艦隊これくしょん―影に生きる者達― リターンズ 作:Mk-Ⅳ
夜刀神のメディカルルームにて、キーボードを打ち込んでいる優。
メンテナンス用のポッドには闘牙が眠っており、彼のメディカルチェックを行っているのである。
その間に闘牙は『彼』と電脳空間で面会をしており、その監視も同時に行われていた。
『彼』とは協力関係にあるが。それは利害が一致しているからであり、必要とあれば互いに簡単に切り捨てられる関係である。
そのため相手が闘牙を罠に嵌めようとした際の備えとして、優が常に監視を行っているのである。
「♪~♪~」
さらに夜刀神の格納庫内の01ハンガーに鎮座している闘牙の艤装を、遠隔操作で機材を操作して鼻歌交じりに整備していた。
他にも02~05ハンガーに鎮座している松型姉妹の艤装も、同時に整備している。
これだけ複数の作業を並列で行いながらも、どれも淀みなくスムーズに行われていた。
特戦隊はその特性上人員を配置することができず。メンテナンス関連は全て優一人が担当している。と言うよりこの男一人で事足りるので必要無いのである。
「ん~やっぱ
脳内で新たな設計図を描いては消してを繰り返している優。どうやら松型姉妹の艤装について悩んでいる様である。
優が水上用自律駆動兵装の正式配備に伴い、それまでの戦闘で甚大な損傷を受けたため、廃棄予定となった松型姉妹延命のために開発した専用の強化艤装である。闘牙の艤装をベースとして正体を隠すために全身装甲を採用しており、共通でステルス機能を標準装備している。そのためカラーリングは黒で統一されている。
名目上は優の『水上用自律駆動兵装が人型であることを最大限に発揮できる装備』として、艦娘の次世代装備のテストヘッドとして設計されており、軍艦の延長線上であった従来の艤装とは完全に別物となっている。
これにより駆逐艦単体でも戦艦クラスの敵を撃破が可能となったが。反面整備性が劣悪で、熟練の整備士で無ければまともに整備ができず。特注の部品を使用しているため、コストが大幅に増大してしまっている。
また戦闘能力に重点を置き過ぎたため、従来の艤装と比較しても稼働時間が短くなっており、哨戒任務等には適していないのである。
「うっし。終わりっと」
メディカルチェックが終わるのと同時に面会も終わった様で、闘牙意識がこちらに戻ってくる。
ポッドが開かれると、闘牙が起き上がる。
「優」
「ん?どした闘牙?」
闘牙に声をかけられたので、優が振り向くと怪訝な顔をした。
闘牙の顔には僅かにだが、面倒臭いと言った心境を滲ませていたのである。
彼がこうも感情を表にするのは珍しいことであった。
「仕事だ」
「あ?
現在夜刀神が停泊しているのは、日本の有澤重工秘密ドックである。極東方面総司令部からの呼び出しを受け帰港したのだ。
「グアムでの件の後始末だ」
「あの演習のか」
先日グアム基地司令である下村和人准将が、ウェークへ演習を申し込んできたのだ。
下村准将はグアム在留艦隊の指揮の全権を任せられており、クェゼリン奪還作戦の総指揮官として名を馳せた第一作戦群中核を担っていた男である。
そんな男がなぜ第二作戦群の、それも新設間もないウェークへ演習を申し込んだのかと言えば。ウェーク司令の月刀航輝が、国連海軍大学校広島校在籍時の模擬戦で下村准将に完封勝利したことに起因する。要は逆恨みである。
どう見ても、碌なことが起きないなと考えていた特戦隊の面々の予想通り――トラブルが起きた。
あろうことか下村准将は、演習に参加させた部下の艦娘達にも秘密で、実弾を搭載させていたのだ。
さらに、止めに入った部下を射殺しかける暴挙に出る下村准将に、余計な仕事を増やそうとしてくれたことに対して、ぶっ殺してやろうかと本気で考えた闘牙であった。
結果的にウェークの戦力だけで解決したのだが。あのまま事態が悪化していれば、下村准将の命は無かったかもしれない。
