艦隊これくしょん―影に生きる者達― リターンズ   作:Mk-Ⅳ

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第四話

ウェーク周辺の掃討作戦を開始してから、一ヶ月が経過した夜刀神のブリーフィングルーム。

特戦隊の面々はテーブルを囲んで何かに興じていた。

 

「にゅにゅにゅ…」

 

桃が真剣な表情で、目の前に積み重ねられた、手のひらサイズの木の板を慎重に引き抜こうとしていた。

 

「おら、はよしろや」

 

桃が木の板と格闘を始めて数分が経っており、棒キャンディーを咥えた竹がじれたのか急かし始める。

 

「ちょっと黙っててほしいなり竹おねーちゃん。桃は今とってもとっても集中しているのだ」

「いや、ジェンガに本気出し過ぎだろうに」

 

遊びにも関わらず、戦闘時並みの集中力を発揮している桃に呆れ気味の様子の闘牙。

 

「大体、なんで開始早々に下から引き抜こうとしている訳?」

「ふふふ。勝負とは、常人では考えつかないことをする者が勝つのだよ、梅おねーちゃん」

「勇気と無謀は違うよ桃?」

 

チャレンジ精神旺盛な桃にツッコミを入れる松。明らかに勇気と無謀を履き違えていた。

 

「そう言う穴場狙いするからいつも負けるんだよ」

「いつもじゃないもん!この前は勝ったもん!」

 

優の言葉にプンスカ怒りながら反論する桃。

 

「お前が勝つと、後の任務で面倒なことになるんだがな。この前は爆弾の雨が降ってきたしな」

 

闘牙が辟易した様に言うと、他のメンバーがうんうんと頷いていた。

たまに桃が勝つと、その後の任務で必ず面倒な事態が起きるのが、特戦隊のジンクスとなっているのだ。

ちなみに前回は大量の空母艦隊を相手取ることとなり。豪雨の如き爆弾と魚雷に見舞われたのである。

 

「む~!それは桃のせいじゃないもーん!たまたまだもーん!『ガシャンッ!』あっ」

 

あられもない罪にムッキー!と怒る桃。そのせいで手元が狂い、ジェンガが崩れてしまった。

 

「にゃ、にゃ~~~~!!!」

 

無残にも崩れたジェンガを見て、頭を抱えた涙目になる桃。当然の結果なので、同情する者は誰もいなかった。

そんな中。ヤトがピクッと何かに反応した。

 

「闘牙さん。ウェーク島に輸送機が接近してきています」

「来たか。ヤトモニターへ」

「はい」

 

闘牙の言葉にヤトが頷くと、部屋に置かれていたモニターにウェーク基地の滑走路が映し出される。

 

「例の新司令官殿のおでましか」

「やっと来たぞ~。待ちくたびれたぞ~」

 

竹や桃が話している間にも、輸送機がウェーク基地の滑走路へと着陸し、機体から月刀航輝を始めとした赴任者が降りていく。

ちなみにこの映像は、ウェーク基地の監視カメラをヤトがクラックして得ているものである。

 

「ほうほう。あれが月刀航輝ねぇ。闘牙と違ってからかいがいがありそうだわ」

「くだらん比較をするな」

 

新しい棒キャンディーの包装紙を剥がしながら、あくどい笑みを浮かべる竹に、冷ややかな目でツッコミを入れる闘牙。

 

「ここからが本番」

「そうだ梅。俺達の未来を決めるミッションのな」

 

意味深な笑みを浮かべる闘牙。元々の顔つきのせいで、悪役の顔つきになっているもだが。指摘すると悲しんでしまうので、黙っておいてあげた。

すると艦内に警報が鳴り響き始めた。そんな中でも動じた様子もなく、ヤトからの報告を待つ闘牙達。

 

「バード05がウェークへ進路を取る敵艦隊を補足。編成は水雷戦隊が一つのみです」

「近場のマーカスやエニウェトックが援軍を送るだろうが。どうする闘牙?」

 

