グリザイアに射す陽光   作:a0o

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 ・・・・・・結構強引に行きます。


Side:E

 

 

 物音に一瞬気を取られるも倫也は構わずに家を出て直ぐ其処の坂道の上にある大きな屋敷に歩いて行く。

 

「す~、はぁ~」

 

 門の前で深呼吸して気持ちを落ち着かせて手にしていた土産は大丈夫かと、考えながらソワソワした不安を拭いきれず・・・・・・ここまで来たのにと己の不甲斐なさを改めて呆れる。

 

(ビビるな・・・・・・あの時はもっと大変だったろうが)

 

 と、自らに言い聞かせてみるものの、その〝あの時〟は人名が懸かっていた緊急にして非常事態であり、比べること事態がどうかしていると心の底の冷めた部分が囁いているが、このままではいけないと言う声で内心に活を居れ・・・・・・その繰り返しの堂々巡りの末に漸くインターホンを押した。

 

 

 ***

 

 

「いや~、それにしても久しぶりだね」

 

「ホント、随分と来てくれないし、あの娘もなにも言ってくれないから、どうしたんだろうってずっと言ってたのよ」

 

 拍子抜けするほどにあっさり招かれ、気さくに話しかけてくれる屋敷の主、イギリス外交官のスペンサー夫妻についさっきまでの葛藤はなんだったのかと自問したくなるもバックに詰めていたお土産を差し出して挨拶する。

 

「あのコレ・・・・・・詰まらない物ですが・・・」

 

「あ、これは御丁寧に」

 

 ぎこちない倫也に笑顔を浮かべ続けながら受け取り中身を見ると、いい香りのする夏みかんが入っており、あれほど仲良しだった娘の友達の形式ぶった遣り取りに笑みを絶やす事無く問いかける。

 

「それで、どうしたんだい?そんなラスボスに挑もうとする勇者みたいな顔して?」

 

「あなた、それを言うなら決戦を前に愚図ついてる主人公じゃなくて?」

 

「アハハハハハ・・・・・・」

 

 数年ぶりにも関わらず自分をオタクに引きずり込んだ相変わらずのトークに、ついさっきまで悩んでた自分がバカバカしく思えてくる。そして、少し前までなら時に狼狽し、時に一緒に盛り上がりながら彼らのペースに巻き込まれていただろうが、そうできなくなった事、その事に決着をつけようと決めさせた帰省先の騒動を思い出し、口火を切る。

 

「あの・・・・・・おじさん、おばさん・・・・・・俺・・・今日は・・・・・・」

 

 しかし、どうしても歯切れが悪く肝心なことが言い出しきれない。そんな倫也に夫妻は優しく労わるようにゆっくりと声を掛ける。

 

「あの娘、友達少なくてねー。今も小さいけど、もっともっーと小さい時は倫也くん倫也くんって」

 

 母親の語りに耳を澄ませ内容を深く刻む。勉強もそっちのけで絵に打ち込んでいた事、倫也に絵を見せて褒めたことを喜んでいた事、ある時を境により絵に没頭し始めた事、その時から友達の話もなく深刻に感じられるような状態である事。そして、そんな娘と仲のよかった幼馴染君をずっと心配していた事。話しが進むに連れ倫也は手を握りしめ興奮が湧き上がり勢いで声を出す。

 

「すみません!先に謝っときます!今日・・・俺、英梨々と喧嘩しに来ました!!」

 

「「・・・・・・・・・・・・」」

 

 感謝してこそすれ怒ったり恨んだりはしてないと締めようとする前に夫妻は呆然してしったが、倫也は勢いのままに英梨々との話を始めた。

 周囲の無理解によって虐められていた事、そこからどうするかで道が分かれてしまった二人。そして事が落ち着いた今になっても道が交わらずに仲違いしたままである事、その状況に終止符を打つ為に、今日これから二人の大事な愛娘と喧嘩しに訪ねてきたと思うままに伝えた。

 

「ひょっとしたら・・・・・・いや、間違いなく英梨々は泣くだろうし・・・もう金輪際、会うことも話すことも無くなるかもしれない・・・・・・それでも―――――――」

 

