グリザイアに射す陽光   作:a0o

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 風見雄二の正義は・・・・・




タナトスの名の下に

 

 

 

 

 雄二は呼吸を整えながら声の主である褐色の女性、キアラ・ファレルを見ながら問う。

 

「キアラ・・JBと一緒に赤坂じゃなかったのか?」

 

「四六時中そこに居るわけじゃないですよ。本社に立ち寄ったら風見さんの様子をと先輩に頼まれたら居なくなってて・・で、警報が鳴ったからもしかしてと思ってきて見えれば案の定ですよ」

 

「分かりやすい説明ありがとう。よし、もう大丈夫だ、少しの間待っててくれ」

 

「あら、残念」

 

 雄二は背中のタナトスを優しく下ろし、タナトスはウインクしながら立とうとするが足が震え雄二に助けられながら腰を下ろす。

 

「あの随分親しそうですけど、何処でゆうか・・・ナンパしてきたんですか?」

 

「誘拐を言い直そうとしてそれか」

 

 雄二の不快そうな声にタナトスの裸体に男物の上着を羽織っただけの姿を見ながら恥ずかしそうに言う。

 

「だって・・・その格好・・・・・よろしくやってたとしか・・・・・」

 

 キアラの妥当な見解にタナトスは嬉しそうに口を開く。

 

「あら、中々に楽しい事を言ってくれるわね。

 はじめまして、タナトスです。『地下の教授』って言えば解るかしら?」

 

「ええ!あれ噂じゃなかったんですか!?って言うか、それ国の最重要機密じゃないですか・・・なんで曹の風見さんが―――――」

 

「一度に色々言うな。〝これ〟は俺の姉で、なんでこうなってるかと言うと親切な友達が教えてくれてな。危なくなってくるから、これから非難させるとこなんだ」

 

「お姉ちゃんに向って〝これ〟とはなによ」

 

 タナトスが雄二を叩くが筋力が落ちた腕では逆に痛みが襲ってきて顔を顰める。

 

「お、お姉さん!あ・・は、はじめまして風見さんと同僚のキアラ・ファレルと申します」

 

 たどたどしく頭を下げるキアラにタナトスは微笑み、雄二は溜息をつきながら足を払い組み敷く。

 

「イタタタ・・・か、風見さん・・なにを・・・・?」

 

「すまんな。現段階(・・・)で国家に反逆してるんでな。こうしないと〝お互い〟に不味い事になるんだ」

 

「・・・・うぅ・・・事情がまだ把握できないんですが・・・・私はこのまま寝てればいいんですか?」

 

「ついでに武器と足を貰えると助かるんだが・・・計画より早くなるし」

 

「・・・体中弄って探して貰ってもいいですよ・・・痛いぃ・・・」

 

 呻きながらも大歓迎と言いたげなニュアンスにタナトスの視線が刺さり短く催促する。

 

「時間が惜しいんだよ」

 

「銃は腰に・・・車の鍵は上着の左ポケットに・・・・」

 

 不満そうな声を無視して銃と鍵を手に取り謝罪を込めて言う。

 

「すまんな。車の方は後で弁償するから、また新しいのを買ってくれ」

 

「・・・・私の車、幾らするか知ってるんですか?」

 

 あっさりとした口調に不満一色の声を発するが、気負う事無く平然と返す。

 

「問題ない友達に言えばどうにでもなる」

 

「・・・・どういう友達なんですか?」

 

 雄二は姉の唯一変わってしまった部分を見つめ答える。

 

「強いて言えば、姉ちゃんのなくした左腕って感じかな。さて話はここまで、一発入れるから歯を食いしばれよ」

 

 雄二は後頭部(急所でない箇所)に一撃を居れ、キアラは呻きを増しタナトスを背負って駐車場まで走って行き、駐車場で赤いスポツカーを見たタナトスは静かに驚いた。

 

「結構いい車を持ってるのね、あの娘」

 

「JB曰く、ストレスの溜まる職場なんだそうだ」

 

 雄二はタナトスを助手席に乗せてシートベルトをして運転席に駆け込んでエンジンを始動させる。けたたましい音と共にタイヤを走らせ早々に本社を後にする。

 

