夏の終わりの頃より海外に行かなくてはならない用件があり、暫く執筆をお休みしておりました。
今、日本に戻ってきておりますが、正月休みが明けたら再び海外に行きますので、執筆は遅れに遅れます。次は三月か四月になるかもしれません。
重ね重ね申し訳ありません。
今回はノーマルトリガー戦が終わり、ブラックトリガー戦が始まる前の一幕を描いております。
一部私の独自解釈が入っております。疑問に思ったり、違和感が有ったらご指摘お願い致します。
「もう次で最終戦か。楽しい時間というものはあっという間に過ぎるものだな。……ふむ、これは中々。久々に美味いコーヒーを飲んだ。礼を言う」
「いっ、いえ……!」
「………アレから一度も勝てなかった、か………。いや、辛うじて最後の9回戦でこっち側全員を道連れと引き換えに引き分けに持ち込めたくらいか。やはり、と思っていたけどよ、前より強くなってねぇか?目が見えないって言うのによ」
涼しい顔で、頰を赤くして慌てる三上から差し出されたコーヒーに舌鼓をうちながら悠々と談話する霧ヶ峰だったが、その一方では死屍累々といった有様で迅たちがソファに突っ伏していた。二宮や風間ですら、背もたれに寄りかかってグッタリとしている。ちゃっかりと加古と小南は霧ヶ峰の隣のポジションを確保し、霧ヶ峰にもたれかかって死んでいた。
呻きながら、かろうじて頭だけを動かしてぼそりと呟いてまた突っ伏したのは太刀川だ。
「いや、最後のはお前たちの勝ちだ。道連れのアステロイドは緊急時の対応だ。向こうでは緊急脱出など無いからな。トリオン体が破壊されたとしても生存できる様、辺りの敵を一掃しておく必要があったから編み出したものだ。最後の手と言う奴で、つまり、二宮たちの集中攻撃で戦闘不能になった時点でお前たちの勝ちは決まったも同然だ。……それに、目が見えないから戦闘力が落ちると思っていたら大間違いだぞ。サイドエフェクトは以前よりも強くなった事もあるが、もう一つのサイドエフェクトに目覚めたようでな」
それに、8連敗を喫している太刀川の名誉のために付け加えておくならば、霧ヶ峰とやり合ううちに、彼の剣撃の鋭さも、重さも増し、何度かヒヤリとした場面もあり、戦いの中でも彼は着実に成長している。
実際に9回目は囮になった風間と迅ごと太刀川の旋空孤月で斬るという、霧ヶ峰の不意を撃つ事で霧ヶ峰の片脚、片腕と脇腹を斬ることが出来たのだ。しかし、カウンターで一瞬の刹那で九つの剣戟を放たれ、シールドごと叩き斬られ、ベイルアウトさせられた。
その後、加古と二宮の連携によるバイパーと木崎のフルアームズによる弾幕射撃でベイルアウト寸前まで追い込んだが、道連れとばかりに、辺り一帯を覆うアステロイドの一斉放射で霧ヶ峰共々全員がベイルアウトした、という結末で引き分けで終わったが、霧ヶ峰本人としては敗北、と捉えていた。
二宮、加古、木崎による攻撃を受けた時点で霧ヶ峰はベイルアウトする寸前だった。あと数秒もあればトリオン体は活動限界を迎え、一筋の光線となって戦場離脱していた事だろう。それに対し、相手は太刀川と風間、迅、小南、出水がベイルアウトしたがそれ以外は健在であり、この時点で霧ヶ峰の敗北は決まったも同然だった。
霧ヶ峰と組んでいた東は既に二宮と加古、迅によって落とされていたので悪しからず。
鬼畜か。最後のアステロイド、アレは多分誰にも避けられないと思う。霧ヶ峰を中心に、ビームマ○ナムの壁と見間違う程の破壊力を併せ持つ光線が広がっていくのだ。若しくはデストロイガン○ムのスーパースキュラ。どうやって切りぬけろって言うんだ。
と、観戦していた面子の心は一つに纏まった。
結果は引き分けでも、中身は勝利と取ってもおかしく無い結果だと言うのに、死屍累々なのか?
