最初に、迅と小南ファンの方には詫びておきます。
真っ先に落ちます故に。
加古さんのキャラにも違和感あるかもしれませんがご了承ください。
「全く、忍田さんの浮かれると口を滑らせる癖は治ってなかったんだな」
「私も久しぶりに見たわ」
《転送完了、………どうやら、Cチームの皆さんは全員纏まって転送されたようですね。皆さんの東に300m程に霧ヶ峰さんと加古さん。既に合流しているようで、固まったまま動きません。ええと、太刀川さんたちは川を挟んて対岸に三人、霧ヶ峰さんを挟むように太刀川さんです。バラバラになっているようで、合流を最優先するように動いているようです》
「おっ、サンキュー、三上」
「………出水」
「はいよ、二宮さん。バイパーとメテオラ」
「アステロイド&アステロイドーーギムレット」
「あ……。ちょっ!?やばっ!小南、出水を担いで!失礼、二宮さん!」
「なっ、何をする!じーーー」
《強烈なトリオン反応!急いでその場を離れてください!》
先手必勝とばかりに弾バカこと出水に声をかけてトリオンキューブを展開し、圧倒的物量で猛攻を霧ヶ峰がいる東方面に加え始める二宮。
それに慌てたのは迅だ。慌てて小南に出水を担いで付いてくるように指示を出し、自分は二宮を担いでその場を大きく離脱する。
二宮はその迅の理解不能の行動に瞠目するも、次の瞬間起こった事で閉口せざるを得なかった。ん
先程までいた地点をこちらが放ったトリオン弾を飲み込みながら凄まじいトリオンの奔流が数本奔った。トリオンで作られた住宅を何軒も貫き、吞み込む。破壊の嵐が凄まじい暴威を振りまき、段々と奔流が弱まって、最後には消える。そして、漸く見えてきた光景はCチームとスクリーン越しに見ていた者たちから言葉を奪った。
大凡、全長七百m、横幅十数m程の街の直線上の住宅の半分ほどが消滅した住宅街の姿が生まれた。瓦礫すら残さず、塵と化したその様は戦慄させられるには十分すぎる光景だった。
『今のはなんだぁ!?大砲か!?霧ヶ峰さんのアステロイドによる攻撃のようです!?』
『久しぶりに見たな、霧ヶ峰の規格外の射撃。いや砲撃か。因みに霧ヶ峰が今使っているトリガーはメインが孤月、シールド、アステロイド、グラスホッパー。サブが孤月、グラスホッパー、アステロイド、韋駄天だ。昔と同じ、近距離から中遠距離にも対応出来る万能型のトリガーだな』
『ん?それじゃ、スコーピオンや銃型トリガーに、狙撃銃は使わないんですか?』
『ああ。霧ヶ峰はボーダーが出来てから新たに加わったトリガーには触ったことがない。それに、不慣れなものは使わないという彼の主義がある。初めて触ったトリガーは完熟したと言えるまで訓練を積んでから使うようだ』
なるほど、と頷くのは村上だ。彼も不慣れなトリガーを使って戦闘するという事は命取りにもなることを、レイガストと孤月のマスターランクである彼は知っている。
使用するトリガーの特徴や、欠点を把握していないと、万が一のことが起きかねないからだ。増してや、霧ヶ峰はつい昨日まで戦争が多発する近界にいた。だから、不慣れという恐ろしさをよく知っている。
『あの、忍田本部長、先ほどの霧ヶ峰さんのアステロイドについて説明していただけませんか……?』
『む、それもそうだな。今のは、彼の膨大なトリオン量が影響していることによって、アステロイドの単発があのような状態になる。霧ヶ峰のトリオン量は私たちのなかでもダントツで一位だ』
『二宮さんも抜いて、ですか?』
『そうだ。二宮は14。それに対し霧ヶ峰は58だ』
はい?と間の抜けた疑問の声が上がり、その数瞬後にはその場を揺るがすほどの悲鳴じみた絶叫が上がり、解説席に座る忍田は堪らず耳を塞ぐ。というか、両脇にいる武富の叫びが一番うるさかった。
「………すまん」
「いやー、死ぬかと思ったぜ。てか、ガンダムのビームマグナムを思い出した」
「……確かに」
「トリオン体なんだから死なないわよ!」
「しっ!霧ヶ峰さんのサイドエフェクトのことなんだけど、こういう時に反則的だから慎重に………!?うおお!?」
「……青藍!?」
冷や汗を流して自分の失態を詫びる二宮。その隣では出水が胡座をかいて頬をかく。
小南が出水の言葉に噛み付くが、慌てた迅によって黙らされ、慎重に動こうとするが、それよりも早く、霧ヶ峰が目にも留まらぬ速さで二本の孤月を持って斬りかかってきて、迅を数十mも押し込む。
韋駄天のトリガーを使いながら手元が霞むほどの神速で剣戟を放つ。
