艦隊これくしょん―影に生きる者達― リターンズ 作:Mk-Ⅳ
ウェークでの作戦が本格的に始動してから暫く経った頃。
東方戦線で深海棲艦の大規模進行が発生。その戦闘に参加したウェーク艦隊のバックアップに出撃した特戦隊。
戦闘は問題なく終了したのだが、その数日後にブリーフィングが開かれた。
「では、今回の任務のブリーフィングを始める」
夜刀神内のブリーフィングルーム。メンバーがそれぞれくつろいでいる中、闘牙はモニターの前に立っていた。
「数日前に発生したグアム近海での戦闘だが。面倒なことが起きた」
「面倒?撃退に成功したんじゃないの?」
カーペットの上で棒キャンディーを咥え、休日のオッサンの様に横になったいる竹が、怪訝そうに反応した。
「確かに敵の撃退には成功した。だが、これを見てみろ」
闘牙がそう言うと、モニターにあるデータが表示される。
「ん~?なになに彼我の損害率に関するデータ?って敵の撃破率少なくね」
データを見た竹が眉を潜めた。データには、敵に与えた損害より寧ろ友軍の方が損害を被っているのである。
「何があったし」
「それを今から説明する。当初は我が軍は優位に戦闘を進め、敵を撤退させることに成功した。そこから追撃戦に移行した際に、敵の増援が現れた」
「その増援がここまでの損害を与えたと?」
「その通りだ。新たに現れた1艦隊によって追撃は阻まれ、逆に手痛いしっぺ返しをくらった訳だ」
ソファーで体育座りしている梅に闘牙が答えると、モニターに新たな映像が映される。
「増援に現れたのは、フラグシップクラスと見られる重巡リ級を旗艦とし。僚艦は全てエリートクラスの重巡・軽巡・駆逐で構成された打撃艦隊だ」
映像の中では旗艦であるリ級が、正規軍の水上用自律駆動兵装を熟練された動きで翻弄していた。
「ほう。見事に横っ腹を突かれた訳か」
椅子の背もたれに肘を乗せて、戦闘の推移に関するデータを見ていた優が、関心した様な声をあげた。
「ああ。誰もが勝利を確信し、敵を追いかけることしか頭に無くなった状態。そして相手の最も脆い部分を的確に見抜く洞察力。間違いなく精鋭だな。そして我々と同じ遊撃艦隊ではないかと俺は見ている」
「その根拠は?」
梅の隣に仕掛けていた松が疑問を投げかける。
「情報によればこの艦隊と似た連中が他の方面で確認され、少なくない損害を出しているそうだ。中には戦艦や正規空母も沈められている。そしてこの艦隊は戦艦である伊勢型2席隻に、正規空母の二航戦と互角に戦り合っている。同一の艦隊と見て間違いなかろう」
「照合した結果。99.8パーセントの確率で同一の艦隊と出ています。間違いはないかと」
椅子に礼儀正しく腰掛けているヤトが、闘牙の意見に賛同する。
「あちこちの戦場を渡り歩いていると。確かにあたしらに似てるわね。ま、あたしらは極東専門だけど」
にしししと笑う竹。その顔はどこか愉快そうである。
「今回の任務は取り逃がした残存艦隊と、この遊撃艦隊の捜索と殲滅。特に遊撃艦隊は確実に仕留めろとのお達しだ。本来は損害の少ないウェークが捜索を行い、グアムの主力が叩くのだが…」
「捜索中に万が一戦闘になった場合。1水雷戦隊しかいないウェークには荷が重すぎるわな」
ウェークは前回の戦闘で、旧ウェーク所属艦と合流し戦力を増強されていたのだ。また損害も、作戦に参加した艦隊の中でも最も軽微であった。
「十中八九戦闘になるだろう。だからこそ俺達の出番と言う訳だ。何か質問はあるか?」
「はい!」
ヤトを背後から抱きしめていた桃が元気よく手をあげる。
「何だ桃?」
「要はさーちあんどですとろいですか!」
「そうだ見つけ次第全て叩き潰せ。1隻も生かすな」
「お~分かった~」
幼い外見に伴わず、とてつもなく物騒なことを言っている桃。そして異形の存在とは言え、命を奪うことになんの躊躇いを見せていない。それが彼女も闇の世界の住人であることを物語っていた。
