り込むと、ゆっくりと上昇を始め、やがて停止すると格納庫へのゲートが開いていく。
格納庫へと歩を進めていき、01と表記されたハンガーへと機体を収めると、装甲を開放し機体から降りる。02~05と表記された隣のハンガーには、男の物に似た形状の機体がそれぞれ鎮座していた。
出てきたのは180はあろう長身で、黒色の身体に密着するタイプのアンダーウェアを着た、鋭い眼光をした任侠映画にでも出てきそうな凄みを帯びており。黒髪のショートヘアで、金色の瞳が特徴的な男であった。
名は
「おかえりなさい闘牙」
降りてきた闘牙に一人の女性が話しかけてきた。腰まで伸びた赤い髪をストレートにしており、身長は成人女性の平均で、グラビアアイドル顔負けのボディラインをしていた。
一見すればどこにでもいる普通の女性だが、彼女は人間では無いのだ。
――水上用自律駆動兵装
人類が深海棲艦に対抗するために生み出した兵器。
かつての大戦で活躍した艦艇の記憶を義体の身体に宿し、艤装を身に纏うことで人を遥かに超えた力を発揮することができる存在。
限りなく人間に近くも異なる存在。それが彼女の正体である。
艦の力を宿す娘として、『艦娘』と呼ばれることもある。
数ある艦娘の中の、松型駆逐艦一番艦DD-MT01『松』それが彼女の名前である。
ちなみに松型駆逐艦は、世界で最初に開発された水上用自律駆動兵装のプロトタイプのため、『始まりの艦娘』と呼ばれることもある。
なぜ当時の大戦で活躍した艦艇の中で、後期に建造された松型駆逐艦がプロトタイプに選ばれたのかと言うと。元々松型駆逐艦は量産性を重視していたためか、他の艦艇に比べて記憶の呼び込みが容易だったからである。
松が手にしていたボトルを闘牙に差し出す。それを受け取った闘牙がストロー越しに口にすると、程よい温さのスポーツドリンクが喉を潤した。
ちなみに松も闘牙と同じスーツを着ている。そのため身体のラインがくっきりと見えているので、男にはかなり目の毒だが、5年は見続けている闘牙が気にすることは無い。
何より二人は恋仲なので、今更そう言ったことを気にする必要が無いのであるが。
「そちらの損害は?」
「各艦損害無しだよ」
「そうか」
松の報告に無機質に答える闘牙。一見興味が無いかの様に映るが、闘牙が基本感情を表に出すことは少ないも、内心では部下が無事であることを喜んでいることを松は知っている。
不器用な恋人に思わず微笑んでいると、闘牙が訝しそうに松を見る。
「どうした?」
「ううん。なんでもないよ」
松がなぜ嬉しそうに笑っているのか分からず、疑問符を浮かべている闘牙。そんま彼目掛けて、突進して来る影があった。
「おにーちゃーん!」
「む?」
少女が勢いを殺さず闘牙の腹部へと抱きついた。いや、抱きつくと言うよりタックルでしかない一撃を、闘牙は難なく受け止めた。
「おかえり~」
「ああ、ただいま」
抱きついている少女は、松型駆逐艦四番艦DD-MT04『桃』。桃色のショートカットにアンテナの様に伸びたアホ毛しており、体格は小学生程度と小柄である。しかし、身体つきは松と同じく豊満であった。
無邪気にじゃれついている桃の頭を優しく撫でる闘牙。
「ふにゃ~」
すると桃がまるで猫みたいに気持ちよさそうに鳴いた。
「お、おかえり~闘牙」
「おかえりなさい」
桃の後を追う様に、二人の女性と少女が現れた。
一人は肩まで伸びた緑色の髪をポニーテールにしており、身長は170cmと女性にしては長身である。なお身体つきは松や桃と比べると、とても悲しいことになる。松型駆逐艦二番艦DD-MT02『竹』。
もう一人は肩まで伸びた銀髪をサイドテールにしており、身長は松より少し低く、メガネをかけている。体つきは平均的である。松型駆逐艦三番艦DD-MT03『梅』。である
「ただいま。みな急な出撃ご苦労だったな」
「ホンっとよく気がつけたわよねぇ。ヤトさまさまだわ」
「私は己の責務を果たしただけです」
夜間に緊急出撃したためか、竹があくびをしながら言うと、松達とは違う声が聞こえる。
闘牙らが声のした方に視線を向ける。視線の先には、腰まで伸ばしたハワイアンブルーの髪を、ストレートにした中学生程と見られる、黒に染まったメイド服を着た少女が立っていた。
彼女の名は『夜刀神』。この艦を統括する超高性能AIである。艦自体が彼女の肉体と言えるが、『人と同じ様な生活をして欲しい』と言う製作者の以降によって、人と同じ姿をじた義体が与えられている。『ヤト』と言うのは彼女の愛称である。
今回隠密性に特化した敵の襲撃を察知できたのは、彼女の高度な情報処理能力による索敵網のおかげであった。
「お~ヤト~。おねいちゃん帰ってきたよ~」
闘牙に抱きついてた桃が、今度はヤトに抱きついた。
ヤトのAIは松型姉妹の電脳を元にしているので、姉妹とも言えなくもないのだ。
そのため艦娘となってから末っ子であった桃は、ヤトのことを妹として可愛がっているのである。
ちなみにヤトが着ているメイド服は、桃が似合いそうと着せたのをヤトが気に入った様で、それ以降愛用し続けているのだ。
「放して下さい桃さん」
「やだー!おねいちゃんって言ってくれなきゃやだー!」
首をブンブンと横に振りながらダダをこねる桃。そんな桃をやれやれと言った感じで、溜息を吐きながらヤトが口を開いた。
「いい加減放してくれないと。嫌いになりますよ?」
