タルタロス島格納庫、小型水上艇の前で銃声が鳴り響いて血飛沫が舞う。辺りには軍服の兵士達とスーツのオスロの私兵達が倒れており、まだ意識がある兵士が唯一立っているオスロに銃を向け引き金を引くも弾は出ずにオスロの持っていた刀で止めを刺される。
「やはり銃じゃなくて刃物だよ」
布で刀身を拭うと刃に見知った顔が映り嬉しそうに振り向く。
「やぁユージじゃないか、久しぶり!」
「・・・・・一度だけ聞いてやる、大人しく投降しろ」
対して雄二は堂々とした態度で事務的に言う。
「う~ん。しばらく離れている間に随分と気に入らない目をするようになったじゃないか。
ああ、大事な姉が戻ったから・・・それとも女でも出来た・・・これは無いと思うが捕まえた駒は実は友達だなんて言うんじゃないだろうね?」
「全部だよ。今の俺には帰る場所も待っている人も肩を並べて一緒に歩く友もいる・・・アンタの所に戻る必要なんて微塵も無い」
雄二はナイフを構え、オスロも刀を構える。
「そうか・・・ならばその全てを私が殺す」
雄二は迷い無くナイフを突き出し、オスロは往なして刀を振り下ろす。
「いや姉だけは勘弁しよう・・・・今回の件で余計に手に入れたくなった、まさか半日も経たずに国家と和解しここまで早く仕掛けてくるとはね・・・・でも、キミを側に置いておけば自分から来る、あれはそう言う女だ」
刀を受け止めて弾き飛ばし距離を取る。対峙の中、ポケットから鍵を取り出し見せ付ける。
「あの駒につけたブレスレットの鍵だ。自殺されたら厄介だから生体センサーは切ったがそれでも脅威は変わらない。斬り合いなんて止めて逃げる方が懸命だと思わないか?」
「貴様を倒して奪うまでだ。俺はもう昔の様なアンタの人形じゃない!」
即答で返す雄二の目は生気が満ち、オスロは目を苛立たせて告げる。
「そうか・・・・残念だ、実に残念だよ・・・では殺してから連れて行くしかないな」
鍵を戻し両手で柄を握り締め構えを治す。
「備前長船、住衛門、延文兼光・・・・日下部麻子が部下に刺したままのを回収した物さ。〝師匠〟の形見で命を落とすのも一興だろう」
踏み込み殺意を込めた一撃を振り下ろす。右に避けて回避するも返す刀で横薙ぎが襲い受け止めるも押し負けて吹き飛ばされる。倒れた拍子に背後が切り付けられるが皮一枚で終わり転がって距離を取り立ち上がる。その目には恐怖も絶望も無く、生きようとする気概に満ち、オスロの神経を逆なでする。
「気に入らない・・気に入らない目だ!!」
刀を正面に突きの姿勢に構え全力で踏み込む。
「!!」
その時、雄二は腰から短い紐を抜き取り前方に投げ、二人の間に強力な閃光が迸って辺りを包む。
「な!?」
オスロは目が眩み突進が鈍り、直後腹部に強烈な衝撃を受ける。閃光が収まるとそこにはナイフが突き刺さっており怯む。その隙を見逃さなかった雄二はナイフを投擲した右手で刀を叩き落し、左手で襟を掴む。
「このっ!!」
オスロは体当たりを決めに来るが円を描くように交わし背後を取り、手首と肘を逆取りして地面に押さえつける一ヶ条抑えを決め返す。
「グワァアアア!!!」
倒れこみナイフがより深く差し込んでいく中で雄二に目を向け問う。
「あの閃光の中で何故・・・?」
「
それに言っただろう俺はもう昔の俺じゃない、眩しいのを恐れたりはしない・・・・・ついでに言えば今のこの技は俺の女と出逢った切欠だ」
「グゥウウ・・・・」
ナイフが刺さりっぱなしなので出血は少ないが、腹部からの悶絶するような痛みに苦悶し話を聞いているのかも分からない。そんな様子を見ながらポケットから爆弾の鍵を取り出し連絡を入れる。
「こちらブーメラン、ヒース・オスロ並びに爆弾解除の鍵を確保した。至急応援を頼む」
数秒経たずにギャレットの活き活きとした声が響く。
『よくやったカザミ!チームブラボーを急行させている。それまで絶対に逃がすな!』
「早く頼むよ。友達を恐い思いから急いで解放してやりたい」
『・・・・・そんな言葉を貴様の口から聞けるとはな・・・・まあ、いいだろう・・・よくやった』
嬉しそうな褒めで通信は切れ、確保班が到着したときにはオスロの意識は無く、後を任せて
***
雄二が到着して倫也から爆弾のブレスレットを外して処理班に任せ、二人はヘリに乗り込んでいく中で、小隊長のジャスティン・マイクマイヤー大尉はタルタロス島のオスロの執務室にある隠し部屋に足を踏み入れていた。
「はじめまして、先代ヒース・オスロ」
そこには生命維持装置を取り付け座っているオスロと同じ格好をした老人が居た。
『・・・・全て終わってしまったか・・・残念だ』
「一人で連れて行くのは不可能のようだな。念のために言っておくが私は医者であるが軍人だ、おかしな事をしたら迷わないから止めておく事だ」
老オスロの状態を確認しながら連絡を入れて応援を呼ぶ。
『ならその間に話をしないか?