「準備ができ次第出撃する。今回の相手は手練だ気を抜くなよ」
『うぇ~い』
闘牙の締めくくりに、気の抜けた返事をするメンバー。
これが特戦隊にとっていつものことであり。彼女らが余裕こそ見せても、油断することなど無いことを闘牙は知っていた。
どんよりとした雲が広がる東方戦線のとある無人島。
岩礁に囲まれた島の入り江に集っているのは、異形の存在である深海棲艦。
だがそのほとんどは傷つき、まさに敗残兵と言える有様であった。
そんな中、島を守るように外部に展開している艦隊があった。
明らかに他の個体とは異なる、熟練の戦士を思わせる雰囲気を纏っている重巡り級を中心に。別のリ級1隻と雷巡チ級に駆逐イ級がそれぞれ2隻の計6隻で構成されていた。
彼女らこそ特戦隊の最重要目標である遊撃艦隊である。
『……』
旗艦であるリ級が、周囲を警戒しながらも思案していた。
今回の侵攻作戦は、本来ならば自分達遊撃隊と合流した後に決行されることとなっていた。
だが彼女らのことを気に入らなかったのか、総旗艦が勝手に作戦の開始を早めてしまった。
このリ級は他の個体と比べて強調性と呼べるものが無く、自身の直感を優先し、指揮官の命令を無視することが多かった。
結果的に手柄をあげることに成功し、罰せられることはないが。当然指揮官からは嫌われ、他の艦隊へ飛ばされてしまう。
それでも自分のやり方を改める気はなく、その後も命令違反を繰り返しては、他の艦隊に飛ばされるを繰り返し、遂にはどこにも居場所は無くなってしまった。
ならば自分で居場所を作ればいいと考えたリ級は、自分と同じ様な考えを持つ者達を集めて遊撃艦隊を組織したのだ。
無論反発も強かったが、功績を上げ続けることでそう言った声を黙らせてきた。
そんな自彼女達に今回の総旗艦は、自分の手柄を横取りされるとでも思ったのだろう。
結果。総旗艦を始めとする指揮官らは軒並み全滅。指揮系統が完全に崩壊した。
危うく全滅しかけていた同胞を、駆けつけた彼女達が助け出した。そして天然の要塞とも言えるこの島に身を隠すこととなった。
同胞らの傷は深く、動ける様になるまで今暫くの時間が必要となるだろう。
幸い追撃してきた敵艦隊にはそれなりの損害を与えたので、当面は攻撃されることはないだろうが油断は禁物である。故にこうして部下と共に周囲を警戒していた。
『!』
首の辺りを刃物がなぞる感覚。自らに死が迫っている際に起きる現象であった。
咄嗟に身体を横に逸らすと、先程まで自分がいた場所に砲弾が突き刺さった。あのままあそこにいれば、間違いなく自分は粉々にされていた。
『キタカ…』
砲弾が飛来してきた方角に視線を向けると、何かがこちらへと迫ってきていた。
思った以上に追撃が早かった様である。電探持ちがこの距離まで接近に気づかないと言うことは、相当に隠密性が高いらしい。恐らく自分達と同じ遊撃艦隊と言ったところだろう。
再び死が迫る感覚がしたので前方へと駆け出す。砲弾が着弾する音を背に、部下に迎撃を指示するリ級。久々に狩りがいのある獲物に、顔に獰猛な笑みを浮かべていた。
『あれを避けるか』
背後から頭上を超えて砲弾が標的目掛け飛んでいく。松が放った砲撃である。
だが命中した様子はなく敵艦隊はこちらへと距離を詰めてくる。
完全に敵の索敵圏外から放たれた初弾は回避されたらしい。
やはり一筋縄では行かない様だ。、最も予想の範疇なので驚きはしない。
再び砲弾が頭上を超えて敵艦隊に落ちるが、敵艦隊の速度が緩むことも陣形が乱れる様子も見られない。どうやら完全に見切られたらしい。
互いに最高速で迫っているため、瞬く間に距離が縮んでいく。敵の射程圏内入ったのだろう。砲弾が打ち込まれ始める。
