人によっては気分を害するかもしれません・・・・ご注意を
「ありがとうございました~、またお越しくださいませ~」
ファミリーレストラン『ファミール』で安芸倫也は営業スマイルで客を見送った後、テキパキと片付けに入り、次の注文をとりオーダーを伝えて更に次の仕事に取り掛かる。その動きには全く無駄がなく一緒に働くスッタフは勿論のこと店長も残念な声を上げた。
「安芸くん、本当に辞めちゃうの?そりゃ働きすぎだとは日頃から言ってるけど・・・」
「済みません。将来の事とかも考えて色々としなくちゃいけないんで、でもその分それまでは精一杯頑張りますんで」
殊勝な態度の倫也だが発する言葉からは迷いや揺らぎは一切なく、店長もこれ以上は野暮だと思い話の方向を変えた。
「将来と言うと、やっぱりアニメとかゲームの会社への就職を考えてるかい?」
「いえ、役所に入って公務員になります」
即答で返したのも然ることながら、その内容やきっぱりと言い切った姿に面を食らう。
春先に突然辞めると言い出し時も驚いたが、一体何がこの少年に転機を与えたのか聞こうとした時、店のドアが開き二人の男女が来店し倫也はきびきびと仕事に向って行った。
「いらっしゃいませ~、二名様ですか。お煙草はお吸いになられますか?ではこちらにどうぞ~」
客を割りとキッチンに近い席に案内すると注文をとる為に伝票を出したところで私語が出た。
「言ったその日に来てくれるとは思わなかったけど、話がしたいから話やすい席になんて注文は止してくれよ。仕事中なんだから・・・・」
二人の客、風見雄二は平然と加藤恵は苦笑してそれぞれ注文をして倫也が暇になりそうになるまで談笑する・・・・様に見えたが倫也が近くを通るたびに聞こえのいい声で雄二が声を発した。
「俺はどうも意図せずして女性を傷つけること言ってしまったかもしれないんだが、どうしたらいいかな?」
「え~と、ごめん。もっとわたしに分かるように言ってくれないかな」
恵は困った表情になり近くに居た倫也が助け舟(?)を出した。
「
話は一端の区切りがついた・・・・訳でもなく倫也が近くに居るたび雄二が声を発しそれに答えるやり取りが続き、恵は困惑しながら二人をチラチラと見ているしかなかった。
「本当だったら?」
「誠心誠意、詫びるしかないな」
「それで済まなかったら?」
「その人の痛みと同等以上のモノを差し出すしかない」
「でも許してくれなかったら?」
「許される事を諦めるしかないな」
倫也の返した言葉には全て切実な思いが込められており、雄二もそれに釣られ重みが増していく。
「つまり一生恨まれろと、強者の理屈だな」
「でも例え死にそうなほど辛くても、人の道に外れた方法を取っていい訳がない」
そこで恵のド真ん中の正論に二人が注目する。
「あ~、こんな在り来たりな言葉じゃ駄目な話だった?・・・・ならゴメン」
両手を合わせて片眼をつぶる恵に苦笑し雄二は口を開く。
「いや、俺も悪乗りしそうになった。止めてくれてありがとう、
「じゃあ、ちょっと手伝って欲しいことがあるからバイトが終わった後か明日にでも話そう」
倫也の方も手打ちにすることに異存は無さそうで気さくに応じて仕事に戻っていった。
***
週末、澤村・スペンサー・英梨々は自宅から坂道を下りた所にある家で、最も会いたくない人物と出会った。
「なんでアンタが居るのよ。霞ヶ丘詩羽っ」
虚勢を張ろうとする英梨々だが弱々しく、詩羽はなんとなくだが状況を悟った。
