艦隊これくしょん―影に生きる者達― リターンズ 作:Mk-Ⅳ
ファンの方は気分を悪くされる内容なので、先に謝っておきます。ごめんなさい。
横須賀――
ハワイ以西の太平洋とその付属海を管轄とする、国連海軍極東方面隊の総司令部が置かれている地である。
その地に本社を置く企業の一つである『有澤重工』。兵器関連を扱うが、規模は決して大いとは言えない。従来の兵器を扱っているが。堅実な設計と拡張性の高い製品に定評があり、優れた技術力を持って、長きに渡って日本の軍事産業を支えている企業である。
――のだが、その技術力を遺憾無く発揮し過ぎてしまい『長時間の背面飛行を可能とするヘリ』や、『かつてドイツで生み出された80cm列車砲の発展型』と言った、非常識極まりない物まで生み出してしまうことが多い企業として『頑張りすぎる有澤』としても有名である。
特に現社長が就任してからは、『自分達の好きな物を作ればいい』と言う経営理念に大幅転換。電化、自動車、パソコンと言った様々な工業分野に進出する様になったのである。
そんな有澤重工の地下に存在する秘密ドックに、潜水艦夜刀神が入港していく。
船体を固定するとドック内で排水が行われる。排水が完了すると、作業員達がドック内に入っていき作業を開始していく。
「ハラショォオオオオオオオ!!!」
「溶接カーニバルです。派手に行きましょう」
「バーナーがイカレただと!認めん、認められるか、こんなこと…」
「手こずっているようだな、手を貸そう」
「新しいのを持っていく。持ちこたえてくれ」
「仲間はずれはよくないなぁ。オレも入れてくれないと」
「主任!?何をする気ですか!?」
「聞こえるか、こちらへ資材を運んでくれ」
「手間をかけさせるなよ」
有澤重工――来る者は拒まずの姿勢と、その経営理念から独特の感性を持つが故に、他の企業に馴染めない変わり者達が次々と集まるため。同業者達からは『変人が集う企業』と、いつからか言われる様になっていた。
「着いたぞー!!」
いの一番に桃がタラップを駆け下りて下船していく。その後を他の面々がゆっくりと続いていく。
ちなみに闘牙は黒く染めた海兵隊の制服を、松型姉妹は黒色のセーラー服を身に纏っている。なお、優は作業着でヤトはメイド服のままである。
「元気ねぇ。あの馬鹿…」
「それがあいつの強みだ。そしてそれに俺達は助けられてきた、だろ?」
「そうだけどね」
どんな時でも笑顔を忘れない。そんな桃の明るさに、これまで幾度となく闘牙達は救われてきたのだ。
そんな話をしていると、作業員に混じってスーツを着こなした男女がドックに入ってきた。
「やあやあ、皆おかえり。よく帰ってきてくれたね」
男の方が歓迎する様に両手を広げてきた。それに真っ先に反応した桃が駆け寄っていく。
「貴信おじさ~~~ん!!!」
「も~もく~~~ん!!!」
感動の再会をする様に抱き合うと、メリーゴーランドよろしく回り始める両者。
「皆さんおかえりなさい。長期任務お疲れ様でした。」
桃と共に回っている男の隣に控えていた女性が、にこやかに闘牙達に話しかけた。
「うっす
優が手を軽くあげながら挨拶をする。
桃と共に回っている温厚な見た目で、どこにでもいそうな男の名は、
そして隣に控えている腰まで伸ばした黒色の髪をポニーテールに編み込んでいる女性は、
「どうも、恵子さんお元気そうで何よりです」
「はい。闘牙君もお元気そうで安心しました」
闘牙が挨拶すると柔らかな笑みを浮かべる恵子。闘牙にとって貴信と共に幼少の頃から付き合いのある彼女は、姉とも言える存在なのである。
「お久しぶりです貴明さん、恵子さん」
松が挨拶すると竹や梅もそれぞれ挨拶をする。ちなみに貴信と桃は今だに回っていた。