『俺達が出るか?』と目で問いかける優。闘牙は顎に手を当てて思案する。

 

「ヤトCTCに俺達が出ると伝えろ」

「分かりました」

 

闘牙の指示に従ってヤトが、新首都に設定された長野に置かれた中央戦術コンピュータと交信を始めた。

 

「あたし達が出る必要ってあんの?」

 

闘牙に竹が咥えた棒キャンディーを、ピコピコ動かしながら疑問をぶつける。正規軍でも十分に対処可能な状況で出撃することは、非常に稀であるからである。

梅や桃も同意見なのか、不思議そうな顔をしているが、松のみ闘牙の考えを読み取ったのか落ち着いていた。

 

「確かめたいことがあってな。今回は俺も出るぞ。一ヶ月も休んでいては身体がなまるんでな」

 

このひと月の間、ウェーク周辺には強力な個体がいなかったため。闘牙は身体への負担を減らすためと、松型姉妹によって出撃させてもらえなかったのである。

 

「まあ、言っても聞かないだろうからいいけどさ」

 

こうなった闘牙は止められないので、好きにやらせることにした竹達。

 

「闘牙さん。CTCより承認が降りました」

「よろしい。では、行くとしよう」

 

闘牙の掛け声を合図に、それぞれの配置に向かう面々であった。

 

 

 

 

 

アンダーウェアに着替えてから格納庫に到着したした闘牙は、01と表記されたハンガーに鎮座している装備の前にいた。

優が開発した闘牙専用の艤装であり。元は有澤重工が艦娘以外の対深海棲艦用兵器として、水上戦術歩兵を元に開発していたパワードスーツをベースとしており、従来の艤装とは形状が大きく異なっているのが特徴である。

闘牙の『砲雷戦能力しか持たない深海棲艦は近接戦に脆い』と言う、水上歩兵時代の経験を元に砲雷戦能力は排除し、近接戦闘用に徹底した設計となっている。

主を迎え入れる様に装甲を開放した愛機に、背中を預けるようにして乗り込む。すると装甲が閉じ全身が装甲に包まれ、空気を抜く音と共に最初から身体の一部だったかの様な一体感を感じた。

 

『メインシステム起動します』

 

同時にシステムが立ち上がり、脳に直接流れてきた情報から異常が無いことを確認すると、通信回路が入ってきた。

 

『こちらシャドウ・マム。リンクを開始する全員準備はいいか?』

『シャドウ1準備完了。いつでもいける』

 

オペレーターである優の問いかけに答えると、松達のそれぞれ問題無しと答えた。

 

『んじゃいくぜ。カウント5、4、3、2、1、マーク』

 

カウントゼロと共に一瞬だけ軽い頭痛が走り、続いて母艦と僚艦の情報と作戦に関するデータが送り込まれてくる。

機体の最終チャックを終えると、機体を前進させクレーンに吊るされたコンテナが運ばれてきた。

コンテナより、メイン兵装であるリボルバー式パイルバンカー内蔵の『対艦突撃槍』、通称ランスを取り出している間に、アームによって予備弾倉が腰の両側に設置された。

装備の動作を確認すると、出撃用ハッチへと歩みを進めていくと同時に、艦全体が僅かに揺れだす。夜刀神が海面に浮上する際の振動である。

ハッチの前まで辿り着くと同時に、ハッチが開放されたので、エレベータへと乗り込む。

エンジンを起動させながら、最終確認をしているとエレベーターが止まり、外壁が解放され青空のの広がる大海原が視界に広がる。

同時にカタパルトがせり出し展開されていく。別段必要はないのだが、設計者の趣味で取りつけられた物である。

カタパルトが展開されたのを確認し、エレベータからカタパルトに移り、脚部を固定すると前傾姿勢になる。

 

『出撃準備完了。シャドウ1発艦どうぞ。――お気をつけて』

『了解。シャドウ1出る!』

 

