グリザイアに射す陽光   作:a0o

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 色々とバタバタしてて遅れましたが久しぶりの投稿です。


これでいいの?

 降りしきる雨の中、倫也と英梨々は狭い小屋の中で会話も無いまま離れて座っており、徐々に弱まっていく雨音だけが響いていた。

 

 再度の決別宣言からどの程度の時間が経ったのかは当人達には分からずほんの数分かもしれないし、もう何時間にもなるのかと思いながら、もう終わったと言う雰囲気がただただ流れて行った。

 

 倫也はずっと窓の外を眺めて英梨々を見ていないが、必死に耐えているのは伝わっており、

 

(俺が知ってるアイツなら泣き喚いて飛び出すのに・・・・・・良くも悪くも成長したのかな?)

 

 と冷めた気持ちでいるとポケットのスマフォが震えたのを感じ取り出して確認する。

 

〝もう5分で迎えが来るわよ。〟

 

 短くて単調な一文だが、監視カメラなどを仕込んでいる余地が無い山小屋の中でタイミングを計って送られて来たことは、いくら一姫の仕込みとは言えありえない事であり必然的にタナトスシステムが復活していることを確信させた。

 

(思ってたよりも随分早いな・・・・・・・・・・・・戻るとか言い出したりはしないだろうけど、一姫(かのじょ)の復帰もとい新体制の設立は早まると考えた方がいいか)

 

 憂鬱とした気分から一転して思考が冴え渡っていき、究極の素材(かみさま)のプロデュース改め補佐する為に自分も死に物狂いで――――――

 

(そう言うのはもういいって言いそうだな。まぁ、楽はさせてくれないだろうけど)

 

 その場に居ないにも関わらず一姫は笑みを浮かべている姿を想像して、無意識に笑みが作られた。

 

「あの女が何か言ってきたの?」

 

 英梨々が沈んだ声で訊いてくる。その声には明確な怨みの念が込められていた。

 

「ああ、もうちょっとで迎えが来るってさ。彼女も来ると思うから色々と訊かなきゃいけないな」

 

 対して倫也の声は平然としており、英梨々の前にも関わらず一姫が来た時の事を考え始める。

 

 その想い人(ともや)の態度に顔を歪めながらも泣きたいのも叫びたいのも押さえ込み会話を続けようとする。

 

「ずっとあの女の事ばかり考えてるの?」

 

「考えてちゃ悪いか。お前こそ、何をそんなに怒ってるんだ?」

 

「そんなの決まってるじゃない!!」

 

 しかし、我慢の限界は割りと直ぐにきてしまい、感情のままに吐き出した。

 

「アンタは、本当はあの女の側(そんなとこ)に居る筈じゃなかった!クリエーター(あたしたち)の側か、それに近い所でアニメやゲームの事で笑ったり泣いたりしてるのが当たり前だった!!

 なのにあの女が全部ぶち壊した!!!一体何様だって言うのよ!?そんなに―――――」

 

「英梨々、それ位にしとけ」

 

 英梨々の独白を強引に終わらせ冷めた目で見てくる倫也に今度は涙を浮かべて弱弱しく言う。

 

「ねぇ、倫也ぁ~どうして?昔のあんたはもっとずっと熱かったじゃない。あたし、無茶苦茶頑張ったよ、あんたが知ってた頃よりずっとずっと凄い絵を描けるようになったよ。なのに倫也の心には少しも届かないの?」

 

 そのまま近づいてくるのを手で制し、冷めた目を変える事無く口を開く。

 

「俺はお前たちこと忘れた時なんて無かったし、活躍を耳にしたら嬉しかったし応援してたよ」

 

「だったら―――」

 

 言い募ろうとする英梨々だが倫也の目に哀しみが差し言葉を詰まらせる。

 

「もっと早くにこんな風に言い合えたら・・・・・・・・・・・・遅すぎたんだよ、俺たち」

 

 それが全てだと結論を出して目を閉じる。

 

「あ、あ・・・・・・」

 

 英梨々の頬に涙が流れるも何もしない。

 

 そして物語なら都合よく車が到着するなと思いながら時間を確認すると、まだ一分以上残っており、それは途方も無く長い時間に感じ、またぴったり時間通りになる訳も無く少々過ぎた頃合でやって来た時にはより長く待たされた気分だった。

 

