「「・・・・・・・・・・・・」」
澤村・スペンサー・英梨々と霞ヶ丘詩羽は道のど真ん中で固まっていた。
「久しぶりだな」
彼女達の対面には白髪ロングの小柄な少女を背負っている風見雄二がすまし顔で居り、彼に苦手意識を持つ二人はギコチなく言葉に詰まるが、少しして詩羽が気を取り直して口を開く。
「ええ、奇遇ね。それで、何処でそんな少女を誘拐してきたのかしら?」
(前にも同じこと言われたな・・・・・・)
正真正銘れっきとした姉弟なのに、そんなに怪しく見えるのか?はたまた自分はそんな風にからかうのが似合っているのか?なんであれ嬉しくない感情を胸に説明をしようとしたが、英梨々は正に幽霊でも見るかのような目で一姫を凝視して絶句していた。
「一応、お久しぶりかしらね、澤村英梨々さん」
「か・・・・・・か、風見・・・・・・か、か、一姫・・・・・・!?」
「ええ、いつかの授賞式で一緒になって以来ね。随分大きくなったわね」
一姫は余裕満々の態度で話しかけるが英梨々は呂律が回らず狼狽するばかりであり、それを面白そうに見ていると詩羽が前に出て張り合うように名乗ろうとするが、
「霞ヶ丘詩羽さんね。貴女とははじめましてね」
先に笑顔で挨拶されてしまい、出鼻を挫かれるも透かさず気を取り直して話を始める。
「ええ、はじめまして。・・・・・・風見一姫さん?」
面識の無い詩羽はどうしても疑問系になってしまい、少なくとも顔を知っている英梨々に横目を向けるが、未だ驚愕状態であり肘で小突く。
「生きてるかも知れないって事くらいは分かってでしょ、驚きすぎじゃない?」
「だ、だ、だ、だって・・・・・・あたしが知ってる時と全然変わってないよ?・・・・・・こんなのありえるの?」
英梨々は一姫を指差して言う。
英梨々の記憶にある風見一姫は何度と無く足を運んだ授賞式で小柄ながらも普通に歳をとっており当時小学生だった時も年上だと認識できた。しかし、朧なれど最後に見た中学生の姿の記憶と今現在の姿は全く差異が無く、彼女は時が止まっていたのかと思えてしまい、どうにも信じられない夢を見ているかのようだった。
その反応も無理も無く、一姫の体に異常を来たしても可笑しくないタナトス生活の実態を知らなかったなら同じ反応をしたかもしれないと雄二はやるせない気持ちで無言のまま同意した。
「う~ん、夢だと思ってるなら頬でも抓るなり叩くなりしてみたら?」
しかし、当の一姫は気にした様子も無く軽く提案してくる。
「いいえ・・・・・・結構よ」
英梨々は指を下ろし呼吸を整えながら断るも、まだ驚きは抜けずに一姫を見続けている。
詩羽も英梨々とは違う意味で一姫を見る。真っ白な髪に赤い目、肌も色白で華奢であり、詩羽の認識では自分より一つ上の成人女性の筈だが、どうみても中学生にしか見えず最初に見た時に勘違いしたものの卒業した学園の学園長も似たような者であり、その辺りは飲み込み、代わりに会ったなら山ほど言ってやりたい文句が溢れそうになるが我慢して近くを見回す。
「倫也ならこの先だぞ」
雄二が親指で後ろを指す。
「な!?わ、私たちは別に―――――――」
「いや、そう言うの別に良いから」
「~~~~~~~~~」
顔を赤くする詩羽に構わず英梨々にも目を向けるが、そちらも同じく赤くなっており、遠出するとは思えない軽装と英梨々の持つ簡素な画材道具以外は手ぶらと言ってもいい姿に目当ての人物がいると聞いて、そのままやって来たのだと言うのが窺い知れた。
「お前ら凄いタイトルのゲーム製作してるんじゃないのか?こんな田舎で油売ってていいのか?」
原因は自分の姉にあると分かっていても訊かない訳にはいかない。キービジュアルからの評判は鰻上りであり自分も予約金を支払っている身だ。身内の横槍で発売が延期になったりしたら目も当てられない。
それとなく背の一姫にも非難の目を向けるが案の定全く取り合わずにクスクスと笑っていた。
「その為の取材の一環でも在るから問題ないわ」
取って付けたような言い訳の様に思えたが、暗黒美女オーラを全開で一姫にありったけの敵意を込めて睨みつける姿を見て、たった今真実になった事を悟った。
「あら、それは楽しみね。だったら私もプレイしてみようかしら」
一姫は笑みを絶やすこと無く平然と言う。
「ええ、是非楽しみにしていてください」
(少しは手心をって言っても聞かないだろうな)
そんな事を思いながら雄二は英梨々に目を向ける。
「じゃ、澤村もゲーム製作の一環で来たのか?」
「え・・・・・・そ、そうよ!あたしはラストに活かせそうな場面を求めて――――――」
