グリザイアに射す陽光   作:a0o

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 幼き日、間違えたままにしなければ・・・と考えてみて書いてみました。


意味のないif
幼い心に投じられた一石


 照りつける陽の光、自然一杯な山の中で小学五年生の安芸倫也は静かに日向ぼっこしていた。

 

「暑い~、でも気持ち~~」

 

 今は自分を連れまわす従姉もいない、久しぶりに静かにのんびりした時間を満喫して過ごす・・・・・・はずだった。

 山に反響する強烈な破裂音とブレーキ音、衝突音に飛び起きて辺りを見回すと小型バスが落下していく瞬間を今正にその目に収めていた。

 

「・・・・・・た、た、た、た、大変だあ!!」

 

 唖然とした心境の中で倫也は大声で叫びながら、全力で走っていった。

 

 

 ***

 

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ・・・・・・!」

 

 泥だらけになりあちらこちらに擦り傷を作りながらも全力疾走を続け、山の入り口を抜けるとそこには直ぐ近くでキャベツ畑を営んでいる顔見知りの夫婦がいた。トラックに乗った夫が奥さんに水筒を手渡されている。

 

「おじさん!おばさん!」

 

「お~、倫くん。どうしたぁ?そんなに慌てて熊でも出たか?」

 

「お父さん、あまり物騒な事言わない」

 

 呑気な夫婦の会話にいつもなら暑苦しいツッコミを入れる子なのだが、汗だくにして口が涎まみれにも構わずに肩で息をしながらの形相に只事じゃないと察し、落ち着かせようと農夫は水筒を差し出し倫也は慌てて一気に飲み干す。

 

「ゴクッゴクッゴクッ・・・・・・」

 

「おいおい、一気に飲んじゃいかんよ・・・・・・と言いたい所だが、そんな場合じゃ無さそうだね。一体何があった?」

 

「・・・・・・ハァ、ハァ・・・た、た、大変なんだ・・・・・・旧道の崖で車が・・・落ちていった」

 

 倫也は来た方向を指差しながら、必死の形相で見た事と慌てふためながらも伝える。

 

「旧道って・・・・・・あんなとこ通る奴がいるのか?」

 

「本当なんだ!!俺、この目で見たんだ!!信じて!!!」

 

 唖然としながら倫也の指差す先を見ていた夫婦に倫也は服の裾を掴み揺らしながらも必死に訴える。そんな子供を妻は優しく肩を抱き落ち着かせるように語り掛ける。

 

「大丈夫よ、倫也君がそんな嘘付く子じゃないのは知ってるから。ねぇ、あなた」

 

「ああ、しかしこりゃ大変だ。俺は直ぐに警察に行くから、お前はこの子を頼むぞ」

 

「ええ、任せて」

 

 夫の方は携帯で連絡を取り、詳しい事情説明の為にトラックに乗り込み警察に向かい、それを見送った倫也は緊張の糸が切れたのか、倒れこむように気を失うが妻に抱きとめられる。

 

「よく頑張ったね、偉いよ」

 

 妻は倫也を抱っこして頭を優しく撫でた。

 

 

***

 

 

 同じ頃、朦朧とする意識の中で目を開けると視界がぼやけるのも然ることながら、目に映る物の情報に脳の処理が追いつかず、何とか起き上がろうともがくと下から声が聞こえた。

 

「起きたんだったら早く私の上から退いて下さらない・・・」

 

 静かなれども勝気な声に目を向けると白い長髪に目の赤い小柄な少女を下敷きにしていることを認識し、完全に意識が目覚め慌てて退こうと動く。

 

「痛い!ちょっと、急に動かないで!」

 

「あ、ゴメンナサイ」

 

 更に慌てて謝りながら退こうとするが、足元が覚束ない為に手間取り、その度に下の少女から苦情を入れられては謝るを数度繰り返し、漸く立ち上がることが出来た。

 そして見渡してみると壁が床になり床が壁になって散乱している車内に唖然としてしまう。

 