単縦陣の先頭にいる闘牙へと砲弾が殺到するが、両肩のバルジを正面に展開し弾いていく。
最高速で移動しているにも関わらず、恐ろしく狙いが正確である。これだけで、相手の練度が驚異的であることが十二分に伺える。
最もこの程度の弾幕で怯む様なやわな精神はしていないので、構わず直進する。
『シャドウ4』
『了解』
最後列にいた梅が左腕で保持しているガトリングを放つも、敵艦隊はすぐさま単縦陣を解除し散開する。いや、旗艦であるフラグシップのリ級のみ降り注ぐ弾丸を潜り抜けながら突撃してくる。
『とう!』
闘牙の後ろにいた桃がインターセプトするため、飛び上がり闘牙の肩に足を乗せると、迫るリ級へと弾丸の如き速度で飛びかかった。
『ていりゃあ!』
桃が右腕と一体化している鍵爪を振るうと、リ級は砲と一体化している左腕で爪を受けるのと同時に、身体を左回転させ足を止めることなく受け流した。
その瞬間を狙って放ったれた松の砲弾が、リ級の頭部へと迫るも、右腕の砲を足元の海面に放ち、その衝撃を利用し身体を逸らして回避する。
そして足元の海面を今度は左腕の砲で撃った衝撃を活かしバランスを保ち、一連の攻防で一切の減速をすることなく闘牙へと肉薄した。
リ級加速力を載せた右腕のストレートが放たれると、ランスの腹で受け止める闘牙。
『『……』』
闘志を滾らせた目で睨み合う両者。特にリ級は久方ぶりに出会う強者に愉快そうに嗤っていた。
その間にも残りのチ級とイ級が梅と桃を包囲する様に動き、副旗艦であるリ級は前進を続ける。狙いは後方で支援砲撃をしている松だろう。
闘牙達は目の前の敵を相手するのに手一杯のため、リ級を止めることができないでいた。
『シャドウ2。すまんがそちらに1隻通す。処理しろ』
『こちらシャドウ2。了解』
いや、最初から止める気が無い様である。本来ならば、支援要員を敵の攻撃に晒すことは愚策なのだが、闘牙の指示には迷いがなかった。
『ぬん!』
パワーでは闘牙が勝っているのか強引に振り払うと、押し返された力を利用して後ろに飛び退き両腕の砲を放つリ級。
クイックブーストを用い砲弾を回避すると、すぐさま距離を詰めようと再ブーストで接近し、ランスで突きを放った。
だが上半身を僅かに逸らしただけで回避され、逆にカウンターの蹴りを横腹に受けてしまう。
重装甲のため、さしたるダメージにはならないので。気にせず両肩のバルジを展開しリ級を挟み込もうとするも。バックステップで距離を取られる。
手強い。素直に闘牙は敵の技量を賞賛した。
『痛い!痛いじょ!?』
闘牙と分断された梅と桃は、さらに互いからも分断されていた。
イ級2隻を相手にしている桃は、どうにか接近しようとするも。前後に挟まれどちらか一方を狙おうとすると、もう一方に背後から攻撃されてしまったいた。
桃の武装は両手足の鍵爪と、先端に刃物がついた尻尾のみと完全な近接仕様となっていた。
そのことを瞬時に見抜いたイ級らは、桃を囲む様に旋回しながら砲撃を行っていた。
完全に敵の術中に嵌った桃は、為すすべもなくいたぶられていた。
『鬱陶しい』
桃から少し離れた場所では、チ級2隻を相手にしている梅が、全身に装備されている武装を撃ち放っているも。高い機動性を持つチ級を捉えられずにいた。
こちらもイ級同様に梅を囲む様に旋回しているが、弾切れを起こすのを待っているのか。チ級は牽制程度に魚雷を放ちながら、回避に専念している。
火力重視のため鈍重な梅ではチ級の動きに対応できず、いたずらに弾薬を消費するだけであった。
そして遂にガトリングから弾丸が出てこなくなり、砲身が空回りする音が虚しく響くのみとなる。素早くガトリングをパージし、残った武装で応戦するも次々と弾切れとなっていく。
『うにゃあ!?』
それと同じくして、桃がイ級からの直撃を受けて態勢を大きく崩してしまう。