トリオン体であり、肉体的疲労は無いと言っても、精神的疲労は半端ない。死なないと言っても、体を斬り裂かれるのを見るのだ。此れが生身だったとしたらと思うとゾッとする。
首を刎ねられて空中を飛んでいく最中に自分の首の断面が……勿論トリオン体であるが、生身のモノを想像するには十分だ。特にトリオンを伝達する器官が脊椎を思わせ、初めての人ならば気絶してもおかしく無い。
それに、霧ヶ峰が放つ威圧は紛れもなく、本気で斬り殺すつもりの気迫だった。それが己の死を幻視させ、首や体を刀が通っていくかのような感覚さえ覚えてしまったことも原因となった。
精神はガリガリとヤスリで削るかのように削れていき、このようにして疲労困憊な状態に追い込まれていたのだ。
死屍累々の有様をみて、オペレーターの三人娘が苦笑を浮かべながら飲み物を配っていく中、霧ヶ峰の表情は浮かない。髭の無い、整ったツルツルの顎に手をやり、何事かを考えるように摩る。
無意識に左目から頬に伸びる三本爪の傷痕に指を当てるのが霧ヶ峰の癖となった。
「………やはり、このトリオン体は便利だが、命のやり取りとなると、危機感が薄くなるのがデメリットだな。緊急脱出があるから、死に対する耐性、危機感が低いままだ」
「……“向こう”のトリガーに緊急脱出は無いのですか?」
つまり、B級以上のトリガーはトリオン体が破壊されると自動的に緊急脱出がかけられ、本部基地にまで強制送還させられ、戦場から離脱出来る。
これはトリオン体で発生するメリットの一つでありながら、僅かながらも霧ヶ峰が指摘するデメリットも生ずる点でもあった。
『死なないこと』
それが近界民と戦闘する時に生ずる大きなメリットであり、それがあるからこそ、ボーダーは三門市最大の『就職場』でり、民間企業なのだ。謂わば、ゲームの中のキャラクターになってモンスターを相手に戦闘する感覚に近いものとなるため、『戦闘』がありながらも、就職先として人気は高い。
未成年も多くが所属するのが顕著な点だろう。緊急脱出が無ければ死ぬような戦場に誰が好き好んで自らの子を送り出す親がいるだろうか?
勿論、親族が近界民に殺され、保護者の立場である人が居らず、生活費を稼ぐ為にボーダーに入ったり、復讐の為にボーダーに入ったという人も居るだろうが、何より、『死なない』という点が強力なアピール点となるだろう。
しかし、そのメリットを霧ヶ峰は危惧する。
「ああ。向こうでは緊急脱出など無かった。俺も幾つかの星を廻ったが、此処と同盟国だけだった。緊急脱出が付いているトリガーを持つのはな」
向こうーーー近界。近界民と呼ばれる存在が暮らす世界。それぞれが巨大なトリオンで作られた星を持ち、無絵の空間を惑星の如く軌道を持ち、周回し、その星々一つ違うだけで文化そのものが全く違う。
地球に例えるならば一つの国家が地球から独立して廻っているようなものだ。
そして、霧ヶ峰はその廻っている星々を巡り歩き、トリガーを学び、又は戦闘して相手のトリガーを奪い使い。そうやって星々の文化を知った。
その中で此処ーーボーダーのトリガーと近界のトリガーで大きく異なるのは緊急脱出装置が付いているか否かだった。
それは近界最大級の軍事国家であり、謂わば最先端のトリオン技術を擁する『神の国 アフトクラトル』でさえ緊急脱出装置は併せ持っていない。
「ただ、その代わり、五感と身体能力を補助、又は付け加える機能に長けたトリガーが多い。それに、近界は日頃から血で血を洗う凄惨な戦争を経験している。トリオン体が破壊されれば死を意味するような、一瞬の油断が生死に繋がるような激しい戦場だった。そんな戦場で生き抜けば、自ずと感覚は鋭く鍛えられ、瞬時の判断や勘に凄まじいものを感じた。それこそ、俺並みの使い手もゴロゴロしていたぞ。俺も何度敗北を喫したかも数えていない」
目を閉じているのに、鷹の目を思わせる鋭い視線を感じ、息を飲む太刀川たち。
歴戦の兵士を思わせる佇まい。それは正に近界で生死の境目を彷徨う戦争を幾つも経験した証左である。
「あの……、なんで近界は戦争ばかりなのですか?」
「ふむ……。様々な理由があるが、その根底には生存の為、これに尽きるだろう」