「ちょっと、ボーっとしてないで今度は私を起こしてくれるかしらっ」

 

「あ、ゴメンな――――」

 

「それはもう聞き飽きたから、早く私の手を取って!」

 

 要領の悪い遣り取りの所為か下の少女の言葉に棘があり、萎縮しながら粛々と従い少女を起こし車外に出る。

 

「う~~~~」

 

 漸く外に出られたものの一息つける状況でも気分でもない為に不安に呻いていると少女から眼鏡が差し出される。

 

「これ、貴女のでしょ?確か・・・周防天音さん、だったかしら?」

 

「あ、はい。えっと風見一姫さん」

 

 眼鏡を受け取り、視界がクリアになるとそこには新入生代表の挨拶をし、近所の展覧会で絵画を展示され〝天才〟、〝神童〟と名高い同級生、風見一姫がそこに居た。

 

「同じ学年なんだし、そこまで畏まらなくてもいいのに」

 

 と、言われるものの雲の上の存在だと思っていた人物に対し普通を自覚する自分はどうしても気後れしてしまう。そんな天音を面白くない顔で返しながらも不安の原因を取り除こうと声を掛ける。

 

「心配しなくてもこう言うので車が爆発するのは映画の中だけよ」

 

「え!どうして!?」

 

「そんな不安そうな顔でガソリンタンクを見てれば、誰だって判るわ。

 それよりも誰から助けるかを―――――って!!?」

 

 呆れながらの説明に更に恐縮して完全に一姫主導の下で会話が行われるかに思えたが、轟音響くヘリコプター音に慌てて上空を見ると一体のヘリコプターが直ぐ近くを飛んでおり、流石の風見一姫も驚愕で一瞬頭が真っ白になるも直ぐ見持ち直し、大急ぎで自分の服を脱いで大きく円を描くように振り回す。

 

「ちょ、ちょっと風見さん!?」

 

 一姫の突然の行動に天音が深い意味も無い窘めを言おうとするが、

 

「はしたないとか言ってる場合じゃないでしょ!これが救助ヘリに合図を送るマニュアルなの・・・・・・それにアンダーシャツもあるわ。と言うか貴女もやりなさい!助かりたくないの!?」

 

 その言葉に天音もシャツを脱ごうとするが、ヘリから隊員らしき人物が降下して来た。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 天音は服にかけた手を下げて、目を瞑り恥ずかしそうに頬を染めて俯く。そんな天音を意に介さずに一姫は隊員にテキパキと状況を説明していく。

 

「ありがとうございます。それで貴女は何処か痛いところは?」

 

「左腕がジンジンと痛むけど、我慢出来ないほどじゃありません。今は一刻も早く残っている人たちを・・・・・・って周防さん!私達も手伝うのよ。いつまで呆けてるの?」

 

「え、だって?」

 

 上空のヘリを見上げる天音に一姫は呆れと苛立ちを混じった説明を始める。

 

「こんな場所にヘリが降りられる訳無いでしょ。状況報告した後で救助隊が来ると考えるのが妥当よ。だから今は一刻も早く残ってる人たちの状況を知らないといけないの」

 

 いくら天才とは言え医療の知識があるかもしれないが技術など無い、自分など知識すらない。だから邪魔にならないように大人しくしているのがセオリーだと思っていた。だが、今はこれ以上の増員を望めない上に事は一刻を争う患者が居るかもしれない、天音は泣きたいのを堪えて近づいて来る。

 

「そう言う訳で指示をお願いします。どこまでお役に立てるかは判りませんが、せめて運ぶくらいは」

 

「いいえ、そこまで落ち着いていられるだけでも大助かりですよ。但し念押ししますが絶対にわたしの指示に従ってください」

 

