グリザイアに射す陽光   作:a0o

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 本当はこの回で終わらせるつもりが・・・・・・


Side:U③

 

「あ、それじゃあ詩羽先輩も一緒に・・・お願いできますか?」

 

「・・・・・・・・・」

 

 倫也は無邪気な顔であっさりと詩羽を誘い、一世一代の覚悟で同伴を申し出ようとしたのがバカバカしく思えるほど苦い気分と自分を選んでくれたことへの甘い嬉しさを味わっていた。

 

「ええ、よろこんで」

 

「良かった~」

 

「でもパーティーに着ていくドレスって-----」

 

「ああ、パーティーって言ってもホームパーティーみたいなものだし、そこまで気を使わなくても、結婚式に着ていくみたいなのでOKなはずですよ。レンタルの店もあるって添え状にもあるし」

 

 豪く饒舌にそれも軽いノリで語る倫也に詩羽は更に違う苦味を感じ胡乱な目で問う。

 

「・・・・・・倫也君、ひょっとしてこう言う経験あったりするの?」

 

「あ~、いや、俺自身は余りないですけど・・・あそこでのパーティーのぐ・・・話はよく聞かされたから」

 

(ひょっとして愚痴って言おうとしたのかしら?風見一姫(あのひと)が言ってた、お似合いの娘って・・・・・・)

 

 隠す気があるのか無いのか分からない返答に、詩羽は何かしら勘違いをしていることを悟り、ホッとするにはまだ早そうだと再び心に焦りを抱いた。

 

 

 ***

 

 

 数日後、安芸家より坂を上がった所にある豪勢な邸宅に倫也と詩羽は居た。倫也は黒のブレザーにズボンと水色のネクタイの正装をぎこちなく着こなし、詩羽はネイビーのノースリーブのドレスにベージュのジャケット風ボレロで望むも、やはりこちらも慣れてないのか、それとも他にも要因があるのか切羽詰った顔をしていた。

 

「先輩、ここ見たとおりに広いんでしっかり着いて来て下さい」

 

 子供だけで親の姿が無いことに他の客達は疑問を浮かべるも入り口で案内をしている使用人達は全く気にしておらず、そんな彼らに構うことなく倫也は詩羽の前を歩き招待状を提示して堂々と入って行き、迷う事無く大広間とテラスが吹き抜けになっているパーティー会場に辿り着く。

 

(ご近所さんどころか・・・これは完全な顔見知り以上の関係ね)

 

 倫也は明らかにこの邸宅に来たことがある、それも敷居をよく知るほどに。そして、彼の目がタキシードを着た白人と隣に居る和装美人、その直ぐそばにいる金髪ツンテールの美少女に行った時に一姫が学園で行っていた倫也に近しい娘の正体を直観した。その詩羽の視線に気付いたのか、その娘も倫也の隣に居ることに対してなのかキツイ視線を送ってくる。

 

「・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・あの~、どうかしたんですか?」

 

 詩羽の切羽詰った顔を緊張と捉えていた倫也はそれまでは口を開かなかったのだが、今の表情と言うか目は明らかに不機嫌な怒りが宿っており、恐る恐る声を掛けるが返事は無く途方に暮れる・・・・・・そんな間もなく、

 

「あっ、君、もしかして!」

 

「え・・・・・・?」

 

 突然掛けられた声に振り向くと白いシンプルなワンピースドレスを纏った風見一姫がそこに居た。

 

「やっぱり、そうだわ」

 

 確信めいた口調で柔らかな笑みを浮かべる姿に倫也は只唯圧倒されたように固まってしまう。

 

「ふふ、驚かせちゃったかな?」

 

「あ、いえ・・・・・・」

 

「それで、あー・・・まずは名乗りましょうか。私は―――――」

 

「風見一姫さんですよね、存じてます。俺・・・いや、ぼくは安芸倫也って言います。その・・・今日は招待、くださって・・・ほんと、あ・・・ありがとうご――――」

 

「無理に敬語使わなくてもいいわよ。安芸君」

 