 

 ***

 

 

「なに、それは本当か?」

 

 受話器を耳に当てている一見紳士風の白人中年の男、国際的テロリスト『ヒース・オスロ』は然して驚いた様子もなく口を開く。

 

「タナトスシステムの本体は切り離されて、雄二諸共逃亡した。残されたシステムに侵入は成功したが、厳重な内部ロックがかかっていて掌握には・・・・・時間が掛かり過ぎる〝あちら〟も黙ってないだろうな・・・・・・ああ、いい・・・兎に角作業を続行しろ、此方も対策を検討する」

 

 口調は落ち着いて普通に受話器を置いたが内心は煮えくり返っており眉間に皺がよっていた。

 

「ンダァッックソ!!」

 

 次の瞬間、机の上のものを薙ぎ払い激しく憤怒をあらわにして大声を上げる。

 

「一番面白くない展開だよ!やってくれたね流石は天才様だ!!」

 

 その様子を近くに居たオスロの側近である無精ひげの中年『トラビス』半ば恐怖しながら見ていたが、興奮が収まったオスロが声を掛ける。

 

「サイバー部門から最悪の知らせだよ。我々が事を構える前に欲しかった物は、雲隠れ・・姉弟で駆け落ちと洒落込んだ様だ」

 

「此方の動きを嗅ぎ回っているネズミがいる情報は掴んでいたのですが、間に合いませんでしたね」

 

「ハァ・・・・で、ネズミからステーキ屋の御曹司に更にそこから接触した天才様の駒は?まさか突き止められなかったなんて報告はないだろうねぇ」

 

 オスロの仕事では失敗すると簡単に死ぬ〝使える奴だけが生き残る〟システムだ。それをよく理解しているトラビスは書類を差し出し報告する。

 

「どうやら安芸倫也と言うアメリカに留学中の学生のようです。イギリス外交官と接点があるのですが無視できるレベルのもので、他に気になるような背景はありません」

 

 オスロは退屈な顔で資料を確認していくと目に付く情報が映った。

 

「・・・・・やはり何も知らされてない唯の捨て駒か・・・おや、『太平洋にある小国で亡命申請を』・・・本人に必要性はないだろうし・・・・・彼女か?」

 

 風見一姫の戸籍は無いのだから生きていく為に取得したいと考えるのは不思議じゃないが、ここまで簡単に足が付く素人にそこまでさせるのは腑に落ちない。何か裏があるのか、与り知らない接点があるのか。どちらにしろ、タナトスシステム掌握の可能性が100%でない以上は唯一の情報だ。

 

「この坊やは今どうしてる?」

 

「先に入国させた末端にその国の領事館を張らせていたところ、本日現れて夕方に領事館を後にして現在は電車で都を出たとのことです」

 

 トラビスの報告にオスロは考え込み最善のメリットを導き出す。

 

「・・・・・どうにもキナ臭いが・・・・私自身が日本に入れない以上は唯一の手掛かりだ。行った先に目標が居れば良し、そうでなかったら生かして連れて来い、尋問は私が直接行う」

 

「分かりました。必要な人員と装備の選出にかかります」

 

「最速かつ最小限でだ・・・ユウジもメンバーに入れるように事が長引くと不利だ」

 

「分かりました。テュポーンをメインとしたチームを二十分以内に編成させ出発させます」

 

 トラビスは部屋を出て行き、オスロは机の引き出しにしまっていた鍵を取り出す。

 

「使い捨ての餌か・・・・それとも天才でも計算違があると言うことなのか・・・・どちらにしても〝これ〟は無駄にならずに済みそうだ」

 

 椅子を軋ませながら懐からケースを取り出しチョコを口に入れコーヒーを持ってくるよう指示を出した。

 

 

 ***

 

 

『そうか、再会できたんだ・・・・ホントに良かった・・・』

 

 都内を走っている雄二はボックスに取り付けた携帯から姉と再会した事を報告し、倫也の電話越しでも伝ってくるほどの嬉しさと安堵の声を聞き感謝を述べた。

 

「ああ、ありがとうな。一姫からも一言―――――」

 

