グリザイアに射す陽光   作:a0o

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 今回は捏造と言うより改変が出てきますが、何卒目を瞑ってください。


本題

「あら、そう。それで?」

 

 一姫の目から感情が消えて、怜悧さを醸しだす。

 

「前振りは終わりなら、今回の会談を何処に落ち着けたいのか、ずばり言ってくれないかしら」

 

「貴女は本当に話しが早い。神掛かりにも更に磨きがかかって恐ろしいほどだ」

 

 本条は敵わないと言う様な顔をして、右手を懐に入れて一枚の写真を取り出した。

 

 写っていたのは禿げ頭の中年男性。

 

 CIRSの仕事からすると暗殺対象か護衛対象が相場であり、一姫は記憶を辿り数秒で身元の情報を引き出す。

 

「確か、そう、何処かの宗教団体から独立した武装集団の幹部ね」

 

『月琳舎』表向きはまだ宗教団体を名乗っていて、心身を鍛えると言う名目の元で武術を修めつつも近代兵器、つまり銃器を組み込んだ独特の実戦殺法を研鑽。オスロの下請けとして、拉致・監禁・暗殺と法の目を潜って実践するも・・・・・・・・・・・・表看板の宗教に違法性はなく、オスロが健在であるうちは報復として更なる被害を被る可能性から下手に突っつく訳には行かずに慎重を期していた。

 

 ざっくりとした情報確認をしながら、間違いは無いと前の本条と後ろのJBも肯く。

 

「それで、私がいない間と言うか、タナトスシステムが停まっている間に何があったのかしら?」

 

 後ろ盾であるオスロが逮捕され組織には捜査の手は伸びている。関係組織も全て芋づる式にとんとん拍子とまではいかないまでも打って出る証拠を手に入らなかった可能性は低いし、そうであったとしても揺さぶりを掛けて暴走を誘うことは充分可能であるはず。

 

 そうなれば秘匿組織であるCIRSを使わず公安が大腕を振って乗り込めるはず。それでも不測の事態が起こったとしても対応が出来ない無能でもあるまいと怪訝な顔を作る。

 

「ええ、貴女の考えていた通り、組織そのものはオスロとの蜜月関係を立証できる証拠が手に入り強制措置が可能となりました」

 

 これに背後のJBが説明を始める。

 

「ですが、敵もこう言う事態への備えを怠ってなく、オスロ・・・・・・テロリストの繋がりがバレたのを切欠にした内部抗争が勃発として、大きく世間に認知され無関係だった信者や捨て駒の末端が死傷、その最中に教祖も自殺」

 

 本来なら強制措置で組織を摘発し確たる証拠を掴む段取りが、その前に消されてしまい手に入らずじまい。オスロから手に入ったものでは決め手に欠けて、裁判でひっくり返される可能性も無視できない。

 その上、対応が後手に回ったとして世間やマスコミの批判が増し、そのドサクサに直接つながりのあった幹部連中が逃亡を図ろうとしている。

 

「勿論、みすみす許すようなことはしませんが、大ぴらになってしまったのが仇になってしまってね。決定的な証拠を挙げないと事態は良くない方向に収まりそうなんですよ」

 

 本条が説明を引き継ぎ、いよいよ本題が提示される。

 

「新組織設立の前段階として、貴女にはこの武装組織の壊滅に尽力して貰いたい。但し、今回は超法規的措置の使用は最少にして、直接の解決に暴力を用いることは出来ない」

 

 つまりは真っ当な手段での力を証明して見せろとのこと。言いたいこと事態は分からなくもないが、どうにも解せない。

 

 真っ当な方法での解決ならそれこそ警察や公安の領分だ。態々、CIRSをそれも一姫を引っ張り出して事に当たらせる必要性があるのか?