未来予知のサイドエフェクトを持つ迅だからこそ初見で嵐のように飛んでくる剣戟に対応出来た。他の者からすれば、軌道すら見えず、かろうじて霞む手元が見える程度のとんでもない速さだった。気づいたらそこにいて、十数の剣閃を放ってくる。
いつの間に、と言葉にするまでもなく、加古のバイパーが霧ヶ峰ごと迅に襲いかかる。
「油断大敵よ。迅くん♪」
「うっそぉ?霧ヶ峰さんごと俺?ってか、これ、逃げ場無くね?」
「え、加古さん!?」
『おおっと、此処で加古隊員のバイパーが霧ヶ峰さんごと迅隊員に襲いかかる!』
『バイパーによる鳥籠のようですね。迅さんはもちろんですが、霧ヶ峰さんにも逃げ場は無いようですが、どうするんでしょう?』
観戦する者の中には加古隊の黒江もいるが、彼女は霧ヶ峰の韋駄天の疾さに珍しく表情を崩して瞠目する。
彼女自身も韋駄天のトリガーを使うが、その疾さとは桁違いのものだった。自身のはトリオンが軌道として残るため、迅や太刀川という強者ならば、簡単に対処されてしまう。
ゆえに、韋駄天というトリガーは使いにくいトリガーとしてレイガストと並んで使用者が少ない。
しかし、黒江の目の前にはその韋駄天を使いこなし、迅と小南の二人を同時に相手にして尚、圧倒している。
(この人に教えてもらうしか……!韋駄天を極めるためには……!)
「ええい、ちょこまかとぉ!ちょっとはじっとしていなさいよ!」
「この程度を捉えられないとは、まだまだだな。もっと精進すべきだな」
「く、霧ヶ峰さんと韋駄天の組み合わせがこれ程厄介だとは思わなかったな……。ぐっ!目が見えなくなったというのに、それを感じさせないどころか、以前よりも速くなっている……!」
小南が斧型のトリガーを振り下ろすが、霧ヶ峰は韋駄天の高速機動で躱し、反撃とばかりに幾重にも剣筋を放ち、小南の動きを封じ、迅の方へ斬りかかる。それを辛うじて孤月で受け止める迅。
彼は既に右足と腹に穴を開けて満身創痍だった。辛うじて、腹の穴をスコーピオンの応用で塞いでいるが、それでも足を失ったのは痛い。
先ほどの加古のバイパーは鳥籠のように軌道を描き、霧ヶ峰はギリギリまで引きつけて迅を動けなくし、着弾寸前に韋駄天で離脱した。その直後、バイパーが迅に殺到し、シールドで防ぐも、隙間を縫って腹に穴を開けられた。
「あら、仕留め損なったわ。ヨロシク、青藍くん」
「くっ……!相変わらず、この二人の相手はし辛い……!って、いけね!?」
「油断し過ぎだ。居合ーー柏木」
そこに霧ヶ峰の居合斬りが襲いかかる。それを跳躍しながら身を捻ることでなんとか躱そうとするが、右足を膝の下から斬り飛ばされる。未来予知が出来る彼でもこれが精一杯の回避だった。
「危なかった……!一歩遅れていたら、真っ二つだった……!」
「まだ行くぞ。居合ーーおっと、二宮か」
「無事……じゃないな、迅。立てるか?」
「ふぃー……。助かりましたよ、二宮さん」
再び、神速の居合斬りで斬りかかろうとしたが、目の前をアステロイドの弾が飛んで行ったことで中断し、再び飛んできたアステロイドを孤月で弾き飛ばし、斬り落とし、飛んできた方を見れば、体勢を立て直した二宮がトリオンキューブを展開し、アステロイドを飛ばしたところだった。その隣を見れば、出水もトリオンキューブを展開し、いつでも撃てるようにしていた。
「てゃぁあああっ!!」
「ん、桐絵か。振りが大きい。出直して来い」
振り下ろされてきた斧の側面に孤月の刃を当てる事で軌道を弾き、そこで大きく体勢を崩した小南。それを逃すような霧ヶ峰ではない。韋駄天で小南に急接近し、掌底で弾き飛ばして二宮たちから距離を取る。
「援護するぞ。アステローー!?」
「あら、手出しはさせないわよ?」
「うお、加古さん!?」
すかさず、二宮と出水が援護しようとするが、加古がアステロイドを多数放ったことで気をとられてしまう。そして、迅も片足を失っているため、援護に動けず。
「一刀流居合ーー虚閃」
孤月を一本納めて、居合の構えを取りーー、一瞬後には小南の背後に立ち、カチリ、と孤月を収めた霧ヶ峰の姿があった。先ほどまで霧ヶ峰が立っていたところには足型に陥没し亀裂がいくつも走っていた。
しかし、小南のトリオン体に何の異変も見られず、霧ヶ峰以外の全員が疑問符を浮かべる。
しかし。
小南が振り向いたことで小南の体の中で止まっていた時が動き出す。小南の視界が天を向き、嫌な浮遊感を感じて、思わず足に力を入れようとしても動かない。
どうして?
