グリザイアに射す陽光   作:a0o

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 一応、加藤恵がメインヒロイン?

 ・・・・・・それと今回、この世界戦だけの捏造が出ますがご了承下さい。


密談

「うわー」

 

 恵は入った別荘内の豪華さに感嘆の声を漏らした。

 

 高い天井、高級感を感じさせるソファーやダイニングテーブルと言った調度品は今着ているドレスの比じゃないと、ひと目で分かるものばかりで緊張が増していた。

 

特に目を引いたのは通る場所全てに一番目立つ場所に飾られている絵画であり、心に迫る〝何か〟を感じるも何処となく既知感を覚え、同時に緊張が和らいでいった。

 

 そうして通された部屋は、高級ホテルやレストランを思わせる煌びやかさに窓からは見晴らしのいい景色が堪能でき、また此処にも飾られている絵画はひと際凄いと感じさせるものであり直ぐ近くに置かれているグランドピアノからは演奏が流れて神秘さを際立たせていた。

 

「・・・・・・・・・・・・?」

 

 しかし、よく見ると演奏しているのはシンプルな白いフリルのドレスにリボンで髪をツインテールにした風見一姫だった。

 

 その旋律には感動的な美しさも圧倒的な超絶技巧もない単調なもので、本当に絵画を引き立てる為に合わせた曲のようだった。

 

 やがて演奏は終わり、恵が呆けながら拍手すると一姫が笑顔で挨拶してくる。

 

「どうも、ありがとう。それとご苦労さま」

 

 一姫は立ち上がり、そして訊く。

 

「それで、どうだったかしら?」

 

「あー、えーと・・・・・・すみません。わたし、その、クラシックの事はあまり・・・・・・」

 

「あら、ごめんなさいね。

そっちじゃないの。この絵なんだけど、どうかしら?」

 

「あ、そっちですか。そうですねぇ、何がどうとは言えないんですけど、本当に自然と心に入り込んでくる・・・・・・・・・兎に角、凄い絵だなぁと」

 

「そう、ありがとう」

 

 恵が述べた素直な感想に一姫は嬉しそうにお礼を言った。

 

「実はこの絵、私が昔描いた物なの。

 この部屋だけじゃなくて飾ってある全部ね」

 

「ああ」

 

 恵の中で得心が行き肯くと一姫は益々、気を良くして笑みを浮かべる。

 

 そこにパチパチと手を叩く音が響く。そこにはスタッフと同じく黒いスーツを着た雄二と倫也、エプロン姿の天音が揃っていた。さながらスタッフに混じって入って来たのとそれ以前に家政婦としてやって来た脇役たちと言ったところだろう。

 

 肝心の一姫も今は最低限、着飾っているが別荘に来た際はラフな格好で家政婦役である天音の更に脇役の様な立ち位置である演出をして注目をかわす算段だ。

 

「昔話はまた今度にして下さい。お膳立てが完了したなら、直ぐに始めたいと先方が言ってるんで」

 

 倫也は別荘の二階を見るようにしながら、真の主賓(かずき)に催促の通知を伝える。

 

「ええ、分かっているわ。

 でも私も終わったら直ぐに帰りたいから、最終確認をしてからね」

 

 一姫の軽い口調とは裏腹に一同は緊張を高める。

 

 大前提として一姫の存在は一切合切、表に出すことは出来ない。しかし完全に隠し通そうとして万が一にも今回の密談を嗅ぎつけられたなら、誤魔化すのは容易ではない。

 故に嗅ぎつけられる隙をワザと出し、毒にも薬にもならない無難な答え(ものがたり)を持って一姫の存在を完全に秘匿する。

 

「幸いにも生前の風見一姫(ねえちゃん)のファンだったから、話も作りやすかったしな」

 

 一同は別荘の至る所に飾られている絵画を思い出しながら、頭の中で物語を思い出す。

 

 今回の相手は一姫が画家として名を出す前から、合法献金を仲介する父親と付き合いがあり、駆け出しの頃から才気を表していた一姫と雄二にも(・・・・)目をかけていた。

 その為、天涯孤独になってしまった雄二を気に掛けており、彼女である加藤恵を通じて近況並びに支援が必要かどうかを話し合うために今日の場を設けた・・・・・・と言う設定だ。

