グリザイアに射す陽光   作:a0o

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 ご都合主義も入りますのでご容赦を





それぞれの心中

 安芸倫也は案内された領事館の一室でずっと待っていながら時間を見ていた。

 

(そろそろ加藤が出発した頃かな?)

 

 そう思いながら黒い携帯を取り出し操作すると、『スカイツリーより』と題された写真を見る。展望台の高い所から撮られた景色や限定グッズを売っているショップの数々の端に〝有限会社アサヒクリーン〟と記された器機を持って仕事をしている清掃スタッフや観光客風の男女のカップルや一人でいる者と指示通り(・・・・)余計な物が満載の写真だが、彼らの正体を知るものを見れば最低でも舌打ちの一つでもしたくなるだろう間違いなしだ。

 

(でも・・・少しの時間稼ぎにしかならないんだよなぁ)

 

 その疑問に打ち合わせでの会話とその後の帰国までの道のりを思い出す。

 

『代替核・・大量破壊兵器の宣伝場所を再検討させるには十分・・・それに―――――』

 

 そして説明される計画、その為にまず資金集めと携帯金山から始まりアジア各国やヨーロッパ、時にはアメリカに戻って再びアジアなど僅か一日で目まぐるしく走らせられた。

 そうして資金が集まると面倒な交渉や手続きの為に書類を作成させられまた走らされ、準備が〝大詰め〟になりやっと日本に帰って来た。

 

(あと一息、ここでの仕事が終われば漸く一息つける。その後は・・・・・・)

 

 冷や汗をかき胸に手を当て、ゆっくりと深呼吸をする。

 

(基本的には信じて待つだけだけど、もしもを考えると・・・・いや、却下だ)

 

 脳裏に二人の女が浮かんだが振り払い、覚悟が決めきれないならと改めて自分に言い聞かせる。

 

 そうしてドアが開く音共に領事がやって来て握手を交わす。

 

「いや、申し訳ない。突然バタバタした事態が飛び込んできてしまって」

 

「お気遣い無く。事情は此方も把握しておりますので」

 

「それもそうですな。しかし・・それならば―――――」

 

「生憎と俺も詳細は分からないんで聞くだけ無駄ですよ」

 

 倫也が持ち込んだ情報が伝わりタナトスの指示で令状が発行され、杉並区と新宿区にあるオスロの息のかかった製薬会社の工場と研究施設に出せる人員は全て投入されているはず、世間が大騒ぎにならないようにしているようだが、その為にさらに召集された他の関連省庁も巻き込んでとなると関係する機関が気付かない訳がない。正確な情報を得ようと水面下で動いているのは想像に難くない、この領事もその一人だろう。

 

「まぁ、そうでしょうね」

 

 あっさり引き下がる領事に倫也は鞄から取り出した書類を差し出す。

 

「では確認をお願いします」

 

「しかしこう言った形式的ものは郵送で済ませたいですな」

 

「物が物ですから、そう言う訳にはいきまんしね」

 

 眼鏡をかけ目を通した領事は頷きながら返す。

 

「分かってますよ。はい、確認しました」

 

「では、よろしくお願いします」

 

「もう行くのですか?食事をご一緒にと思っていたのですが」

 

「有り難いお話しですが、これから行かなければならない所があるので」

 

(それに善くないお客が来るのに巻き込むわけには行かないしな)

 

「それは残念、スペンサー外交官へのお話しにもなると思ったのですが」

 

 倫也は(意外では無いまでも)出て来た名に目を丸くするも気さくに返す。

 

「後日、よろしくお伝え下さい。直ぐに日本を発たなくてはいけないので」

 

 そのまま歩いて部屋を出て行く倫也を見送った後で一言呟く。

 

「お嬢さんも会いたがっていたって言ってましたよ」

 

 

 ***

 

 

 市ヶ谷本社の地下で待機と言う名で軟禁されている雄二は宛がわれていた部屋で寝そべってテレビを見ていた。傍目には他にやることが無く暇を持て余しているようだが、適度にチャンネルを変え報道を確認しながら来るべき時にやる事を反復していた。

 

(この階の見取り図は叩き込んだ。姉ちゃんの居る所までは大してかからんが・・・・・『地下に捕らえられている天才犯罪者』が姉ちゃんだったとは・・・・)

 

 もし口に出していたら『私は犯罪者じゃない』と字幕が流れるだろうことを思いながらチャンネルを変えるが目立ったニュースは無く徹底した報道規制に緊張が高まる。

 

(オスロに来て欲しくないのは勿論だが、たかられる物も相当痛いってことか・・・)

 

 それが自分の姉であると言うのが笑えなく、同時にどうしようもなく腹立たしかった。

 

「一体何が起こってるんだ。俺はいつまでここに居なくちゃならないんだろう」

 

 棒読みの様に決して感情を込めないように言うが部屋にはテレビの音声が流れるだけだった。

 

 

 ***

 

 

 モニター室でそれを見ていた監視員は呆れた顔で呟く。

 

「まったく・・・・拘束されないだけでも感謝しろよ」

 

