艦隊これくしょん―影に生きる者達― リターンズ   作:Mk-Ⅳ

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第三話

夜刀神へと戻った闘牙は、仲間達がいるだろうブリーフィングルームへ向かう。

部屋に入ると案の定全員揃って思い思いにくつろいでいた。部屋の装飾はブリーフィングルームと言うより、どこの家庭にもあるリビングと言った方がいいものとなっている。

 

「帰ったぞ」

「おう。お帰り」

 

帰ってきたことを伝えると、ソファーに腰掛けて雑誌を読んでいた優が応えた。

 

「お~。おにーちゃんが帰ってきたぞ~」

 

竹とゲームで遊んでいた桃が、闘牙が帰ってきたことに気がつき駆け寄ってきた。そして闘牙に飛びついた。

 

「お帰りなさ~い」

 

抱きついてじゃれる桃。くすぐったいがいつものことなので、気にすることなく好きにさせる闘牙。

 

「お帰りなさい闘牙」

「お帰りんさい」

「お帰り」

「お帰りなさいませ闘牙さん」

「ただいま」

 

松達の声かけに闘牙が答えると、優が何かに気がついた様に口を開いた。

 

「なんか面白いことでもあったか?」

「面白くはないが、月刀航輝に会った」

 

不機嫌そうな闘牙の言葉に優は愉快そうに笑う。

 

「はは。兄貴に一本取られたな。で、どうだったよ」

「優し過ぎる」

「なる程」

 

非常に簡潔な答えに、優が再び愉快そうに笑った。

そして、それだけで理解したのだろうか。優がそれ以上は聞いてくることはなかった。

 

「すまんが、もうひと仕事残っているのでな。もう暫くこちらは任せるぞ松」

「うん。分かった」

「では、行くぞ優」

「あいよ」

 

松達を残し、メディカルルームへ向かう闘牙と優。そして、メディカルルームのポッドに横になる闘牙。うなじから伸びたコードは、ポッドのジャックに差し込まれていた。

 

「うっし、準備できたぜ闘牙」

 

モニターで作業していた優が闘牙に声をかける。

 

「では、行ってくる」

「おう。行ってら~」

 

優の言葉と共に闘牙の意識は、電脳の世界へと飛んでいった。

 

 

 

 

闘牙の意識がたどり着いたのは、豪華ホテルを思わせる電脳空間であった。

 

「やあ。待っていたよ闘牙」

 

室内にある高級感漂う椅子に腰掛けていた、バスローブを纏っている青年が闘牙に声をかけた。

見た目は闘牙と同じ年齢だと思われるが。その若さに見合わぬ老練な雰囲気が、彼を年相応に見せるのを妨げていた。

テーブルには、これまた高級そうなワインの瓶が置かれており、青年はそのワインが注がれたグラスを手にしていた。

 

「どうだい君も飲むかい?久々に上質なのが手に入ったんだけど」

「遠慮させて頂く」

 

そう言って壁に背を預け腕を組む闘牙。その素っ気ない態度に、『つれないねぇ』と呟きながら肩を竦める青年。

 

「我々はただ、利害が一致しているから手を組んでいるだけだと言うことを、お忘れでは?」

「そうだけどさ。もう少し愛想よくしてくれてもいいんじゃないかい?」

「性分ですので」

 

帰る気はないと言った感じの闘牙。対して青年は『まあ、いいけどさ』と気にした様子もなく、テーブルを軽く叩くと闘牙の目の前にウィンドウが表示された。

 

「数日前。ウェークにて基地司令風見恒樹大佐がAV-CT01”千歳”に殺害された」

「史上初の、水上用自律駆動兵装による上官殺害ですか」

 

兵器である筈の艦娘による反逆。本来はあってはならない大事件にも関わらず、闘牙はまるで、予見でもしていたかの様に落ち着いていた。

 

「彼には期待していたんだけどねぇ」

真実(・・)を知っていながらも、彼は艦娘を兵器としか見ていなかった。故の結果です」

 

そう語る闘牙の声は、どこか冷めていた。

風見恒樹は『たとえ轟沈艦を出したとしても必ず戦果を上げよ。兵器としての勤めを全うし、海を啓開する刃たれ』を信条とし、人と同じ感情を持つ艦娘を完全に兵器と見なしていた。

そのため必要とあれば、部下を切り捨てる非常とも言える作戦を強行し、数々の功績を上げていた。

 

「君としては気に入らなかったかい?『ファースト・コマンダー』」

「好きか嫌いかを選べとおしゃられるのであれば、嫌いを選びます」

 

ワインを口に運びながら青年が口にした言葉に、さして興味もなさそうに答える闘牙。

 