 

 それはそれで雄二や恵に対して余計な興味を引き立てそうだが、その場合は『故人である風見一姫』の経歴に注目が行くように情報操作する算段は付いている・・・・・・それでも首を突っ込んでくるハイエナの様な輩がいた場合も最終手段はやむなしとの承認も。

 

「こう言うのを清濁併せ呑むって言うのかなぁ」

 

 恵の口調そのものは呑気だが、誤魔化すダシに使われ間接的であれ命の遣り取りに関わるのは、やはり気が滅入るようだ。

 

「怖気づいたなら何時でも降りていいわよ。加藤恵」

 

「まさか、そこに雄二くんがいるなら、隣はわたしに決まってるじゃないですか。お義姉さん」

 

「そう。なら確りと私の隠れ蓑に成ってちょうだいね」

 

「はい。いっそのこと、カムフラージュじゃなくて、雄二くんとのこれからも本当になるようにすることも視野に入れようかと考えてます」

 

 双方、言葉を紡ぐ度に空気が張り詰めていき、されどどちらの味方にもなれない板挟み状態に天音と倫也は動けず、問題の根幹である雄二に何とかしろと目で訴える。

 

 そして当の雄二は言われるまでも無いとばかりに彼女と姉の間に入って行く。

 

「二人ともそれ位にしておけ」

 

 そしてまず彼女(めぐみ)を見る。

 

「恵、せっかく綺麗になってるのにそんな顔じゃ台無しだぞ」

 

「う~~~」

 

 恵は頬を染めて俯き、一姫(あね)が鋭い視線を向けるが遮るように声をかける。

 

「姉ちゃんも無駄にからかうのは帰ってからにしてくれ。まずは用件を終わらせよう」

 

「それは護衛としての要望かしら?」

 

 一姫は恵との対応の違いに面白くない顔をしながら訊く。

 

「ああ、そう言う面もある」

 

「ふんだ」

 

 悪びれない態度での返答にソッポを向きながら、一姫は二階に上がる階段に向って行く。

 

 その直ぐ後を雄二が、天音も苦笑しながら続いて行く。

 

 最後に残った倫也が恵に声をかける。

 

「それじゃ、加藤。予定通りに隣の部屋に先方の奥さんがいるから一緒にご飯食べててくれ、こっちが長引くようなら雑談なり好きにしてていいから」

 

「了解。失礼のないように大人しくしてるから」

 

 キチンと心得ている姿に安心して倫也も二階に上り、恵は仕方ないと割り切りながら指定された部屋に向った。

 

 

 ***

 

 一姫を先頭に二階に用意された部屋に入ると入り口の側にはJBが控えており、部屋の奥に飾れている絵画の前に一人の小柄な男が背を向けて立っていた。

 

「お久しぶりですね。本条慎太先生」

 

 一姫の挨拶に男が振り向く。

 

 びっしりとしたスーツを纏いオールバックの髪に黒縁眼鏡をかけた六十代の男。

 

 与党・誠民党議員にして内閣官房長官を務めていた(・・)人物であり、一線を退いた今でも影響力が侮れない大物であり、何よりもCRISの創設に深く関わった人物であった。

 

「ええ、お久しぶりです。かざ・・・・・・いえ、今はミス・タナトスと呼んだ方が宜しいですかな」

 

 胸に手を当て紳士的対応をして来る姿を呼び水に密談が開始される。

 

「どちらでも。それでこれだけ急な会談を開いたのはどう言う事情からかしら?」

 

 まず一姫が先手を取りつつも相手の出方を伺うように促す。

 

「まあ、立ち話もなんだ。適当に掛けてくれ」

 

 不敵な笑みを浮かべながら着席を進める姿には余裕だけでなく、一筋縄ではいかない貫禄があり先の紅坂朱音のように容易に主導権を取れる隙も見受けられない。

 部屋の中央にあるテーブルに本条が腰掛けると直ぐ後ろに黒スーツにサングラスのSPが二人待機する。

 

(さて―――)

 

 一姫も向いに座り直ぐ後ろに雄二とJBを、倫也と天音は出入り口の側に控えさせる。

 

 システムとしてではなく、直に相対し交渉する久しぶりすぎる場面に生身(はだ)で感じる情報量と実感に自然と高揚感が湧きあがる。

 