「松ちゃん達もおかえりなさい。ゆっくり休んでいって下さいね。ほら社長、仕事をして下さい」
「ああ、そうだね。うえっぷ気持ち悪い…」
「目がクラクラする~」
「「それだけ(そんだけ)回れば当たり前です(当たり前だ)」」
回るのをやめた貴信と桃がそれぞれ顔色を悪くしたり、目を回しているのに、的確にツッコミを入れる恵子と竹。
「そんじゃ、そろそろ作業に入ろうかね。兄貴施設借りるぜ」
「うん、必要な物があれば言ってね…。すぐに用意するから…。おぷっ…」
優は、松達を連れて艦娘専用のドックに向かっていった。ちなみに、まだ目を回してフラフラしていた桃は、竹に脇に抱えられて連れられていった。
「あー気持ち悪い。年甲斐もなくはしゃぎ過ぎてしまったよ…」
「いえ、年齢関係なくあれだけ回れば当然の結果かと」
「あなたがしょうもないことをやらかすのは、いつものことですが」
「恵子さん。もう少し私に優しくしてくれてもいいんですよ?」
「嫌です」
デスヨネーと涙目になる貴信。しかし、どことなく喜んでいる様にも見えた。
「さて、それじゃ真面目に働こうかね」
「最初からそうして下さい」
恵子が冷ややかな目でツッコミを入れるが、はははと笑って誤魔化す貴信。
「さて、実は今日。横須賀で行われる演習を見学しに行くことになっていてね」
「横須賀の演習をですか?」
闘牙が怪訝そうな声をあげた。貴信がこう言う話をする時は、大抵ろくなことが起きないのだ。
「そう。各企業の代表を招いてのね。デモンストレーションさ」
「なる程。ご機嫌取りですか」
組織と言うのは支援者がいて始めて成り立つ。それは軍とて例外ではない。故に、少しでも自分達のことをアピールしておきたいのだろう。
「それで、君に護衛として着いて来てもらいたいんだ」
「それなら専門の者達がいるでしょう。わざわざ自分を連れて行く必要は無いでしょう」
闘牙の知る限り、有澤が抱える警備部門のレベルは他と比べても抜きん出ている。余程のことがない限り彼らで対処可能な筈である。
「最近は何かと物騒でねぇ。念のためだよ」
「まあ、構いませんが」
どうせ松達のオーバーホールが完了するまで、やることも無いため了承する闘牙であった。
「…貴信さん」
「ん?なんだい闘牙君?」
「いえ。なんで歩いて移動しているんでしょうかねぇ?」
現在闘牙は貴信と国連海軍横須賀基地に向かっていた。
ちなみに闘牙はボディーガード用のスーツに着替え、正体を隠すためにバイザーを装着している。
「なんでって。散歩しながら行きたいからだよ。最近運動不足気味でね」
「車を使って下さい。危険過ぎるでしょう。ただでさえ敵が多いんですからあなたは」
貴信は水上用自律駆動兵装の配備が決定された際に、『年端もいかない少女達だけを、矢面に立たせる方法で世界を守って良いのか?』として導入に強く反対したのだ。
そして、志を同じくする企業らと共同で、水上用自律駆動兵装以外の対深海棲艦用兵器の開発を行っていたが。水上用自律駆動兵装推奨派との対立が強まっていき、最終的には水上用自律駆動兵装の有用性を受けた世論の流れと、不要な争いを避けたい貴信の意向もあり断念した過去があった。
水上用自律駆動兵装が対深海棲艦戦の主流となった現在でも、その姿勢は変えておらず。水上用自律駆動兵装を推奨している大企業とは距離を置き、独自の路線を貫いているのだ。そのため様々な勢力から反発を受けることとなっている。
とは言うものの。水上用自律駆動兵装の必要性は理解しているので、水上用自律駆動兵装用の一部の部品の受注は受ける方針を取っている。有澤でしか製作できない部品もあるので、水上用自律駆動兵装推奨派としても余り無下にできない存在なのである。
「おかげでゆっくりと外出もできやしない。世知辛い世の中だよ。ま、今回は君がいてくれたから、こうして出歩けるんだけどね」