『止してくれ、まだ仕上げが残ってるだろう。それに俺にはその言葉は寧ろ俺が―――』

 

「一姫と・・・姉ちゃんと再会した時点で約束は果たされたんだ。これ以上、まして命を危険に晒すようなことはする必要ないんだぞ」

 

『でも、そうなると次の行動は予測し辛いし・・・まぁ俺でも返って疑われかねないけど、〝先の事〟を考えると遣るだけの価値はある。生き残るように全力は尽くすさ・・・』

 

 無理をしているのは聞くまでもないまでも後戻りは出来ないし、一世一代の覚悟に水を刺すのも気が引けるので自分が言える最上の言葉を送る。

 

「絶対に助ける。だから俺が行くまで恥も外聞もなく生き残れ、約束とは別に俺はお前を姉ちゃんに会わせなきゃいけないんだからな」

 

『・・・・なんの話だ、姉弟揃って?』

 

「今は分からなくていい。それよりお客さんが来たから切るぞ」

 

『ああ・・気をつけて・・・・信じてるからな』

 

 通話が切れ、バックミラーを見ると何台ものパトカーがサイレンを鳴らし近づいて来る。法廷速度を守り安全運転しているにも関わらず、その様子は尋常ではなく構う事無くアクセルと踏みこんだ。当然パトカーもスピードを上げ追跡して来るが、豪快に交差点を曲がり天音から聞いていた屋根にランプのある車が通りにくい道に入り、そこから都を出るルートをマップから検索する。

 

「しかし・・・俺が言うのもなんだが姉ちゃんの友達も変わってるな」

 

 雄二が呟くが誰も答えてくれない。そうして直線に出ると再びアクセルを踏み込みスピードが増し、並みの人間なら声も出ないほどの強烈なGがかかる。

 

「もう少しだ・・・・あとちょとで・・・・おっ」

 

 道が終わりに近づいて来た所に見慣れた車の数々が通行止めだと封鎖しており、外に出ている何人もの作業服に混じってスーツを着た男女、1課のアダムと2課のJBが居た。

 

「・・・・・こうならない様にと、無理な指令を出して大多数を出したのに・・・思いの他、手際がいいな」

 

 雄二は車から降りて両手を挙げながら、反骨精神を前面に出して言い放ち、それに直属の上司であるJBが前に出る。

 

「ええ、唯でさえ大騒ぎだったのに・・・更に驚かせる事態になってくれてホント、嫌になるわ。だけど甘く見ないで、私達もプロよ」

 

 毅然とした態度のJBに今度はアダムが出て声を荒げる。

 

「とんでもない事をしてくれたな9029・・・・国防の要であるタナトスシステムを強奪するとは・・・・一体何時からオスロと繋がっていた?!」

 

「勘違いするな。これはオスロが日本に来ないように姉ちゃん・・・・一番のお偉方の指示でしたことだ」

 

 全く悪びれない態度にアダムの興奮が増す。

 

「ふざけるな!!例え〝コア〟が無くてもシステム事態は未だ侮れない性能を有している・・・寧ろオスロにより有利になる状況に陥ったと言ってもいいだぞ!!!」

 

「そうだな。だからこんな事してないで、システムを乗っ取られる前に対策を講じた方が建設的だと思うが?」

 

「言われるまでもない。〝コア〟は返してもらうぞ」

 

 アダムは部下に命じ車から雄二を引き離して中を調べさせる。

 

「報告!車内には誰も居ません」

 

「なに!?」

 

 雄二はその遣り取りに不敵な笑みを浮かべて、まずJBを見て口を開く。

 

「俺も別に甘く見てなんか居ない、無茶に無茶を重ねさせても絶対に逃げ切れるなんて自惚れてもいない・・・だから、もう一つ要因をプラスする事にしたんだよ」

 

「アナタを・・弟を囮にして逃げたって言うの・・・・そんな・・・逆なら――――」

 

「無い。どちらの場合だろうと姉弟(おれたち)は互いを見捨てるなんて絶対にありえない」

 

 JBの信じられないと言う発言に間髪容れるが、更に解せないと考え込む。そこに今度はアダムが詰め寄ってくる。

 