しかし、それに浸ってばかりではなく相手と同じく隙を作らず付け入られないように冷静さも保つ。

 

「まずは今回の会談に応じてくれたことに礼を言います。

 かつてもその前も貴女には色々とお世話になった身としては光栄とも思いますよ」

 

 本条が話し始め、一姫は肯きながら続きを促す。

 

「先のヒース・オスロの逮捕と組織の壊滅、実に見事な手際と言う他ありません。

 しかし、彼の組織の影響力は凄まじいものでした。お陰で様々の組織が迂闊に動くことが出来ず、その絶妙なバランスを敷いていた為に各国もオスロを逮捕するのに二の足を踏んでいた」

 

 声を鋭くしながら言葉の弾丸を放ってきた。

 

「持って回った言い方は好きじゃないわ。要するにオスロに取って代わろう、もしくは連なって捕まるのを恐れた輩が出てきてるんでしょ」

 

「ああ、話しが早い。だがこの程度は許容範囲。

 しかし、先々を考えると現状のままでは行き詰まりを迎えてしまうのも時間の問題」

 

 本条の側に控えていたSPが一冊のファイルを差し出してくる。

 

 一姫は受け取って開き読み始める。

 

「CIRSの下位組織設立、タナトスシステムの使用制限を緩和させ、より効率化した運用とオスロの職業学校から保護した子供たちへの仕事の斡旋することでの適正人材の確保ね」

 

 内容を要約して発すると雄二の目尻が動き、天音が声を上げそうに鳴るが倫也が押えて首を振り渋々ながら黙る。

 

「随分とお優しいことね。折角、血生臭い世界から抜け出すことが出来るのを引き止めようなんて」

 

 一見、皮肉を込めて真意を問いただそうとしているようだが、そのニュアンスには怒りも憤りもなく淡々と続きを求める為の繋ぎでしかなかった。

 

「いや、良かった。もっとマシな方法があるんじゃないかなんて一世紀前からの議論はしなくて済みそうですね」

 

「言う訳ないでしょ、そんな私のユージを否定するようなこと」

 

 雄二は暴力を商品として生きている身であり、一姫はそれをどう扱うかの地位に立つ事を選んだ身だ。

 

 勿論、率先して振るうほど短絡的ではないし可能な限りは使わずに済ませるようにするつもりだが、それに拘って生きるな(・・・・)と命令する様な甘い考えは持ち合わせていない。

 

 そして、そんな自分の特別(おとうと)だけが稀有な例であると思っている能天気でも楽天家でもない。

 

「ハハ、相変わらずですね。いやよりオープンになったと言うべきか」

 

 この言葉に初めて一姫は目を鋭くして睨みつける。

 

「おお、恐い。しかし貴女の感情の拠り所は変わってないようで安心しました」

 

 本条のこの言葉は一姫の更に神経を逆なでするが、感情を表に出す事無く応じる。

 

「そちらも相変わらずね。人のウィークポイントを付くのがとてもお上手」

 

「褒め言葉と受け取りましょう。尤も貴女の場合は逆鱗の方が適切に思えますが」

 

「そこまで分かっていて振る意味は、実感を持って欲しかったからかしら?」

 

「流石ですね」

 

 人が生きていく限り貧しさや犯罪とは無縁でいられず、行き場の無い子供に仕事を与えることは困難、それでも仕事を与えれば無責任な外野が人道主義を説きに来る。

 この両方をどうにかできるのは、愛や道徳ではなく純然たる力を持つ者だ。オスロの場合は戦争の為の商品、即ち兵士や暗殺者であり、あくまでビジネスとして活用すること。

 本条が一姫に求めているのは国防と言う建前の元での超法規機関に上位者として噛むこと。

 

「勿論、このような事を淘汰し、より良い道を模索していくのも重要だ。いつか何者かが革命を起こして貧しさを無くし話せば分かる時代が訪れるかもしれないが・・・・・・少なくとも私が生きている内に来るとは思えない」

 

 なればこそ少しでもマシな道を、飢えて野垂れ死ぬか犯罪に走るくらいなら、手を汚そうとも誰かの役に立てる道を・・・・・・などと言う詭弁を弄しながらも本質を受け止め導く立場には彼女こそが相応しい。