「たぶん・・・貴女と同じよ・・・・惨めな振られ女が、ふらりと外に出たら未練たらしくここに来ちゃったのよ」
「ま・・まさか・・・・アンタも・・・?」
普段なら噛み付く英梨々もこの時ばかりは唖然として詩羽を見つめ返した。
その仕草に詩羽は英梨々の手を取って、安芸宅の玄関の前まで歩く。
「ちょ、ちょっと!」
「踏ん切りがつかないから、ここに来たんでしょ?拗れたら私の
詩羽に促され英梨々は(インターホンを押さず)植木鉢の下らか鍵を取り出し家に入り、二階にある倫也の部屋の前に立ちドアノブに触れようとするがイマイチ掴めず、詩羽が代わりにドアを開ける。
しかし、そこで二人の目に入ったのは倫也ではなく、部屋を飾っていたオタクグッズをダンボールに詰めている風見雄二と加藤恵であった。
予期せぬ来訪者に雄二と恵が作業を中断し、詩羽と英梨々も見ず知らずの人物達との対面に肩透かしを食らう。
「倫也が帰ってくるにしては早すぎると思っていたが・・・・・一体何なんだ、お前たち?」
「お前たちって風見くん、この二人は―――――」
「豊ヶ崎二大美女、霞ヶ丘詩羽と澤村英梨々だろ。話は聞いたが面識はない、他人の家に部屋にズカズカと上がりこんで来る奴らなどお前で充分だ」
雄二の言い回しも去ることながら〝他人〟と言う言葉に詩羽の中でスイッチが入り反撃に出た。
「随分、偉そうな事言ってくれるわね。私達の自己紹介は不要のようだけど、貴方たちこそ誰なのかしら?それに、そもそもここは貴方の部屋じゃないでしょ、にも関わらず何をしているのかしら?私が知っている彼なら泣いて怒るわよ」
霞ヶ丘詩羽のもう一つの異名、暗黒美女のオーラを全開で出し、そのプレッシャーに近く居た英梨々も恵も気圧されるが当の雄二は涼しい顔をして質問に答える。
「俺は風見雄二、こっちは加藤恵、この部屋の主である安芸倫也のクラスメイトだ。
そして俺たちは倫也に頼まれて今日ここに来たので、断じて不法侵入じゃない。
今している作業も倫也本人からオークションで売っぱらうから手を貸して欲しいと言われたのでアイツが泣くことは100%ないから安心してくれて構わない」
そして質問に答えた雄二は詩羽に詰め寄り問い返す。
「それで、そちらは倫也とはどんな関係なんだ?インターホンもノックもなく堂々と入ってくる様といい、さっきの〝私が知っている〟の発言といい、唯の知り合いって訳じゃないんだろ、
プレッシャーを返してくる雄二に詩羽はたじろぎ、英梨々は何時の間にか恵に近づき、恵も拒む事無く身を寄せ部屋の隅へと移動していた。
「こ、答えてから質問するの・・・・」
「俺の性分なんでな。で、一体どういう関係なんだ?出来れば最初からキチンと説明して欲しいんだが、そこの隅に居る金髪小動物も含めて」
雄二に呼ばれ英梨々は肩を跳ねらせるが、答えたのはジト目で重い雰囲気を纏った恵だった。
「やっぱり風見くんもミーハー趣味だったりするの?」
「いや全くの勘なんだが俺の聞きたい話が聞けるかもしれないという都合のいい期待からだったりする」
「聞きたい話?」
恵の重い雰囲気にも動じずに切り返し、雄二は整理中のラノベの中から『恋するメトロノーム』を取り出し詩羽の前に差し出す。恵は訳が分からず詩羽と英梨々は〝何故〟と言う表情で見ていた。
「まず、間違っていたら済まない」
そう前置きして雄二は頭を下げる。
「貴女はこのライトノベルの作者『霞詩子』先生では?