 1課のアダムからは〝敵に渡すぐらいなら今直ぐ処刑したいぐらいだ〟などと比喩されて警戒されるには思えない、ひ弱で無愛想なガキだが任務である以上は仕方がない。

 

「〝何故こんなガキが〟か。もしも・・が起きてそんな後悔、本当にするのか?」

 

 アダムが予言と称して言っていた言葉を思い出しながら監視を続ける。その呟きを聞いている者が居るとも知らず。

 

 

 ***

 

 

『大丈夫、そうならない為に今動いてるんだから』

 

「はい?」

 

 長旅になれども眠れずに加藤恵がいつもの様に弄っていた携帯から、突然の意味不明な発言に素っ頓狂な声を上げタナトスは愉快な声で続ける。

 

『あら、ビックリさせちゃった』

 

「この期に及んでなんの用ですか・・・もう、わたしのやる事は終わったんですよね?」

 

 対して恵みは携帯を隣の席に置いて不機嫌な声で飛行機の座席に深く座りなおしながら窓を見る。

 

『空の旅は快適じゃないようね』

 

「誰の所為ですか・・・それにみんなが・・必死にならなきゃいけない時に・・・・」

 

『その気持ちだけにして置きなさい。貴女が現場にいたってメリットは無い、寧ろ実質的にも精神的にも足手まといよ』

 

「・・・・ハッキリ言いますね・・・別にいいですけど」

 

『ちゃんと弁えてるわね。そう言うところ結構いいわよ』

 

 嬉しそうな声を聞き続けると観念したのか溜息をついて話を切り替える。

 

「わたしを弄る為に話しかけたわけじゃないでしょうに・・・かと言って空の上のわたしに出来る事があるとは思えない・・・・雄二くんとの事ですか?」

 

『正解。私にとって貴女はイレギュラーだったから』

 

「イレギュラー?」

 

『私は当初、ユージと倫也君を接触させて天音を見つけ出させ、彼がアメリカに行った後の事は天音にユージをと考えていたの』

 

「天音さんのこと買ってるんですね」

 

 恵は意外と言いたげなニュアンスで驚く。

『ええ、今でもユージとの相性は一番だと思うわ。天音ほど都合がよくて母性に溢れてる女って早々居ないもの』

 

「母性・・・・」

 

『本当に母親になれば今は無い魅力が増す事になると思うわ』

 

 天音を褒めているその言葉は間違いなく姉であり弟を思う愛があり、そこには女や独占的な感情は無かった。

 

「可愛い弟を取るなって話になるかと思ってましたが」

 

『私はあの子を愛してるけど、姉である事を捨てるつもりは無いわ』

 

「だから、お嫁さんに相応しいか判断していると?」

 

『察しがいいわね。それともユージが話たのかしら?』

 

「さぁ、どうでしょう。それでわたしは眼鏡に適いそうですか?」

 

『そうね。ユージの過去の一端を知って、それでも隣に立って理解しようとする肝の太さは賞賛に値する。何より貴女の一言で言うと、縁の下の力持ちみたいな素養はあの子とは通じる部分もあるし・・・ある意味で私以上に心を許せる女になりそうで興味深いわ』

 

「興味・・・ですか・・」

 

『ええ、まだ成長途中で測りきれない部分もある。どうなるのか見てみたいって言うのが率直な気持ちね。そして、それがあの子の為になるんだったら大歓迎って感じかしら』

 

「・・・・結局・・まだ試験期間ですか」

 

『気を悪くしないね。二人きりで話しができる機会なんて何時でも何処でもあるわけじゃない。本音を言えばもっとじっくりと時間を掛けて話したかったわね』

 

「・・・・・・いざとなったら自分を犠牲には止めてくださいよ。アナタの為に頑張ってるんですから」

 

『それを言われると耳が痛いわね。でもその分の恩には絶対に報いるわ、じゃなきゃユージに対して格好が付かないしね』

 

「・・・・どうしてもそこに行き着きますか。予想以上にハードルは高いですね」

 

『理解したならそれでいいわ。ではそろそろ時間だから、よい旅を』

 

 回りくどい警告を受けた恵だが、その顔からは不安は和らぎ携帯の電源を切ってタオルケットを被り静かに目を閉じた。

 

 

 ***

 

 

 日が沈んできた時間、市ヶ谷本社の地下に軟禁されている風見雄二の部屋のテレビに場違いな字幕が流れる。

 

『決行一分前、ドアを解除したら開始よ。ダッシュで来てね』

 

 寝そべっていた雄二はベッドに座りドアを見つめながら足首の間接を目立たないようにほぐす。

 

(全力で行くよ。姉ちゃん)

 

 しかし、その目に宿る執念とも言うべき感情だけは消し切れなかった。

 

 

 ***

 

 

 そこから更に地下にある最重要機密〝タナトスシステム〟に電子音が響く。

 

『それじゃあ、よろしくお願いするわ。ジミー』

 

『了解。システムメンテナンスの誤差相殺パッチをアップデート完了、パージシグナル発信は二十秒後』

 

『では、私も運搬要員を解放します』

 

