今回、私見が入ります。
翌朝、加藤恵は洒落た服に身を包み鏡の前で身だしなみの確認をしていた。しかし内心は晴れやかとは程遠く、近くに置いてある
(こんな格好して何の意味があるんだろう?)
荷物の上に置いてあるアニソンのチラシを見ながら、昨晩と同じ様にこれも雄二の為と言い聞かせているものの、やはり釈然としない気分になってしまう。そうしている内に時間が来てしまい、持って行く物を確認して家を出る。
***
同じ頃、風見雄二も洒落た服に身を包んでいたが、指を組んで座り込みこれからデートとは思えない表情で仕事用の携帯電話を見ていた。時間にして数分も今の雄二には只管長く感じ、今か今かと連絡を待っていた。
(だけど掛かってきても慌ててはいけない。あくまで不満そうに・・・・)
そして、待ちに待った電話が鳴り響き、ゆっくりと深呼吸をして通話ボタンを押し耳に当てる。
『ユージ仕事よ』
「・・・・これから恵とデートなんだが」
『却下よ!今とんでもない案件が飛び込んできて、頭が痛いなんてレベルじゃない大騒ぎなの!!キャンセルして今直ぐに来なさい!!』
取り付く島もない勢いで伝えて電話を切られ雄二は複雑な顔で恵にキャンセルのメールを打ち込んでいく。
(出来ないと分かっているデートを約束しワザワザ伝える・・・・どんな茶番だ)
恵を守るために念入りなアリバイ作りが必要と理解しているものの、当の彼女は不満極まりない顔をしていたし、これから先の指示も含めて考えても面白くない事この上ないだろう。
(全部終わったら幾らでも愚痴は聞いてやるし、気が済むまで埋め合わせに付き合うから)
心の中で謝罪し雄二は家を出た。
***
そんな二人の不満を察しながらも安芸倫也は正装を着込み、鞄の中に入った書類を確認するとチェックアウトし迎えの車を待っていた。少しして電子音が響き黒い携帯電話を取り出す。
『顔色、良くなったわね。ちゃんと眠れたようで何よりだわ』
辺りを見回し防犯カメラを見つけると静かに口を開く。
「お陰様でクタクタでしたから・・・・それでも不安は拭えませんよ。
特に今の風見と加藤の事を考えると・・・・・あの指示・・やっぱり私情混ざってません?」
『適役を采配しただけ、と言うのが一番の理由よ。でもそう言われると否定しきれないわね、残念でも悔しくも無いけど』
「・・・・・・・・・」
実際には会ったことが無い〝彼女〟が微笑んでいる姿が頭に浮かび、無意識に目が泳いだ。
『色々と問い詰めたい顔してるけど、それはまたの機会にするわ。それより今、迎えが来るから気を引き締めておきなさい』
その言葉通り、白いワンボックスカーが表れ運転席から天音が元気に挨拶した。
「おっはよ~!いや~、いい天気になって何よりだよ。さ、乗って乗って」
促されるまま助手席に乗り込み、そのまま出発する。後部座席を一見すると大きい荷物が載せられており、上機嫌の天音に話しかける。
「嬉しい気持ちはよく理解できますが、浮かれすぎは好くないですよ」
「分かってるけど、興奮が抑えきれなくてさ・・・この日が来るのをどんなに待ちわびたか・・・・」
「だから・・それが早すぎるんですよ・・・加藤と違って、命の危険が皆無じゃないんですから、感動も興奮も今は仕舞ってください」
「連れないな~、経緯は違えど私たち皆は同じゴールを目指してる者同士でしょ?」
『そんな気分になれないのも当たり前だけどね』
突然、発せられた第三者の声に倫也が持っていた携帯電話に注目が集まる。
「まだ通話中のままでしたね、心臓に悪いから最初から話に入ってくださいよ・・・どうせなら」
『
「あの役は俺が適役でしょ?尤も信用しきれないのも理解できますから、それが貴女の判断なら降りますよ」
「格好付けてるとこ水刺すけど・・・その足の震えは武者震いか貧乏揺すり?」
天音の視線が下に行く中で倫也は足を押さえ口を開く。
「そんなの決まってるでしょ。死ぬほど怖いですよ・・・一年前のあの時とは比べ物にならないくらいに」
『なら、あの時みたいに見栄を張らずに命を張るリスクの少ない所で―――――』
「昨日の加藤の・・・・・あんなシーン見せられたら・・・俺だって
恵の壮絶な行動と覚悟を思い出し、一応の理解はするものの納得は仕切れずに更に水を刺す。