そして取り調べの結果。下村准将が電脳麻薬を使用していたことが発覚したのである。
この事件によって極東方面総司令部は右へ左への大騒ぎとなっていた。
「下村に麻薬をさばいていた連中を潰す」
「はあ?暴力団の相手なら特調辺りにでもやらせろよ」
テロリスト相手ならばともかく、暴力団程度に非公式戦力である自分達を使うことに怪訝そうな顔をしている優。
「グアムが米帝領でなければ、そうするのだがな」
「ああ。そう言うことね」
理由が分かったのか、しょうもないと言いたそうなに優は溜息をついた。
グアムは帝政アメリカ属する南北アメリカ方面隊の管轄地であり。日本属する極東方面隊は、あくまで間借りさせてもらっている状態なのである。
「帝政側の連中が、これ幸いと探りを入れてきているそうだ」
「極東総司令部や日本政府としては、さっさとこの件を終わらせたいってことか」
現在水上用自律駆動兵装の技術力は、開発国である日本が群を抜いている。さらに、水上用自律駆動兵装の核とも言える技術はブラックボックス化されており、他の国には開示されていないのである。
故に他国は日本の技術力を手にしようと、日夜激しい諜報合戦を繰り広げているのである。
そんな中、帝政アメリカや南北アメリカ方面隊は今回起きた事件で、少しでも自分達が有利に立てないかと動き出しているのである。
「それに今後同じことが起きない様に、見せしめにしたいのだろう。『奴』も今回の件は憤りを感じたのだろう」
「貴重な水上用自律駆動兵装が、くだらん私怨で同士討ちしかけたからな。当然だわな」
開発に関わった優としても、逆恨みに水上用自律駆動兵装を使ったのは許せないのか、その言葉には苛立ちが含まれていた。
「どんなに文明が発達しようとも。人間そうそう変わるものでもない」
「まぁな。深海棲艦と言う天敵が現れてからも3年間は、人間同士で殺し合っていたしな」
闘牙の言葉に辟易した様に優は肩を竦めた。深海棲艦の登場による混乱により、人類が抱えていた様々な問題が噴出し、世界規模で紛争が起きたのである。
とは言ってもその間に国連海軍や、闘牙の所属していた対深海棲艦部隊である水上戦術歩兵隊の設立と言った防衛策を講じてはいたが。
「『自分が生き残れればいい』そう言った貪欲さがあるからこそ、人類は他の生物を押しのけてここまで発展したのだろうな」
「そんな罪深い人類を粛清するために、地球が遣わした存在が深海棲艦なんて言う学者もいたな。今はどうしているか知らんが」
深海棲艦の正体については『どこかの国が開発した新兵器』や『地球の汚染によって生まれた突然変異種』。果ては『神の使者』や『宇宙人』と様々な議論がなされたが、結局のところ人類を脅かす害獣と言う認識が一般的となった。
極一部だが深海棲艦を神格化し崇め、それを排除しようとしている国連海軍や国々に対するテロ行為を行っている者達もいたりはするのだが。
「奴らがなんであれ敵であるなら倒す。それだけだ」
「そうだな。俺もまだ死にたくねぇしな。とにかく今回の任務をサクッと終わらせますかね」
会話と並行させていた作業を終わらせて、身体を伸ばしてほぐす優。
「敵が誰であれ油断するな。足をすくわれるぞ」
「わーってるよ。で、今回の獲物は?」
「長野に根を張る『影狼組』だ。近々会合があるのでそこを襲撃する。対人装備の用意を頼む」
「あいよー」
気軽に返事をして準備にかかる優に、「ああ、それと」と思い出したように再び話しかける闘牙。
「俺の身体はどうだ?」
「ん~今んところは問題ねーな。いたって健康だ」
そう言って優がキーボードを打ち込むと、闘牙の身体状態に関するデータがモニターに表示された。
「と言っても、お前の身体は特殊過ぎるからな。前例が無い分、いつどうなるか検討もつかんのが正直なところだけどな。なんせ
そう闘牙は9年前、軍人として深海棲艦との戦いに身を投じる中で、深海棲艦に捕獲されてしまい、その身にコアを植えつけられたことによって、肉体が深海棲艦と同様に変えられてしまったのである。