もしそうなら先日は知らぬ事とは言え、大変失礼な事を言ってしまい、本当に申し訳なかった」
その台詞に恵は図書室での一件を思い出して冷や汗を出し、当の詩羽は唖然として、英梨々は何かを考えていた。
「な、なんで分かったの・・・?」
狼狽しながら肯定する詩羽に雄二は頭を上げて説明する。
「さっきも言ったが全くの勘だ。
こないだ猛烈な勢いで走って行った姿と先輩の名前、霞ヶ丘詩羽と霞詩子の作者名が似ていると感じたってだけの明確な根拠もない憶測だったが・・・・・どうやら間違いないようだな」
確証を得られたことで雄二は改まって詩羽に頭を下げる。
「改めて本当にすまなかった。ただ、弁明させてもらえるなら、あの時言ったのは俺個人の感想で何一つ根拠のない適当なことだ。貴女の事も相手の事も知らない無責任な奴の戯言でしかない・・・・・・が、流すことが出来ないと言うなら出来る限りのことはしよう」
雄二の態度も言葉も誠意が込められており、詩羽は自分と同年代(正確には年下)とは思えなく驚嘆したが、その態度は先日の倫也との別れを連想させ不快な感情がこみ上げ言葉を発した。
「もしかして、貴方が倫理・・じゃなかった倫也君に何か吹き込んだりしたの?」
「なにかと言われてもな・・・そもそも二人は何しにここに来たんだ?事情が分からなきゃ悪いが答えようがないぞ」
雄二の正論に詩羽は逡巡し英梨々は恐る恐ると声を掛けた。
「あ、あのさ・・・・風見君って言うんだよね?・・・・もしかして、風見一姫の親戚かなにか?」
出てきた名前に雄二は目を丸くし聞き返す。
「俺の姉だ。なんで・・・・?」
「あたしも一応、絵画描くから・・・・・それに倫也から知らないかって聞かれたから、もしかしてって思って」
「風見くん、お姉さん居るの?」
「もう死んだ」
恵の問いに素っ気無く答えるが、気まずい空気が部屋に充満し言い出した英梨々は萎縮してしまう。されど肝心の雄二はお構い無しに考えるように呟いた。
「
解せない疑問に雄二は考え込み、恵と英梨々は声を掛けるに掛けられず、仕方なく詩羽が声を張り上げる。
「とにかく、今ここでこうしていても埒が明かないわ。当事者である倫也君は何処?」
「ゴールデンウィークが終わるまでは休日も放課後も殆どバイトに励むそうだ。話がしたいなら、それまで待つか学校でするしかないぞ」
雄二の答えに詩羽は苛立ちが増し更に声を上げる。
「秘蔵の品を売ったり、甲斐甲斐しく労働に励んだり、
「・・・・絶交されたのはあたしもなんだけど・・・」
さり気なく英梨々が口を挟む。その事で安芸倫也が豊ヶ崎二大美女を振ったと言う事実が確定し、しかも彼女達の方がまだ相当未練があることに恵は驚愕する。
更に倫也から事情を聞いていた為にその事を知らない二人に話すべきか迷い、同じく事情を知っている雄二に視線を向ける。すると―――――
「倫也は『周防天音』と言う女を探していると言ってたぞ」
「ちょっと風見くん!?」
あっさりと口にする雄二に抗議しようとするが時既に遅く、
「そう、私達には言わなかったけど貴方達には教えたのね。
しかも理由が〝女!!〟ならあんな意味深なこと言わないでハッキリと言ってくれれば諦めもついたのに―――――」
マイナス方向に盛り上がっている詩羽と顔を両手で隠し小刻みに負のオーラを出している英梨々だが雄二は構わない。
「水を刺すようで悪いが、そんな色っぽい話しじゃないと思うぞ。と言うか洒落には感じられないほど切実な感じがしたな」
「だから、風見くん!!!」
「俺とは無関係の倫也だけの問題ならどうしようかと一考したが、姉のことはどう考えても調べたとしか思えん。アイツのやろうとしていることに姉が関わってるかもしれないなら話は別だ。違ってたら、ちゃんと責任とって謝るさ」
遠慮なく首を突っ込んでいこうとする雄二を恵は嗜めようとするが続く言葉に押し黙り、更にその目にはシスコンでは言い表せない何かを感じ説得は無理だと嘆息した。