「もういいよ。倫也くん」

 

「え?」

 

 一人娘を泣かせると言った手前、嫌な顔をされるとビクついていただけに、笑顔で本当に嬉しそうに返してくれた父親と母親に面食らってしまう。そんな倫也に夫婦は嬉しそうな顔を合わせてから再び倫也に顔を向けて語る。

 

「それってつまりぃ、幼馴染ヒロインを攻略しに来てくれたんでしょ。私、スッゴク嬉しいわ。

だからそんなに深刻にならなくてもいいし、怯えなくてものよ」

 

 英梨々と完全に絶交するかも知れない・・・・・・そんな恐怖で今の今まで行動することが出来なかった。その恐怖を優しく満面の笑みで諭してくれる母親に困惑するも、それでも心にこびりついた恐怖は簡単には拭えず目に不安の色を浮かべる倫也に更に優しく語り掛ける。

 

「ねぇ、倫也くん。英梨々のこと、嫌い?それとも好き?」

 

「そ、それは・・・・・・」

 

 言いよどみ俯きそうな倫也の頬にそっと手を当てて、元気付けるように声を出す。

 

「大丈夫、きっと仲直りできるわ。だって今の倫也くんは間違いなく主人公になってるもの」

 

「俺が・・・・・・主人公・・・」

 

 その言葉はオタクある倫也にはスッと染み込んでいき、残っていた恐怖と戸惑いを消し去った。

 

「英梨々のお母さん。俺、行きます!」

 

 迷いの無くなった倫也は立ち上がり、階上の英梨々の部屋に向って行く。それをニヤニヤしながら見送った母親はうっとりとした声を出す。

 

「うわぁ~、お母さん(・・・・)ですって~」

 

 そんな妻にずっと静観していた夫は嬉しさ半分、呆れ半分で問いかける。

 

「なぁ、ちなみに一体、()の主人公のつもりで言ったんだ?」

 

「さあ~、なんでしょうね~」

 

 

 ***

 

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 自分の部屋でイラスト制作に没頭していた澤村・スペンサー・英梨々は思考が追いつかない突然の事態に固まっていた。

 彼女の視線の先にはノックも無く突然にドアを開けて入って来た幼馴染、安芸倫也が居た。双方、不本意な形とは言え絶交中の状態であり、まず何をすべきなのかも分からず沈黙がしばし続くが、いつまでもそうしている訳にもいかない為に声を出そうとしたところで不法侵入者(おさななじみ)から信じられない宣言を耳にする。

 

「英梨々、今日はお前と喧嘩しに来たぞ!」

 

「け・・・喧嘩?」

 

 一瞬、唖然としてしまうが、内容を脳が理解すると冷や汗が出て怯んでしまう。そんな英梨々にお構い無しに倫也は第二声を発す。

 

「よくも俺を裏切りやがったな!今直ぐここで俺に謝れ!!」

 

「な・・・・・・な、な・・・な・・・・・・」

 

 余りの上から目線の命令口調に驚き怯んでいた心に怒りが沸きたって、高飛車に言い返す。

 

「なんなのよ、突然!!人の部屋にやって来ていきなり!大体なんで、あたしが謝らなきゃならないのよ!」

 

「悪いのはお前だろが!」

 

 そこから二人の水掛け論、字義通りの子供の喧嘩はエスカレートしていく。

 倫也が一人で闘い抜いたと主張し周りに認めさせたのに自分を切り捨てたことを非難すれば、英梨々は戦う必要など無かった一緒に逃げれば済んだ、そんなのは自己満足だと言い返し、とうとう涙を流しながら思いをぶちまける。

 

「あたしは間違ってない!大体・・・どうして認めさせなきゃいけないの?今、こうしてるみたいに・・・・・・あたし達だけで・・・居れば・・・・・・それでいいじゃない・・・」

 

「俺と一緒がそんなに恥ずかしいのか?」

 

「違う!倫也の分からず屋!!あたしがどんなに泣いてかも知らない癖に・・・・・・あんたは・・・何も解ってない!!」

 