哀しそうな表情を浮かべて尋ねてきたのは風間隊のオペレーターの三上。
風間隊のオペレーターである彼女は、度々同盟国への遠征に同行する事もあるが、そこでも見るのは戦争だった。
トリオンの確保、兵力の確保のため、極力トリオン体の破壊に留めているが、それでも生身であれば命を奪っている。
そんな現状が三上を哀しくさせていた。
そんな三上に寄り添うようにして綾辻も眉を歪めて問いかける。
現状、このボーダーの中でも最も近界に詳しいであろう三本傷の男に。近界が戦争を繰り返す理由とはなんなのかを。
「生存の為……ですか?」
「近界は【星】と呼ばれる国が幾つも広大な空間に浮かんで、惑星の周期のように一定の速度で廻っているのは知っているだろう?定まった軌道を持たず、自在に飛び回る【乱星国家】と呼ばれるのもあるが」
いつの間にか復活した太刀川たちも含めて全員が頷いたのを確認して言葉を続ける。
「全ての星がそうでは無いが、アフトクラトルではその星そのものが全てトリオンで構成されている。空から大地、ありとあらゆるものがトリオンで作られている」
「それも知っています」
「では、そのトリオンは何処から来るか分かるか?」
首を横に振る一同を見てやはりか、と頷く。
「コレは知られて無いのか。星そのものを構成するトリオンは【神】と呼ばれる膨大なトリオンを保有して産まれた者が選ばれてなる」
「へぇ〜、神様扱いされるんでしょ?いいじゃない」
「真逆だ。その【神】は………生贄になった者の末路だ。……哀れなものだな。膨大なトリオンを持つが為に国そのものを維持する為の人柱にされるとはな。……数百年、の間もな。あぁ、いや、批判する訳ではないが、その生贄にされる者にも此れからの人生があっただろうに」
凍りつく一同。小南の言葉には王様になって多数の僕に傅くまれ、何一つ不自由の無い生活を想定していたのだろう、軽い印象があったが、それをバッサリと斬り捨てる。
一度、神になってしまえば死ぬまで星を構成するトリオンと一体化して数百年の間を孤独に生きる。そんなものに誰が好んで成ろうというものか。
アフトクラトル側も自身の身内を神に仕立てたく無い。だからこそ戦争を仕掛けて他所の国にいる膨大なトリオンを保有する生贄を探し、又は自国の戦力の増強の為に連れ去るのだ。
「俺もアフトクラトルに狙われている。どうやら【神】の候補の一人にされているらしい。そして、アフトクラトルの【神】は後数年もしないうちに死ぬ。だから最近アフトクラトルの動きが活発化している」
「そう……」
狙われているらしい、の言葉のところで懐にあるブラックトリガーに手を遣る。
アフトクラトルに狙われ、敗北し攫われようとした霧ヶ峰に迫る攻撃をトリオンが破壊され、生身のままの命が庇いーーブラックトリガーを遺して逝った。
痛い程の沈黙。
『ーーー休憩はそろそろ良いか?最終戦を始めたいと思うが、大丈夫か?』
「おっと、話し込んでしまったな。俺は隣のブースに行く。ーーああ、そうだ。最終戦はブラックトリガーを遠慮なく使う。躊躇したら逝けるぞ」
「ふん、そっちこそ油断して首を狩とられないようにしておけよ」
「まぁた、始まったよ、太刀川さんは……」
ニヤリ、と頰を釣り上げて、挑発的に笑う霧ヶ峰に闘志をメラメラと燃やす太刀川たち好戦的な面子に、やれやれと仕方なさそうに笑う風間たち慎重な面子と分かれているがそれでも、楽しみと言いたげな雰囲気を纏う。
「ーーーむ。ドアノブは何処だ」
ーー締まらない。
思わずずっこけた一同だった。
「………って、あら?」
「どうしたんですか?加古さん」
「さらり、と流してしまっていたけれど、青藍って、もう一つのサイドエフェクトに目覚めたって言ってなかったかしら?」
………、……………。
ーー言ってた。マジか、ヤベェじゃんかよ。
………面白くない、と言いたげな風間の顰めっ面と遠い目をしだした木崎たち。
「いやー、はっはっは………マジか」
「………ちっ、やはりさっきまでのは手を抜いていたのか」
顔を引攣らせて笑う迅と不機嫌そうに舌打ちする二宮。