「そんなことはどうでもいい!!彼女は何処だ!?」

 

「もう日本を出てると思うぞ」

 

「貴様・・・国防の要を・・・・」

 

 怒りで声を震わし胸倉を掴むが睨み返して言い返す。

 

「国防、国防、国防・・・・その為に俺の姉ちゃんをコンピュータの部品にしたのか。

 何も悪いことしてない、寧ろ酷い目にあった女の子を・・・・」

 

 その言葉にアダムは落ち着きを取り戻して手を放す。

 

「月並みな言葉だ・・・今になって正義の味方を気取るか?」

 

「俺の正義はいつだって姉ちゃん・・風見一姫が決めていたんだ・・・なんてな、ただ言ってやりたかっただけだ」

 

 雄二は両手を上げたままで抵抗する意思は無いと示し、アダムは事務的に宣告する。

 

「9029号、貴様の身柄は拘束され、後日改めて裁判にかけられる。仕出かした罪は重罪だ、覚悟しておけ」

 

「そうなったら言いたい事は全部ぶちまけてやるよ」

 

 減らず口を言いながらも逮捕され連行される中でJBが近づき声を掛ける。

 

「私には言いたい事は無いの?」

 

「JBには感謝している。一姫の事を黙っていたのは気にするな、立場上仕方ないのは理解してる・・・・と言うか、また迷惑をかける事になってすまなかった」

 

 雄二は怒りも絶望も失望も無い声でそう言って大人しく車に乗って去って行く。

 

「少しは怨みなさいよ・・・」

 

 見送りながら呟くも内心に落胆は無かった。

 

(彼女がユージを切り捨てるなんてありえない。それにユージのあの態度・・・まだ何ある・・・・いや起こるのかしら?)

 

 とんでもなく面倒で嫌な予感に襲われるも浸っている時間は無く、釈然としない気持ちのまま仕事に戻った。

 

 

 ***

 

 

(もう出た頃だよな。そして、ここからが正念場か・・・)

 

 車に揺られながら雄二は窓から空を見上げ姉とその親友を思い出す。

 

 時は戻り、本社を脱出して周囲を警戒しながら、しばらく走り建物が完全に見えなくなった所で裏道に入ると待機していた白のワンボックスカーが停車しており隣に付けると天音が飛び出してきた。

 

『一姫~』

 

 助手席の扉を開けて思い切り抱きつく親友にタナトスは抱き返しそっと呟く。

 

『だから言ったでしょう。私を信じなさいって』

 

『だって・・・だって~・・・・』

 

 天音は涙が止まらずに居るが、何時までもそうしている訳には行かないので、雄二が冷たい口調で声を掛けて二人を引き離す。

 

『気持ちは痛いほど解るが今は我慢してくれ』

 

 そのままタナトスのシートベルトを外し、()()()()()()で天音の車に乗せかえる。

 

『なんだかんだで優しいわね、やっぱり』

 

 タナトスの嬉しそうな声に雄二は感情を抑えて冷静に返す。

 

『ご要望はここまでだぞ。着替えは用意してあるな?』

 

『うん。後部座席に私が買ったのがある』

 

『あら残念』

 

『・・・・・・・』

 

 タナトスが上着を顔に寄せるのを見て、天音が呆れる。

 

『それじゃ、後の事は任せたぞ。絶対に姉ちゃんを――――』

 

『任せて!絶対に渡さないし、守ってみせる!』

 

『・・・・・またしばしのお別れね』

 

『だが今度は待ってなる訳じゃない。全部済んだら絶対に会いに行くから』

 

『信じてるからね』

 

 雄二は姉の言葉を深く胸に刻み車に戻り去って行く。

 それを見送った後、タナトスは天音に手伝ってもらいながら白いワンピースに着替え助手席に乗る。

 

『行くまでは本当に大丈夫?』

 

 最後の確認と天音が問う。

 

『ええ、心配ないわ。殆どの人員は出払うように指示したから、でもグズグズしてたらそうも言えなくなるわ』

 

『了解、じゃ行くよ!』

 

 天音は納得し雄二とはまったく違う方向に車を発車させた。

 

 

 




 
 とりあえず一段落です。

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