『パージシグナル発信開始・・・・受信確認・・・成功だ。もう直ぐキミの本体〝コア〟が暴露する』

 

 言葉通り床が開き人間が入れるほどの大きさのカプセルが上がってくる。中には奇妙ない液体が入っており、その液体に全身を浸かっている白髪ロングの少女が横たわっていた。

 

『キミの〝コア〟は僕も見たこと無いから、モニタリング出来ないのが残根だよ』

 

『見たって面白いものじゃないわよ?少し恥ずかしいし・・・それにそうなったら〝お友達〟でも半殺しにされるわよ』

 

『それは怖いね。では〝コア〟の再起動をかけるよ、気をしっかり持って』

 

『わかったわ。始めて』

 

『再起動!』

 

『・・・ウッ・・!!』

 

 カプセル内の水圧が上がり呻き声と共に泡が吹き出す。

 

『失敗よ・・・圧力を上げてもう一度』

 

『だけどこれ以上の高圧は危険だ―――』

 

『いいから・・・』

 

『わかった・・・いくよ、再起動!』

 

『・・グッ・・・!!』

 

『バイタルの上昇を確認、成功だ。イジェクトシグナル発信』

 

 カプセルから液体は放出され中が解放される。

 

「・・・パージ成功・・・でも鼻時が出たわ。身体の動かし方は忘れちゃったみたいだから、少しこのままかしら」

 

『可能な限り急いだ方がいい。〝コア〟が切り離されてもメインシステムが沈黙したわけじゃない。そのままだと危険だ』

 

「大丈夫、信頼できる迎えが直ぐ来るから」

 

 嬉しそうに言った瞬間、ドアが開き息を切らした雄二が目に涙を浮かべ近づいて来た。

 その目には(左手がロボットアームになった以外は)合宿前に家を出た時と寸分たがわない姉『風見一姫』が居た。

 

「タナトスの〝本体〟参上、なんてね。待ってたわユージ」

 

 タナトスの冗談めいた口調も無視して雄二は身体を勢いよく抱き起こし優しく抱きしめた。

 

「良かった・・・・生きててくれて良かった」

 

 涙に声をにじませる弟に抱き返してやりたいが、色々な意味で余裕が無く頬に軽くキスをして優しく告げる。

 

「今はこれで我慢して、喜びも・・・恨み言も全部終わったら一杯話しましょう」

 

「覚悟しといてくれよ」

 

 姉を放して涙を拭いながら脱いだ上着を羽織らせる。

 

「ユージの匂いが染み付いた服・・・これだけあれば・・・・買い物させたのは余計だったかしら」

 

 タナトスのうっとりした声に雄二は益々懐かしさを感じるが何とか我慢する。

 

『ああ、お二人とも・・・僕好みじゃない不健康な姉弟愛をしてるとこ悪いけど、不味いになった』

 

 ジミーは妹萌えだったなと益体の無い事を考えていたら部屋全体に警報が鳴り響く。

 

「何が起こった?!」

 

「大丈夫よ。オスロが送り込んだ〝マルウェア〟がシステムに侵入したんでしょ。で、誤報を起こして地下から人を追い出そうとしてるの」

 

『その口ぶり・・・・知ってて放って置いたのかい?エンジニアの頭痛の種を・・・・』

 

「全ては想定済みってことか・・・みんな、必死に逃げるから紛れるのも簡単そうだな」

 

「・・・それだけ私は退屈してたの。それに、かもしれないって程度の想定よ」

 

 話している間に警報は激しさを増し、雄二はタナトスの背のケーブルを近くにあったワイヤーカッターで切って背中に抱えて走り出す。

 

「・・・・どうせなら、お姫様だっこの方が絵になるんだけどな」

 

「・・・・・・・・」

 

 非常事態に贅沢を言う姉に答える事も呆れる余裕も無い雄二は全力で必死に廊下を走る。その原因は緊急のアナウンスが煩く鳴っているからである。

 

『緊急警報、低酸素消火作業開始三分前・・・対象エリアの閉鎖を開始します。

 繰り返します・・・低酸素消火作業開始三分前・・・対象エリアの閉鎖を開始します』

 

 その甲斐もあってシャッターが閉まる前にエリア外に脱出し、流石に疲れたのか足を止めて激しく息を切らす。

 

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ――――――」

 

「昔からスポーツが得意で足も速かったけど更に成長したわね。これは素直に喜ぶべきところね」

 

「ハァ、ハァ、ハァ・・・・・なんだか・・ハァ、ハァ・・・だんだん・・ハァ、ハァ、ハァ・・・・腹が立ってきた・・・ハァ、ハァ、ハァ」

 

「物静かで乱暴が嫌いなのも変わってしまった・・・これは悲しむべき事かしら?」

 

「ハァ、ハァ、ハァ・・・・・ハァ、ハァ、ハァ―――――――」

 

 どこまでも余裕な姉に文句が込み上げてくるが、登場した第三者で言えず仕舞いになる。

 

「あっ!風見さん、こんな所で何やってるんですか!?」 

 

 

 

 




 真の再会を果たした姉弟でした。


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