『さぁ、早いもので、最終戦となりますが、まさか誰が思うでしょうか!?我らがボーダーでもトップクラスの実力者が勝ちをもぎ取るとこが出来ない実力者が居るとは!しかも、最終戦はボーダーが有する二つのブラックトリガーのうち一つと霧ヶ峰さんが個人的に有するブラックトリガーを使う、ブラックトリガー同士の戦いが見られます!迅隊員の持つブラックトリガー、【風刃】!此れはどんな能力を持つのでしょうか?忍田本部長、解説をお願い致します!』
武富のハキハキした実況から始まり、観客席のテンションも上がる。何と言っても、最終戦はブラックトリガー同士の戦いだ。そもそも、ブラックトリガーの戦闘は滅多にお目にかかれない。迅ともう一人のブラックトリガー保持者、天羽が防衛任務に就く時は殆ど一人で行動することが多い。
『風刃の性能としては、視界の届く範囲に斬撃を伝播させて斬る、というシンプルかつ強力な性能だ。見た目は普通の孤月と同様であるが、スコーピオン並みに軽く、レイガストまではいかなくとも、非常に硬い。ブラックトリガーの性能に頼らず、ノーマルトリガーと同様の使い方をしても非常に強いトリガーだと思う。そして、迅のサイドエフェクトーー未来予知はこのブラックトリガーと相性が良過ぎる。故に初見で勝てる者は中々居ないだろう。私も初めてやりあった頃は敗北を幾度か喫したこともある』
どよめく観客席。
ここに座る忍田はノーマルトリガー最強の男であり、A級トップの太刀川隊の隊長にして、攻撃手No. 1の実力者である太刀川の、師匠である。そんな男でさえ、風刃には敗北を喫するという。
そんな風刃と、トップクラスの実力者を完封する霧ヶ峰の未知のブラックトリガー。この双方がぶつかる、となれば否が応でも期待せざるを得ない。観客席のテンションは天井知らずに上がっていく。
『おっと!マップ転送が始まりました!最終戦のマップはーーーなんと!廃墟街です!主にA級のランク戦で使われる難易度の高いマップです!』
『廃墟街、ですか。まだB級のため、そこに行ったことはありませんけど、其処まで難易度高いんですか?』
『Aー3、つまり、A級のLevel3のマップであり、最高難易度のLevel5から三番目に難易度の高いマップだ。このマップの特徴としては、戦場跡地を想定し、建物が脆く、足元の地面も陥没しているところだらけであり、Bー4の住宅街α……さっきまでの模擬戦に使われていたマップとは違い、安定しない足元、衝撃を与えただけで崩れ落ちる建物に気を配りながら戦わなければならない。更に言えば、天候も過酷なものも追加され、濃霧、砂嵐、ハリケーン並の暴風雨、風速20m/s以上の猛吹雪もある。視界は最悪と言っても良いだろう。このマップを切り抜けるには、瞬時に的確な判断と連携、空間把握力、そして、個人の実力も重視され、ありとあらゆる標準に高いものが要求される』
ゴクリ、と息を飲む声が彼方此方から聞こえてくる。
A級で追加されるランク戦のマップは幾度か見たことはあっても、B級、C級には体感した事が無い者ばかりであり、ピンと来ない事であったが、このマップを考案したとされる忍田の説明を聞いて、A級のレベルの高さに触れた為の声だった。
『詳しい説明ありがとうございます!説明の間に転送が完了したようです。モニターに映します!ーーー朝!天候は曇り!視界は霧が立ち込めるも、濃霧と迄はいきません!』
『良くある場面を選んだようだな。流石は実戦経験の豊富な霧ヶ峰だ。遭遇することが少ない過酷な天候でやり合うよりも平凡な天候で経験を積むことを優先したのか』
マップ選択権があったのは霧ヶ峰。
そして、霧ヶ峰が選んだのは廃墟に天候は曇りと霧。
これはこの地球でもよくある天候であるが、戦争の多い近界ならではの光景である。
本音を言えば、城か砦も欲しかったが、無いものは使えないので、状況が近い廃墟のマップを選んだのだ。
『カウントダウン開始!……3、2、1。模擬戦開始!おおーっと!双方共にいきなりブラックトリガーを起動しました!』
「ぼちぼちやろうかね。ーー風刃、起動!」
「いこう、命。ーー無限刀、起動」
Level3の廃墟街はゴッドイーターの『贖罪の街』をモデルにしております。アラガミは出ません。オプションでトリオン兵は出ます。
さて、次回、お待ちかねの霧ヶ峰のブラックトリガーの実力発揮です。