グリザイアに射す陽光   作:a0o

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 後編が始まります。



鮮やかなる彼女の収めかた
緊急帰国


 安芸倫也が旅立ってから一年後の七月の暑い日、国際線のターミナルに向って白いワンボックスカーが走っていた。駐車場に車を停めて降りてくる二人の女子、黒髪ショートカットの加藤恵と赤髪ロングヘアの周防天音は時間を気にしながら空港ロビーに向う。

 

「どうにか間に合ったようね」

 

「一時はどうなるかと思ったけど良かった」

 

「それにしても急だよね」

 

 入国ゲートの近くまで来ると丁度、ゲートが開き乗客達が続々と押し寄せて来た。

 その中にスーツケースを左手で引き摺る安芸倫也の姿があり、その顔は酷く疲れている様子だった。そして右手に持っていた黒い携帯電話の画面を確認すると懐に仕舞い辺りを見回すと目当ての人物達が近づいて来た。

 

「お帰りぃ~。四、五年って話だったの随分早かったね」

 

 天音の明るい感じで話すも倫也は肩をすくめ短く答える。

 

「急を要する事態でして」

 

「疲れてるのは長旅だけって感じじゃ無さそうだね」

 

 そこに恵が鋭く指摘し同じく淡々と答える。

 

「真っ直ぐ日本に帰ってきたわけじゃないから・・・・・ホントに短期間で色々な所に行って来たよな。はぁ」

 

 疲労から来る溜息に話は後にしようと言おうとした所で、

 

「うぎゃっ!」

 

 素っ頓狂な声に視線を向けると男の子が転んでおり、鞄から様々な荷物が散らかっていた。その中にある『フィールズクロニクル』と題された雑誌が目に入り、倫也は早足で歩き拾うのを手伝った。

 

「あ、ありがとうございます」

 

 男の子が慌てて礼を言い、倫也は嬉しそうな顔で問いかける。

 

「どうしたしまして。それにしても随分読み込んでいるみたいだけど好きなの、フィールズクロニクル?」

 

「うん!ゴールデンウィークのイベント観て一気にファンに成っちゃった。もう今から楽しみでしょうがないよ」

 

「そっか。はい、これで全部だな、気を付けるんだぞ」

 

「は~い」

 

 満面の笑みで去っていく男の子に手を振っていると恵と天音が近づいて声を掛ける。

 

「オタク魂が再燃した?」

 

「もしかしてこの為に一年で帰ってきたの?」

 

 倫也は振り返り答える。

 

「全然違う。ちょっと贔屓のクリエーター()が関わってるって聞いたから気になっただけ。

 って言うか、無駄話(・・・)してる暇無いから行こうか」

 

 適当にあしらったつもりだろうが、事情を大体どころか全て把握している彼女達は何ともいえない目で倫也の背中を見ながら歩いて行った。

 

 駐車場で天音が運転席、恵が助手席に座り、倫也も後部座席に座ろうとドアに手をかけそうとした時に胸から振動が響き、携帯を取り出す。

 

〝少しくらいなら時間は作れるわよ?〟

 

「俺はやるべき事をやり、あの二人はクリエーターの本懐を遂げる。それだけですよ」

 

 そう呟き乗車すると恵が声を掛けた。

 

「何か急用?」

 

「なんでもない詰まらないこと。それより此処まで頼む」

 

(心に余裕が無いのは相変わらずか・・・・・)

 

 そう言って地図付きのメモを渡し、倫也は目を閉じてしまい釈然としない雰囲気の中で発車した。

 

 

 ***

 

 

 同時刻、市ヶ谷では風見雄二が昇進の為に纏めた資料を提出していた。

 

「はい、確かに受け取りました。では後日、また詳細な予定を連絡します」

 

 資料を受け取ったキアラ・ファレルは事務的な応答の後、私的な誘いをかける。

 

「風見さん、この後は暇ですか?もし良かったら私と―――――」

 

「すまんが、これから久しぶりに友達に会うんで失礼する」

 

 取り付く島も無く速攻で帰っていく雄二にキアラは不満一杯の視線を送っていた。

 