「い、いえ・・・そんな訳には。俺、貴女の大ファンでずっとお会いしたいと――――」

 

「それは私も同じ。それで本題なんだけど、安芸君は一年前の事故で救助を呼んでくれた人なのかしら?」

 

「えっと・・・あ、はい」

 

 挙動不審な倫也に苦笑しながら一姫は嬉しそうな表情を深めて手を握り、倫也は言葉も無く目の前で起こっていることに脳の処理が追いつかずに緊張が高まる。

 

「あの時は本当にありがとう。お陰であの子と・・・大事な人と別れずに済んだわ」

 

 純粋な感謝の言葉・・・・・・その後に続く根底たる気持ちに、倫也は一年前の病院での危うく気恥ずかしくも羨ましかった抱擁を思い出す。

 

(神様みたいだって印象は大きくなったけど、初めて会った・・・いや見たときからの危うさは変わってないんだな)

 

 その複雑な感想に素直に喜んでいいのかも分からいものの、崇拝に値する神々しさは増しており、掛けられた言葉に感動を噛みしめた。

 そのままぽつぽつと他愛無い話を続けるも場所的に趣味の話しが出来ず、会話は弾まず倫也は四苦八苦しそうになるも一姫は余裕の笑みを浮かべたままパーティーの感想を口にする。

 

「ふふ、凄く気に入ったし、もうロンドンに決めちゃおうかしら」

 

「え?外国行くんですか?」

 

「ええ、他にもパリとか色々と話は来てるんだけど、まだ考え中でね」

 

「そうなんですか」

 

 風見一姫(かのじょ)が主賓、その意味を何となくだが分かってきたものの、どうにもピンと来ず改めて雑談に望もうとした時、誰かが一姫の名を呼んだ。声の方を見るとスペンサー夫妻と以前会った外務大臣の男性と見知らぬ夫婦(おそらく一姫の両親)が居た。

 

「ええ、今行くわ」

 

「あ、それじゃあ・・・」

 

「うん。それじゃあね」

 

 去って行く一姫の背を見ながら、一年前の病院で見た背中が朧に重なり、あの時の畏怖と羨望を強く思い出していた。

 

「やっぱり、もう一度会えて良かった」

 

「ご満足したかしら?」

 

「あ・・・・・・」

 

 余韻に浸っていた直ぐ横から詩羽の不機嫌な声で我に返る。

 

「全く・・・完全に私のこと忘れて二人だけの・・・・・・」

 

「い、いえ・・・あの方に対してそ、そんな恐れ多い―――――」

 

 忘れていた事を否定せずに的外れな弁明をする倫也に益々、不機嫌になるも一姫との間に自分が心配する感情が芽生える余地などないと言う確信を得たので、口も挟まずに静観し(割って入る度胸もなく)ここからは自分と二人での時間だと決意するも・・・・・・

 

「しかし今日は花火大会もないし、なんか完全に場違いですね」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 既に判りきった事とは言え倫也の口から、この邸宅延いてはその令嬢と思しき少女との関係を聞かされるのは面白くない。どうしても取られたくない、そんな思いの下で一緒に来たのに何故、この男の子はこうも自分の心を掻き乱すのか?

 

「ん~、室内よりかは見晴らしいいし、テラスに出ましょう」

 

 そのまま詩羽の手を引いて歩いていく姿に目を吊り上げて見ている英梨々に気付かずに二人は庭に並べられている料理やジュースなどを使用人に頼んで取ってもらい、バクバクと食べる。その姿に詩羽は流石に気恥ずかしくなり、ジュースを少しずつ飲みながら周りを見る。

 

(もっとギスギスした感じなものかと思ってたけど、意外にフレンドリーね)

 

 主賓である一姫の周りには営業スマイルで話しかけてくる者達が次々に居るものの、それ以外は気さくな雰囲気で料理や酒を手に和やかな遣り取りをしており、唯一経験の無い自分は自身の性格もあってか早く帰りたいと言う衝動に駆られていた。

 

「あーら、随分と退屈そうね。御持て成しがお気に召しませんでしかたかしら?」

 