 

 それに何よりポーカーフェイスで隠しているようだが、目の前の人物には焦りとは言わないまでも、どうにも事を急いているように見受けられる。

 そもそも本条ほどの人物がカルト集団の検挙にここまで出しゃばってくるのか。当初は政治的な何かが絡んでいると思っていたし、それは間違いないのだろうが、もう少し個人レベルでの事かも知れない。

 

 ここまで考えて、一姫は本条の背後関係を思い浮かべて仮説を組み立てた。

 

「確か貴方は東浜グループと懇意にしていたわよね?」

 

 東浜グループ。私鉄を中心に関東一円に影響力を持ち、政財界とくに国土交通省とも結びつきも強く、現在の総帥はCIRSとも関わりのある人物であり必然的に本条とも繋がりを持つ。と言うよりも組織設立段階以前からの付き合いであり、彼が東浜グループと政界を繋ぐのをお膳立てしたパイプだったはず。

 

金づる(スポンサー)にせっつかれたのかしら?」

 

 無論、確信がある訳ではない。あくまで一番最初に思いつき、一番確率が高そうだと思い振ったに過ぎない。

 

 表情や仕草には細心の注意を払っているが、この程度の揺さぶりで感情が表にでるような生易しい精神など持ち合わせてないようで、ポーカーフェイスを貫いている。或いは全く見当違いに内心で笑っているのか。

 

(どうであれ、腹のうちを見せないままで『はい、そうですか』なんて言うほど、私もお人好しじゃないわよ)

 

 相手側からの要請にも関わらず、ここまで本条は一切の本心を見せていない。勿論、一姫とて利害を超えた友情などとメルヘンなことを望んではいない。

 

 だが目の前の相手は必要とあれば、国益の為ならば躊躇いなく後ろから刺してくる。今のままでは、そうなったとしても自分たちが損するだけ、決定的とは言わないまでも『貸し』である体裁と言質は取りたい。

 

 そして欲を言うなら更なる吹っ掛けを仕掛けて、先々の有利に繋げたかった。

 

「貴女は本当に話しが早いだけでなく、察しも神掛かりめいてますねぇ・・・・・・忌々しいほどに」

 

 本条の表情に始めて変化が現れた。そして両手を挙げて溜息をついた。

 

「意外ね。もう少し粘ってはぐらかすかとも思っていたのに」

 

「貴女相手では時間の無駄でしょう。それに拗ねられて断られたら元も子もないですしね」

 

 表情や声に悔しさは無い。それどころか漸く胸の内を吐き出せるとでも言いたげな安心感とも取れる緩んだ表情を作った。

 

 そうして説明を始めた。

 

 先の通り『月琳舎』は強制捜査が執行される前に騒動を起こして教祖を生贄、肝心な部分にまつわる証拠を消し去り、世間に認知させることでそれ以上の手が出せないようにした。

 

 その騒動に東浜の総帥の妻が巻き込まれ昏睡状態に陥ってしまった。

 

 表向きの宗教法人の熱心な信者だった彼女は教祖や幹部達の教えを崇拝しており、全てを差し出そうとし切り捨てられた。

 

 それを自業自得と言い捨てるのは簡単だ。しかし何を拠り所にするかは人それぞれ、国家だろうが宗教だろうが何を信じようと裏切られたなら悲惨ではすまない。それこそ『生きながら死ぬ』ようなもの、それが身内に起こったなら何が心に芽生えても不思議では無い。

 

 しかし、最も憎むべき教祖が死んでしまい、確たる証拠が得られないのでは直接手を下した者たちに法の裁きは期待できない。出来るようになるとしても時間が掛かりすぎる。

 

「そこで懇意にしていた貴方を通じて国家権力の私用化を求めてきたと・・・・・・お金持ちならではの報復手段ね」

 

 一姫の感想に部屋に居たそれぞれが思いを馳せる。

 

 これが一般人ならば大抵は泣き寝入りするしかなく、そうでなくても良くて被害者の会などを立ち上げて訴えるか、悪くすれば犯罪に走る物もいる。

 今回の話はまだ同情をすることは出来るが、金と権力に物を言わせて自分たちだけがワガママを通すやり口は、どんな形であれ気分の良いものではない。

 

 そして本条とてこう言ったしがらみは決して本位ではなく、一姫を表舞台に戻すと言う誘いも東浜(うしろだて)と手を切ったとしても余りある力を手に入れられたらと言った希望的観測(したごころ)によるものだろう。

 