 いつも通りのやり取りに何一つ思う事無く雄二は携帯メールから安芸倫也の帰国と待ち合わせ場所の蕎麦屋(・・・)の地図を受け取り、駅のホームに向うと自分とは反対車線で電車を待っている黒髪ロングと金髪ツインテールの少女達が目に入った。

 

「イベントは上々だったお陰でユーザーの期待も高まってる。ここで更に度肝を抜くストーリーで駆け上がるわよ」

 

「・・・・・意気込みや立派だけど・・よくもあんなラストを書けたわね。今思い出しても無茶苦茶エグイわ」

 

 

「あら、時間が許す限りはまだまだ煮詰めていくわよ」

 

「!!そんなのあたしだって・・・・海の向うにいる倫也に恋させて、戻ってきたくなるような―――――――」

 

 英梨々の指摘に詩羽は暗黒美女のオーラを静かに出し、以前の英梨々なら引いたかもしれないが、現在は気負う事無く張り合ってくる。

 

「今の倫理君の心中を思えば、無理を通り越して不可能とも言えるわ。

 だからこそ、彼にそんな苦しみを背負わさせた〝神様〟とやらは絶対に赦せない・・・」

 

「・・・・倫也の気持ちを考えて考えて・・・それが形になってあのグロさって訳ね」

 

「文句でもあるの?」

 

「ううん、立派、立派。

 でもまだまだ足りないわよ〝あの女〟は路線こそ違えど、本物の天才いや神掛かってるなんてレベルじゃない・・・あたし達が目指す先はまだまだ遠いわよ」

 

「当然よ。フィールズクロニクルも紅坂朱音も踏み台にして倫理・・安芸倫也の心を絶対に取り返す、いいえ今度こそ捕まえて離さないだから」

 

「〝あの女〟の事知らない癖に・・・・・精々、挑むべき敵の大きさを知って尻尾を巻くのね。その間にあたしはその上に行ってやるだから」

 

 英梨々のキービジュアルで血反吐を吐いていた以上の闘志を込めた発言に、詩羽は不満そうに嬉しそうに応じる。

 

「言うように成ったわね」

 

「今でも怖いわよ。でもそれを承知で挑まなきゃ、超えられないし勝てない」

 

 小動物だった気性から一皮向けた『柏木エリ』に『霞詩子』は頼もしさと新たな恐れを感じるも同じく立ち向かう〝(てき)〟を再認識した。

 

「・・・・・・・・」

 

 そんな彼女達の後ろで気配を消しながら聞き耳を立てていた雄二は、声も掛けず電車に乗り込むのを見送りながら感想を抱く。

 

(一姫の本当の凄さは絵描きとしてじゃないって言っただろうに、仮に超えたって倫也(アイツ)の心を手に入れられるかは解らんぞ)

 

 そんな彼女達の望みが叶うとしたら、倫也が抱え()()()()()いる問題を解決するしかなく、それなら自分にも出来る。

 

(だが障害があるほど恋は燃え上がり、そして恋の力は偉大か・・・・それが良い感じに流れているなら、今は倫也の帰国は伝えない方が良さそうだな)

 

 消極的ながらも結論付けた雄二は到着した電車に乗り込み目的地に向った。

 

 

 ***

 

 

 空港から快適な運転の中で熟睡していた倫也は、目的地の蕎麦屋に着いたと起こされ欠伸しながら外に出ると『Wifi はじめました』や『メイド蕎麦』と言った怪しさ満点の蕎麦屋〝岡田屋〟を見ていると、怪訝な顔した顔をした恵が尋ねた。

 

「ねぇ、本当にここでいいの?」

 

「ああ、間違いない。突っ立ったてても仕方ないから、さっさと入ろう」

 

 困惑が解消されない恵と同じ気持ちだと言わん顔をしている天音を引き連れて店に入る。

 

「お帰りなさいませご主人様!」

 

 引き戸を開けた瞬間に猫耳メイドの元気な声が響き、女性陣は眼を丸くするが倫也は淡々と指を三つ立てる。

 

「三名でお願いします」

 

「かしこまりましたにゃん!」

 

((にゃん!?))