首を動かすと下半身のみとなった自身の後ろ姿が見えるというあり得ない光景が見えて、そこからトリオンが黒い霧となって漏れ出る。
「……あ、れ?【緊急脱出!】」
『小南隊員、ベイルアウト!模擬戦始まって最初のベイルアウトは小南隊員!Cチームは痛手です!迅隊員が片足と腹部を損傷し、小南隊員がベイルアウトしたことで戦力は半減か!?』
『そういえば、忍田さん。霧ヶ峰さんが先ほどから使っている、居合斬りはトリガーではないのですか?』
『いや。諸君らも知っているだろうが、トリオン体は生身をトリオンに変換したものであり、その動きは生身を基にしているため、感覚に変わりはない。ただ、身体能力が倍以上に上がっているという点と、痛覚を感じにくいという点が相違点であると言えるだろう。それで、居合斬りのことになるのだが、霧ヶ峰は元々、古流剣術を幾つか修めている。その動きをそのまま再現しているのみに過ぎない』
『古流剣術、ですか?』
『そうだ。古流剣術は剣道とは違って、相手を如何に速く殺せるか。無駄なく斬れるか。古い流派ならば、戦国時代より以前……其れこそ千年の歴史を有する流派もある。本物の命のやり取りの中で研鑽されてきた戦術。それが古流剣術だ。私や太刀川も幾つか“学んで”いるが、霧ヶ峰はその古流剣術の流派を幾つも“極めている”』
ごくり、と喉が鳴る。忍田の言うことが本当ならば、戦闘ということにおいて、霧ヶ峰の右に出るものは居ないだろう。
それに、忍田や太刀川でさえ、『学んでいる』領域にあり、霧ヶ峰は『極めている』領域に到達している。五年前の時点で此れなのだから、天才や秀才など生温い、鬼才。又は剣の道に生きる修羅ーー剣鬼と呼ぶのが相応しい。
底の知れない戦闘力の高みは如何なるものか。
『古流剣術の中で霧ヶ峰が最も得意とするのは、神速の居合斬りと対多数の斬り合いだ。ちょうど、さっき、小南をベイルアウトさせた居合斬りもそうだ。一足飛び、無拍子と呼ばれる技法が古流剣術には存在し、トリオン体の身体能力を使えば、韋駄天を使わずとも一瞬で移動したかのように映る。だが、霧ヶ峰は一足飛びと韋駄天を組み合わせる事で神速の速さを手にした』
『ふむ、古流剣術ですか……。学んでみる価値はありそうですね』
『それに、元々韋駄天は霧ヶ峰の無拍子や一足飛びを参考にした高速機動のトリガーである。それ故に霧ヶ峰の身体能力の高さも相まって無類の速さを誇る』
補足するように忍田が解説すると、古流剣術に活路を見出したかのように幾度も頷く村上。
彼も孤月を扱い、鈴鳴第一……来馬隊を支え、自身も攻撃手4位という戦績を残す手練だ。しかし、3位以上は二宮、太刀川、風間といったボーダー最強格の実力者で固められており、そこに付け入るのは並大抵のことではできない。それこそ、村上のサイドエフェクトを使ったとしても、それでも対応しきれないほど実力に差がありすぎるのだ。
その牙城を崩せる手段が欲しかった。だから、古流剣術に目を付けた。それに、彼のサイドエフェクトはこういった事を学ぶのに最適とも言える能力だ。
「遅かったか」
「既に小南は離脱した後か。それに迅も重傷。ほぼ二宮隊は壊滅だな。二宮と出水だけでは前衛が居ないから簡単に懐に入り込めるだろう……出水が殺られたか。二宮も時間の問題だな」
「青藍は俺が貰う。後は任せた」
「太刀川……。そうだな、青藍の相手を務められるのはお前程度しか居ないだろう。東さんと俺は二宮と出水の相手を………いや、慶以外の三人は加古をやるぞ。二宮は終わった」