「過信し過ぎです。何かあったらどうするんですか?現につけられてますよ」
「そうだねぇ」
闘牙が警告すると、なんでもないかの様に呑気に返す貴信。
本社を出てから何者かに尾行されているが、貴信にとって日常茶飯事なことなのである。
「潰しますか?」
『コンビニに買い出しに行きましょうか?』と言った感じで、物騒なことを口にする闘牙。
「可哀想だからやめてあげて。君の相手なんかしたら彼らにトラウマを植え付けちゃうから…」
「失敬な。自分をなんだと思っているのですか?」
「海兵隊時代敵地で孤立した際、一人で小規模とは言え、基地を壊滅させたりしたことのある『リアルランボー』、または『リアル異能生存体』」
「あれは敵が間抜け過ぎただけです。夜に停電させてから通信設備を潰して、同士打ちさせた程度のことです。運がよかっただけですよ」
「運も実力の内って言うけど。そう言う謙虚なところは好きなんだけどねぇ」
昔から自分のことを過小評価する闘牙に、軽く溜息をつくする貴信。幼い頃から付き合いのある身としては、もっと胸を張って生きてもいいと考えていた。
「とにかく問題じゃないから、放っておいていいよ」
「あなたがそう言うなら構いませんが」
「それはそうと。最近、面白ことがあってね」
「ほう」
そんなたわいのない会話をしながら、両者は目的地を目指すのであった。
「やあやあ、月刀中佐。元気そうで何よりだよ」
「有澤社長もお元気そうで何よりです」
横須賀基地に到着した闘牙は、貴信と握手をしている士官に眉を潜めていた。
士官の名は月刀航暉。階級は中佐で、国連海軍横須賀基地所属の、第522戦隊の司令官補佐を勤めている男である。
闘牙はこの男のことをよく知っていた。
「紹介するよ中佐。こちらにいる彼は
「水上戦術歩兵隊、ですか」
水上戦術歩兵――
深海棲艦に対抗するために、国連軍が創設した通称水歩兵と呼ばれる兵科である。
元々は各国の海兵隊が上陸作戦の際、兵士をボートや車両といった輸送機に乗せることなく、直接上陸させるための装備として開発させた物を雛形としている。
参加者は全身義体である者のみで構成されており。背中と脚部に大型のファンを装備することで、海上を移動することを可能とした部隊である。
だが、武装は歩兵の物を僅かに改良して流用しただけであり、軍艦と同等の強度を誇る深海棲艦を倒すためには、敵の砲撃を回避しながら近距離まで近づかねばならなかった。そのため多数の死傷者を生み出す、『死の部隊』とも呼ばれていた。
水上用自律駆動兵装が登場するまでの間戦線を支え続け、水上用自律駆動兵装配備後は解体されている。
ちなみに天道勇とは闘牙の偽名である。闘牙は書類上戦死したこととなっているので、人前に出る際は正体を隠さねばならないのだ。
「そう。かなり腕が立つから、こう言う時に頼りにさせてもらっているんだ。ああ、彼は目が悪くてね。補助のためにバイザーをしているんだ。そこは許してあげてくれ。勇君彼は月刀航暉中佐。今回の演習で指揮を執るんだ」
「自分は、仲間の死体に隠れて逃げ惑っていただけの腰抜けですよ。始めまして中佐。どうかお見知りおきを」
「こちらこそ」
握手をすると、何かを感じたのか眉を潜める航暉。
「どうかしましたか中佐?」
「いえ、なんでもありません。失礼をしました」
「(俺に違和感を感じたか。なる程…鋭いな)」
本能的に自分のことを警戒した航暉を、心の中で評価する闘牙。同時に、自分の正体がばれない様にこちらも警戒すべきと判断した。
「勇君。月刀中佐は
「ほう。あの生ける伝説の」
闘牙としては既に知っていることではあるが。そのことを話す訳にはいかないので、知らないふりをする。
黒烏――