「!?」

 

 突然の声に驚き振り向くと赤いドレスの金髪美少女・・・ついさっき睨み合いをしていた娘が得意げな顔で近づいて来た。

 

「・・・いいえ、こう言う所に来るの初めてだから、どうにも馴染めなくて」

 

 瞬間的に双方、敵だと認識し攻撃的な顔で牽制しあう。

そこに倫也が刺激しないように恐る恐ると言った声で話しかけようとする。

 

 

「あの~―――――」

 

「「なに?」」

 

 異口同音にキツイ目を向けてくる二人に怯みそうになるも、そのまま引いては喧嘩になりそうなので、我慢して声を出す。

 

「い、いや英梨々の家の料理も持て成しも相変わらず凄いし・・・詩羽先輩も決して悪気があるわけじゃないし・・・・・・だから・・・その・・・・・・」

 

「当たり前でしょ。いつも以上に上等なコーディネートをしようって、みんな張り切ってたんだから。・・・・・・風見さんが来てくれるって、それだけ喜ばしいんだから」

 

「それに関しては同感ね。けど、風見先輩にしてみれば普段の延長線よ。いつも見てる風景とそこまで差異は感じないわね」

 

 しかし、無難で全く問題の解決になりそうも無い言葉しか出てこず、逆に火に油を注ぐような展開になっていき、口を挟んだのは失敗だったかと冷や汗が出る。

 

「先輩?いつも?」

 

「あ、詩羽せ・・・霞ヶ丘詩羽さんって、風見一姫さんと同じ学校の後輩なんだ。で、そこじゃ毎日、凄いんだって」

 

 英梨々の疑問に倫也が透かさず答えるも、自分でも知らない事を倫也が知っている事実とそれを詩羽が教えていると容易に成り立つ推測と先日見せてもらった二人のラフ絵、その結果導き出される答えに英梨々は詩羽の意図を見抜き、益々悪印象を持つ。

 

「・・・・・・随分と打算的で聞いてて気持ちよくない関係みたいね」

 

「あの・・・英梨々?・・・・・・!!」

 

 また失敗したかと引きつる倫也は腕を取られ引き寄せられると、直ぐ横に同じく敵意を増した詩羽の顔が映った。

 

「そうだとして、貴女にどうこう言われる筋合いは無いわ・・・・・・幼馴染だってのは何となく分かったけど、もう切れてるみたいだし・・・倫也君の同伴者(パートナー)は私よ。割り込んでこないでくれるかしら!」

 

「な・・・何よ!倫也のことは・・・あたしが一番―――――」

 

今の(・・)倫也君を一番知ってるのは私よ」

 

 最早、完全に喧嘩に一歩手前である。間に挟まれている倫也はオロオロしながら英梨々と詩羽を見て、頭に血が上っている二人をどう止めればいいのか分からず、周囲を見ると何故か満面の笑みを浮かべた一姫が近づいて一言告げる。

 

「話してる最中申し訳ないけど、この場で彼に用があるのは私だし、まだ話したいことがあるから、ちょっと借りるわね」

 

 突然の横槍に英梨々と詩羽は睨みつけようとするも一姫は異論を許さないと言外に語っており、怯んだ隙に倫也を連れて行ってしまった。その一瞬の出来事に英梨々も詩羽も呆然として頭が冷えるも顔も合わせることもなく別れていく。

 

 

 ***

 

 

 テラスから大広間に戻った一姫は倫也の手を引きながら笑みを浮かべていた。

 

(予想通りの修羅場になった。さて、これからどうなるかしら?)

 

 先日の会食の席で英梨々が倫也に只ならぬ感情を抱いていた事は明白で、その前に見た詩羽とのデート(?)で彼女は自分を倫也とのダシにしていることも容易に想像できた。だから、そんな二人を鉢合わすように迂遠なやり方で、双方に危機感を煽りながら時には誘導するつもりで倫也をパーティーに招いた。結果、英梨々と詩羽がどれだけ彼にぞっこんなのかを知ることに成功した。後は、肝心の倫也の気持ちを確かめるだけ・・・・・・

 

(・・・上手くいくかは流石に判らないけど、先延ばしにしても良い事あるともどうしても思えないし)

 

(ま、まだ話しがあるのか、一体なんだろう?・・・・・・もしかして禁断の恋に関する相談とかじゃないよな?)