「「了解」」
「腕が鳴るな。よーし、覚悟しろよ、青藍は生半可な気の締め具合では相手できねぇ」
ざっ、と霧ヶ峰が二宮と出水に斬りかかるところを見下ろすように3階建てのビルの屋上に立つのはBチーム。東、風間、太刀川、木崎の四人の精鋭だ。
並び立った時に、丁度出水の首が体から刎ね飛ばされて緊急脱出し、二宮も動揺した隙を突かれて加古と霧ヶ峰の連携で緊急脱出に追い込まれた。
「望、次は東さん達だが、大丈夫か?」
「んー、多分、青藍に慶くんが、私には東さんたち三人が掛かってきて、私を沈めた後に青藍に四人がかりで、といったところかしら?」
「そうだな。厄介なのは東さんの狙撃だが、先に高層建築物を崩しておくか?」
「いえ、其処までやらなくてもいいわよ。慶くんの相手はどの位掛かりそう?」
「如何だろうな。慶の実力も五年前とは比べ物にならない程上がっているだろうからな。だが、10分もあれば片付くだろうが、それまで保つか?」
「厳しいわね。でも、なんとしてでも保たせるわ」
「わかった、お前を信じているぞ」
「ーーーー!」
そう言って、向かってきた太刀川と向き合う霧ヶ峰。加古に残された言葉は加古をして衝撃に飲まれるものだった。
加古は五年以前より綾小路や数人の少女と、霧ヶ峰を巡っての恋敵というべきライバルだ。しかし、霧ヶ峰は綾小路を選び、加古は悔して泣いたが、二人の幸せを祝った。
しかし、それでも好きな人に対する未練は残っていた。キッパリと諦めたと思っていたが、五年ぶりに霧ヶ峰と再会して、少年から青年へ、それも強烈な大人の色香さえ感じさせるほど魅力的な男性へと成長した霧ヶ峰と再会して、心の奥で燻っていた感情が再び燃え上がった。
そんな加古の心情を更に刺激したのが今放たれた霧ヶ峰の言葉だ。五年前にも何気なく放たれ、それが如何しようもないほど嬉しかった言葉が再現されたかのように加古の脳裏に甘い毒のように絡みついて正常な思考を麻痺させられる。
左目に三本の傷跡を残し、視力を失い、盲目となったが、それさえ彼の魅力の一つとして強調される。長く伸びた烏の濡れ羽のような黒い髪も大人の色香を感じさせて、胸の奥が熱く鼓動を打つ。そして、身体中に満ちる気力。
「ーーふふ、私もまだ女の子だったのね。20歳になって、大人になったと思っていたのだけれど、青藍の前では一人の女の子なのね。ふふっ、でも。ーー嬉しいわ。青藍は五年前から何ひとつ変わっていない。私が大好きな青藍そのものだわ」
旧ボーダーメンバーにとっては懐かしく、現ボーダーメンバーにとっては初めて見る、頬を赤く染めて華が咲くが如し笑みを浮かべる乙女の姿があった。
霧ヶ峰の信頼に応えるべくーー否、信頼に上回る応えを出そうと本気になる加古。
彼女の想いを表すかのようにトリオンキューブが激しく明滅しながら回転を始める。
それに顔を引き攣らせたのは風間たち加古の相手をする三人だ。
「不味いな、望も本気だ。攻めあぐねるぞ」
「そうだな……。旧ボーダー時代並の気合の入りようだから、思ったよりも時間掛かるか?」
[………こうなった加古の相手はしたくないものだが、仕方ないか……]
東が溜息交じりにつぶやいたことに全力で同意したくなった風間と木崎だった。
加古はランク戦には意欲的に参加しない、いわば必要なだけあれば良いという考えであり、個人総合ランクもA級としては低い方であるが、旧ボーダーメンバーは全員が知っていた。
嘗て、霧ヶ峰、忍田、太刀川、二宮に次いで高い実力を有していた加古の実力を。