ファースト・コマンダー――

『始まりの艦娘』である松型駆逐艦を率いて、水上用自律駆動兵装の運用基礎を築いた闘牙の異名である。

生みの親である優と共に、水上用自律駆動兵装に関する教材を始めとする書籍にその名が載っている。最も、映像は写真は別人に置き換えられているが。

水上用自律駆動兵装の関係者であれば誰もが一度は耳にするであろう。

水上用自律駆動兵装のことを熟知していた闘牙にしてみれば、今回の一件は起きるべくして起きた必然と言えたのだ。

 

「無駄話は置いて。いよいよ奥の手(・・・)を使うので?」

「ああ。できれば使いたくはなかったんだけど、そうも言ってられないみたいだからね」

 

やれやれと言った感じで溜息をつく青年。

 

「『虎穴に入らずんば虎子を得ず』。リスクを冒さねばならない案件かと」

「そうだね。だから、保険をかけなければならない。君達と言う保険(・・・・・・・)をね」

 

そう言って青年は椅子から立ち上がる。そして横須賀の街並みを再現した景色を、見下ろせる窓へとゆったりと歩いていく。

 

「約一ヶ月後。月刀航輝をウェークへと送る。上手くいけば僕達の目的に(・・・・・・)大きく近づく筈だ。だから君達第500特殊作戦戦隊には、彼の支援を頼むことがあるだろう」

 

極東方面隊総司令部直属第500特殊作戦戦隊――

通称特戦隊。闘牙が自身の正体を隠し、廃棄予定であった松型駆逐艦を存命させるために、結成した非公式艦隊である。

正規の指揮系統に属さず、非常時には独自の行動さえも許されている。

主な任務は大規模作戦前の敵艦隊の陽動や敵戦力の漸減に。敵地に潜入しての情報収集や破壊工作と言った、一般艦隊では遂行が困難な特殊作戦に投入されている。

そのため存在は確認されても、上層部は公式にはその存在を認めていない、幻の艦隊である。

 

「了解。細かい部分はこちらで好きにさせて頂く」

「ああ、任せるよ」

 

そこまで話した所で闘牙が壁から背を離そうとした所で、青年が『そう言えば』と思い出した様に言葉を発した。

 

「ここに来る前に彼と会っていたそうだね。君から見た彼はどうだい?」

「…興味を持つ程ではありませんでした」

 

青年の問いかけに、間を空けて答える闘牙。それを見た青年がニヤニヤと笑いだした。

 

「ふぅん。あんなにムキになっていたのにかい?」

「…覗きとは趣味が悪い」

 

不機嫌そうに睨む闘牙に対して、おどけたように青年は笑った。

 

「僕は常に彼を見ているからね。にしても同族嫌悪ってやつかな?あそこまで喧嘩腰になるなんて、君も一応は人間ってことだね」

「そうですね。あなたよりは(・・・・・・)人間のつもりですよ」

 

からかっている様子の青年に、闘牙が皮肉を込めた様に言う。すると、青年は愉快そうに笑いだした。

 

「はははははは!こりゃ一本取られたね。やっぱり君と話していると面白いよ」

 

青年の言葉に闘牙は何も答えずに、壁から背を離した。

 

「もう帰るのかい?」

「明日にはウェークに向かいます。少し周りを掃除しておきたいので」

「そこまで急がなくてもいいんじゃないかい?せっかく本土に戻ってきたんだから、少しはゆっくりしても罰は当たらないと思うけど」

 

そう言ってワインを口にする青年に、背を向けたまま首のみ動かし横目で青年を見る闘牙。その目はどこか辟易している様に見える。

 

「本土にいるとあなたに厄介事を持ち込まれるので、それに面倒事に巻き込まれたくないですし」

「いやぁ。だって、君達以上に優れていて使い勝手のいい部隊を、僕は他に知らないからねぇ」

 

ジトっとした目を向けてくる闘牙にははは、と悪びれた様子も見せずに笑っている青年。

 

「それと君達敵が多いもんね」

そちらも毒蛇に噛まれない様に(・・・・・・・・・・・・・・・)お気をつけて」

「ご忠告ありがとう」

 

青年が言い終わるのと同時に、闘牙は電脳世界から去っていくのであった。

 

 

 

 

 

横須賀に戻ってから三週間後――

太平洋のど真ん中に位置するウェーク島。その近くの海域で戦闘が行われていた。

深海棲艦の艦隊が放つ砲を、死神がすり抜けながら接近していく。

 

『せいりゃあああああああ!!!』

 

死神を模した装甲を纏った竹が、手にした大鎌をイ級へと振り下ろす。振るわれた大鎌の刃は駆逐イ級の装甲を紙の様に両断し爆散させる。

 

『どおりゃぁ!!』

 

続いて腰に装備されているアンカーを別のイ級へと射出する。撃ちだされたアンカーの先端が展開され、イ級の装甲に喰い込む。

それを確認すると、竹はアンカーを巻き戻してイ級を引き寄せていく。大した抵抗もできずに、間合いに引き寄せられた獲物を大鎌で両断した。

 

