今回、早速ですが性格改変が出てきます。こんなのは『コイツ』じゃないと思う方は戻った方が良いかもしれません。
時は流れ春の始業式、風見雄二は学生服に身を包み登校し、掲示板の前で自分のクラスを確認していた。
(2年B組か)
と言っても教室の正確な場所までは覚えておらず、体育館で待っているには早すぎるので、学園長である千鶴以外の知り合いである安芸倫也もちょうど同じクラスであることから案内を頼もうと辺りを探してみると声が掛かってきた。
「あっ、やっぱりあの時の!」
振り向くとそこには倫也ではなく黒髪のショートボブの女子生徒が居た。発言からして面識があるようなので顔を見ながら声を再生すると、直ぐに思い当たる人物が浮かんだ。
「久しぶりと言うには微妙だな。あれから、ひったくりには、もうあってないか?」
返答にしては随分な物言いである。彼女も絶句して目を点にしているが、次に出た言葉に今度は雄二が面食らった。
「覚えててくれたんだ。わたし、印象が薄いって言われるから〝お前、誰?〟って言われるかと思ったんだけど」
「自分で言ってて悲しくないか?ただそれは周りに見る目がないのも原因があるな、結構可愛いと思うのに放っておく男の気が知れん」
「・・・・あの・・それって、ナンパ?」
「ただの感想だが、して欲しいのか?」
「ゴホン」
雄二の切り返しに彼女は頬を染めるが、第三者の(ワザとらしい)咳払いで中断される。
声の主である倫也に目を向ける二人にそのまま切り出す。
「お前らそういう事はもっと人目に付かない所でやれよ。スゲー目立ってるぞ」
倫也の言う通り、生徒達は男女問わず回りは興味津々の感じで野次馬化していた。
されど雄二は動じず別の方向に目を向ける。
「それ以上に目立ってる輩が一人・・・・いや二人いるようだが」
その方向には金髪ツインテールの色白の少女に人が集まっており、その近くを黒髪ロングの美女が通ると幾人かの視線をさらって行く。その様子を見ていた倫也は目を斜め下に落とし、見逃さなかった雄二は因縁があるのかと思ったが言及はしなかった。
「まぁ、とりあえず自己紹介したら教室に案内してくれないか。俺は風見雄二、今年から豊ヶ崎に編入してきた」
「あ、わたしは加藤恵。風見くんと安芸くんと同じクラスだから一緒に同行してもいいかな?」
「構わないが二人は知り合いなのか?」
「ごめん。思い出せない・・・」
倫也を明らかに知っている恵に対し、倫也は恵を本当に知らないようであり、この前のひったくりの被害者であることも気付いていない。〝印象が薄い〟と言っていた実例かと思ったが恵は否定する。
「ああ、わたしが一方的に知ってるだけだから当たり前だよ。何せ安芸くん〝豊ヶ崎三大有名人〟だから」
「なんだそれは?」
「少し語るから詳しい話しは教室でしよ」
そう言って歩いていく三人に金髪ツインテールと黒髪ロングの視線が刺さるのを感じた雄二は先ほどの疑問が確信に変わった。
***
教室にて恵から倫也の一年時のアニメ上映会における顛末や金髪ツインテールが美術部のエースで外交官の娘『澤村・スペンサー・英梨々』、黒髪ロングが入学時以来、学年トップを譲ったことのない才女『霞ヶ丘詩羽』で〝豊ヶ崎二大美女〟と呼ばれ、そこに倫也を加え〝豊ヶ崎三大有名人〟と呼ばれていることを語った。
雄二は内容を呆れ半分、関心半分で聞いており、当事者の一人である倫也は居心地の悪い表情で聞いていた。
そして、始業式が始まり教室にて簡単なクラスメイトの紹介が終わった後、その日は解散となった。
なにかの縁だと雄二は倫也と恵を誘って帰ろうとする。
「ごめん。俺、ちょっと用事があるから、また今度にしてくれ」
そう言って倫也は荷物を持って去っていくが、恵は快諾し二人で並んで下校して行った。その様は学生青春的で正に雄二が望んでいた普通の学生そのものだった。
***
第二美術準備室、といっても現在は美術部のエースの私室になっており、更に言えば実態は隠れオタクの作業場と化している。