 

 ついさっき一年前の事を思い出し姉弟の抱擁を思い出しただけに、どんな事を話されるのかと緊張が高まり広間を出て人気の無いところに出ると一姫(かみ)が向かい合い息を呑む。

 

「さて、そんなに長く外す訳にはいかないから手短に聞くわ。霞ヶ丘詩羽と澤村・スペンサー・英梨々、君はどう思ってるの?」

 

「え・・・お、俺のこと?けど、どうして――――」

 

「さっきのを聞いてれば誰にでも解る事・・・・・・余計なお世話だってのは承知だけど、今のままじゃ取り返しの付かないことになるかも知れない。」

 

「・・・・・・風見さん、俺はそんなモテるような人種じゃ――――!!」

 

 目を逸す倫也に一姫は両手で頬を勢いよく叩いて挟む。突然の痛みに一姫を見ると真剣な目をして語る。

 

「その逃げは正しくない(・・・・・)。繰り返すけど私が言う事じゃないし、向き合うのは今じゃなくてもいいかもしれない。だから私を嫌っても恨んでも構わない、でも悩むのに酔って選択をはぐらかしちゃ・・・自分だけじゃなくて大切な人も地獄を見ることになりかねない。危機はこちらにあわせてくれない、私と意味は違えど君だって分かるでしょ」

 

 一姫の言葉は実感が篭っているレベルじゃない重みがあり、倫也も意味は違えど必死になった時の気持ちを思い出して口を開く。

 

「貴女を嫌うことなんて出来ません・・・でも、どうして俺なんかの為に?」

 

「私も大事な人が居る。それこそ自分の全てを注ぎたくなるほど愛してる人が・・・・・・そして、その幸せを今甘受できるのは感謝してもしたりないから」

 

 一姫の本当に幸せな笑みに倫也は羨ましい感情で一杯になり、彼女が大事な人(間違いなく弟)の為に今を生きているように、彼も自分の為なく大切な人の為に向き合わなければならない事を初めて理解した・・・させられた。

 

(やっぱりこの人は神様だ。俺の方がもっともっと感謝したいくらいだ・・・)

 

「・・・少しだけ、時間を下さい」

 

 一姫は倫也を見据え、倫也も一姫から視線を外さず見つめあい数分は続くと思われたが、一姫はあっさりと手を放し静かに告げる。

 

「少しは前向きになったみたいだけど、いつまで持つかしら?」

 

「アハハハ・・・こういう時って〝もう大丈夫よね〟って言ったりするもんじゃ?」

 

「漫画じゃあるまいし、人の心は複雑なもの・・・・・・ましてや君は耳を塞いだもの放しきってない」

 

「それが貴女の言う正しくない逃げですか?」

 

「あくまで私の考え、決めるのは本人よ。改めて聞くわ、安芸倫也君は澤村・スペンサー・英梨々と霞ヶ丘詩羽、最後に一緒に居たいのはどっち?」

 

(さっきと質問が若干変わってる・・・)

 

 心の中で突っ込みを入れつつ、倫也は英梨々とのすれ違いと確執、手に入れたかった想いと、まだ一年未満なれども詩羽との語り合いの中で感じた英梨々とは違う楽しさと心地良さ、何よりもさっきの自分を挟んでの二人の言い合いと一姫からの指摘、全てを思い出し見据えた。

 

「・・・・・・もう本当に時間が無いから行くけど・・・みんな幸せにとまでは言わないまでも、せめて気持ちが晴れるような決断を期待するわ」

 

 最後に余計なプレッシャーを言い残して一姫は会場に戻っていき、それを見ながら倫也は頭を下げる。

 

 

 




 次こそ終わりにします。
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