 何も解っていない・・・・・・少し前の倫也なら同じ台詞を返しただろう。しかし、あの日、あの事故を見て、あの後の男女(きょうだい)の抱き合う姿とそれに対する周りの反応を見て、同じような事を自分も感じた時に解った。

 

「・・・・・・だから英梨々(おまえ)は駄目なんだよ。俺は解ってないんじゃない、解ってるけど解りたく無いんだよ!!」

 

 倫也の怒鳴り声と主張に訳が解らず言葉に詰まるも、無意味な虚勢を込めて言い返そうとする。

 

「な、なによぉ・・・解ってくれてるなら一緒に――――――!!?」

 

 しかし、言い終わる前に倫也は早足で英梨々に近づいていき、力一杯に抱きしめた。

 

「な!・・・・・・な・・・な・・・・・・!?」

 

 余りに突然の事態に顔を真っ赤になり呂律が回らずに狼狽し、そんな英梨々の耳元に気恥ずかしさで同じく顔が真っ赤にしながら倫也は言った。

 

「お前の望みどおり今は誰もいないぞ・・・・・・英梨々は・・・これで満足なのか?」

 

「あう~・・・・・・うぅ~・・・ふぇ~・・・・・・」

 

 英梨々は羞恥で言葉にならない声を発し、倫也はあの日見た抱擁に感じた気恥ずかしさと同時に感じたもう一つの感情、羨ましさを思い出し噛み締め、構わずに自らの思いを暴露する。

 

「俺は嫌だ。周りの目を気にして、見えない所でしか出来ないなんて・・・・・・俺は・・・俺は・・・どんな所でも堂々とこうしたい!」

 

 あの日見た風見姉弟の抱き合う姿は、正直どうなのかと言う思いがあった。周りの声もそれを肯定していた。しかしそれでも、抱き合っている二人は愛しそうに何よりも幸せそうに倫也の目には映って焼き付いた。その時、自分の中にある気持ちに答えを得ることが出来た。

 

「・・・・・・ば、ばかぁ・・・こんなの・・・そんなの・・・只のアンタの身勝手な我侭じゃない・・・・・」

 

「そうだよ、我侭だよ!もっと・・・ずっと、俺はこうしていたいんだよぉ・・・・・・」

 

 倫也も流石に羞恥が限界なのか声にも抱きしめた腕も弱まってきており、英梨々は強引に振りほどいて向かいの男子に力一杯の平手打ちをお見舞いする。強烈な音と痛みが襲うも頬に手に当てることはせず相手を見るとさっき以上に涙を流す女の子が其処に居た。

 

「この・・・卑怯者!ず、狡いわよ・・・・・・こんなのぉ・・・」

 

(ああ・・・・・・今度こそ駄目かぁ・・・)

 

 罵声を浴びさせながら完全に嫌われたと絶望感が襲うも、それでも最後にコレだけは伝えようと口を開く。

 

「英梨々、俺は―――――」

 

「これじゃ、もう、あたし・・・自分に言い訳できないじゃない・・・・・・」

 

 今度は倫也が言い終わる前に英梨々が遮る。

 

「え?」

 

「あたしは・・・あたしだって・・・・・・いつか、凄い絵描いて・・・倫也(あんた)に認めさせて・・・・・・昔の事なんかどうでもよくなる位、夢中にさせようって思ってたのに・・・・・・全部、台無しじゃない!」

 

「英梨々、水差す様だが・・・・・・いつかなんて、ある日突然に無くなるかも知れないぞ」

 

 英梨々の野望を気の長い話だと感じ、あの日のんびりしていた時の突然の出来事を連想させ注意する。

 

「ちょっと!」

 

「いやお願いだから噛み付かないで・・・・・・で、結局お前、俺の気持ち・・・どうなんだ?」

 

「うぅ~~~~、そんなの・・・・・・大好きに決まってるじゃない!!!」

 

 叫びながら抱きついてきた英梨々に押し倒されそうになるが、何とか踏みとどまる。

 