『想定できるあらゆる状況に対して安全を確保できる方法は伝えてある・・・それでも絶対じゃないわよ?』
「それでいいじゃないですか。リスクを把握してないような安易な絶対を断言する方が返って信じられません」
倫也の無理をしている顔をしながらも言い切る姿に、天音は少々痛々しい口調で言う。
「一年前はまだ普通だったのに・・・・変わっちゃったね。良いのか悪いのか解らないけど・・・・・・」
「伊達に一年も〝
『そうね。取り憑いてないわね~』
「うわっ、開き直ったよ・・・でも、なんか納得」
なんだかんだで息が合っている遣り取りを聞きながら、天音は悪くない気分で締めよう元気よく声を出す。
「ま、とにかく今から始まる
『天音、それは違うわ。事が始まってしまえば、最早負けたも同然。
私たちは全てが・・・・終わりが始まらないようにする為に行動するのよ』
「ついでだから今のうちに必要な物を渡しときますね」
「この中には当座の金も入ってますから絶対に無くさないでくださいよ。ホントに大変な思い
「・・・・もー、わたしも混ぜてよ」
不満そうにしながら受け取る姿に軽く返す。
「その為にがんば・・・最善を尽くしましょう」
『その時が来たらお願いね』
「ちょ~と面白くないけど、うん、わかった」
そして目的地である某国の領事館に到着し倫也はネクタイを直して入って行き、天音は次の待ち人の下へと車を走らせた。
***
市ヶ谷本社に到着した雄二は早々に黒服の男達に囲まれ不遜な態度で尋ねた。
「なんの真似だ、何かした覚えは無いんだが?」
サングラスをかけた黒服の一人が前に出て、雄二と同等以上な不遜な態度で答える。
「私は諜報1課の者だ」
「1課が俺に何の様だ?俺は2課の人間で担当官に呼び出されてるんだが」
「単刀直入に言おう。現在、特9に該当する事態が発生している」
特9、全てにおいて優先される最重要任務。それで理解したのか大人しくする雄二に笑みを浮かべ続きを話す。
「春寺三佐は特別方面の作戦計画の会議に出ている。方針が決まるまで貴様の行動は制限させてもらう」
「・・・・ただの待機じゃない大仰な歓迎・・・なにがどうなっているんだ?」
(仕方ないとは言え二日連続で同じ質問をするのは面倒だな)
内心では馬鹿馬鹿しいと思いながらも表に出さないよう努め、相手も感情を抑えた口調で短く答える。
「それは私の口からは言えん。貴様は大人しく我々に従え、いいな」
「・・・・一応、アンタの名前だけは教えてくれないか?」
「アダムだ。ちなみに貴様の女には後で粗品でも送って置こう」
「自分でするから結構だ。もし近づいたら唯じゃ置かんぞ」
「ならば尚更逆らわん事だな、9029」
そのまま雄二は抵抗する事も無くアダム達に囲まれ歩いて行った。
***
昼食時も過ぎたスカイツリーの前で足元にケースを置いて携帯をいじる加藤恵の姿は、さながら観光客を連想させるが内心は楽しいとは全く無縁であり、その元凶による次の指示を考えていると待っていた白いワンボックスカーが到着した。
「お待たせ~。待ちくたびれちゃった?」
天音の嬉しそうな声に恵みは素っ気無く返す。
「・・・待っているより、中に居たほうが退屈でした」
恵みはツリー内での行動を苦々しく振り返る。予定通りにデートがキャンセルのメールを受け取りながらも渡されていたチケットでツリーに来て、指示通り決められた時間に指示された箇所を新しい黒い携帯で写真に撮る。景色だけじゃなく〝来訪している客や職員達〟もアングルに含める様にして・・・・なんとも単純でどれほどの意味があるのかと問いたくなる作業だった。
「・・・・もしかして・・とちっちゃったりした?」
「あの程度の事で何をしくじれと?ちゃんとお
口調は静かなれど不満一杯のニュアンスで携帯を差し出す。
「見たって分かんないよ。それより早く行こう、それで
「・・・・・・・・・」
何も言わないまま車に乗り込む恵に苦笑しながら、倫也に渡された封筒の一つを差し出す。
「中に必要な物が入ってるって、それと
黙って受け取り中身を確認すると恵のパスポートと自分名義のクレジットカードが入っており、静かに呟く。
「どうやって造ったんでだろう?」