 雨は弱まってきたがまだ降り続いており、車の後部座席から雄二がさした傘に一姫が入りながら山小屋の戸の前に行くと不満顔の倫也と涙を拭った英梨々が出て来た。

 

「遅いですよ」

 

「言う程、経ってないでしょ」

 

 倫也の文句にあっさりと返す一姫。

 

 一方、英梨々は何も言わないままに横を通り車に乗り込もうとするが雄二が前に立って足を止める。

 

「濡れるぞ」

 

 そう言って反対の手に持っていた傘を倫也に差出すと一姫を押しのける形で雄二の傘の中に入ってくる。一姫からざっくりした話は聞いていたが本当にマイナス方向に落ち着いてしまったのは疑う余地がなく、当の一姫も仕方ないというように肩をすくめ倫也が差した傘の中に入って車に向かう。

 

 英梨々、一姫、雄二の順に入って行き、少し詰めれば倫也も座れるのだが雨が弱くなっていること勝手知っている場所であることから歩いて戻る旨を伝え助手席にいる詩羽とも目があったが小さく会釈しただけに済ませドアを閉めた。

 

「いいのか?」

 

 雄二の問いに詩羽は英梨々を一瞥して肯き、天音も溜息を付きながら発車させた。

 

 それを見送りながら倫也も帰路に着くが辿り着く前に雨は止んでしまい傘を閉じながら駅の方角に目を向ける。

 

(今頃、あの二人に何か言われてるのかな?)

 

 そんな事を思いながら何事も無く実家の前まで歩いていくと玄関前で恵が待っており、少々意外に思いながらも挨拶する。

 

「ただいま。それとも待ってるのは俺じゃないかな?」

 

「お帰り、安芸くん。いつもなら〝うん、そうだよ〟だけど、今回は安芸くんを待ってた」

 

「それはそれは。ちなみにこれはお姫様からの伝言、それとも加藤個人として?」

 

「お義姉さんじゃないよ。まぁ、あの人からの話を聞いてだから無関係じゃないけど」

 

 その説明で大体の事は察せられた。

 

 先の英梨々との一幕や詩羽が居たことは一姫が仕組んだことで間違いない。墓参りの後の意味深な台詞も然ることタナトスシステムが復活していたなら、自身が全く関わらなくても情報を流したり誘導したりすることは造作も無い。

 

 顔に出さないように努めたが二度目の決別宣言は相当堪えたものがあり、古傷を抉られるような性質の悪いサプライズに恨み言も浮かびはしたが、例え悪意であろうと文句は言えないし、一姫についていくと誓った矢先に揺れるようでは話にならない。

 

 何より文字通りに死を覚悟しなければならない世界に関わらせなくて良かったという安心感は今でも鮮明に思い出せる。だから、

 

「これで良いんだよ。俺は大丈夫だ」

 

 恵は黙って続きを待つ。

 

「俺は命を懸けて助けてくれた友達に報いたいし、自分の道を走っている従姉妹に重荷なんて背負わせたくない、創作者(クリエーター)として成功して更に上に行こうとしてる彼女達を危ない世界に関わらせたくない。

 そして、何処までも俺を憎む事無く新しい道を示したくれた神様との縁、この全部の想いを否定したくない。だから、これで良いんだ」

 

「・・・・・・誰も望んでない先が待ってとしても?」

 

「それこそ先の事なんて分かるのは本当の意味での神様だけでしょ」

 

 この返しに恵はふと息を吐く。正直、納得しきれたわけではないが、当事者同士でもないのに個人の感情論で口を挟むのは筋違いだ。少なくとも自身の中で折り合いをつけようとしているのに茶々を入れるような真似は余計なお節介を超えているだろう。

 

「そうだね。それとゴメンね」

 

 何より恵にはここまで拗れてしまった関係をどうにかする方法など思いつけない。いるとするなら、やるとするならそれは神の如き一人しか知らない。

 

「?」

 

「ああ、気にしないで」

 

 謝罪の意味が解らず首を傾げる倫也をあしらいながら夕飯の支度は出来ていると家の中に入っていった。

 

 

 

 

 

 ***

 

 同じ頃、雨が止み駅までもう少しの田舎道を安全運転している白のワンボックスカーの車内では混沌とした空気が充満していた。

 

「それで神様としてはこれで満足かしら?」

 