国連海軍大学広島校の第5期生は、『異常豊作』と言われる程の優秀な士官候補生が集まり、その中でも固定だった上位5名の総称である。
「伝説だなんて…。そんな大したものではありませんよ」
「そんなことはないさ。君達がいなければ、今頃日本は滅んでいたかもしれないんだからさ」
謙遜している航暉をやたら褒め称える貴信。いつもより、やけにテンションが高いなと闘牙は思った。
「えらく彼を気に入っているのですね社長」
「ふふ、実は私は彼のファンなのだよ。何か、この世界を変える様なことをしてくれそうだからね!」
「は、はぁ…」
引かれてるぞ社長とツッコミたかったが、可哀想なのでやめておく闘牙。
「おっと、そろそろ時間だね。それでは演習期待しているよ」
そう言って闘牙を連れて行く貴信。航暉は闘牙の背中を見つめていた。
「(手を握った時感じた背筋の凍る感覚。あれは一体…)」
結局、航暉は闘牙から感じ取った違和感正体を知ることはできなかった。
貴信と闘牙は観戦用のモニターが設置された部屋で、他に招待された企業の代表らと演習を観戦していた。
「金剛型同士による演習ですか」
そう呟く闘牙の視線の先のモニターには、第522戦隊の司令官が率いる比叡・霧島と、月刀航暉率いる金剛・榛名による演習が繰り広げられていた。
「やっぱ戦艦が一番華があるからね。今
「確かに」
そんな話をしている間にも戦況は動いていく。比叡と分断された霧島が金剛と榛名からの集中砲火を浴びていた。
「分断からの各個撃破。戦の常套手段だよね」
「ええ。最善だからこそ読まれやすいのですがね」
最善の方法であるからこそ警戒されやすい。故に簡単にできることではないのである。
「522の司令官も悪くは無いけど…」
「月刀航暉の方が何枚も上手ですね」
霧島が大破判定で行動不能となると、金剛と榛名が残った比叡に襲いかかった。
「決まりだねぇ」
「そうですね」
大した反撃もできずに比叡も大破判定を受け演習が幕を閉じた。
「大方の予想通りの結果、か」
「……」
貴信の問いかけに答えることなくモニターを眺める闘牙の目は、どこか冷めていた。
「いやはや流石だね月刀中佐。実に鮮やかな手並みだったよ!」
「きょ、恐縮です有澤社長」
演習後、ホテルで開かれた会食にて再び航暉を褒め称えている貴信。テンションが高すぎて相手には引かれているが…。
「ところでさ中佐」
「はい」
「君かなり部下との同調率を高めてるみたいだけど、それってかなり危険なんだよね」
「…確かに推奨はされておりません」
水上用自律駆動兵装との同調率を高めると言うことは、その者との感覚を共有することを意味している。
仮に同調した相手が被弾した場合、その痛みがダイレクトに返ってくるので、その衝撃に耐えられず死亡してしまう事例が少なくないのだ。
「ですが、部下を生還させることが指揮官の責務です。そのためにも必要なことだと自分は考えています」
「なる程。勇君、水上戦術歩兵も水上用自律駆動兵装と同じ指揮システムだったよね」
「ええ。水上用自律駆動兵装は水上戦術歩兵のシステムを流用している場合が多いですね。指揮システムもその一つです」
深海棲艦の脅威を前に、早急な水上用自律駆動兵装の配備を迫られた国連軍は、共通部分の多い水上戦術歩兵のシステムを流用させたのである。
「君からみて月刀中佐のやり方をどう思うんだい?」
「…自分は他人のやり方に、口を挟めるような人間ではありませんので」
「まあまあ、先人から後人へのアドバイスも大切だと私は思うよ」
できれば月刀航暉と関わりたくないのだが、何か狙いがあるのか逃がしてくれない様である。
「しいて言わせて頂けるのなら、自殺志願者ですね」
「……」
闘牙の言葉に航暉の目つきが鋭くなった。