ヤトの管制に合わせ、カタパルトに設置されている信号機の様なランプが赤、赤、青へ変わると、強烈な勢いでレールを沿う様に機体が押し出されGがのしかかるが、慣れた身体ではそれが心地良くさえ感じられた。

大海原へと飛び出した闘牙はすぐさま姿勢を安定させ、海上を滑る様に進路を調整する。

反対側のカタパルトから出撃したシャドウ2こと松と合流すると、隊列を調整しつつ後続との合流に備えるのであった。

 

 

 

 

ウェークへ進行している深海棲艦の艦隊は、厳重な警戒態勢を敷いていた。

最近この海域にいる同胞が突然姿を消す事態が続いており、その調査のために派遣されたのだ。

旗艦の軽巡ホ級先頭に単縦陣を組んでおり、後続の駆逐イ級も念入りに周囲を索敵している。

既に敵の索敵圏内入ってそれなりになるにも関わらず、今だに敵が現れる様子もなく。それが不気味さを醸し出していた。

そんな中、不意に僚艦のイ級が左舷から何かが接近してきていることを知らせてきた。

ホ級が慌ててそちらを向くと、肉眼で見える程の距離まで接近してきている影があった――

 

 

 

 

『流石に気づかれたか』

 

闘牙の接近に気づいた敵艦隊が迎撃態勢に入るの見て呟いた。ちなみに松達は周辺警戒に当たらせている。

闘牙の艤装にはステルス機能が施されており、敵の電探に引っかかることなく接近できるのだが。今回は敵の警戒が強すぎたため普段より早期に見つかってしまった。

敵艦が発砲を開始し、飛来してきた砲弾を、信じられない加速度で左右に身体を滑らしながら回避していく。

『クイックブースト』と呼ばれる艤装の各部にある高主力ブースタを噴かし、前後左右への短距離加速と高速旋回を可能とする機能である。

これにより、従来の艤装では不可能な高速機動を実現したが、高度な機体制御と対G能力が求められるため、特戦隊でも闘牙のみしか扱うことができないのである。

 

『フンッ!』

 

一度も被弾することなく敵の懐に飛び込んだ闘牙は、艦隊の中央にいるイ級にランスを突き刺し、そのまま持ち上げると、右隣にいたイ級にハンマーの要領で叩きつけて纏めて粉砕してしまった。

その様子を見た他の敵艦が慌てた様子で砲撃するも、クイックブーストを使い一瞬で射線から逃れながらも別のイ級へ接近すると、両肩に設置されたアームに吊るされた大型のバルジが鋏の様に開き2体のイ級を挟むと紙の様に真っ二つに両断する。

次々と僚艦を沈められたホ級が、怒りの咆哮をあげながら砲撃を続けるも、闘牙の姿が視界から掻き消えてしまった。

背後から殺気を感じた咄嗟にホ級が振り返るとその胸部にランスが突き刺される。

クイックブーストと、それを応用した急速旋回クイックターンによって、一瞬でホ級の背後に回った闘牙は突き刺したランスのトリガーを引いた。

ランスの刀身が展開され、ホ級の身体を抉り広げていくと、余りの激痛にホ級が悲鳴をあげる。

 

『撃ち抜く』

 

再度トリガーを引くと、内蔵されているパイルバンカーか稼働し、ホ級の身体が粉々に飛び散った。

三度トリガーを引きランスを閉じると、最後に残ったイ級へと向き直る闘牙。戦闘を開始してから、まだ5分も経っていない間のできごとであった。

イ級には、闘牙が瞬間移動しながら仲間を海の藻屑にしている様にしか見えず、その絶対的なまでの力の差にただ恐怖するしかなかった。

闘牙がゆっくりとした歩みでイ級へと迫ってきたので、背を向けて逃げようとするも、クイックブーストによって一瞬で目の前に移動した闘牙に阻まれてしまう。

 

『~~~~~~~~!?!?!?』

 

最早悲鳴をあげて逃げることしかできなくなっていたイ級は、慌てて反転し逃走していく。ウェーク島の方角へと…。

それを闘牙は阻むことなく。イ級を追い立てる様に追跡していったのだった。

 