頭脳をつかさどる姉と武力をつかさどる弟、この二人を次のオスロにすることで世界の〝平和〟をコントロールする為、戦争を管理する・・・その何が間違っているんだい?』
「すまないが、その手の能書きは然るべき場所でしてくれ。まぁ、答えになるかは分からないが〝ヒース・オスロ〟にも終わりが来た、それ位だな。私が言えるのは」
「・・・・私を滅ぼせば世界が滅びるのと同義だぞ?」
「一人が消えて世界が滅びるなら、とっくに滅びてるさ・・・代わりに誰かが出て来る、例えば私の部下やその姉さんとかね。そして、そんな若者に託せるだけのモノを整えるのが私達大人の役目さ」
「陳腐な事だ・・・・理想を語った所でそれで上手くいくなら負の連鎖は起きん」
「ご尤も、私も戦争を知っているから痛いほど分かるよ。
だがそれだけが世の全てじゃない・・・答えは幾重にもあるはずだ、無理矢理一つに絞らずにとことん突き詰めて其処に己自身で価値を見出せばいいさ・・・・そうでなければ、己で悟った事でも他人の言葉だろうと、有り難味が無い」
老オスロを見張り応援を待ちながら、J大尉はもう去っていった部下とその友を思った。
***
「アレがそうだな。いよいよ約束の時が来るぞ」
「・・・・・その言い回しって俺の
ヘリに揺られながら『灰色島』を視認した雄二の厨二じみた発言に倫也と同乗していたJBが胡乱な目で見る。
「さあ、どうだろうな」
「まあ、いいけど・・・着陸するからシートベルトを」
豪快な音と共に海岸近くに着陸すると三人の少女達が出迎える。その真ん中に立っている小柄の白いロングヘアの少女を見た時、倫也の目から涙が溢れる。
「あ・・・あ・・・・・」
「行って来い」
雄二が優しく背中に手を添え振り返る。
「え・・・でも・・?」
「頑張ったご褒美だ。気にするな」
会釈して一歩ずつ近づいていき、タナトスの右隣に居た恵は離れて早足で雄二に近くに来た。
そして、目の前で対面した倫也はタナトスこと風見一姫にたどたどしく口を開く。
「ずっと・・・・お逢いしとうございました」
「なぁに、その言い回し」
「う~~~・・・すみません・・・でも・・・・」
涙がどんどん溢れる倫也の姿に苦笑する一姫に貰い泣きした天音も同意するように頷く。
「安芸くん・・・ようやく憑き物が落ちたようだね」
「ああ、今なら他の声も聞こえるな」
それを見ていた恵と雄二は微笑み、JBはヘリの無線で何処かと連絡を取っていた。
「ユージ、今キアラから連絡が来たわ。新しい部署と言うかチームの発足案が正式に検討されるって。この国の才媛『カズキ・T・ケィザリー』女史を招く前提で」
「一姫の要求、結局全面的に呑むって事か?」
「今回の件もそうだけど、これまで実質的に国防を担ってきた実績・・・その最中、一時間四十五万円の相談料で政治家や実業家の助けもして来たからね・・・逃げ込む先には困らないみたいよ」
「・・・・誰かに独占させて計り知れない脅威になるくらいなら、担ぎ上げて囲っちまった方がマシってことか・・・」
「私の勘の域だけど・・・・アナタのお姉さん、それも見越してたんでしょうね・・・・なんというか・・ホント・・・・・・」
言い淀むJBにぶっきら棒に言う。
「その感覚は俺も物心付く前から味わってきたから気にしなくていいぞ」
「あっそ。ああ、それと『公式には何も無かった』から本社からの処分はないけど、あの夜に爆走したのは目撃者も居るから誤魔化せない。帰国したら警察で講習を受けなさい、罰金の方は此方で天引きしといたから」
JBのウインクに恵は噴出し、雄二は不服そうな顔で話題を変える。
「・・・・・新しいチームには俺はいつ参加するんだ?」
「まだ発案の段階よ。まぁ、室長をキアラに任せて私が責任者になると思うけど、アナタが参加するかは分からないわよ・・・・もっと素直で優秀そうなのが居そうだし」
JBの視線の先には倫也と一姫がおり、雄二が食い下がる。
「あの二人に実働、戦闘は無理だ。特に倫也の方はもう不可能だろう・・デスクに専念させて使い易い部下を――――――――」
「何処が使い易いのよ!!しばらくキアラの指示の元で反省でもしなさい!じゃ、直ぐ戻らなきゃ行けなくなったから、ここで・・・そちらも夏休みだからってダラけないのよ」