その隠れオタク、澤村・スペンサー・英梨々が夏コミに向けての作業計画を建てている所にその人物は堂々とドアを開いて入って来た。隠れオタクである英梨々は心臓が跳ね上がり焦るが、入って来た人物の顔を見た瞬間に安堵し同時に怒りのこもった眼で睨みつけた。
「~~~~驚かさないでよ!って言うか勝手に入ってこないでよ。こんな所、誰かに見られたら――――――」
「今日位はいいだろ。ちょっと聞きたいこともあるし」
英梨々の文句を遮り、あっさりと落ち着いた返答をする安芸倫也に普段の彼を知る彼女は奇妙な悪寒を感じながらも見掛け倒しの対応をする。
「なによ、聞きたいことって?」
「ああ、風見一姫って人の事を知らないか?」
英梨々は飛び出してきた意外な名前に眼を丸くする。
「何処で知ったのよ?そんな大天才の事・・・・」
「やっぱ、有名人なのか?」
「そりゃそうよ。あたしと同世代の美術に携わる人間で知らない奴はいない、コンクール入賞は絶対であたしなんかが霞む位の天才
「だったってことは?」
「何年か前に事故で死んじゃった聞いたわね」
「六年前か?」
「そこまでは覚えてないわよ。何なの一体?」
「・・・・そっか。ありがとう」
真剣な表情で考え込む倫也に英梨々は怪訝な顔をしながらも声を掛ける。
「用ってそれだけ?」
「いや、もう一つある」
そういって倫也はカバンの中から〝ある物〟を取り出し差し出す。
その〝ある物〟を見た瞬間、英梨々は悲鳴を上げたくなるのを堪え、ひったくり興奮を抑えるために深呼吸を繰り返しながら恨みがましい視線で倫也を睨む。
「・・・・少しは常識とか外聞を考えなさいよ!なんて物を堂々と渡してくるよの!!」
渡された〝ギャルゲー〟をしっかり抱えながら猛烈に抗議する。
「だから良いだろ今日位は、これで最後なんだから」
そしてまた彼らしくない落ち着いた態度であっさり流す。その態度もさることながらも『最後』と言う言葉が英梨々の心臓に突き刺さり、興奮が一気に冷めていった。
「さ、最後って・・・?」
「言葉通りの意味だ。こう言う物を渡すのも、俺から接触するものも、今日限りで終わりにする。
一言で纏めるなら、さよならをしに来たんだ・・・・・・って言うかもっと早くにするべきだったな、色々な意味で」
『さよなら』の単語が飛び出した時、心臓が更に抉られる錯覚を英梨々は覚え、震えた声で言葉を発す。
「な・・・なんで・・・?」
それに対し倫也は冷ややかな態度で応えた。
「それを言うか?俺を裏切っておいて、俺は七年待った。オタク続けてれば、きっと戻って来てくれるって信じて――――――――」
「~~~~~~~~」
返答に対し涙目を浮かべる英梨々に倫也も言葉を切り、溜息を一つついて(謝罪や罪悪感のニュアンスを含めず)応える。
「どうしても、やらなきゃいけない事が出来ちまったんだ。だから、お前を待ってる事も恨んでる余裕もないんだよ」
「・・・・やらなきゃ・・・いけない・・ことって・・・・?」
やっとの事で搾り出す英梨々に倫也は真っ直ぐに瞳をあわせ、ハッキリと口にした。
「お前には関係ない」
「~~~~~っ!!!!!」
英梨々は今に泣いても不思議じゃない顔になるが倫也は眼をそらさずに覚悟を込めた言葉を発す。
「改めて言う。英梨々、お前とは今日この時をもって、さよならだ」
「うわ~~~~!!!!!!!」
そのまま泣き崩れる英梨々に倫也は一瞥もくれず部屋を去って行った。
***
翌日、英梨々は学校を休み校内は噂で持ちきりだった。それは2年B組みも例外ではなく、風見雄二も加藤恵も取り巻きの中に居ながら話をしていた。
「聞いた話じゃ澤村さん、凄い顔で泣きながら帰っていったらしいけど、新学期早々に何があったんだろうね?」
「さぁな。なあ、安芸はどう思う?」
若干心配そうに話す恵に雄二は一人我関せずと手帳と睨めっこしている倫也を見て近づいて行く。
「どうでもいい。赤の他人が泣こうが休もうが」
猛烈に冷たい答えだが、そこに言い知れぬ感情が込められているのを感じ、更に必死に手帳に書き込みをしている様も何処か臭く、何かあるかもしれないと雄二はそれとなく話を続けようと倫也の手帳を覗き込む。
