これは私個人の創作であり、原作・現実には一切合切、金輪際、全くもって関係ありません。
出会い
「おはよ、山口のおじさん」
「お、今度は新聞配達か。
「来月に『皇国のゴルゴン』のBDボックスが―――――――」
オタク少年、安芸倫也の説明を苦笑しながら聞いている近所のお馴染みさん。そのまま会話を済ませペダルを踏み込もうとした時、透き通るような少女の声が聞こえた。
「あああああ~~~!!ひったくり!!」
但し、内容はかなり切実なものだった。
声の方向に目を向けると、白いワンピースの少女がバッグを持って走っている派手なアロハシャツの男に手を伸ばし走り出そうとしていた。
「と、止まりなさいっ!」
「どけっ、こらっ!」
たまたま近くに居た警官が慌てふためながらも立ちはだかるが、アロハ男はバックを振り回し構わず走りぬけようとする。その進行先に居た自分と同い年くらいの少年は無表情のまま立っていた。
「どけって言ってんだろうが!!」
アロハ男はバッグを振り回し威嚇するが、少年はそれを叩き落しアロハ男を瞬く間にねじ伏せた。その動作には全く無駄な動きがなく少年自身も不自然なほどに冷静だった。
「・・・・こんなガキに・・・」
「ボサッとするな!確保だろ!」
少年の怒声に警官が手錠を取り出す。アロハ男は観念したのか大人しく地面に座り込んでいた。警官が無線で応援を呼ぶ間に被害者の少女が少年に近づいて来た。
「あ、あの、ありがとうございます」
ぎこちなくお礼を言う少女に少年はバッグを渡す。
「分かってると思うが、これでサヨナラじゃないぞ。君も俺も」
「ですよね~」
その一部始終を見ていた倫也は小さく一言呟いた。
「ゲームのワンシーンみたいだな」
そうこうしている間にサイレンが聞こえてきて倫也は仕事に戻ろうとペダルを踏み込んだ。
***
取調室での無駄な調書を終え、警察署の前で風見雄二は童顔の眼鏡女性、橘千鶴の運転する車に乗った。
「来た早々にトンでもない目にあったわね」
「別に・・・・あのまま、ダラダラと職質を受けているよりマシだったさ」
「あー、やっぱりそんなことに・・・・」
他愛もない話を続けていくうちに車は目的地に到着する。
「はい、着いたわよ、ここがあなたの母校となる、私立豊ヶ崎学園よ」
「なるほど、確かに普通の学校だ」
校舎を見上げた雄二は忌憚無い感想を言う。
創立十年にも満たない新しめの高校、グラウンドを見れば部活動に励む生徒達が映り校舎の窓にも何人かの人影が居た。
大荷物を持って校内を進む雄二の姿は流石に目立ち、好奇の視線を浴びながら二人は学園長室に入り腰を下ろした。
「改めて当学園、学園長の橘千鶴です。ようこそ豊ヶ崎学園へ。
お久しぶり、それとも、はじめましてかしら?」
「便宜上ははじめましてだろ」
「そうね。さて、あなたはこの春から2年生として編入してもらいます。
どう?あなたの望みどおり普通の学園生活が始まる気分は?」
「さっき見た休みなのに校舎に居る学生達、平日にはもっと増えるだろ、そいつらと同じ学生になる・・・正直まだ実感がわかないな。
ああ、そうそう、俺は何処で生活すればいいんだ?」
「マンションを手配しているわ。充分な広さだし家具も揃えてあるから大丈夫よ。学園の案内が終わったら送るわ。新学期が始まったらそこから通ってちょうだい」
「わかった。
しかし、本当に普通の学校に通えるとはな」
「ええ、あなたの境遇を考えると大変になると思ったけど、結構すんなり決まって胸を撫で下ろしたわ。・・・まぁ完全にではないけど」
「・・・・実は普通じゃない一面もあったりするとか?」
「さぁ、それは学校が始まってから自分で確かめたら」
千鶴の含みある言い方(害意ではないが)に雄二は眉をひそめながらも立ち上がり校舎を案内されていった。
一通りの説明を受けた雄二は自分が住むマンションに案内された。すぐ近くには先ほどひと悶着起こした現場があり何とも妙な気分になりながらも自分の部屋に案内されると新聞受けにはすでに夕刊が入っており口を開いた。
「随分と準備がいいな」
「だから言ったでしょ。大丈夫だって」
陽が沈んでいく背景に雄二は新聞を取り出し、千鶴から鍵を受け取り部屋の中に入った。
室内の設備も整っており簡単な確認を済ませると千鶴は帰路に着き、雄二も荷物を解き就寝した。