「にゃー!?そんなのやじゃ~!許して~!!」
「……」
「そっぽ向かないでよおおおおおお!?」
涙目になりながら謝る桃。対するヤトはツーンとそっぽを向かれてしまい、本気で泣きそうになっている。単にヤトが桃をからかっているだけであるのだが。
桃が慌てて目線で闘牙らに助けを求めるが、単にヤトが桃をからかっているだけであるのが分かっているので、微笑みを返すだけであった。
『裏切り者!!!』と言った顔をする桃。彼らにとって、最早ここまでがテンプレと言える流れとなっていた。
「おらお前ら。そろそろ桃で遊ぶのはやめてやれ」
そう言って格納庫の奥から作業着を着崩しており。茶色がかった髪を、まるでウニの様に固めた男が姿を見せた。
「ふええええおとーさ~ん!皆がいじめるよ~!!」
桃が現れた男に飛びつき、腹部に顔を埋めて泣き始めた。男はそんな桃の頭を優しく撫でながらあやす。
「たくっ。いつもあやす俺の身にもなれってんだよ闘牙」
「いや、どうにも面白くてな。それに『娘』の面倒を見るのも『父親』の勤めだぞ優」
闘牙とは幼少の頃からの幼馴染であり、互いに兄弟と呼べる関係となっている。
25年前、若干10歳と言う若さで、第一世代の電脳の基礎理論を独自に構築したことで、電脳分野の発展に著しい貢献をし、『天才』の名を欲しいままにした男である。
そして水上用自律駆動兵装――艦娘の開発に深く関わり、『艦娘の生みの親』とさえ呼ばれている。
自らが生み出した松型姉妹を実の娘同然に接し、姉妹からも父として慕われているのだ。
「闘牙さん。潜航準備が完了しました」
「よろしい。では、潜航開始せよ」
「了解。潜航開始します」
ヤトの言葉と同時に艦全体が軽く揺れだした。実は彼らが乗船している夜刀神は、ただの軍艦ではなく潜水艦なのである。
優が生み出したAI『夜刀神』を始め。数々の新技術を、惜しみなく投入されたことにより。従来の潜水艦を凌駕した性能を持った最新鋭艦となっている。
「ほらお前らメンテナンスすっから、さっさとメディカルルームに行けや」
「ああ、そうだな。行くぞお前達」
優の言葉に素直に従うと、闘牙達は移動を始めるのであった。
艦内に設置されたメディカルルーム。その中心部に柱状のメンテナンス用機器が設置され、それを囲む様にポッドが5つあり、それぞれに闘牙と松型姉妹が横になって眠っている。
そして部屋の隅に置かれたコンピュータを使って、優がメディカルチェックを行っていた。
まさに目にもとまらぬ速さで液晶式のキーボードを打ち込んでいくと、複数のモニターに目が回りそうな速度で文字が流れていく。
見る必要は無い。彼のうなじから伸びたコードの先端にあるQRSプラグが、デスクのジャックに差し込まれており、コンピュータと直接繋った電脳に情報が流れてくるからだ。
さらに優が座っている場所の天井には、複数のマニピュレーターが吊るされている。それらも全て用いて自身を囲む様に配置されているキーボードをも打ち込んでいるのだ。
彼が行っているのは、一人でいくつもの人形を同時に操り、なおかつ一切の狂い無く劇をしているのと同じことなのである。
それに加え、常人なら発狂してもおかしくはない情報量を処理をしながらである。最新鋭のAIであるヤトの支援を受けているとは言え、常人なら発狂していることを難なく行っている。これが彼が『天才』と呼ばれる所以の一つである。
「うっし。終わりっと」
そう言って優がエンターキーを押すと、闘牙達が眠っているポッドが開放されていく。
「ご苦労だったな優」
「別に。これくらいどうってことねえよ」
目を覚まし起き上がってきた闘牙が労いの言葉をかけると、平然とした様子で答える優。
闘牙は諸事情により入念に検査せねばならず。さらに松型姉妹は特殊な改修を受けている関係で、従来の艦娘より整備性が悪くなっているため。本来は検査だけでも下手をすれば半日はかかる作業を、たったの一時間で済ませてしまったのだ。
「おい桃。終わったから起きろこら!」
「うにゅ…。後3年…」
「長いわ!起きんかワレェェェェェェェェェェ!!!」
今だに眠っている桃の肩を掴んで激しく揺する竹。桃の寝起きが悪いのはいつものことであり、何かと竹が面倒を見ているのである。
「新刊書いてるの梅?」
「うん」
松が起き上がって早々に、手持ち式の端末に文字を書き込んでいる梅に話しかける。梅は自分達の活動を元にした小説『無双鬼神伝』をネットに掲載しており、かなりのヒット作となっているのである。
そんな日常の光景に僅かにだが笑みを浮かべる闘牙。決して陽の当たる世界では、生きることができなくなった自分に着いて来てくれた彼女達。その笑顔を守ることこそが彼が戦う理由なのだ。
そうこうしていると、部屋のドアが開きヤトが入ってきた。
「闘牙さん。『H』様からの緊急入電です」
「『奴』からだと?読んでくれ」
「はい。『燕を放つ。用意されたし』以上です」
「お、いよいよかい」
「の、ようだな」
優と闘牙には内容が理解できている様だが。松型姉妹は頭の上に疑問符を浮かべていた。
「闘牙。新しい任務?」
「ああ、そうだ松。今度のは長くなるぞ。補給と整備に戻る。ヤト横須賀へ進路を取れ」
「了解しました」
ヤトの操作によって、光の届かない海底を進む夜刀神。彼らの決して語られることの無い、新たな戦いが幕を開け様としていた。