「・・・・・アニメや漫画の予定と思ったが、バイトの予定とはな・・・新学期が始まった早々、熱心だな。ビッシリ埋まってる」
雄二のストレートな感想に倫也は気を悪くするでもなく淡々と返す。
「五月のゴールデンウィークで辞めるからな、可能な限りシフトに入りたいんだ。ちょっと物入りになりそうだし」
「物入り、漫画やBDの大人買いでもするのか?」
「そういうのは今、休業中なんだよ」
(多分、無期限でな)
その答えに雄二は僅かに驚き、一緒に近くで聞いていた恵は唖然としていた。
「あ・・・安芸くんが・・・・・オタクを休業・・・・・澤村さんと言い、これ何かの天変地異の前触れ・・・・・」
片言で喋る恵に雄二は顔面近くで大きく両手を叩き、何処かに行きそうな意識を連れ戻す。
「大袈裟だぞ」
「別にいい。それよりもそんな訳でファミレスの売り上げに貢献したいから、二人とも気が向いたら『ファミール』まで来てくれないかな・・っと、いけね」
恵は倫也に謝罪しようとするが当人は気にした様子もなく手帳をしまって、教科書とノートを出していた。時計を見るともう直ぐ授業が始まる時間であり二人はすぐさま席に戻った。
そして、始まった新学期最初の授業で風見雄二は指名されればあらゆる問題をすらすらと解き、体育の時間でも抜群の運動神経を見せ女子の取り巻きや部活に誘おうとする男子に引っ張りダコだったが、バイトがあるからと部活は断り、近寄ってくる女子達は少し話すと直ぐに離れていった・・・・ちなみにその背後には加藤恵がつかず離れずにずっと居た。
***
昼休みの屋上、そこで唯一人で昼食を食べるわけでもなく読書に耽っている霞ヶ丘詩羽はドアが開く音に一瞬それとなく眼を向けるが、やって来た人物、安芸倫也を見て読書に戻った。
倫也は詩羽に近づき紙袋を置いて話しかけた。
「どうせ昼飯まだですよね」
そして許可を取り、隣に座りパンと牛乳を差し出し食べ終わるのを待った。
「で、昔捨てた女に今更何の様?」
意味深な切り出しに詩羽の知る倫也なら慌てながら訂正するのだが、今回は落ち着いた様子で立ち上がり詩羽の正面に向き直った。
「まずは完結おめでとうございます。最終巻とても感動しました、霞詩子先生」
詩羽の知らない倫也の仕草に内心驚きながらも決して表に出さずに、素っ気無く返す。
「そう、ありがとう」
そして、倫也は一本のUBSメモリを差し出す。
「最終巻の感想も含めてホームページに載せていたモノ全部入ってます」
「私の時には受け取ってくれなかったのに」
眼に若干の苛立ちと宿し刺すような台詞にメモリを戻そうとする。
「別に無理にとは言いませんよ」
予想外の反応の連続に気後れしそうになるが、詩羽は倫也の手を取ってメモリを受け取る。
「・・・・で、この為だけに来た訳じゃないでしょ?」
「いえ用はこれだけです。来月いっぱいでホームページ閉じるんで」
即答する倫也に詩羽はいつもどおりの素っ気無くなれども辛辣な言葉を浴びせる。
「そう。とうとう私を完全に捨てに来たわけね」
「俺自身、そんな関係だと思ったことは唯の一度もないですけど、それで納得してくれるならそれでいいです。ついでに言えば俺なんかの事は会った事もない赤の他人として、きっぱりと忘れてください」
またもや即答で返し、更には倫也のこれ以上ないカウンターに、詩羽は目を見開き動揺を隠せずに尋ねた。
「い・・一体・・・何があったの?」
「ちょっと、やらなきゃいけない事が出来たんで、その前に身の回りの事を全部片付けて置こうかなと」
「なんなの、やらなきゃいけないことって?!」
最早、倫也が全くの別人に見えて来た詩羽は立ち上がり詰め寄った。対して倫也はゆったりと肩を押して距離をとり、眼を合わせて真剣な表情で言った。
「すみません。俺だけの問題じゃないので、答えることは出来ません」
「――――――」
詩羽は声も出せずに呆然と立ち尽くすが、倫也は構わずドアに向かい去ろうとする。そして、ドアを開けた所で詩羽に顔を向ける。
「さようなら、
その一言にドアを閉め去っていく。