それを好機と見たイ級とチ級らが、梅と桃へと向けて必殺の魚雷を放つ。
艦娘の魚雷の避け方として主に三つ挙げられる。
一つは魚雷の射線から逃れること。
二つ目は魚雷を砲や機銃で打ち落とすこと。
そして三つ目は人型であることを活かし、魚雷を飛び越えることである。
だが桃は態勢を崩しているため、避けることができず。射撃装備がないため迎撃することさえできない。
梅は弾切れのため迎撃することができず。回避しようにも、雷撃特化のチ級は一度に撃てる魚雷の数が多く。その特性を活かし、梅を取り囲む様に魚雷を放っていた。
飛び越えることは可能だが。それすら見越したチ級は、魚雷を二重に放っていた。例え飛び越えて第一陣を避けても、重装甲の梅では第二陣を回避することは不可能であった。
それでも梅は第一陣を飛び越えるが、着地する瞬間には第二陣が目前まで迫っていた。
桃も急いで態勢を立て直そうとするも、とてもではないが間に合わない。
そして魚雷が爆発することによって巻き起こる水しぶきに、2人は飲み込まれた。
闘牙達が交戦している海域より離れた位置で、松は海面に片膝を突き、目元を覆う様に展開されたガンカメラ越しにライフルのスコープを覗く。
スコープにはこちらへと迫って来ているリ級が映されており、その頭部に照準を合わせトリガーを引いた。
両手で構えた自身の身長を有に超えるライフルから砲弾が放たれ、寸分の狂いもなくリ級の頭部へと向かっていくが、リ級は身体を横に滑らせ射線から逃れた。
それを気にすることなく排莢し次弾を装填すると、再び狙いを定めて発泡する。だがそれも簡単に回避されてしまう。
松が扱う『対艦狙撃砲』、通称ライフルは文字通り、狙撃に特化して開発されている。
大和型を超える射程距離と命中精度を重視されており、敵のアウトレンジから一方的に砲撃を行い。また乱戦中でも正確に支援砲撃を行うことが可能となっている。
その反面銃身が巨大となってしまい取り回しが悪く、姿勢をしっかりと安定させないと反動で射線が大きくブレてしまう欠点がある。
そのため戦闘時には僚艦に盾となってもらい、安全圏から敵を狙い撃つのが基本なのだが。今回は前衛である闘牙達が敵を完全に抑えきることができず、接近を許してしまう事態となっている。
射程が長いと言うことは、着弾までのタイムラグが長いことを意味しており。敵にこちらの位置がばれてしまっていると、熟練者には弾道を見切ることが容易となり、簡単によけられてしまう。おまけに連射性も低いので、この状況下では直撃させることは困難であった。
『!』
松はスコープ越しに敵の砲が光ったのを確認すると、すぐさま構えを解いて横に飛んだ。すると先程まで自分がいた位置に砲弾が突き刺さった。
敵の射程圏内まで接近されてらしい。断続的に降り注ぐ砲弾を回避しながらライフルを放つも、姿勢が安定していない状態では精度は著しく低下しているため、当然の如く避けられてしまう。
そして遂に、肉眼で互いの姿がはっきりと見える距離まで接近されてしまう。
積載量の関係で、松はこのライフルしか搭載することができない。そのためここまで接近されてしまうと、有効な武装が残されていないのだ。さらに松の足ではリ級から逃げることさえできない。
そのことを見抜かれたのか、リ級の顔には余裕が見て取れた。最早リ級には、松はただ捕食されるのを待つだけの獲物にしか見えていないのだろう。
絶対絶命な状況でも松は動じた様子も無く、リ級を見据えていた。
そんな松に余裕こそ見せても、油断することなく、リ級は両手の砲を構えて狙いをつけると発泡した。
闘牙がリ級へとランスの突きを放つも、片腕で軌道を逸らされてしまう。すぐさまクイックブーストとクイックターンを用い背後を取る。そして展開したバルジで挟み込もうとするも、裏拳でアームを殴られて弾かれてしまう。
