グリザイアに射す陽光   作:a0o

17 / 42
 そして次に移行します。




求めるは迅速なり

 雄二が連行され、タナトスと天音が恵を追うような形で日本を発って数時間後、安芸倫也は何をする訳でもなく只唯時が過ぎるのを待ち、深夜の静まり返った港に居た。

 

新しい戸籍(これ)で新しい場所で新しい生活するのも有りではあるんだが・・・・)

 

 アタッシュケースを見ながら雄二からの言葉を思い出す。

 

『一姫と・・・姉ちゃんと再会した時点で約束は果たされたんだ。これ以上、まして命を危険に晒すようなことはする必要ないんだぞ』

 

風見一姫(かのじょ)に会いたいだけなら、一緒になり先になり出国すればよかった・・・・ホント、何やってんだかな・・・)

 

 自嘲しながらも加藤恵に見せられたシーンや彼女(かずき)がどうしたいのか、それこそが自分がこうするべきだと思い至った最大の理由である事を再認識して恐怖に耐える。

 

(怖いものは怖い・・・・・あの姉弟を信じてはいるが、相手も物凄いって話だしな・・・)

 

 冷や汗と上がっていく心拍数に絶えず周りを見渡すと漸く黒いワゴン車がやって来た。

 

「すぅ~、はぁ~」

 

 大きく深呼吸をして歩いて行く倫也、車は窓ガラスからはゾーイ・グラハムが見え歩いてアタッシュケースを渡そうとし時、衝撃と共にケースが弾け飛んだ。

 

(お出でなさったか!!)

 

 七、八人の黒服の男達がサブマシンガンを構え、問答無用でぶっ放してくる。

 

「ひぇえーーー!!!!」

 

 倫也は一目散に走り出し、ゾーイの乗ったワゴン車は反撃の隙も無い銃弾を浴び去られるが、玉は減り込む事無く兆段しタイヤも変化は無く、物陰に非難していた顔面蒼白の倫也を一瞥した仕草を見せるとエンジンを吹かせて急速で去って行く。

 

「ちょ、ちょっと!置いてかないでーー!!!」

 

 手を伸ばし力一杯の大声で叫ぶも車は遠ざかり、前方により大きな衝撃と音が響き尻餅をつく、恐る恐る首を回すと更なる驚愕が襲う。

 

「な・・・あ・・・え・・・う・・・・」

 

 素で呂律が回らない倫也にサングラスをかけて黒いスーツを着た白い髪(・・・)の風見雄二が近づいて来てショットガンを突きつける。

 

(・・・違う・・・・風見じゃない・・例のクローンか・・・・?完成体・・・・いたんだ・・・・・)

 

 心の準備を入念に済ませた結果、恐怖に震えながらも辛うじて思考は働き、一目散に全力で彼女からの指示を実行する。

 

「すみません!知ってることは何でも話しますから!!勘弁してください!!!」

 

 疑う余地がなく恐怖に震え命乞いをし、腰が抜けてなければ地面に頭を擦り付けて土下座しそうな切羽詰った顔にコードネーム、テュポーンことユウジは銃を降ろし転がっているケースを見て問う。

 

「あれに姉さんの新しい戸籍があるのか?」

 

「ね・・・ねえさん・・?」

 

「お前のボス、いやお姫様と呼んでるんだったか?」

 

 サングラス越しでも目じりが吊りあがったのが分かる声に、大きく何度も頷きながら思った。

 

海外(むこう)で言葉遊びのつもりで言ってた事まで・・・それに・・姉さんって・・・・)

 

「一応、姉の為に動いてくれた事には敬意を払おう。それに殺さないで連れて来いとの命令なんでな、大人しくしていろ」

 

「―――――――」

 

 声も出せず立ち上がることも出来ない姿に溜息をつきつつ、両腕を持ち上げられて引き摺られて行きながら、目を瞑り必死に心の中で繰り返す。

 

(死にたくない、死にたくない、死にたくない―――――――)

 

 そんな倫也に構わず襲撃犯たちは少し離れた車からヘリポートまで難なく移動し帰還して行った。

 

 

 ***

 

 

「ああ~~~~!!」

 

 同じ頃、フィールズクロニクル(しごと)の打ち合わせで澤村邸を訪れて居た詩羽は英梨々の大声に目を向け近づきながら尋ねる。

 

「どうしたの?」

 