詩羽は昼休み中、ずっと立ち尽くしていた。
***
放課後の図書室、詩羽は午後の授業も耳に入らず更にどうしてここに居るのかも分からないまま、窓際の席にジッと座っていた。
そして直ぐ近くの席にいる二人の男女の会話のある一言が引っ掛かり耳を傾けた。
「『恋するメトロノーム』本当にラノベがあるのか、この図書室は」
「うん。聞いた話じゃ、それも安芸くんが熱心に勧めたんだって」
二人の男女、風見雄二と加藤恵の前には四冊の小説があり、雄二の手には一冊の小説、恵は携帯電話があり小説を交互に見ながら調べものをしていた。
「最終巻の展開はやっぱり物議を醸してるね。
まぁ、それでもTAKIって管理人のサイトは愛と感動で埋まってるけど」
「TAKI?」
「霞詩子先生の熱狂的ファンで、公式サイトを押えて検索で一番に引っ掛かるほど凄いサイトを運営してる人。書かれてる記事の内容も主人公にシンクロしててとっても熱くて・・・・どうしたの?」
流し読みするようにページを次々とめくりながらも真剣な眼差しで小説を見ている雄二に恵は言い知れぬ雰囲気を感じた。
「いや、なんだか三巻からラブレターを読んでる気分になってな」
「ラブレター?」
心此処にあらずであった詩羽は意識を総動員して二人の会話に聞き耳を立てた。
「まず言って置くがこれは俺の勝手な妄想だ」
そう前置きして雄二は話を続ける。
「俺の師匠曰く、本と言うのは著者の人生そのものだと言う。その理論と作者が女性である事から言うとこの小説のヒロインは作者の〝何か〟が込められている」
恵は雄二の話を興味心身で聞いており、詩羽は内心冷や汗をかきながらも聞き耳を立てる。
「二巻までは恋に憧れる空想の様な感じだったのに三巻からは妙に生々しい感じになった。主人公に相当する人物に出会って作者が恋したと考えるとしっくりくる」
「はあ、凄いね。この管理人さんとは違う意味で良く見てるって言うか」
「子供の頃から人の機嫌を窺いながら生きてきたからな。こう言う考え方が癖になってな」
会話している当人達はいたって普通だが、聞いている詩羽の冷や汗は表層に出始めた。
「おっと話が逸れたな。まぁ、そうするとだ主人公がライバルキャラを選んだって事は、作者は振られてしまったって事になる。で、その主人公である相手だが・・・・・・・」
雄二は恵みの持っていた携帯を凝視する。
「もしかして・・・・・」
恵も意図を察し携帯を差し出し、雄二は表示されている内容に目を通す。
「あくまで、かも知れないだが、もしも相手がこの管理人だったら振られたとすら言えない状況になった可能性もあるな」
「どういうこと?」
「この管理人のコメントは暑苦しい程に熱いが、一線を引き同じ方向を向いて同じ目線に立ち発している。だから作者がどんなに想いを伝えようとしても、そもそも客観的で向かい合ってすらいないから届くことは無いだろうな」
「それって管理人さんの擁護?」
「俺個人の感想だ。
勿論、こう言う小説や音楽、イベントなんかで告白するのは間違ってないしロマンチックだと思うが、この相手に対して言えば作者は伝えるべき手段を間違えたと言うしかない」
雄二の(辛辣な)分析に恵は真剣な表情になり詩羽は顔面蒼白になり小刻みに震え始める。
「或いは、このTAKIって人物はこう言いたかったのかも知れないな。〝俺は小説の登場人物じゃない〟現実に生きている人間だ、と」
雄二の(容赦ない)言葉が止めとなって詩羽は椅子を倒す勢いで立ち上がり、早足で図書室を出て行った。その目立ちすぎる行動は雄二と恵だけでなく図書室に居た全員が注目する。
「あれ霞ヶ丘詩羽先輩だよね。凄い顔してたけど、どうしたんだろ?」
呆然と言った恵の『霞ヶ丘詩羽』と言う名前に雄二は持っているラノベの作者の名前を見る。
(霞詩子・・・・・まさか・・・)
雄二の脳裏に最悪の仮説が浮かんだが、確信もないまま相談することも出来るはずもなく、珍しく焦りがこみ上げてきた。
安芸倫也の性格が変わってしまったのは、相応の理由がありますが、それはいずれ・・・