 

 女性陣の困惑が加速していく中で奥座敷に案内されて行くとメイドが注意を促す。

 

「そこ段差があるから気をつけるにゃよ?」

 

 そして注意どおり段差を回避し問題なく席に座っていく一同にメイドは感心した顔で、お冷とお品書きを渡し、それぞれが注文する。

 

「はい、ご注文受け賜りましたにゃん。ではごゆっくり~」

 

 お品書きを持って去っていくメイドを見ていた恵に、倫也が声を掛ける。

 

「それで、彼氏さんは?」

 

「あ、うん。電車に乗るってメールが着たから、まだもうちょっと」

 

 そこに天音が、やや(・・)強引に混ざろうと尋ねてきた。

 

「それより、いい加減にどう言う事なのか説明してくれない?私達、何も聞いて無いんだよ?」

 

「それは役者が全部揃ってから、その方が効率いいし。

 それにまだ眠いから蕎麦が来るまでは、もう少し寝かしといて・・・じゃ、おやすみ」

 

 そのまま目を閉じてすやすやと寝ていまい、本当に疲れている様は疑いようが無く、仕方なく黙って待つことにした時、厨房から奇声が響いた。

 

『サックジャーープ!エロシーンでソックスを-------』

 

「酷い店に来ちゃったね」

 

 天音は発言には後悔に近いニュアンスがあり、対して恵は無難な推測でお茶を濁そうとする。

 

「やっぱり安芸くんのオタク時代の友達なのかな?」

 

 そして、しばらく待っていると三人分のざる蕎麦が揃い眠い目を擦って大きく背伸びをした倫也が手を合わせ号令する。

 

「それでは頂きます」

 

「「頂きます」」

 

 食事中は会話も無く、店はお昼時なのかそこそこに客が入ってくるが、肝心の待ち人である風見雄二は来ず、食べ終わった後で倫也は再び寝てしまった。

 

「どうします、お会計だけでも先にすませときます?」

 

「そうだね~、ユージもまだ来ないみたいだし」

 

 恵は倫也を起こさないように小さく声を掛け、天音も応じようとするがメイドが陽気な声で言う。

 

「大丈夫ですにゃん。代金は既に頂いていますにゃん」

 

 恵と天音が寝息を立てている倫也を見るがメイドが否定する。

 

「代金は〝創世のタナトス〟様からですにゃん」

 

「えーと、どちら様」

 

 天音の疑問に恵は首を横に振り、メイドが笑顔で倫也を見る。

 

「この人の今仕えているご主人様・・・う~にゃ、()()()()()()ですにゃん」

 

 その全く訳の解らない返答に二人は顔を見合わせるしかなく、答えを知っているだろう倫也は何事も無いような顔で寝ていた。

 

 

 ***

 

 

 一方、風見雄二は電車に揺られながら乗り換えには品川を経由するか渋谷を通った方が良いかと考えていると肩に何かが当たり目を向けると、隣に座っていた三十前後の中性的な女性が涎を垂らしながら、だらしなく寝ている姿が目に入った。

 スレンダーで小柄な体型で髪を後ろで束ね容姿も悪くなく、普通なら役得な状況であるが万が一どころか億に一つでも今の状況を見られたくない雄二は頭を退かそうと手を当てるが、それで起きたのか女性が口を開く。

 

「疲れてる女を介抱してあげようって優しさは無いのか?」

 

「ご愁傷様だとは思うが、こっちにも事情があるんでな。こんな所を見られると面倒で困ることになるんだ」

 

「ハッ、女持ちか。いいね、リア充な青春」

 

「ああ、この出会いをくれた神様・・・・・いや、これに神様は関わってないから運命に感謝だな」

 

 雄二の正直な感想に隣の女性は面白くない目を向け嫌味を返そうとするが、

 

「ちなみに僻みにかこつけた愚痴なんて聞きたくも無いから、そう言うのは身内か余程のお人好しにでもしてくれ」

 

 先手を打たれ出鼻を挫かれるが、引き下がることはせず口を開く。

 

「じゃ、独り言でも言おうかな」

 

「今度は俺が寝ようかな」

 

 互いに引く姿勢を見せず女は窓を向き、雄二は手摺りに頬杖を付く。

 

「あーあ、全く途方も無い事を思いつくよな、あの作家先生。クライアントの連中、青ざめてやんの。お陰で広報戦略も一からやり直しだ」

 