それでも、心だけは人であり続けた闘牙は人類側に保護され、様々な研究が行われた。
その結果、艤装を纏える肉体と、驚異的なまでの自己再生能力を手にしたことが判明したが。
深海棲艦化した肉体は完全ではなく、不安定な状態であることが判明したのである。
そのためいつどの様な事態に陥るか、皆目見当がつかないのである。それこそ今この瞬間にも、肉体が崩壊してしまう可能性すらあるのだ。
前回の作戦のように再生力を高めると、身体に負荷がかかりその可能性が高まる恐れがあった。
そのため入念に検査を行っていたのである。
「それでも足掻くさ。死ぬ瞬間までな」
いつ死ぬかも知れない命。
理不尽な定めによって、言うなれば死刑執行を待つ囚人の様な境遇に陥っているにも関わらず。闘牙に恐れと言った感情は見られず、寧ろ積極的に受け入れているかの様であった。
「ホンっとお前の精神力には驚かされるわ。普通そんな境遇になったら発狂してるぜ。ま、元から人間やめてたけどな。小学生のくせにプロの武道家に圧勝とかよ」
「小学生でありながら、一人でスーパーコンピュータを組み立てる奴に言われたくはないな」
互いに呆れた様に言い合うと、どちらともなく吹き出していた。そんな歪な存在同士だったからこそ、こうして親友なんてやっているのだろうと。
長野に立地している影狼組の屋敷。その大広間で大規模な集会が行われていた。
議題は国連海軍の士官に、電脳麻薬をさばいていたことが発覚してことへの対策である。
このままでは確実に組は潰されるだろう。それを回避する手段を各々出し合っていた。
そんな中、当然電灯が消えてしまう。日も暮れていたこともあり大広間は暗闇に包まれた。
「なんだ!?停電か!?」
「いや、この屋敷の電気だけだ消えたみたいだが?」
「とにかく早く明かりをつけろ!」
組長や幹部達が騒ぎ出していると、突如として銃声が響いた――
『こちらシャドウ・マム。落としたぜ』
『了解。シャドウ1より各員。作戦開始だ』
優とヤトがハッキングで屋敷の電源を落としたのを確認すると合図を出す闘牙。
影狼組の屋敷近くに停めてあったトラックのコンテナが開放される。そして特殊部隊の装備と似た物を身に纏い、マスクと暗視ゴーグルで顔を隠した松と竹を除く特戦隊の面々が飛び出す。
「ひゃっほーい!」
先頭を走る桃が、義体の出力を最大にして塀へと飛び乗る。そして庭で警備していた組員の配置を確認し、他のメンバーへと知らせると組員の1人へと飛びかかる。
停電で動揺していた組員達は、桃の動きに対処できずにいた。組員の肩に乗っかった桃は、その頭部に手にしていたショットガンの銃口を向けると、躊躇いなく引き金を引いた。
吐き出された散弾が組員の頭部を吹き飛ばすと、すぐさま肩から降りた桃は次の獲物へと駆け出す。
そこにきてようやく我に返った組員達が、手にしていた小銃を放つも、小柄な体躯を活かして左右に緩急をつけて動き回る桃を捉えることができないでいた。
その間に1人の組員の股下を足から滑り込んで潜ると、無防備な背中へとショットガンを撃ち込み、地面を転がると飛来してきた銃弾を避ける。
すぐさま起き上がった桃は、組員達の合間を縫う様に駆け回る。互いに誤射することを恐れ、発泡できない組員達に対して、桃は一方的に蹂躙していく。
桃が塀へと飛び乗っている頃。闘牙と梅は門へと向かって駆けていた。
門の前では2人の組員が警備しており、闘牙らが近づいて来るのに気がつくと、手にしている小銃を構え引き金を引こうとする。
その瞬間、組員らの頭部が吹き飛んだ。屋敷を一望できるビルの屋上に配置していた松からの、アンチマテリアルライフルによる援護射撃である。
障害が排除され難なく門に近づいた闘牙は、両手に持っている水上戦術歩兵時代から愛用している74式近接戦闘長刀を振るい門を両断した。