 尤もそれがそのまま通ると思うほど楽天家でもなく、個人の報復だけでなく国家運営の意義の点からもやる価値はあると判断したから今回の密談を申し込んだ。

 

 あらゆる思惑や利得、先々への備えを見据えて呑み込む度量は 出世を重ねて欲に溺れて権力に胡坐をかく老害などではない、権謀渦巻く政治の世界に居続けたベテランの貫禄がある。

 

 天才とは言えまだ若い一姫には出すことの出来ない味に少し愉しい気分となりながらも依頼を受けるかどうか、受けるとして自分の求めているメリットを絡ませられるかどうかを検討していく。

 

 説明を終えた本条は沈黙を持って答えを待ち、僅かな時間が途方もなく長く感じる緊張感の中で一姫は口を開いた。

 

「いいわ。貴方の顔を建ててこの依頼、受けましょう。但しあくまで私のやり方で、ここに居る人たちは勿論、依頼主であるグループ総帥・榊道昭にも協力して貰うわよ」

 

「ええ、それは勿論ですとも」

 

 一姫の宣言に本条は胸を撫で下ろし、一姫の元での正式な初仕事に雄二を初め皆が気合を入れた。

 

「では詳細な資料は直ぐにまとめてお送りします」

 

 JBがスマフォを取り出して連絡を取る。

 

「ええ、私のタナトスフォンに送っておいて。帰りに目を通すから。

 それじゃ、今夜はこの辺で。次に合う時はもっと愉しい話になることを期待するわ」

 

 立ち上がる一姫に含むように本条は言う。

 

「まだ少し時間もありますし、なんでしたら今聞いても?」

 

「お気遣い感謝するけど、楽しみは後にとっておいた方がより美味しく(・・・・)なるってことで」

 

 依頼を受けることへの恩に対し、先払いして少しでも小さくしようとするのと成果をだし更に焦らして大きくしようするのが透けて見える。

 

 後腐れなく帰れると思っていた矢先に世の中のドロドロとした臭いが発せられ、初仕事だと入れた気合いを早くも水をさしていく。尤も今更この程度の事で嫌悪を抱くような浅い付き合いでは無いので、何も言うこともなく退室していく。

 

「あ、思ってたより早く終わったんですね」

 

 一階に降りると恵が近づいてきて雄二の隣に立つ。

 

 然も当然のように滑らかな行動に一姫の目尻が僅かに上がり、少々キツイ声で答えた。

 

「まぁね。そちらはどうだったの?」

 

「んー。料理は絶品でしたけど、上の様子が気になっちゃって・・・・・・ただ指示通り相手側の奥様とは世間話程度で済まそうかと思ってたんですけど、色々と話してるうちに今度は本当にわたしと雄二くんの為にご馳走してくれるって感じになっちゃいましたね」

 

 いつも通りの呑気な口調でありながらも語っている内容は流せるものではなかった。

 

「この僅かな時間に有力者の奥方の口添えまで取り付けるなんて・・・・・・・・・」

 

「やだなぁ~。只の世間話のついでですよ。何よりお義姉さんには散々鍛えられたから、特に緊張もなく接することが出来たんですから」

 

 謙遜しているようで一姫のお陰(せい)だとさり気なく言い含める辺り、加藤恵も普通ではありえない成長をしている証明に思え、

 

(初めて会ったときのことが随分と懐かしく思えるのは、どう思うべきか?)

 

 と雄二が耽っていると(かのじょ)が何かを察したのか呑気な口調のまま言った。

 

「あ~、なんだか今、失礼なこと考えてないかなぁ?」

 

 そこに一姫(あね)がピンときたのか鋭い口調で入って来る。

 

「大方、加藤恵が普通だった頃が懐かしいとか思ってたんでしょ」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 答える前に確信的なニュアンスで言われ、何も言えないで居ると恵から不満な声が発せられる。

 

「あのさ、前にも言ったけど気持ちは変わり続けるもの。それに応じてわたしも変わっちゃったかも知れないけど、それでも隣に立ちたい気持ちは今も変わらないよ。雄二君は変わっちゃたの?」

 

「いいや、全く」

 