「ふぁあ~」

 

 話しが始まったばかりにも関わらず雄二の〝余りに退屈〟と言わんばかりのワザとらしい欠伸を窓越し見た女は目を引きつらせながらも続ける。

 

「ま、私的には全然OKなんだけどな。って言うかこんな面白いのを使わない手があるかっての、今までにない最高の仕事になりそうだ。

 もっとも、次の仕事はそれ以上のを創る(・・)けどな―――――――」

 

 こちらもこちらで愚痴から自慢話に代わって饒舌なっていく最中、雄二は黙っていながらも思った。

 

(なんだか、ついさっきにも似たような話を聞いたな)

 

「もっともアイツ等も何に必死なんだか、と言うどこまでベタ惚れなんだよ、その女誑しのハーレム王子に。必死を通り越して命懸けでも生温く感じるよあの執念」

 

 雄二は隣の女の名前と正体が大体想像出来た。

 

(これも神様が仕組んだのか?まぁ、なんにしても面倒くさいから渋谷で降りるか)

 

 こうして後ろ向きかつ消極的にルートが確定し、雄二は女の話に終始何も答えず乗り換え駅のアナウンスで立ち上がる。

 

「なぁ、一言くらい感想くれないか?」

 

 女は不遜な態度で言ってくる。無視してもいいが雄二は一瞥し口を開く。

 

「いいんじゃないか別に」

 

「・・・・・・・・・」

 

 今度は女の方が詰まらない目をする。

 

「他人への見栄より自分への意地の方が純粋だと俺は思う。そして高潔な使命より美人でいい女といちゃつきたいと思う方が遥かに力になる」

 

 そう言って雄二は女に顔を目と鼻の先まで近づける。

 

「み、見られたら・・こ、こ、困るんじゃないのか?」

 

 いきなりで流石に狼狽する女に素で返す。

 

「誰も見てないことは確認した。そんな訳で俺は降りる、それじゃ」

 

 雄二は顔を放すと電車の扉が丁度開き、そのまま降車して行き女は息を整えながら眺めていた。

 

 

 ***

 

 

 蕎麦屋で待っている一同、倫也はまだ寝ており、恵は携帯をいじり、天音はお客が自分達以外居なくなるのをただ眺めていた。

 

「雄二くん、もう直ぐ来るそうです」

 

 恵の報告にメイドは奥に引っ込み代わりに蕎麦屋の制服を着てノートパソコンを持った、胡散臭そうな外国人の男が現れる。

 

「やっとか、ユーズリー」

 

 そのまま倫也達の席に来る男に天音が尋ねる。

 

「えっと、どちら様?」

 

「この店の店主をしてる者でユーズリーの友達さ。どうだった僕の打った蕎麦は?」

 

「ユーズリーって雄二くんのこと?」

 

「・・・・・・・」

 

 天音より先に恵が肝心なことを問い、不満そうに目を細める。それを苦笑しながら見ていた店主は自己紹介をしようとした時、店の扉が開き待ちかねた風見雄二がやって来た。

 

「へーい。いらっしゃい!」

 

「ロビー、どうして―――――」

 

「おおっと、僕はこの店の店主でジェームズ・岡田。似たような知り合いがいるのかな、ユーズリー」

 

 その言葉で状況を大体察した雄二は調子よく話を合わせながら、扉を閉め店に入って行く。

 

「ああ、ちょっと昔の戦友に似ていたものでな。ええっと・・・・」

 

「ああ、ジミーでいい」

 

「そうか。そっちの女は誰なんだ?」

 

 雄二は視線を厨房の出入り口に向ける。寝ている倫也を除いた全員が目を向けるとスカートスーツに鋭い目をした女が()を構えたまま近づいて来た。

 

「はじめまして、ゾーイ・グラハムと言います」

 

「ちょっと何事なの?!」

 

「・・・・・・・・・」

 

 天音は慌て、恵は呆然とし、ジミーは扉を開け閉店の札をかけた後に一同に合流する。

 

「この時をずっと待っていました。風見雄二」

 

 殺意を隠さず近づいて来るグラハムに雄二は慌てる事無く達観した目で見ていた。

 




 後編は一気にではなく普通に投稿します。

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