 そんな中で最初に口を開いたのが詩羽であり、天音は緊張した面持ちになり、雄二は横目で英梨々は怨みと恐ろしさを混じった視線を向ける。

 

 当の一姫は悪びれる仕草など微塵も見せずスマフォを見ている視線を外す事無く短く言った。

 

「全然」

 

「~~~~~~貴女ねぇ!!!!」

 

 あらゆる意味で全ての元凶にも関わらず一切誠意の篭ってない言葉に目も合わせようとしない態度に詩羽は怒りを抑えきれず髪が逆立っている雰囲気すら醸しだす。

 

「その元気はもうちょっと取っておいた方がいいわよ」

 

 また訳の解らない事を言い出したと英梨々を除く全員が思った。しかし一姫がもうちょっとと言うからには直ぐに答えが語られるか現れるだろうという奇妙な予感も同時にあった。

 

 その予感通り駅前で車に背を預けて待っている三十ほどの女性を目にした詩羽と英梨々が目を丸くし、面識の無い天音は事態が飲み込めず、雄二はまた面倒になるのかと姉に意図を尋ねようとするが、

 

「これは私じゃないわよ」

 

「じゃあ、これも天災の類なのか?」

 

「いいえ、その娘たちと同じルートで情報を得て追いかけてきたそうよ」

 

「氷堂と接点なんてあったのか?」

 

「ある意味、あの時(・・・)の貴方と同じよ」

 

 雄二の脳裏に初夏にあった短くも不愉快な邂逅を思い出して辟易した気分になる。

 

「お、やっと見つけたぞ。全く男のケツ追っかけて打ち合わせほっぽりだすとかどう言う了見だ~」

 

 一方、彼女こと紅坂朱音は雄二に気付いた様子も無く車から降りた詩羽と英梨々に失礼な悪態をついてくる。

 

「「・・・・・・・・・・・・」」

 

 いつもであるなら噛み付くのだが、二人の意識はこの状況を知っていたとしか思えない言動をした一姫に向いており、予想外の反応に珍しく朱音は面食らった。

 

「これも貴女が?」

 

 詩羽が刺す様な視線で尋ねてくるが首を横に振って否定を示す。尤もどれだけ信じられるかは疑問だろうが、それはこの際どうでもいい。肝心なのは倫也を篭絡している一姫に対して何ひとつ意地も見せる事無く帰らなければならない状況が出来上がっていることだ。

 

 そもそも安芸倫也が居ると言う情報に釣られて、のこのことやって来てこれまでの頑張りが何も届かくことなく尻尾を巻いて逃げ帰るなど冗談ではなかった。せめて諦めるつもりなど微塵も無いと宣戦布告して自分の足で帰りたかったのに最後は気に入らない雇い主によって連れ帰られるなど、何処までも屈辱的にも程がある。

 

 そんな詩羽の心情など知る由もない朱音は不機嫌な面持ちで近づいて来て声を上げる。

 

「お~い、まだまだ直しもあるし、何よりとことん妥協しないって息巻いてのはアンタ達だろうが、こんな所で油売ってる暇なんてねぇんだぞ。言い訳は車ん中で聞いてやるからさっさと来な!」

 

 凄まじく口汚く横柄な態度に紅坂朱音を全く知らない天音は絶句してしまい、どうしても言う通りにしたくない詩羽と英梨々は一姫から視線を外すことが出来ずに動けず、雄二が多少強引にでも押し留めようと前に出ようとしたが、

 

「って姉ちゃん?」

 

 その前に一姫が前に出て朱音の正面に立った。

 

「ん?なんだお嬢ちゃんは、悪いけど子供の相手してる暇ないんだけど、こっちは」

 

 何を勘違いしたのか悪役の様なノリで話してくる朱音に対し、一姫は腕を組み顎に手を当てたポーズで目を細めていつになく真剣な眼差しを向けていた。

 

「・・・・・・・・・・・・悪いけど、ホントに遊びに付き合ってる時間ねぇから、そこ退いてくれないかい」

 

 朱音なりにやんわりとしたつもりで行ってみたが一姫は丸で答える気配が無く、いい加減に苛立ちを覚えて声を荒げようとした。

 

「ユージ、ちょっとこの人を屈ませてくれる」

 

 その前に姉の命令により透かさず雄二が朱音の背後に回りこみ両手を拘束して頭を押える形で一姫と同じ高さまで持っていった。

 

「な!おいこら!?」

 