「先程、部下を生還させることが指揮官の責務とおっしゃられましたが。そのために真っ先に指揮官が戦死する様な指揮を取っていては本末転倒かと」
「私は死ぬつもりはありません。必ず部下と共に生還してみせます」
「自分が現役だった頃、そう言っていた指揮官が真っ先に戦死。そして混乱し全滅した部隊を多く見てきました。中佐はその指揮官によく似ていらっしゃる」
険悪な雰囲気を醸し出す両者。そんな中でも、貴信は笑みを崩さず見守っていた。
「ヘイ!そこのアナタ!黙って聞いていれば好き勝手言ってくれますね!」
そんな重苦しい空気を吹き飛ばす様な、明るい少女の声が響き渡った。
「金剛…」
巫女服が原型であろう袖が別れた千早に、チャコールグレーのミニスカートを纏った。どこか異国さを感じさせる少女が闘牙を睨みつけていた。
「アナタなんなんですか!さっきからカズキにいちゃもんつけて何様ですカ!!」
「ちょ、金剛お姉さま!」
「落ち着いて下さいお姉さま!」
金剛に似た格好をしている少女達の静止を聞かず、金剛は闘牙に詰め寄っていく。
「金剛、いいんだ、下がって」
「いいわけないデース! この人はカズキのことを…!」
「下がってくれ、金剛」
航暉が言いくるめるようにそう言うと、渋々と黙り込むが。金剛は恨めしげに闘牙のことを睨みつけていた。
闘牙がそれを見て僅かに口角を釣り上げた。
「なる程。部下によく信頼されていいらっしゃる様ですね中佐。いや、依存と言った方がよろしいかな」
「…何をおっしゃりたいのかよくわからないのですが?」
「信頼と依存は違う、と言うことです。依存とは、その者に自分で生きることを放棄させることだ。命令されたから引き金を引く。命令されたから戦う。あなたのやり方は、艦娘を生かす様に見せて殺しているだけとも言える」
それに、と闘牙は冷たい眼を航暉に向けたまま続ける。
「月刀中佐。あなたは、不必要な場面でも部下をコントロールしていましたね」
先ほどの演習で金剛や榛名だけでも対処できる事態にも、航暉は干渉を行っていたのだ。
「それは指揮官として、必要と判断したからです」
「どうでしょうか?私にはあなたが、
「…あなたはロンメル将軍をご存知ですか」
航暉はしばらく黙り込んだ後、そう口を開いた。
「ドイツ陸軍の『砂漠狐』エルヴィン・ロンメルのことですか?」
いきなり話を逸らしたことに眉をひそめつつも、闘牙は即答、航暉は頷くこともなく言葉を続けた。
「ロンメル将軍は部下の信頼を集め、フランスなどの西方戦線の電撃戦、北アフリカでのトブルク包囲戦やガザラの戦いなど、様々な勝利を勝ち取った。それが可能だったのは、最前線を知り、部下に気を配り、信頼を勝ち得てきたからこそでしょう」
「つまり、中佐は部下にいたわり、信頼を得るために介入したと?」
「それは結果に過ぎないでしょう。前線を知り、前線を見て、的確に判断を下す。高い同調率の維持はそのための処置です」
「はてさて、それはどうかな?」
闘牙はそれを一笑に付す。
感情が高ぶり過ぎたのか、素の口調が出てしまっていたが。その目にはどこか哀れみさえ含んでいた。
「大切な者を失うのが怖くて手を掴み続ける。自分だけで命を背負おうとする。己の限界を無視してな。そして、その者達を巻き込んで自滅していく。いずれお前のエゴが、守りたい者をも殺すことになるぞ」
「そんなことにはならないし、させはしませんよ。私の部下だ。私が守って見せますよ」
互いに睨み合う両者。まさに一触即発の状態であった。そこに貴信が割って入った。
「そこまでにしておこう勇君。流石にこれ以上は不味い」
「…申し訳ありません社長」
熱くなり過ぎていることを自覚した闘牙は、素直に頭を下げた。
「すまなかったね中佐。彼は見た目以上に熱くなりやすいものでね。私に免じて許してやってくれないかな?