「線がずれ込んで・・・・全部台無しに・・・」

 

「それは随分と詰まらないミスね」

 

 作業机の前で呆然としている英梨々に呆れるように言いながら出されたコーヒーを飲む。

 

「熱っ!」

 

 舌が火傷しそうな感覚に反射的に口を離し、無意識に足を動かすと棚の角に足をぶつける。

 

「~~~~~」

 

 蹲り悶絶する詩羽に今度は英梨々が呆れたように言い放つ。

 

「アンタも無様ね」

 

(何か良くない事が起こってるのかしら?虫の知らせ・・・・それとも神の・・・いや、止めましょう)

 

 思考を打ち切り痛みが引いてきた詩羽は立ち上がり英梨々に向き直った。

 

 

 ***

 

 

 太平洋ミクロネシア地域に向う飛行機の中、タナトスは天音に用意してもらった白のワンピースを着て無線の前で連絡を待っていた。側にいる天音も深刻な顔で座っており、おもむろに口を開く。

 

「安芸君・・・やっぱり・・心配だよ・・・・」

 

「一切の抵抗をせずに知っている事も洗いざらい話すように指示してある。私の予測通りならオスロが直接聞き出そうとするから、少なくとも直ぐに殺されるような事にはならないはず」

 

「そう言えば一姫も会ったことが」

 

「数える程度ね。ユーモアがある仮面を被った喰えないおじさんって感じで、あとはテロリストとしての資料を知っているだけだけど、アレだけ虚仮にされて黙ってないはず・・・落とし前の手掛かりを無碍にするとは思えない」

 

「いつもなら断言するのに・・・」

 

「他人が私をどう思おうとも、私は神様じゃないのよ」

 

 天音の不安だらけの目を見て、お決まりの台詞を口にすると苦笑して思う。

 

(私の知ってる一姫だ、やっぱり)

 

 手に取るようにわかる思考に呆れていると無線機の呼び出しがかかり、スイッチをオンにするとジミーの声が響く。

 

『タナトスさん、連絡が来た。彼が拉致された、ボクの嫁は既に次に移ったし、例の物が届いたのも確認、回線の準備も完了しているから、いつでもOKだ』

 

「早速繋いでちょうだい」

 

 タナトスはインカムを付け相手が出るのを待つ。

 

 

 ***

 

 

 〝赤坂〟の大会議室では怒鳴り声の応酬が錯綜していた。

 

「一体どう言うことなんだね!!?大塚本部長!春寺三佐!これは君達の責任だけで済まされる事態ではないぞ!!!」

 

 その会議に出席している諜報部本部長は縮こまり、2課室長はウンザリした思考を表に出さず発言する。

 

「現在、彼女が残したプロテクトのお陰でオスロ側もシステムの陥落に梃子摺っている状態であり、また代替核を持ち込まれる可能性が大幅に無くなった事を受け、CIRSを始め関係部署によってシステムの防衛と再アクセスに全力を尽くしています。

 それでも可能性はゼロでない為、各省庁の連携は継続したままの方がよろしいかと」

 

「当たり前だ!あれだけ強引に固めた連携を今解いたら更に収拾がつかなくなる。だが肝心の司令塔を担う役がいなくなっては・・・」

 

「システムを切り離した裏切り者は?」

 

 その質問に同席していたアダムが答える。

 

「厳重に拘束して監視下に置いています。トイレに立つ事すら出来ないでしょう」

 

(分かりきっている事の言い合いもそろそろ終わりかしら・・でも、ユージや私、2課全員のクビで足りるわけないし・・・・)

 

 問題の要が突然なくなった為に敵味方共に浮き足立っている。爆弾を持ち込まれる心配がなくなったが引き換えに起こされた混乱は重大どころではなく、対症療法的措置を講じるだけしかない現状で最終的には責任の押し付け合いに移行するのも時間が掛からないだろう。

 

 そんな不毛な議論の中、場違いなコール音が響きアダムが出る。

 

「大会議室だ。ここには何も繋ぐなと・・・」

 

『こんばんは、アダム・・いえケヴィン・フューリー、タナトスです』

 

「タナトス・・・まさか・・」

 

『ええ、オリジナルコアのタナトスです。ちょっとした取引をしたくて連絡しました』

 

「取引だと?」

 

『アナタの本名だけでは信じられないなら、私を本国に密輸しようとしていた計画の詳細でも説明しましょうか?』

 