 

 

 

あの後イ級はウェーク基地の哨戒圏まで闘牙に追い立てられ、迎撃に出撃したウェーク所属のDD-AK04電によって撃破されたのだった。

 

『終わったな』

『あの電って子の実力を見るためだけに、あんたに追いかけられたあのイ級がまじ可哀想だわ』

『おにーちゃん鬼畜なり』

『末恐ろしい』

 

その様子を、ウェークや電に気づかれない位置から見ていた闘牙がそう呟くと、合流した竹が哀れんだ様に言う。さらに桃と梅に至っては若干引いていた。

 

『目的のためなら、これくらいのこと喜んでしようではないか』

『だからって、あれはないわ~』

『流石おにーちゃん。桃達にできないことを平然とやってのける~』

『そこにシビれる、あこがれる~』

 

仲間の冷たい反応に少し拗ねた様に言う闘牙に、さらに追い打ちをする三人。実に楽しそうである。

 

『ほら皆。シャドウ1をからかうのはそこまでにしなさい』

 

そんなやり取りを微笑みながら見守っていた松が、頃合を見て止めに入った。

 

『いやー、シャドウ1をからかえる機会なんて早々ないしねぇ』

『んだんだ』

『ふんがふんが』

『お前ら…』

 

悪びれた様子のない竹達に額に青筋を浮かべる闘牙。

 

『それにしてもあの電って子大丈夫なのかなぁ?トドメを刺すの躊躇っていたけど…』

 

桃がそんなことをいいながら、帰還していく電を心配そうに見た。

先程の戦闘で、電は大破した敵にトドメを刺そうとして躊躇ってしまい、その隙を突かれて窮地に陥ってしまったのだ。

幸い指揮官である月刀航輝が、リンク率を引き上げ電をコントロールしたことで、難を逃れることに成功したのだが。

 

『あんなんじゃすぐに死ぬわよあいつ?まあ、そのためにあたし達がいる訳だけどさ』

 

月刀航輝配下の艦隊が危機に陥った際に援護するのが、今回の特戦隊の任務である。先程の戦闘で電が窮地に陥った際に、松が狙撃で援護しようしたのを闘牙が止めたのであったが。

竹としては今回の様なことで尻拭いをするのは、御免被りたい様であった。

 

『そこはあの指揮官にどうにかしてもらうさ。俺達が直接出張るのは最後の手段だけだ』

 

そんな話をしていると、母艦である夜刀神から通信が入ってきた。

 

『おう闘牙。データ出だぜ』

『回してくれ優』

 

闘牙そう言うと、電と指揮官である月刀航輝とのリンク率に関するデータが送信されてきた。

 

『どう見ても、初めて組んで出せる数値じゃないな』

『やはりか』

 

データには、驚異的と言える程のリンク率が表示されていた。

基本的にリンク率が高ければ、それだけ艦娘の性能を生かすことが可能となっている。

ただし人間同士で相性がある様に、極めて人間に近い艦娘にも相性は存在し、同じ艦娘でも指揮官によって引き出せる数値は違ってくるのだ。

その中でも『完全同調』と呼ばれる、艦娘と完全にシンクロするには、余程の相性と信頼関係を築く必要がある。

少なくとも、出会って1日も経っていない者同士ができることではないのである。

 

『やはりあの男は…』

『間違いないようだな』

 

何かを確信した様子で優と話している闘牙に、理解できていない松達は怪訝そうな顔で見ていた。

 

『何よ、なんか分かった訳?』

『…今は話せん。許せ』

 

竹が問いかけるも、はぐらかす闘牙。

 

『ふ~ん。ま、いいけど』

 

闘牙が隠し事をするのは珍しいが、それだけ重要なことなのだろうと、気にしていない様子の竹。他の姉妹も同様であった。

 

『状況終了だ。帰還するぞ』

 

そう言ってその場から去っていく闘牙に、松達は続いていくのであった。

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