こちらは完全に取って付けたのようだが真実になる可能性もあるかなと、ぼんやり考えながら空を見る。
「ひと雨来そうだが、大丈夫か?」
「奇襲とかゲリラ戦とか燃えるシチュエーションはいくらでも――――――」
「ちょっと、明後日の方向に暴走しないでくれるかしら、なんでもかんでもあれば良いってものじゃないわ」
詩羽が口を挟み話す相手が変わる。
「それをどうにかするテキストを作りなさいよ!全部飲み込んでも有り余るぐらいで、やっとこの女と戦える位置に立てるのよ!」
「言うわね。だったらそれを一回りも二回りも超えるシーンを描いて貰うわよ?」
「望むところよ!!」
「目の前で堂々と喧嘩売られてるのに、なんで姉ちゃんはそんなに楽しそうなんだ?昔の血が騒ぎたてでもしてるのか?」
「少し違うわね、単純に感心してるだけ。
私はもう〝これ位でいいや〟って途中で手を抜いてたからね。ここまでの情熱を抱いてる姿を見るのは、それを持って挑もうとしてくれるのは嬉しいものよ」
「どこまでも余裕だな」
「嫉妬や敵意を向けれるのは慣れてるわ。それでもユージと一緒なら、大事な人と日向を歩いていけるなら」
そんな姉弟の会話が耳に入らないくらい議論している二人の
「「アンタの幸せに倫也(くん)を巻き込むんじゃないわよ!!」」
「一応言っとくけど、私は彼がどうなってもいいなんて外道な考えは持ち合わせてないわよ。だから早く行かないと今度こそ永遠にさよならになるわよ」
一姫は笑顔を消し顎で先を示す。
上から目線で気に入らないし、言ってやりたいことがまだまだ山のようにあるが、この先に
そしてすれ違い様に一姫は心の中で呟いた。
(さて〝どちら〟になるのかしら?)
空を見ながら一姫は思案した。
せめて晴れていれば倫也があの場で待っていた公算が大きかったが、今の天気では良くて五分だろう。そうなると彼女達が一緒に行動しないで別々に動く事態になり、更になって欲しくない方向に転がる可能性も低くない。
(そうなったら正解を選ぼうとするかしら?・・・・・・そうなったら、その時はその時)
一姫はそう結論付けて雄二の肩に顔を埋めた。
***
この先に安芸倫也が居る。その情念だけを胸に歩いてきた英梨々と詩羽だが、辺りに人の気配はなく、地元の人に聞いた山道への入り口が見てきても倫也の姿は見当たらなかった。
「もしかして騙されたの、あたしたち?」
「或いは、どっか行っちゃったのかしらね。倫理君」
二人は足を止め改めて回りを見るが始めてきた場所に土地勘があるわけも無く、次の行動を決めかねる。
「どうする?やっぱり倫理君の実家に行く、それとも手ぶらのまま山道に入ってお参りする?」
「歩いてればその内、お花くらいはと思ってたのは甘かったわね」
「けど、このまま回れ右して帰ったらまた紅坂朱音がうるさいわよ」
「分かってるわよ。インスピレーション浮かぶまでちょっと時間ちょうだい」
詩羽にはさっきの一姫との邂逅でぶつけるべき情念が確定したが、驚きっぱなしの英梨々にはまだ充分とは言えず、只では帰れないとクリエーターのプライドもあって使えそうなシーンを探し始める。
スケッチブックを開いて辺りを見回す英梨々だが、間が悪くポツポツと水滴が落ちてきて作業が中断される。空を見上げるといつ本格的に降ってきてもおかしくは無いものの今直ぐでは無さそうなので濡れない場所を探す。
「やっぱり無計画すぎたわね。私、お店探して傘買ってくるから、澤村さんは近くに居て・・・・・・それと念の為に言うけど携帯が通じなくなるかも知れないから一人で山に入っちゃ駄目よ」
「それくらい、分かってるわよ!あたしをなんだと思ってるのよ!!」
英梨々は噛み付きながらもスケッチブックを濡らさないように抱かかえて適当な木の下に向かって行き、詩羽はスマフォの地図を片手に本降りになるのを気にしながら店か人を探して走っていく。
しかし天気は人の都合に合わせていてくれなかった。
「せめて笠が買えるまで持って欲しかったのに。私なにか悪いことしたの?」
空を見上げながら悪態をつく詩羽。
小雨から少しずつ本降りになり、激しいとまでは言わないまでも無視できない雨粒が降りかかり、このままでは全身ずぶ濡れになってしまうと焦りながら英梨々の元まで戻って雨宿りするかと考えていたら突然背後から傘を差し出された。
(え?・・・・・・ま、まさか・・・・・・)
奇妙な期待から心臓が鼓動を上げて少々、濡れて冷えた体が火照っていく。
(倫理君が私に・・・・・・)
だとしたなら、これほどロマンチックで嬉しい経験は無いと気分が高揚し今日と言う日は最高であり、自分をここに導いた天なり〝神(?)〟なりに感謝の念を抱き・・・・・・そう思いながらぎこちなくゆっくりと振り向いていくと、