「ハハハ、やっと聞けたな。俺が聞きたかった言葉を英梨々の口から」

 

 その台詞に英梨々は涙目で睨もうとするも同じく涙目で嬉しそうな倫也の顔に何も言えず、その甘酸っぱい負けに、いつかの野望も絶対に諦めないと誓った。

 

 

 ***

 

「うふふふふふ~、攻略成功ね。でもこれは現実(リアル)だから、ちゃんと責任取ってよね。未来の倫也(むすこ)くん」

 

「う~ん。まぁワタシも異存は無いが、それでも甘くはしないぞ」

 

「わ~、新たなるステージの始まりだぁ~」

 

 子供たちから見えない所で確りと見ていたスペンサー夫婦は嬉しそうに楽しそうに祝福した。

 

 

 

 ***

 

 

 五年後、羽田国際空港のターミナルの待合場で高校生になった安芸倫也は『恋するメトロノーム』と題されたラノベを眺めていた。

 

「あ~あ、霞詩子先生のサイン会、行きたかったな~」

 

「それ言わないでよ。大体、まずはどうしてもこっち(・・・)に行きたいって言ったのは倫也でしょ」

 

 隣に座っている女子高生になった澤村・スペンサー・英梨々が文句を封殺するように雑誌を突きつける。そこにはパリでの個展の特集と題され、表紙に〝日本が世界に誇る天才『風見一姫』〟と銘打った写真が大きく掲載されていた。

 あの事故以降、画家として再度、才能を示しあらゆるコンクールを総なめにして、中学卒業と同時に家族(・・)で居をパリに移して、更に活躍を続けている。

 

「大体、あんたの事なんて覚えてるって言うか・・・・・・向うはそもそも知ってるの?確かに一生物の出来事だけど、顔合わせて話したって訳でもないんでしょ?」

 

「まぁ、そうかもしれないけど、それでも俺にとっては、ずっと恐れてた心に勇気をくれた大恩人にして神様だ。正式にこう(・・)なったんだし、やっぱり何をおいても『ありがとう』って言いたい」

 

 倫也は左手の薬指に付けている指輪を撫でて語り、英梨々も同じく左手の薬指に付けている御揃いの指輪に目がいって頬に朱が差す。

 

「全くもう、同じ画家として特別にパーティの招待状、取ったんだから・・・・・・あたしだってホントならサイン会行きたいのに」

 

「とか言いながらも一緒に来てくれるんだから、英梨々も分別が付く成長した。ああ~良きかな、良きかな」

 

 今の婚約者関係(じぶんたち)があるのも彼女との出会い(?)があるからだ。だからお礼も兼ねて賛辞の席に赴こうとオタクとして贔屓しているラノベ作家様のサイン会を断念したのだった。尤も家族総出でオタクである英梨々(フィアンセ)は当初は駄々をこねて見送りだけでいいと言ったのだが、何だかんだと言いながら結局一緒に行く事になった。

 

「うわっ!」

 

 突然の近くで素っ頓狂な声に振り向くと、白のワンピースにピンクのカーディガン、白い帽子にショートボブカットの同世代の少女が小学生ぐらいの子供とぶつかっていたが、何故か不思議そうに見つめる子供に親が謝罪し、少女も気さくに応えてその場を去っていった。

 

「・・・・・・」

 

「ちょっと~、なに見惚れてんのよ。この浮気者!」

 

「な!?ちょっ、違うって!」

 

 英梨々が目を吊り上げて噛み付いてきて、倫也は慌てて弁明する。

 

「どうだか、全くもう!」

 

「ああ、もう。安心しろって、英梨々がいればいいってのは〝あの時〟から変わらないから」

 

「・・・・・・もう、馬鹿!そう言うのも少しは弁えろ、もう子供じゃないんだから」

「ああ、ちょっと待てって」

 

 顔を赤くし荷物を持ってゲートに向う英梨々を苦笑しながら追いかける。そして、それが日常になっていることに深く幸せを感じながら、彼らは新しい明日に向って行く。

 

 Side:E 完

 




 次は時を遡りSide:Uに行きます。
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