「いえ、こちらこそ口が過ぎました。申し訳ありません」
「いやいや、中佐が謝ることはないよ。ことの発端は私にある様なものだからね」
そう言うと腕時計で時間を確認する貴信。
「さて、そろそろ私達はおいとまさせてもらおうかな。行こう勇君」
「はい、社長」
「では、月刀中佐。また会えるのを楽しみにしているよ」
航暉に告げると、闘牙を連れて会場を後にする貴信。
「…はめましたね貴信さん」
「ん~?何がだい闘牙君?」
ホテルを後にし、日が暮れて夜の喧騒に包まれた街を歩く闘牙が問いかけると、わざとらしくとぼける貴信。
「今回の演習。仕組んだのはあなたでしょう?」
「ありゃりゃ。やっぱりばれちゃったね~」
まるでいたずらがばれた子供の様に笑う貴信に、軽く溜息をつく闘牙。
「狙いは自分を月刀航暉に接触させることですか」
「今度の任務は彼が中心になるんだろう?だったら相手のことを知っておいて損は無いと思ってね」
貴信の言葉に闘牙が目つきが鋭くなった。そのことを知っているのは、自分と優に
「流石よくご存知で」
「それが私の取り柄だからね。闘牙君。今の世の中で最も強力な武器はなんだと思うかね?」
「情報ですか」
「正解」
まるで問題を解けた生徒を褒めるように笑う貴信。
「情報一つで相手を欺くことも、自分の身を守ることだってできる。それこそ世界が動くことだってある。だから私は目を凝らし、耳を澄ます。核兵器にも勝る武器を手にするためにね」
「やはりあなたは敵に回したくないですね。
「その呼び方はやめてくれ。好きじゃないんだ」
『周りが勝手に言ってるだけだからね』と唇を尖らせる貴信。
「ま、本音を言えば、君との出会いで彼にいい影響が出るかなと思ってね」
「随分買っているのですね。月刀航暉のことを」
「言っただろう。この世界を変える様なことをしてくれそうだってね。それに君もだろ?だからあんなにキツく言ったんでしょう」
からかう様に笑いながら言う貴信に、若干眉を潜ませる闘牙。
「似てるもんね彼と君」
「…現役だった頃。自分のことを信じて仲間は散っていきました」
「『鬼神』と呼ばれた君をか」
絶望的だった深海棲艦との戦いの中。目覚しい活躍をしていた闘牙は、いつしかそう呼ばれ英雄視されていた。
「みなが自分に希望を抱き、戦っていました。ですが、自分は己を守るので精一杯で、その期待に応えることができませんでした」
空を見上げる闘牙の表情を、貴信から窺い知ることはできなかった。
「部下は自分の指示に迷うことなく従い、勝ち目の無い戦いに身を投じて、戻ってくることはなかった。自分が殺した様なものです」
貴信は何も言わずに、ただ闘牙の話に耳を傾けていた。
「だから、彼には自分の様にはなってほしくはない。と言う気持ちが無いと言えば嘘になります」
「そうか。なら、そうならない様に願おうかね」
「それは彼次第ですがね」
夜の喧騒に包まれる街並みに、彼らの姿は溶け込んでいったのだった。