***
翌朝、5時前に目を覚ました雄二はランニングウェアで日課である早朝マラソンに励んでいた。
そして、そろそろマンションにさしかかろうとした時に新聞を積んだ自転車が目に止まった。どうやら朝刊の配達のようで入り口に近づくと眼鏡をかけた少年と鉢合い雄二は社交辞令で挨拶した。
「朝から大変だな。ご苦労さま」
すると少年は雄二の顔を見て驚いたように言った。
「あ!昨日、ひったくり捕まえた人」
「なんだ。見ていたのか?」
「まぁね。凄い大荷物背負ってたけど、新しく引っ越してきた人?」
気さくに話しかけてくる少年に雄二も素っ気無いながらも嫌味なく応える。
「ああ、風見雄二だ。春から豊ヶ崎学園に通うことになっている」
「奇遇だね、俺も豊ヶ崎学園の2年生なんだ。ああ、俺は安芸倫也、春からってことは新入生?」
「いや2年に編入する事になっている」
「じゃあ、ひょっとしたら同じクラスになるかもしれないな。その時はよろしく、それじゃ仕事があるからでこれで」
自転車に乗り去っていく倫也を一瞥して部屋に戻ろうとした時、ふと気付いた。
「ん?豊ヶ崎ってバイトは原則禁止じゃなかったか?」
何か事情がある苦学生かと思ったが不要な詮索はやめようと頭を振って新聞を取り出し部屋に入った。
***
翌朝、早朝マラソンを終えた雄二は、新聞配達に来た倫也に両手に持っていた二本の缶コーヒーの一本を渡した。
「ああ、ありがとう」
礼を言って缶を開ける倫也に雄二が語りかける。
「それにしても毎朝精が出るな」
「お互いにね。でもこれも欲しい物の為なら苦じゃないさ」
「欲しい物?」
苦学生だと思いコーヒーを差し入れたのだが、どうも事情が違うようだ。
「そ、もうすぐ待ちに待ったBDボックスが発売されるからね」
爽やかに暑苦しく語る倫也に雄二は冷めた目で言った。
「オタク趣味の為のバイトだったのか。よく学園が許可したな?」
「許可取るまで粘ったからね。それよりも君も興味ある?」
倫也はそんな視線などお構い無しに更に語ろうと詰め寄ってくるが、雄二の反応は迷惑そうではなかった。
「友人が妹萌えゲームのオタクだったが、同じ病気を持つ奴がここにも居たのは驚きだ」
「その人ホントに友達なの!?」
「それに俺の姉も漫画やゲームは話題づくりに役立つし、そういう縁で出来た友達は深く続くと言っていたからな。だから、まったく興味ない訳じゃない。」
「良い事言うお姉さんだね。やっぱり相当のオタクなの?」
「あ~、もしかしたら、そうなっていたかも知れないな」
「かもって?」
「ずっと前に死んだ」
「それは・・・なんと言っていいか・・・・」
流石に引く倫也に雄二は何でもない態度で返す。
「勝手に話したのは俺だ、気にするな。しかし、なんとなくだが一姫とお前は気が合いそうな感じがするな」
「カヅキ・・・お姉さんの名前か?女の子だと花とか月って字が―――――」
「いや数字の一に姫と書いて一姫だ」
「風見
少し考え込む倫也に怪訝な顔をする雄二、倫也は恐る恐るといった感じで尋ねた。
「なんでそんな事、教えてくれるんだ?」
「だから、なんとなくだ・・・・改めてなんでと言われると自分でも驚きだ」
センチメンタルとは違う意味で触れたくない話題だと言うのに、もしかしたら天才と呼ばれた姉にオタクというレッテルを貼ろうとした倫也に奇妙な好感を抱いたかもしれない。
「悪い、まだ仕事が残ってるんで俺はこれで」
されど倫也はバツの悪い表情を上げて去って行った。
雄二は失敗したかと思ったが、それ以上の感慨もなく部屋に戻っていった。
***
新聞配達を終えた倫也は自宅に戻り、録画したアニメの事もそっちのけで雄二との会話を思い出していた。
「いちひめと書いて一姫・・・・・」
そう呟いて春休みの残りの日程とバイトの予定を確認し、パソコンを立ち上げ調べ物を開始した。
(これは偶然か・・・運命か・・・・はたまた・・・・・)
漫画みたいだと思いながらも倫也の脳裏には〝ある過去〟が再生され、より深刻な表情で母方の実家までの交通費と日程の調整、行った後にやるべき事をするために必要なモノを準備する作業を進めていった。
当初は大人教師のオリキャラを考えていたのですが『あるアニメ』を見て〝冴えカノ〟の作者の作品が無性に使いたくなり練りなおした結果、こうなりました。