 冷静かつ的確に対応する一姫に感心しながら、隊員は彼女らでも動かせる者と自分がやるべき者を指示して、一姫と天音は指示を遵守しながら皆を運び出していく。

 結果、十四人中の三人が死亡し、生存者十一人中の四人が負傷とのことだが現状、命に関わるほどではなく、救助隊到着まで待機するという結論に達した。

 

「皆さん、既に救助隊が編成されこちらに向ったとのことです。落ち着いてパニックを起こさないようお願いします」

 

 隊員の宣言によってその場では安堵の空気が訪れ、緊張しっぱなしだった天音は膝を着いてへたり込んだ。一方、一姫は左腕に応急処置を施され、他三人の負傷者と一緒に隊員の側でホッとした表情をしていた。その顔に急に可笑しさが込み上がるも何とか飲み込み周りを見ると顧問の先生は暗い顔で塞ぎこみ(見えない所に安置されている)犠牲者の方を向いていた。

 

 

 ***

 

 

 数時間後、救助隊に連れられ生存者達は無事に帰還し、地元の病院でそれぞれ検査と治療を受けていた。

 

「それにしても、よくあんなに早く救助が来たわね。助かっといて言うのもなんだけど物凄く辺鄙な場所だったし、来るとしてももっと時間が掛かるんじゃないかって考えてのだけれど?」

 

 風見一姫は左腕に確りとしたギブスをつけて治療が済んだ後の事情聴取で、向かいに座っている警官にそれとなく尋ねてみた。救助隊到着まで待機している間に車体を見てみた限りでは何か金属片を踏んだ為にタイヤがパンクしたことが原因の不幸な事故との結論に達したが、予定ルートとは違う上に地元の人間でなければ思いつきもしない旧道の更に最悪な場所での出来事だ。下手すれば自分の命がどうなっていたかも分からないだけに内心、冷や冷やしていた為、余りにも早く来た救出劇に疑問が尽きず、柄にも無く〝何か〟の意思が働いているのではと勘繰ってしまう。

 

「それに関しては不幸中の幸いと言うほか無い。偶々、事故を目撃していた少年が居てね、物凄い形相で駆け込んで知らせてくれたんだよ」

 

「少年?子供の言う事をよくすんなり受け入れたわね?」

 

「まぁ、多少変わった子ではあるけど、嘘であんな大騒ぎを起こすような子じゃないからね」

 

 警官の話はスラスラと淀みなく、本当に良い意味で大人に気に入られているのだと悟り、自分の周りには才能が生み出す利益に群がる欲深い大人(両親も例外ではない)しか居ない為、これまた柄にも無く羨ましいという感情を抱いた。話の最中、警官が視線を一瞬、奥の点滴室に向けたのを見逃さなかった一姫は右腕で頬杖をつきながら、其処に件の少年がいるのだと察した。

 凄いものを見て心身ともに無理して、知らせた時に張り詰めた糸が切れて気絶でもしたのか?今日はそれなりに暑かった事もあってか脱水症状でも起こしたのか?と色々推察してみるものの、直ぐに救助を呼びに言った判断は高く評価出来る。あの場に子供が一人でやって来てもどうにもならないどころか、事態は余計悪化した可能性も無きにしも非ずであり、助かった今なら正解だったと言えるだろう。

 ちなみに余談ではあるが、その判断はかつて倫也と美智留が迷子になった後で『二次遭難の可能性があるから迂闊な行動をするな』『勝手な判断をしないでちゃんと知らせるように』と説教されたことが下敷きになっている。

 しかし、どうであれ今生きているのは、その少年のお陰であるのだらからキチンとお礼を思っていたが、

 

「お姉ちゃん!!」

 

 聞きなれた男の子の声に一気に考えていたことが吹き飛び、立ち上がり声の方向に身体を向けるとどんな時でも愛しいと思っていた弟、風見雄二が走りながら抱きついた。

 

「よかった・・・・・・よかったよ~・・・・・・ふぇえ~~~」

 