 踏み込んできた問いに即答する。

 

 この躊躇いない態度に恵の不満は一気に吹き飛んで代わりに特上の嬉しさに胸が高鳴り、惚気にしか見えない場面に一姫は面白くないものの、弟が心に決めた想いを無碍には出来ず気を静めるように努めた。

 

「お~い、イチャイチャするのは帰ってからにしよう」

 

「そうそう。少し忙しくなるしね」

 

 倫也と天音が揃って壁を造り、惚気場面を見えないようにした。

 

 そして直ぐさま小声で『愚痴なら幾らでも付き合いますよ』『私もね』とフォローを入れてくる。それで完全に気が治まるわけではないが、いち早く寄り添おうとしてきてくれた二人に幾分かはマシにはなった。

 

 昔は負の感情を抱いたときは想い人(おとうと)弄る(あいす)ことで静めていたのに、今は他にも手を取ってくれる相手が居る。それが例え贖罪から始まったものだとしても安心して心を開ける相手が居ることは一姫の精神(こころ)をずっと軽くする。

 

(頭では分かっていたけど、英梨々と詩羽(あのこたち)が惹かれたのもこう言うことなんでしょうね)

 

 しかしそれに恋心が絡み、完全に転じてしまって拗れてしまったのだから、本当に人の心と言うのは厄介だ。

 

 恋は盲目、一姫自身も想いに駆られて禁忌を犯す寸前にまでいった、安易に正気との両立を説く気は無い。いや寧ろ常識や倫理によって正気に縛られて踏み込めずにいたり、苦しんだりするのが普通であるのだろう。

 

(そう考えると、やっぱり私は恵まれてるかしらね)

 

 揺るぎなき想い、それが実らなくとも寄り添おうとしてくれる誰かが居る。それがなければ国はおろか世の全てを捨ててしまっただろう。制限はあれ陽の当たる道を歩くことの出来る実感を得ることは出来なかった。

 

 しかし、その為に本来関わることのなかったであろう道に引きずり込んでしまった落とし前は付けていない。

 

(今度は成り行き任せじゃなくて、本当に一肌脱がなくちゃね)

 

 この前は三人を合わせようとして予期せぬ事態で目論見が狂った。

 

 タナトス(ぶんしん)を通して二人きりになり、どんなことがあったかは把握している。小動物の気性にしては頑張っただろうが、もう一歩踏み込み食い下がれば本当の意味で前を向くことが出来たと筈だった。

 

 二人の夢を見ていたときの幸せな寝顔には確かな想いがあった。それが冷めない内に意志を押し通せば、彼女達への想いが勝利すると確信していた。

 

 だが英梨々は引き下がってしまった。それはある種の必然であり、だからこそ詩羽が居て欲しかった。一緒に居てひと言でいい素直な気持ちを倫也の心に響かせて欲しかった。

 

(そうした上で私が最後の仕上げって言うのが理想だったんだけど・・・・・・)

 

 

 しかし考えたところで時間は戻らない。

 

 一姫の気が静まったタイミングを見計らって倫也と天音の間から恵が顔を見せる。

 

「それじゃ、お義姉さん。わたし、先に帰りますね」

 

「ええ、あくまで堂々とお願いね」

 

「はい。お義姉さんもお気をつけて」

 

 恵が微笑みながらドアに向って行きそこにはスタッフが待機しており、来たときと同様に丁重に車まで送り届ける。

 

 それを見届けた倫也は時間を確認してこれからの段取りを説明する。

 

「もう三、四十分で交代のスタッフが来ますからそれに紛れて俺たちも退散しましょう」

 

「じゃ、また着替えないとね」

 

「あ、一姫、手伝うよ」

 

「天音、着替えくらい一人で出来るわよ」

 

「まぁ、いいから、いいから~」

 

 じゃれあいながら奥の部屋に入っていく二人、室内にはJBも居りドアの側には雄二が待機、倫也は一応の用心として外を見て回り途中に昔来たことのある別荘の前を通るも何事もなく戻り予定通りに帰路に着いた。

 




 次回はグリザイアからもう一人ヒロインが登場する予定です。
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