 余りの早業に一瞬何が起こったのか判らなかった朱音だが、持ち直して抗議を入れる。

 

 しかし一姫は神妙な面持ちで両手を朱音の顔に持っていき瞼の下を下げる。

 

「ああもう、何のつもりだ?!」

 

「ユージ、今度は頭を上に逸らして」

 

 指示通りに頭を引っ張って上を向く形になり再び声を上げようとしたところに顎を押えられた。そのまま口の中を覗き込み数秒して手を放し、みぞおち辺りを親指で強く押す。

 

「~~~~~~~!!!!」

 

 声にならない呻きをあげる朱音に黙って見ていた女性陣は唖然としてしまい、訳も解らずに手伝わされていた雄二は説明を求めようとしたが、

 

「ユージ、地面に押さえつけて暴れないようにして」

 

 その前に指示を出されて言う通りにした。

 

「ええい!なんなんだよ!!私に何の恨みがあるんだ!?ってなにすんだよ?!」

 

 純粋な腕力にひれ伏されながらも声を上げる根性ある姿を生で見ることになり、人生何が起こるか分からないなとギャラリーと化した詩羽と英梨々はクリエーターならではの感想を抱くが、当人にとっては迷惑千万の災難でありそれはまだ終わらない。

 

 一姫はうつ伏せになっている朱音の右足に手を伸ばして靴を脱がして中指のやや下辺りに思いっきり親指を押し付けた。

 

「痛タタタタタタ!!!~~~~~!!!!」

 

 悶絶しそうな悲鳴をあげる姿に一姫は呆れた目を向けながら指を離す。

 

「ユージ、もういいわよ」

 

 雄二は拘束を解いたと同時に朱音は体を返して上半身を起こし、座り込んだ体制で一姫を鬼の形相の如き顔で睨みつけた。

 

「キィ~~~、イテテテテ・・・・・・一体、何だってんだ、なんのつもりだ!?」

 

 痛みが抜けてないのか若干涙目の朱音に呆れた様な視線を送りながら一姫は言い返した。

 

「じゃあ言うけど、貴方一体どんな生活してるの?

 貧血気味だし、口の中も荒れ放題だし、内臓も淀みまくってるじゃない」

 

 一姫の一連の行動に納得がいきギャラリーとなっていた面々は肯いた。特に詩羽と英梨々はそんな状態になっても不思議じゃないとより深く納得していた。

 

「・・・・・・アンタ、子供じゃないな。

 まぁ、この田舎の医者なのか知らないが、何にしろアンタには関係ないし勝手に診察なんてするなっての!」

 

 痛みが収まり立ち上がろうとしながら文句を言う姿に鋭い視線を浴びせる。

 

「生憎だけど、そう言う訳にも行かないわ。

 ユージ、今直ぐに病院に連れて行くから暴れないように・・・・・・暴れても連れていくらから兎に角、また押さえつけてちょだい」

 

「な!?いい加減しろ、赤の他人にそんなことされる筋合いはねぃぞ!」

 

 流石に冷や汗をかいて後ずさりながら珍しく正論を吐くが雄二は取り合う事無く再び両手を後ろに回して拘束する。

 

「悪いけど、そうも言ってられる状態じゃないのよね。

 ハッキリ言うけど、今のまま放っておいたら貴女、文字通りの意味で死ぬわよ。それも今年中に」

 

「「「・・・・・・・・・・・・」」」

 

 余りにもあっさりとした死の宣告に皆、言葉を失ってしまう。

 

「・・・・・・だったとしてもアンタには関係ないだろ!私にはやらなきゃいけないことが―――――――」

 

「だからその前に死んじゃうって言ってるのよ。遠くないうちに倒れて担ぎ込まれるのがオチだろうけど、今検査を受けて療養を始めれば間に合うはずよ。

天音、直ぐに病院に向かうわよ。でも安全運転でね。

 と言う訳で二人は金輪際、この人の運転する車には乗らないように一緒に心中はゴメンでしょ」

 

 朱音の言を遮り一気に事を進めていく姿に、また自分たちでも苦戦している紅坂朱音(かいぶつ)が喚きながら連行されて行く姿を目に納めながら改めて真の敵である(かみ)の強大さを再認識したのだった。

 




 ちなみに紅坂朱音の車は彼女の友人である詩羽の担当編集に取りに来てもらいました。
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