 

「今の貴女には才能を大いに発揮できるだけの権限があるし、私も生きている間の助力は惜しまない・・・・・・望むなら表舞台に舞い戻る手助けも厭わないが、どうだろう?」

 

 この提案に一姫以外の全員が注目する。

 

 今の一姫には最低限の自由しかなく、いつ後ろから襲われても不思議じゃない立場にある。故に一姫の側には常に誰かが待機しておらねばならず、それ以外もごく少数を見えないように配置しながら動くのは護衛の観点から見ても不安が残る。

 

 確固たる後ろ盾を得られて、より大腕を振って歩けるなら護衛も堂々とでき、不測の事態が起こったとしても大っぴらに対応することが可能になり大きなメリットに思えた。

 

「まさか、そもそも私をタナトスシステムのコアに推薦したのはアナタでしょ。今になって面倒見るなんて言われたって薄ら寒いわ」

 

 サラリと、とんでもない事を告白し皆が唖然としてしまう。

 

 そして雄二、天音、倫也は怒りの目を向ける。

 

 タナトスシステム、そんな物と関わりを持たなければ一姫(あね)は家に帰ってきて家庭が崩壊せずに済んだ。

 同じ地獄を一緒に生き延びた(とも)がいれば〝生き残った罰〟にもちゃんと向き合え戦えたかも知れない。

 風見一姫のままだったなら、何も知らないままでいられてかも知れないし、知ったとしても普通の世界で許しを請いに行けたかも知れない。

 

 そんな視線を一身に浴びながらも本条は平然として、

 

「それについては謝罪するしかありませんね。しかし敢えて弁明させて貰えるなら、私が言ったのはこの国を担える類まれな才能の持ち主がいて、いずれは〝こちら側〟に迎えたいと言う話をしただけです」

 

 直接使うべきと言った訳ではないと言うありふれた言い訳を口にする。

 

「ええ、そうね。でもその評価が巡り私はタナトスシステムになった。そして貴方は私がそのままシステムでいることに甘んじずに自我を取り戻すことを危惧していた」

 

 一姫はここで初めて感情を表し目に込める。

 

「だから、ユージをオスロに売った」

 

(!!?)

 

 更なる爆弾発言に今度はJBまでもが目を丸くした。

 

「彼がオスロに引き取られたのは、それだけ執着が強かったからでは?

 まぁ、手を差し伸べるのが間に合わなかったのは遺憾ですが・・・・・・」

 

 意味が分からないと言う仕草に透かさず返す。

 

「本条さんは恐れたんでしょ。私の怒りが直接向いたなら、喉元を食い破られるぐらいじゃ済まないと」

 

 故に雄二の情報をオスロに流した。彼女の敵と国家の敵を同じにする為に、直接は手を下さず。そして、

 

「内なる敵こそ徹底的に叩け、マキャヴェリズムだったかしら?

 表舞台の話も貴方の後ろ盾と引き換えに政敵や都合の悪い勢力とを潰し合わせたいのが本音じゃないかしら?」

 

「やれやれ、これは振られてしまいましたか」

 

 思惑を暴かれた事に焦りも驚きも見せずにあっさりと負けを認める。

 

「申し訳ないけど、ひとつの後ろ盾じゃ、私の目指す先には全く届かないのよ」

 

 それに対しての一姫の反応も冷めた物だが失望の色は無い。寧ろこれくらいの器量が無ければ会談など応じたりはしなかっただろう。

 

 そして、過ぎたことへの恨み言を言う為に応じるほど酔狂でもなく、手にしていたファイルをJBに渡して言う。

 

「新しい下位組織の構想は私の方からも検討して、正式な案として提出するから根回しをお願いできるかしら?」

 

 味方に付かないと言ったにも関わらず、最初の提案を受けると仕草に何かしらの思惑を臭わせるが、それが何かを分かる者は一人もおらず不気味さが漂う中で本条は迷う事無く答えた。

 

「分かりました、進めておきます」

 

「一応、言っておくけど、必ずしも貴方の期待通りになるとは限らないわよ」

 

「世が思い通りになるなら、そもそもこんな場など設けませんよ」

 

 

 




 ベースはあくまでグリザイアです。
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