『ガォォオオオオオオオオオ!!!』

 

他では虎を模した装甲を纏った桃が、軽巡ホ級の喉元へ食らいついていた。そのまま力任せに喉元を食い千切り、吹き出した返り血で青く染まっていた。

桃の背後を取ったイ級が砲を放つも。海面を蹴り飛び上がって回避されてしまう。そしてイ級目掛けて落下した桃によって踏み潰されて粉砕される。

水上艦が蹂躙されている中。上空で深海棲艦の艦載機が竹と桃を爆撃しようと降下を始める。

その瞬間。花火の様に打ち出された多量のロサ弾に、全ての艦載機が薙ぎ払われた。

 

『艦載機なんて、全て無くなればいい』

 

重装甲に身を包んだ梅が、背中に搭載されている二つ30連装のロサ弾のハッチを閉じながら、恨めしそうに呟いた。

そして眼前に展開している敵艦隊に、増設バルジと一体化した大型ガトリングを保持した左腕を向ける。敵駆逐艦や軽巡の放った砲弾が被弾しているも、全て強固な装甲に弾かれていた。

梅がトリガーを引くと、ガトリングの砲が高速で回転を始め、次々と弾丸が放れていく。豪雨の様に襲いかかる弾丸に、蜂の巣にされた敵艦が海の藻屑へと変えられていった。

次々と沈んでいく僚艦を見て、勝ち目が無いと判断した残存艦が撤退を開始するも、飛来してきた徹甲弾に撃ち抜かれていく。

 

『……』

 

交戦海域から遥か離れた海域で、スナイパーを意識させる装甲を纏った松が海面に片膝をつき。自身の身長を有に超えるサイズのライフルを構えていた。

撤退しようとしている敵艦へ、黙々と徹甲弾を放つ。放たれた砲弾は数分の狂いなく、敵艦の中心部を撃ち抜いていく。

 

「敵艦隊反応消失しました」

 

海中深くに潜航している夜刀神の艦橋。その中心部に設置されている椅子に腰掛けているヤトが、静かに告げた。

 

「シャドウ・マムより各艦へ。状況終了。帰投せよ」

 

ヤトの隣に仁王立ちしていた闘牙が告げると、松型姉妹がそれぞれ答えた。

 

「どうよ闘牙。久々に腰を据えて指揮してみてよ」

 

闘牙やヤトの前の方の席でオペレートしていた優が、手を頭の後ろで組みながら話しかける。

 

「やはり落ち着かんな。俺は前で敵を殴っている方が性にあっている」

「確かに、お前が椅子に座って踏ん反り返っている姿なんて想像つかんわな」

 

確信する様に言う闘牙に、愉快そうに笑う優。

 

「これでここいらの敵はあらかた片付いたかね」

「恐らくはな。残敵程度なら今のウェークの戦力でもどうにかできよう。最も戦えれば(・・・・)の話だがな」

 

そう言ってモニターにあるデータが表示された。

『DD-AK04電』――ウェーク島に配備されている駆逐艦である。

現在ウェーク島基地は、水上用自律駆動兵装による指揮官殺害事件の影響で基地機能を消失し、この電1隻のみしか駐留していない状態となっていた。

 

「建造されてから幾度か出撃しているが、撃破記録は今だに無しか」

 

電の戦闘に関する記録が表示される。それなりに出撃している筈なのだが、記録には戦果無しと表記されていた。

 

「敵を撃つことを躊躇う兵器。普通なら欠陥品とみられるのだろうが…」

彼女のを(・・・・)受け継いでいれば当然だな」

 

まるで何かを知っている素振りを見せる二人に、ヤトが首を傾げた。

 

「お父さんと闘牙さんは彼女のことをご存じなので?」

「正確には、彼女でないのだがな」

「あの子には、ほんのちょっとだけ関わりがあってな」

 

ヤトの問いかけに曖昧に答えながら、モニターに映る電をどこか懐かしそうに見つめる闘牙と優。

だがその瞳には罪悪感が含まれている様にヤトには見えた。

 

「関わりですか?」

「…機会があれば話そう。軽々しく話せることではないのでな。それでいいか優?」

「ああ、構わんよ」

「お二人がそうおしゃられるのなら、分かりました」

 

松型姉妹や自分には隠し事をしない闘牙や優がそう言うのならば、とても重要なことなのだろう。ならば話してくれる時まで待つべきとヤトは判断した。

 

「果たして、彼女が新たな一歩を踏み出せるかどうか」

「それは新しい指揮官次第だな」

 

ウェーク島基地には死亡した風見恒樹准将(殉職に伴い二階級特進)の後任として、月刀航輝中佐が赴任することとなっている。

 

「あの二人の出会いがどの様な未来を描くか。見せてもらうとしよう」

 

そう告げる闘牙の顔は、どこか期待しているかの様であった。

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