母親の如き捨て台詞でヘリに戻り行ってしまい、それを見送り再び倫也と一姫に目を向ける。流石に言葉は聞き取れないが倫也が泣いているのは見たままであり、恵が口を開く。
「一杯泣いてるね」
「ああ、そのまま全部溜め込んだモノも出し切れば、あの二人の声も届くだろう」
「具体的にどうするの?」
「ゲームの予約はもうしてあるから、アメリカの家に送る・・・それで感想を聞きだす」
「もし声が届かなかったら?」
「首に縄つけて引き摺ってでも当事者同士を会わせて蹴りを着けさせる。そうなるまで徹底的に付き合うさ」
「ちなみに・・・どっちをどっちに連れて行くの?」
「・・・・・・・その時になってから考えるよ」
そして当然ながら雄二達の会話も倫也達には聞こえる訳も無く、落ち着きを取り戻してきた倫也に一姫は意地悪そうに語りかける。
「それで、ゲームの登場人物みたいな体験が出来た感想は?」
「やっぱ・・・
倫也は涙を拭いながら話し一姫を見据える。そのまま抱きつきそうな空気にやんわりと断りを入れる。
「悪いけどハグとかは勘弁してね。私の胸で泣いていいのは――――――」
「しませんよ、そんな事・・・ただ」
倫也は近づいて一姫の両手をしっかりと握り目を合わせて、ずっと言いたかった言葉を掛ける。
「生きていてくれて本当にありがとう」
感謝だけでない多くの感情を込めた一言に一姫は微笑み、そっと手を握り返す。
「ええ、やっと手が届いた・・・日の当たる場所に帰れた。
でも大変なのはこれから、もしまだ付いて来てくれるなら・・・よろしくね、倫也君」
「はい。もちろ――――」
倫也が元気よく返事をして更に手を握ろうとした時、左のロボットアームが外れバランスを崩してすっ転ぶ。
「あらら、外れちゃったわ」
一姫は笑いながら言うが倫也は転んだまま、側に居た天音も目を点にして尋ねる。
「それ・・義手じゃなかったんですか?」
「あの時・・・怪我して腕、吊ってたよね?」
「これは唯の玩具よ。確かに負傷してたけど切り落とすほどじゃないし、ちゃんと治療はしたもの」
一姫は笑ったままで何でもない風に答える。
「じゃ、なんで?」
「その方が面白いかなって」
「笑えないって・・・・」
倫也の目はまだ点であり、一姫の顔も笑ったままで、天音は額に手を当てた。
「なんか安芸くん・・・ずっこけたよね?」
離れてみていた恵は思わず呟き、雄二は目を細めて呆れた声を出す。
「左手の玩具が外れた・・・・なんとも性質の悪いことを・・・・」
「相変わらず目がいいんだね」
恵の何気ない一言に雄二は真剣に考え込む。
「どうしたの?」
「いや・・・一年前の春から始まった全ては・・一姫が最後に倫也を目に映ったのが切欠だ・・・・もしそれが無かったら、どうなっていただろうなと思ってな」
「間違いなく、私と雄二くんは出会わなかった」
「そうだな。その代わりあの時の場に倫也も居たそうだから、案外アイツと付き合う事になっていたかもれないぞ」
「雄二くんはその方が良かったと思うの?」
「少なくとも命懸けの思いはしなかっただろうし、倫也に関しちゃ要らん苦しみを抱える事もなかった・・・・そうなったら、なったらで苦労もあっただろうが・・そうなった故の嬉しさや楽しさもあったんじゃないかってな」
達観したような雄二に恵は近づき襟元を掴んで自分の顔を至近距離に寄せる。
「そうかもしれない。
でも『今ここに居る私』が隣に立ちたいのは、間違いなくアナタだよ。風見雄二くん」
雄二は目を丸くし、心底嬉しそうに恵を抱き寄せる。
「それは光栄だ。俺も君に出会えてよかった、恵」
目を瞑り愛おしくキスを交わす雄二と恵。
『灰色島』の天気は快晴で陽光が射し、多くを照らし出す。
そして、狂ってしまった道を抜け、過去と交わるも先に続く道に彼らは辿り着いた。
その道を進んだ先ある
ご愛読、ありがとうございました。終わらせ方はベタでしたかね?
冴えカノ方面でもう一つエピソードを入れようか考えているんですが、それは本来の世界線の結末を見届けてからどうするか決めます。期待です(超)
ただ物語りは一応、締めなので勝手ながら感想を頂けるとありがたいです。
PS、J大尉が老オスロに言っていたことは、当初オリキャラに言わせようとしていたのもです。