こちらを向いたリ級が、お返しと言わんばかりに右腕の砲を放つ。
クイックブーストを用いて回避した。と思われたが、回避先に放たれていた左腕の砲弾が左脇腹に突き刺さり、装甲に亀裂が走る。
『(埒が明かんな…)』
先程から同じことを繰り返していることに、闘牙は内心舌打ちした。
クイックブーストによる高速機動によって、リ級の懐に潜り込むも機動を見切られた様で、一向に攻撃が当たる気配がない。
それどころかカウンターを貰い、着実にダメージを蓄積されていた。こちらが重装甲だと見るや、左側へと攻撃を集中され、既に左肩のバルジは破損。装甲も、危険域に入っていることを告げるアラームが鳴り響いていた。
クイックブーストは確かに驚異的な瞬発力を発揮するが、あくまで直線的な機動しかできないので、見切ることは決して難しくはないのだ。
特に闘牙は近接装備しかないため、必然的に敵に接近するしかなく。カウンターを主体とする相手にはすこぶる相性が悪いのである。
何より今相手にしているリ級は近接戦闘を熟知している。本来、戦闘艦の延長戦上と言える装備しかしていない深海棲艦は、近接戦闘脆いと言う弱点を持つ。だからこそ闘牙は、近接戦闘用の武装しか搭載していないのだ。
だが近接戦闘を苦手としているのは、艦娘にも言えることでもあった。伊勢型に天龍型や吹雪型の一部には試験的に近接武装が搭載されたが、大した効果は得られなかった。剣や槍が廃れ、銃器が発展した経緯を考えれば当然の結果と言えるのだが。
最も苦手としているだけであって、突発的な遭遇戦では殴り合いを行うことも珍しくはないが。
なので、基本的に艦娘は人型でありながら近接戦闘の訓練を必要最低限しか行わない。とは言っても、指揮官によっては、積極的に取り入れている艦隊も存在はするのだが。
そのことをこのリ級は逆手に取ったのだろう。深海棲艦が積極的に接近戦を仕掛けてくることは無い。そう言った油断を突き、自分より格上の戦艦や正規空母を仕留めきたのだろう。
『(さて、どうするか?)』
このままではジリジリと削りきられるだけだろう。相手が油断して隙を見せることもないと見るべきである。
ならば一か八かの賭けに出るとしよう。分の悪い賭けは嫌いじゃない。
再度クイックブーストによる突撃を行い、右腕に持ったランスによる突きを放つ。
今更そんな安易な攻撃が当たる訳もなく軽々と回避される。そしてカウンターとして、リ級の片方の砲が火を吹こうとする。その瞬間に、左手で腰に設置されている予備弾倉を掴むと、射線へと投げ込んだ。
放たれた砲弾は弾倉の破壊し、その際に発生した摩擦熱が、内包された火薬に引火し手榴弾の様に爆発を起こした。
その衝撃で飛び散った破片が両者に襲いかかってくるが、闘牙は堅牢な装甲に身を守られて傷を負うことはなかった。
だが重巡でそれなりに装甲があるとは言え、リ級は僅かでもダメージを負うだろう。
何よりこの攻撃によって、リ級に隙ができる。その瞬間を逃さぬ様に、拳を握り締めて構えようとした闘牙の左脇腹に何かが押し付けられた。
『(ぬぅ―――)』
押し付けられたのは、リ級の左腕の砲であった。普通であれば目の目で爆発が起これば、咄嗟に身を守ろうと防御行動を取るものだ。それは深海棲艦であっても同じことである。
だがこのリ級は自身が傷つくことを恐れず、攻撃することを選んだのである。
そのため破片が右目に突き刺さり潰れているが、その顔は嗤っていた。まるで極上の獲物を喰らおうとする獣の様に。
左脇腹の装甲は既に限界を迎え、至近距離からの砲撃には最早耐えられない状態であった。
闘牙が回避行動を取ろうとするよりも前に、リ級の唇が動いた。
ザンネンダッタナ――
無情にも放たれた砲弾は装甲を食い破り、闘牙の内蔵を粉砕しながら貫通したのだった。