「結構だ。捨ててきた弟を返せと言うことか?」

 

『違います。因みに取引したいのはアナタ個人じゃないから、私の声が会議室に伝わるようにしなさい。行き詰っている現状を打破する提案があるの』

 

「・・・・・・」

 

 渋っているアダムに駄目だしをする。

 

『裁判で証言台に立ちたいなら他を当たるけど』

 

「少し待て」

 

 アダムは受話器を放し説明を始め、最初は疑い渋っていた面々も拉致のあかない現状への不安が勝り、話を聞くことになる。

 

『こんばんは、みなさん、タナトスです』

 

 呑気な挨拶に唯でさえ苛立ちが募っていた面々は遠慮もなく口を開く。

 

「現状を打破できる案があるそうだが、今からでもシステムに戻ってきてくれるのかな?」

 

「そもそも君が逃げなければ、こんな事態になってない。どう落とし前を付ける気だ!?」

 

 挨拶を返すこともなく嫌味ったらしい口調で話す仕草に余裕に満ちた声が響く。

 

『そんなつもりなら最初から逃げたりはしないわよ。

 それに私が日本に居続ければオスロは強行に入国し爆弾をチラつかせてきたでしょうね。直接的破壊力は私やユー・・9029の比じゃない、それよりかは幾分かマシだと思うけど』

 

「そんな言い訳を聴くために応じたわけでない!早く案を言え!!」

 

『案ではなく取引よ。

 私の要求は簡単、今まで水槽の中でやっていた事を机の前でやれる様にする事を了承して欲しいの』

 

「・・・・・我々の上に直接立つと言うことか?」

 

『嫌なら別にいいわよ。事が公になっても私は全然困らないし、寧ろ悲劇のヒロインとしてすすり泣いたら良い絵になるでしょうね』

 

「オスロに代わって国家を脅迫する気か?!」

 

「システムと繋がってない君に何が出来る?」

 

 傲岸な叫びに対しタナトスは余裕の中に静かな怒りを込める。

 

『だから、それ見合う手見上げをと連絡したんじゃない・・・それに・・これでも結構譲歩してるのよ。システムじゃなく一人の人間としての最低限の自由と引き換えに今まで通りで、行き詰りも解決できる・・・・私とユージとのある筈だった時間をチャラにするには安すぎる条件よ』

 

 タナトスの最後の言葉にJBが納得した顔で発言する。

 

「やっぱりユージを切り捨てた訳じゃないんですね。でも此処に来て国と交渉・・・準備を念入りに整えていた訳じゃない・・・・一体何を考えているんですか?」

 

『現在私はミクロネシア地域の国に向っています。そして、オスロも直ぐに私を追ってくるでしょう・・何故ならオスロが求めているのは、コピーを寄せ集めた並列システムじゃなくオリジナルを含めた完全なるタナトスシステムだからです』

 

「・・・・現在進行形で囮になってるから逮捕しに動けと?」

 

『オスロを逮捕する理由なんて事欠かないし、前9029こと日下部麻子を始め過去何度も捕まえようとしてたでしょ』

 

 余りにもあっさりしたニュアンスにアダムが声を上げる。

 

「馬鹿も休み休み言え!その都度失敗した事を今成功させろと?第一に我々の動ける管轄では―――――――」

 

『ええ、許可を取るのに時間が掛かりすぎて、オスロに逃げる猶予を与えてしまった。

 でも今回は既に許可は取り付けてある、今頃は市ヶ谷本社にその国の領事が直接出向いてその旨を記した証書を持って来てるはずよ』

 

 その言葉にアダムは確認の連絡を入れ、JBは呆然とした表情で尋ねる。

 

「そんな・・・一体・・どうやって?」

 

 裏方周りで並大抵でない面倒を処理している彼女としては信じられない思いだった。

 

『金とダイヤの採掘権と引き換えに、現地のお金持ちに口添えをお願いしたのよ。下世話な言い方だけどお金の力は偉大よね』

 

 その時、アダムが受話器を置いて報告する。

 

「確認が取れました、しかし・・・・」

 

『向こうの条件は、動くのはあくまで〝領海内〟問題が起きた時の責任は全て此方持ち、そして理想は公式には()()()()()()ようにする事、その手の事は専門でしょ』

 

 注目がJBに集まり彼女は額に手を当てる。

 

(また面度な事を・・・姉弟揃って・・・・・)