彼女も二宮や出水ほどではないが、豊富なトリオン量を有するが、特筆すべきなのは女性らしい繊細さを表したかのように緻密なトリオン制御能力。トリオン量で二宮に劣っていながらも、二宮や出水ですらできない繊細で緻密なトリオン制御で二宮や風間たちとも互角にやりあえていたのだ。
彼女も現ボーダーメンバーからすれば十分に怪物の域に到達した傑物であるのだ。
彼女が本気を出す印なのが今も見ているように激しく明滅しながら回転するトリオンキューブだ。それからはバイパーが放たれるのだが、加古が放てば何の気もないバイパーですら必殺の一撃とすらなりかねない代物だ。
何処までも追ってくる弾道に、シールドで防ごうとすればシールドを避けてくる圧倒的なリアルタイムでの制御。
加古が本気を出さなくなって五年。今では那須が随一のバイパーの使い手だと言われているが、実は那須の師匠は加古であるのだ。
その旧ボーダーメンバーでも屈指の実力者同士がぶつかり合う。
激しい撃ち合いへと発展した加古たちの一方、此方では異様なほどの静寂に包まれていた。
黒い外套を見に纏い、腰に提げている二本の孤月の柄に手を置く霧ヶ峰と、既に孤月を抜き、戦闘用意を整えた太刀川。
「慶とやり合うのも五年ぶりになるのか。どれほど巧くなったのか体感させて貰おうか?」
「巧くなった、か。強くなったかじゃないんだな。お前らしいと言えばお前らしい」
「お前は五年前の時点でも強かった。だが、技術は粗く、精巧さに欠ける剣。分かりやすく言えば、凶暴な剣のみで柔無き剣だった」
「初めてやりあった時も同じようなことを言っていたな。確か、柔無き剣に強さなど無い、だったか?」
「そうだ。柔無き剣に強さなど無い。その答え、五年間で掴めたか、試させて貰おう」
自然に腰を下ろすかのように孤月の柄に手をやり、居合抜きの構えを取る霧ヶ峰。トリオン体だというのに、凄まじい圧が辺り一帯を押し潰し、体に鉛でもつけたかのように重く感じる。斬る、と決めた霧ヶ峰の体の周りの空気が歪んで見えるほどに凄まじい圧。
ゴクリと喉を鳴らす太刀川。初めて霧ヶ峰とやりあったのはもう七年も前になるのだろうか。自身が忍田に弟子入りし、剣を学び始めてメキメキと実力をつけていき、天狗になっていた頃に、ポッキリと高くなった鼻を叩き斬られた。
本当に一瞬だった。女のような見た目の霧ヶ峰を侮り、遊ぶ感覚で模擬戦をやったが、十本とも全て霧ヶ峰に10秒も持たすに首を刈り取られた。2本目からも本気でやっても精々5秒で終わっていたのが7秒や8秒に延ばせるようになっただけだった。一太刀の傷さえ与えることもできなかった。
忍田以外から初めて貰った敗北だった。それも完敗。
それ以降も幾度もなく模擬戦を申し出ても90%以上の割合で敗北を喫してきた。
自らの首が落ちていくのを眺めていた霧ヶ峰の無機質な瞳は今でも忘れられない。ゾクリ、と背筋を撫でられるような錯覚さえ覚えてしまうほど畏れを感じ、飲み込まれた。
だが、今は違う。霧ヶ峰がいなくなって五年、太刀川は今まで以上に忍田との鍛錬を厳しくし、忍田と同じ流派に弟子入りさえして剣の道を学んだ。
今こそその実力の全てを発揮すべき時。
加古たちの激しい撃ち合いの流れ弾が霧ヶ峰と太刀川の間で爆ぜた瞬間、太刀川は吼え、霧ヶ峰は静かに、されど火花が飛び散るほど激しくぶつかり合うーーー。
柔無き剣に強さなど無い。
ワンピースの鷹の目の至言から頂きました。
五年前の太刀川は、鷹の目に敗北したゾロのような感じです。