「とにかく俺はそれとなく話を聞いてみる。そんな直ぐには話してくれないだろうが、なにか分かったら其方にも知らせるようしよう。それでこの前の非礼を詫びとして欲しい」
雄二の申し出に詩羽は胡乱な目をして問う。
「見ず知らずも同然の私たちの為に労働してくれるの?少なからず自分の為ってのも有るみたいだけど、これって彼への裏切りじゃない?」
「裏切るとか言うほどの信頼関係以前に俺はそこまで
「それって私達の方から話すのはOKってこと?」
「それを望むなら拒まないさ」
雄二は目をそらさず真剣な表情で全て答えた。それに対し詩羽は縮こまっている英梨々を一瞥し溜息をつく。
「申し出はありがたいけど、それはもう少し気持ちの整理がついてからにするわ。あなたが話せる人間なのか見極めるのも含めてね」
「了解した。
なら今日はこれでお開きにしないか?霞先生は新作の為に忙しいだろうし、さわむ・・・金髪小動物も暇なわけじゃないんだろう?」
あえて英梨々を小馬鹿にする呼び方をして反応を見てみると噛み付く気概も折られて、本当に小動物のように縮こまっており、見かねた詩羽が変わりに答える。
「確かに澤村さんも色々忙しい身だけど、どうしてそう思ったの?」
「美術部のエースとの話を聞いていたのに、さっき絵を描くといったとき一応と前置きしたからな。なにか
まぁ、それが何かまでは詮索する気はないがな」
雄二の推察に詩羽は内心で舌打ちし、この男の前では迂闊な事は言わないように常に気を付けようと決めた。
「加藤さんって言ったかしら?貴女、良くも悪くも物凄い彼氏をお持ちね」
訂正したいが今の詩羽には無理だと恵は苦笑して、雄二にすっかり苦手意識を持ってしまった英梨々を〝それじゃ〟と手を取って連れて詩羽は帰っていき、作業に戻ろうとした雄二に恵は問う。
「これで本当に良かったの?」
「今のまま当事者同士が話したって余計に拗れるか、下手すれば壊れるか。特に澤村の気の小ささは素だ。キチンと事情を把握しないと穏便に済ませられないだろう」
英梨々に対し少々冷たく当たっていたのは彼女の事を測るため、雄二の底意地の悪さに加え自分でも解らないなにかの感情を込めた視線で恵は言葉を続ける。
「風見くんは良い意味でドライだと思ってたんだけどな」
「興味本位や余計なお世話で他人の事に干渉はしないさ、普段ならな。それは短い付き合いだが倫也に抱いた心象でもある。故人の事を調べるなんて相応の訳があるんだろう・・・そして周防天音と言う女もおそらく・・・・」
「お姉さんのことが大好きってだけじゃ無さそうだね」
「俺にとって姉は・・・一姫は、神といえる存在だ」
「・・・神・・・・・・」
余りの答えに恵も唖然とする。
「ああ、だからこそ見過ごせないんだ。本来なら触れたくない過去ではあるが、訳も解らないまま弄られるのはもっとゴメンだからな」
「・・・・・なんで、そんなことまでわたしに言ってくれるの?」
「ん?
「か・・・彼女!?」
詩羽の言葉には動じなかった恵が頬を染めて慌てる。
「い・・・いきなりなにを言うの!」
「じゃあ、とりあえず友達として」
「もうっ」
あっさり開き直る雄二に恵は染めた頬を膨らませ作業に戻る。それを見ながら雄二は思った。
(普通の学園生活ってのも中々に楽しくて退屈し無さそうだな)
***
同時刻、引越しのアルバイトで移動中の倫也に着信メールが届く。
〝君の進む道は困難の極み。更に意外な所に伏兵が潜んでいる。気をつけたし〟
首を傾げてもおかしくない内容だが、倫也は淡々と携帯を戻して窓の外を見る。
(既に承知の上さ。でも今は、目の前の仕事に集中しないとな)
それが普通で居られる最後の刻なのだからと、決意を再確認しところで目的地に到着し、張り切って仕事に励んでいった。
ギリシャの死神が・・・・