「それは一姫のお陰でしょ。偽造でもないし問題ない方法で稼いだって言ってたから、大丈夫でしょ」
「裏技ならぬ神技って言えばいいですかね?」
「上手い事言うね~。なんて、のんびりしてる時間も勿体無いから発車するよ」
恵とは正反対に嬉しそうな気分を隠す事も無く、天音は車を走らせ適当に近い服飾店に停車する。車から降りた恵の手にはメモがあり確認しながら一緒に店に入って行き、書かれているサイズの服を無造作に選ぼうとする。
「あー、待って。それよりもこっちの色の方があの娘には合ってると思うから、こっちにしよ」
天音は笑顔で白いワンピースを手にとって見せ、恵が思った事を言う。
「わたしは会ったこと無いから分かりませんけど、清純派みたいな色が似合う人なんですか?」
「ん~、と言うかあの娘って色白だから服もそう言うのに合わせた方が良いかな~って」
「色白・・・・」
「うん。髪とかも白いんだよ。ちなみに目は赤い」
「・・・・あの・・・それって・・?」
「色素欠乏症なんだって、だから暑い日差しは駄目だって言ってたかな」
懐かしむ天音に恵は他の服を選びながら懐疑的なニュアンスで言う。
「それなのに、
「それは流石に、ある程度は仕方ないんじゃない。ほら、本人だってママならないとか言ってたし」
「神様みたいでも、なんでもって訳にはいかないんですね。
少し安心しましたかね、あ、ならこういう系も買っといた方が良いですよね」
「うん。いいね」
恵から毒気が抜けた事を感じ選んだ黒と紺の服を見て気さくに応じて、数日分の服を揃え次のコーナーに向う。
「こっちは機能を重視した方がいいかな?」
「予算内で、ですよ」
女性向けの下着コーナーで
「そちらも観光ですか?それともご旅行ですか?」
「ええ、今から南の島に」
「いいですねー、夏ですもんね」
「ええ・・・でも、余りに急だったんで、色々と大変でしたけど」
恵は再び気分を沈ませ、昨夜の両親の説得を思い出す。明日突然に泊りがけの旅行に行くと言い出したので当たり前の様に驚かれ詰問されたが、話しが出たのはその数時間前でどうしようもなく、されど事情を細かく説明する事も出来ずに『今度からはもっと早く言うように』と窘められながら了承を得たのだが、両親への申し訳なさと突然の気苦労で大いに胸がつまる思いをした。
「あのー、何かいけないこと言いました?」
「気にしないで、ほらっ、順番来たよ」
恵の反応に少女がオズオズと聞いてくるが、天音が苦笑しながら取り成して会計を済ませて会釈を一つして去って行き、自分達も会計してそのまま店を出た。
「でも、どうせなら服だけじゃなくて食料も買い込みたかったな。私の手料理、沢山食べて欲しいのに」
最後の目的地に向う途中で再び不機嫌になった恵に元気よく話しかける。
「必要なら向うでわたしが買っておきますけど・・・・話を聞く限り、しばらくは口にできる物も限定されますから・・・そう言うのはまだ先になりますよ」
「何がどうとは言えないけど・・・一姫と通じる一面がある気がするよ。ユージが惹かれたのも・・・ひょっとして」
「褒め言葉と受け取って置きます。
それと、わたしが言うのもなんですけど・・・彼のことは、ホントに----」
「出会いがもうちょっと劇的だったり親密に付き合ってたら、のめり込んでたかもしれないけど・・・『今』の私にはどうしても親友の弟ってのが抜けなかったからね」
「喜んでいいのか、微妙ですね」
そのまま目的地である空港に着き、事前に用意されていたビジネスジェットの前まで歩く。
「それじゃ、わたしは先に行ってます」
「うん。
「手続きなんかに奔走したのは安芸くんですけどね」
「信用されてるんだね・・・・羨ましいよ」
「去年は痛々しいほど頑張ってましたからね・・・・寧ろ、その為に試してたのかな?」
「加藤さんって、安芸君とも気が合いそうな感じがするね・・・・」
(・・・・だから、一姫も)
天音は思いに耽りながらも恵の荷物を運ぶのを手伝い、最後に挨拶する。
「わたしの役目はここまでです。お気をつけて」
「うん、分かってる。それじゃあ、待っててね」
恵が飛び立って行くのを見送り、天音が車に戻り頬を叩いて気合をいれ発車させた。
ここから多少、強引に行きます。