門を潜ると、桃が警備の目を引きつけてくれているため、誰にも阻まれることなく建物の中へと侵入に成功する。
流石に建物の内部には警備が残っており、闘牙らに向けて発砲してくる。
閉鎖された建物内では回避できないので、飛来してくる銃弾を長刀で切り払い、背後にいる梅を守りながら前進を続ける闘牙。
「ふん!」
右手の長刀で立ち塞がる組員の1人を唐竹割りしする。続いて側にいた組員が至近距離で発泡しようと向けてきた銃口を左手も長刀の柄で弾き上げ、無防備となった胴体を右手の長刀で薙いだ。
上半身と下半身が別れた組員の上半身を長刀で突き刺す。そして並列して弾幕を張っている組員達へを盾にしながら接近していく。
距離を詰めると刺していた上半身を投げ飛ばした。投げられた上半身が組員達にぶつかり体制が崩れた隙に長刀で纏めて両断する。
次々と立ち塞がる組員達を切り伏せていく闘牙。圧倒的な力で敵をねじ伏せていくその姿を見て組員の誰かが呟いた――
まるで鬼だと――
次の瞬間には、その組員の首が宙を舞っていた。
屋敷の奥まで進むと他の部屋とは違い、組の紋所が描かれた豪勢な襖が見えてきた。
そのを襖蹴り飛ばし、組長や幹部達がいる大広間へと乗り込んむ闘牙と梅。
突然の侵入者に唖然としている幹部らに、梅が手にしていたガトリングを向けるとトリガーを引いた。
ガトリングの砲身が高速で回転を始め、無数の銃弾を幹部らに浴びせていく。
梅が掃射を終えると、大広間はちぎれた身体や血液があちこちに飛び散り、穴だらけとなった死体が散乱する地獄絵図へと変わっていた。
そんな中を闘牙は平然と歩きあることに気がつく。
「ふむ…」
大広間の上座にいる筈の組長の死体が無いのである。まるで忽然と姿が消えてしまったかの様に。
辺りを見回す闘牙。その背後では梅が生き残りがいないか死体を調べ、息がある者には拳銃で止めを刺していた。特に義体率が高い者は、脳を確実に破壊しなければ生き残る確率が高いのである。
時折背後から聞こえる銃声をBGMに捜索をする闘牙は、ふと上座にある掛け軸が目に入る。
「……」
もしやと思い掛け軸を捲ると、隠し通路を発見するのであった。
「また。古典的だな」
どうやらここから逃げられた様であるが、闘牙には焦りは見られなかった。
闘牙の予想通り、組長は掛け軸に隠していた通路から数人の組員と裏門から逃走しようとしていた。
だが突如投げ込まれた手榴弾の様な物から煙が溢れ出し、視界を塞がれてしまう。
組長らが動揺した隙に、天井にいた忍者の様なスーツを身に纏った竹が切り込んできた。
まずは手近な組員の首を、右手に持っていた忍者刀ではねると、左手の指で挟んだ2本のクナイを2人の組員へと投げつけた。
投げられたクナイは、それぞれ標的の額に突き刺さり手榴弾の様に爆発した。
残った組員が錯乱して小銃を乱射するが、無論そんなものが当たる訳も無く。悠々と接近した竹に次々と切り伏せられていく。
煙が晴れた時立っていたのは、竹と組長のみとなっていた。
「ドーモ、クミチョウサン。シニガミデス」
「アイエエエエ!シニガミ!?ニンジャジャナイノ!?」
忍者刀を構えながらゆっくりと近づいてくる竹に、腰を抜かしてその場に座り込んだ組長は、失禁してしまう。
「ま、待ってくれ!金ならいくらでも――!」
組長が言い切る前に忍者刀を横に一閃すると、組長の首がゴトリと地面に落ちた。
「義体か」
首を落とした時の感触から、組長が義体であることを確信した竹は地面に転がっている組長の顔を踏みつける。
徐々に力を加えていきグシャリと踏み潰すと、赤色のマイクロマシン溶液と脳髄が飛び散った。
「シャドウ3目標を排除」
『こちらシャドウ1了解。警察が来る前に撤収するぞ』
「了解」
通信を終えると竹は生存者がいないか調べ、始末してからスーツの光学迷彩を起動させると、姿を景色に溶け込ませるのであった。
後に駆けつけた警察が目にしたのは、血と硝煙の匂いが漂い死体で埋め尽くされた『地獄』であった。