 

『更に言えば、ラングレーの交渉代理官を通して、あちら側にも部隊編成を進言しといたから急がないと何もかも持っていかれるわよ』

 

「交渉代理官・・・・まさか・・・」

 

 その単語にアダムはタナトスがスムーズに事を運べた一端を理解し歯を噛み締める。

 

『そちらの部隊についても身軽さを信条としたCIRSがいるし、あちら側の指揮官であるアニエス・ギャレット大尉が欲しそうな人材も居るのだから協力は難しくないはずよ。

残りの必要な手続きもそこに居る面々が全力を出せばクリアできない事は無いでしょ?』

 

(ユージをこっちに残した理由はこう云う事か)

 

 更に面倒が舞い込んだJBだが、タナトスの行動に得心が行き、諜報2課分室室長として立ち上がる。

 

「選択肢は無い上に千載一遇のチャンス、直ぐに部下をまとめ私が直接出向きます、行かせて下さい」

 

『行動も決断も迅速に、急いだ方がいいわよ』

 

 均衡状態、しかも敵側有利になっていく状況を打破する為に大本を断つ、それで困る勢力も存在するだろうが、このまま手を拱いては自分達のクビが確実に飛ぶ・・・・既に追い詰められているだけに決断も早かった。

 

「万が一にも失敗は許されんぞ」

 

「関係各所の説明と説得させる為の成果は必ずあげろ、いいな」

 

 決まり文句の激に対し敬礼しJBは会議室を去って行き、残った面々も必要な役割を話し合い行動に移った。

 

 

 ***

 

 市ヶ谷の地下、テレビや本が用意されていた部屋から一転、簡素なベッドとトイレしかない部屋で風見雄二は両手両足を拘束され、目隠しをされた状態でおりながらも眠る事もなく静かに横たわっていた。 

 

(待つのには慣れているんだが・・・今ほどむず痒い思いは初めてだな・・・)

 

 倫也が囮を志願した時は全力で反対したのだが、そうする理由を聞かされて仕方なく了承した。されどそれ故に絶対に死なせる訳にもいかなくなり計画に狂いがないか、なかったとしても絶対とは言い切れないのは雄二自身の方がよく知っている為に時が過ぎるのが人生で一番長く感じる状態だった。

 

(オスロの問題は俺自身の問題・・・それを一番に出来ないのが、今はどうしようもなく・・やるせないな)

 

 その時、扉の開く音共に数人の足音が聞こえ、雄二の拘束を解き目隠しを外されると目の据わったJBと何時になく真面目な目をしたキアラと数人の同僚達が居た。

 

「ユージ、仕事よ」

 

「待っていたぞ」

 

 JBのたった一言に雄二は即答し立ち上がり近づく。

 

「・・・・いつもそれくらい気合を入れてくれてばね」

 

 JBの皮肉めいた言葉に雄二は決意を返す。

 

「今回は特別中の特別だ。

 俺自身との過去との決着、麻子を超える為と残してくれた言葉に報いる最初で最後かもしれないチャンスなんだからな」

 

「麻子が残した?」

 

「『自分の為に引き金を引けなくても、誰かの為に迷わず引き金を引ける男になれ』と言った。そして今、大事な家族である姉の為、家族を助ける為に必死になってくれた友達の為、何よりも一緒にいたいと思える彼女との未来(これから)の為に俺は戦うんだからな・・・・ついでに言えば早く助けないとキアラの車も弁償できないし・・・」

 

「え!話しが違うじゃないですか!?」

 

 格好付けたのをワザワザ台無しにする仕草に溜息をつく。

 

「・・・・やること事態は今までと大して変わらないわよ。でも、オスロは麻子ですら―――」

 

「全部聞いてるよ・・・死ぬ切欠でもあったこともな。

 復讐の意思がないといえば嘘になるが、俺は今生きている奴らの為にCIRSの一員としてを一番に戦う。JB(アンタ)もその一人だ、信じてくれ」

 

 JBは雄二の決意を聞き届け、頬を染めながらも嬉しそうに答える。

 

「知らないところで良い目をする様になったわね。なら私も室長として『I-9029号』風見雄二伍長、ヒース・オスロを逮捕する為に出動を命じます」

 

「了解しました、春寺三佐!」

 

 敬礼し雄二は一同と共に部屋を出ていった。

 

 

 




 国の助力を可能な限り取り付けてみました。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。