「あ~、お久しぶりです。霞ヶ丘先輩」
加藤恵が呑気な挨拶をしながら傘を渡してきたのだった。
「・・・・・・ええ、久しぶりね。加藤さん」
雄二が居たのだから別に驚くことではないが、期待が大きかっただけに落胆も激しく、抱こうとしていた感謝の念も跡形も無く消え失せ、棒読み状態で傘を受け取る。
そんな詩羽に気を悪くした訳でもなく恵はもう一つ持っていた傘を開いて距離を取った。
余りに絶妙なタイミングと用意のよさに一瞬、疑問がよぎるが詩羽達がここに来た理由を考えれば、今差している傘は倫也の為の物だと察しは付く。ここでもし雄二の存在が無ければ詩羽は嫉妬半分にからかい半分で恵を口撃していたかも知れず、小さな安心と羨ましさを感じながら小さく息をついた。
「あ、それじゃ行きましょうか。霞ヶ丘先輩」
「ちょ、ちょっと待って!?」
恵は雨を気にしながら山とは全然違う方向に歩いていこうとし、詩羽が慌てて止める。
「え、どうしました?」
「あっちに行くんじゃないの?」
「いや、安芸くんの実家はこっちですよ」
詩羽は自分が来た道を指すが、恵は然も当然と言った感じで自分の前の道を指し否定する。
「・・・・・・結局、りん・・・・・・倫也君はあっちにいないと。
まぁ、それは良いとしてもまだ澤村さんが居るの。悪いけど――――――」
「あ~、いえ。安芸くんは山道近くの小屋に居て、澤村さんもそっちに向かったらしいんで、雨が止んだら戻ってくるし降り続くなら車で迎えに行くから心配ないって」
「え?ちょっと、どういうこと?」
事態が飲み込めず困惑する詩羽に無理もないと思いつつも雨の中、丁寧に説明して体を冷やす訳にも行かず大雑把な説明になってしまうし、いつまでもその場に留まっている訳にはいかない。
「兎に角、ここからなら実家の方が近いから、詳しい話はそこで」
「それこそ後でいいわよ」
当然、詩羽は納得できず恵の提案を断って一人で道を戻ろうとする。
「不安ですか、二人きりにさせるのは?」
しかし恵の言葉で足を止める。
「・・・・・・私だって倫理君に会いたい。伝えたいことがある、なによりも諦めないって決めた!」
振り返らずに叫ぶ詩羽に形は違えども共感する恵。島にいた間の奇妙な姉弟関係にヤキモキさせられ絶対に取られたくないと常に思っていたのを思い出し、出来るなら快く送り出したい。
「でもそのまま行ったら風引いちゃいますよ。今そんなことになっちゃって、いいんですか?」
雨はそこまで激しくは無いがまだまだ止む気配はなく、詩羽も少なからず濡れており山小屋までの距離はそれ程無くとも夏の時期の簡素な山小屋で充分な暖を取る供えも無く、大きな仕事を抱えていると知っている身としては言わない訳にはいかない。
クリエーター『霞詩子』として恵の指摘は大きなお世話だと言えず、男を追いかけて休業を余儀なくされたらまた紅坂朱音に何を言われるか解らないと板挟み状態になってしまった。
「う~~~・・・・・・だったら今直ぐにあの二人を向かいに行って!」
「伝えておきます」
その果てにギリギリの妥協案を提示し、恵は即答。いち早く黒いスマフォを操作していくも、
(でも、お義姉さん聴いてくれるかな?)
と疑問を感じていた。
勿論、詩羽に悟られないように表情には出さずいつも通りに淡々とした感じで作業し、終わったとスマフォをしまって顔を上げると詩羽がキツイ目を向けて来ていた。
「じゃ、改めて行きましょうか。みんな待ってますし」
「どのみんななのかしら、加藤さん?」
あえて突っ込まずに先に進もうとするも背後からの怨嗟の篭った声に雨で冷えたとは違う寒気が来る。
正直、向けるべき相手が違うと言いたいが受けてしまえば自分まで風邪を引いてしまい、そうなれば得をしたと満面の笑みを浮かべる
「こんな所で禅問答してたって〝お互い〟に損するだけですよ。だから早く行きましょう」
「え?・・・・・・え、ええ、その通りね」
一瞬で攻守が逆転してしまい反撃する余地もなく問答は締めくくれられて、恵は歩き出す。
その足取りは実に早足であり、後に続く詩羽は一体何が逆鱗を触れるになったのか皆目見当が付かず、と言って尋ねようにも一刻を争う如くに歩いていく姿に付いて行くだけで声を掛けるのも憚られる。
(もう少し、ゆっくり行ってもって・・・・・・いえ、駄目ね。取り合うとは思えないわ)
その詩羽の思考はついさっきまでの恵と
しかし一方で英梨々と倫也がいるだろう方向に振り返り、羨望と不安に悲痛な目を向けた。
さて、どうなりますか。