 一姫(あね)の背中に手を回しながら顔を胸に埋め泣きじゃくる弟に、そっと右腕を回して抱き寄せる。彼女が抱いていた最大の恐怖の根幹、それは自分の命などではなく残される弟に対する思いだった。弟にもう会えないかも知れない、あの親の元で真っ当に生きていくことが出来るのかと言う思いが心の奥底に芽生えていた。普通ならパニックを起こしても不思議じゃない状況でも冷静で努められたのも、恐怖を糧に自らを奮い立たせたからだ。そしてそれを完遂できる器は正に天才であり、弟、風見雄二への愛情の深さを物語っていた。

 

「ごめんね。ユージ・・・心配かけてごめんね」

 

「姉ちゃんは・・・うぅ・・・あやまらなくて・・・・・・いいよぉ」

 

 申し訳なさを込めて謝罪する姉に嗚咽を交えながらも弟は声を発し、抱きしめる力を緩める事無く涙目を向けてくる。

 

「もう、遠くに言っちゃ嫌だよ。俺を・・・置いてかないで・・・・・・」

 

「ええ、ごめんな・・・・・・いいえ、ありがとう。ユージ」

 

 自らが天才であるがために比較され苦しめていた弟。時には疎まれ、辛い思いをさせていながらも自分を心配していた弟が可愛いく嬉しいのもあるが、それ以上に愛おしさが込み上げ同じく目に涙を浮かべながらも、姉も弟を強く抱き寄せて頬をすり合わせる。

 

 

 ***

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 そしてその様子を見ていた外野の面々は、気恥ずかしくも美しくしい光景に心奪われる・・・・・・と、言いたかったが、全員と言うわけでもなく中にはセンチメンタルとは外れた感想を抱くものも居た。

 

(・・・・・・姉弟なんだよな?三次元(リアル)でいいのか?)

 

 今回の件の功労者である安芸倫也もその一人であり、定かでない意識下で大きな泣き声に何事かと点滴室の戸を開けてみると、其処には泣きじゃくっている自分と同世代と思しき男の子とそれを愛おしそうに抱きしめ頬をすり寄せている白髪ロングに赤目と言う目立った容姿の女子中学生があった。濃いオタクの一面を持つ彼には麗しい姉弟愛だけでなく、姉の姿が恋に胸焦がれ心ときめく乙女に見えてしまい、また彼女の容姿を差し引いても超絶目立つ光景にギャラリーが増えていき、同学生の少女達も感想を漏らしていた。

 

「いや~、あの風見一姫があんな顔するなんてねぇ」

「天才も人の子なり、今は野暮ですよ」

「子煩悩ならぬ、弟煩悩・・・・・・重度のブラコンだったんだ」

「わたしは、少し羨ましいかなぁ」

「うわっ、こっちはショタコンかよ」

「私もこんな状態じゃなきゃ、少しでいいから代わって欲しいなぁ」

「桜井さん・・・・・・内臓やってるんだから」

「いや部長、この場合突っ込んだら負けですよ」

 

 彼女達の感想を聞き流しながらも抱き合っている二人から一姫だけに視線を切り替えると、知識と理性により浮かんだ声に生存本能が最大音量で警報を鳴らし打ち消していき、倫也は身震いを憶えた。同時に数年抱えていた気持ちに変化が起きたことを感じていた。

 

 

 

 ***

 

 

 数日後、色々と複雑な意味での帰省を終えて東京の自宅に戻った倫也は、胸に手を当てて深呼吸して次に頬を叩いて気合いを入れるも決意は完全には固まらず不安が付きまとうが、あの日の必死さと〝人生何が起こるか判らない〟を奇妙な形で見たことに続き、危うくも美しいと魅入った男女の抱擁を思い出し心中を整理する。

 

「よし!行くか」

 

 そして幾ばくかの時間が過ぎ、立ち上がり玄関に向うと背後から物が落ちる音がした。

 

 

 

 




 意図しない神の行いが心に・・・・・・

 ここからは分岐します。とりあえずは先ずSideEに
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