グリザイアに射す陽光   作:a0o

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 またもや捏造が入ります。


思わぬ事態

 

 病院の前をうろうろする榊由美子を少しはなれた車の中から見ている加藤恵と周防天音。

 

「この際だから声かけて強引に連れてっちゃう?」

 

「天音さんがそうしたいなら、わたしは止めませんけど」

 

 暗にどうなっても自分は責任を取らないと言う姿は、

 

(昨日と言ってたことが違うじゃん)

 

 と心の中で突っ込みを入れられる。

 

 それを気付いているのかいないのか丸で分からない表情で代わり映えの無い光景をただ見ている。

 

 朝っぱらから一姫から来た命令(しじ)で由美子の動向を監視しているが接触は不要とされ、そこから新たな指示も無いため、目を話さずに適当に雑談をしている。

 

 だが風見姉弟が昨夜は帰らなかったことを聴き不機嫌は間違いないはず。

 

 それにも関わらず淡々としているのは不気味さを醸し出す。

 

(春寺さんも居るし早々変なことにはならないとかフォローも考えてたんだけどなぁ)

 

 自分たちが関わるずっと前から危うさを孕んでいる姉弟。

 

 数年ぶりに再会し過ごした南の島でもからかうようにイチャイチャを見せ付けるのが常であり、それが知らないところで二人が泊まり込みともなれば雄二(かれし)への不満は黙ってゾーイに会ったことと相俟って相当なものであるはず。

 

 何の拍子に爆発するのかと不安に思いながら親友(かずき)からの指示を律儀に守っていると、タナトスフォンが振るえメールが届いた。

 

〝直ぐに倫也くんが病院から出て来るから何が何でも引き止めて〟

 

「え、何があったの?」

 

「あ、出てきました……明らかに様子が変ですね」

 

「あ、ちょっと待って」

 

 言うやいなや車を降りて向って行く恵と一拍遅れて追いかける天音。

 

 

 

(ああ……なんでこんなことになるんだよ!?)

 

 早足で歩き額に冷や汗をかきながら歩いていく倫也の脳裏には一寸前の光景が思い出される。

 

 夫婦だけの話し合いで自我と記憶を回復させた美佐子に同様の存在であるタナトスが事情聴取を始めた。

 

 夏に入り教団の中が目に見えて慌しくなったこと、教祖と幹部たちが言い争いをしていたこと、そんな不穏な空気が流れる中で幹部の一人が見覚えの無い面会者が訪ねてきたことと順調に情報を得ていた。

 

 余りにも順調なので見越していたのかと疑問の声も出たことに、

 

『上手く混ざっていたけど死者は実行犯だけだし、負傷者も彼らと関係の深い輩が殆どなのに彼女、明らかに何も知らない立場に居てここまでの重傷を負ったのには何か不味い事を知ったかもしれない(・・・・・・)と思っただけよ』

 

 とシレッと言ってのけた。

 

 俗に言う口封じである。仕組んだ側としても落命するのが一番だったろうが証言が不可能な状態になったなら僥倖と安心するだろうが、よもやこのような方法で尻尾を捕まれるとは想像すらしていないだろう。

 

 美佐子の安全確保の重要さは増し、万が一の備えとして更なる便宜を図ってもらう材料が手に入ったことは一姫をして笑いが止まらないだろうと下世話な勘繰りをしつつ、調書は続いて行く。

 

 前科者やマークしている犯罪組織のメンバーに該当者は無く、モンタージュを作成し該当する日時と周辺の監視カメラから合致した映像を確認させ身元を割り出す……ここまでは順調だった。

 

 割り出した人物は白い長髪を左右に均等に分けた中年の男で名前を『山科慶太』不死川書店アニメ事業部部長。

 

 一見すれば反社会勢力との繋がりなど疑わしいところは無いが、かつてはゴシップ誌に在籍しており、新興宗教に嵌った人物、主に政治家や社会的地位の高い実業家の周りを嗅ぎまわっていた過去があった。

 

 そして倫也にとって重要であり最悪なことに彼の人物は、そこから今に至るまでの間にファンタスティック文庫の編集長をしており『霞詩子』とも少なからず関わりを持っていた……いや、現在も彼女の新作のアニメ化に伴う仕事に関わっており、ことが本当なら洒落にならない事態であった。

 

(きっと何かの間違いだ……)

 

 身元の洗い出しが済んで早々、一姫の許可も得ずに事情確認を名乗り出て病院を出たところ恵と天音が進路を塞ぐように立ち塞がった。

 

「…………丁度いいや、これから不死川書店まで行くから車で――――――」

 

「一姫が許可しないって……詳しい事情は聴いてないけど一旦落ち着こう。ね」

 

 天音が穏やかに言ってくるが倫也の焦りは全く収まらず、

 

「そのお姫様が円滑にことを進める為に俺がいるんですよ。話しをするだけなら俺だって……寧ろ俺の方が話しやすいかも――――――」

 

「あ~、うん。それでどっちなの?澤村さん、それとも霞ヶ丘先輩?」

 

 倫也の言葉に被せるように割り込んできた恵により場の主導権が一辺に明確に握られた。

 

『霞ヶ丘詩羽の方よ。よく分かったわね』

 

 持っていたタナトスフォンから正解が告げられ、ここで漸く倫也の焦りも収まってきた。

 

「いや、お義姉さん裏切って安芸くんが突っ走るなんて他に無いでしょうから」

 

「裏切るって……人聞きの悪い」

 

「どんな理屈をこねくり回したって、お義姉さんダシにして澤村さんと霞ヶ丘先輩(あのふたり)への想いを暴走させようとしてたでしょ」

 

 容赦なく言葉(やいば)を刺して来る恵に戦慄しながらも更に続く。

 

「勇み足の結果、切られてもいいとか思ってるかもしれないけど、そんな愚かなのは認められない……だから一度、立ち止まろう」

 

 優しく包み込むように、

 

「安芸くんの想いも誓いも空回りしないように、わたしたち皆が笑い話にできるように着地点を一緒に考えよう」

 

「……締めが猛烈に酷い形になってないかな!?」

 

「気の性だよ」

 

 あっさり流しながらタナトスへと話す相手を変える。

 

「それで、この後どうするんですか。ええと……タナトスさん」

 

『一緒に考えるんじゃなかったのかしら』

 

「なに言ってるんですか。権限を与えられている(・・・・・・・)のはお義姉さんなんですから、その範囲内を示してくれなきゃ考えようが無いじゃないですか」

 

 弁えている事を示しつつ責任の所在を明確に突きつける。

 

 良くも悪くも変化(せいちょう)した恵に息を呑む倫也と天音。

 

『だったら、貴女たちの後ろに居る彼女の相手でもしといて貰えるかしら』

 

 振り返ると一人全く話しについていけないと言うような顔をしている由美子の姿が目に入り、そもそも何しに此処に来たのかを思い出した。

 

「あ、いや……わたしは別に…………」

 

 突然、話の主題にされ戸惑うがそんなことはお構い無しに話は進む。

 

『丁度いいから倫也くんはお母さんがどうなったのか結果を説明してあげて。

 天音も付き添いをお願い。加藤恵はそうね……確かめてきて欲しい事があるから今から送る場所に行ってちょうだい』

 

「足がある天音さんじゃなくて、わたしをってことは余り目立つのが好ましくないからですか?」

 

『ホント、面白くないほどに察しも良くなってるわね。

 こう言うときって聞き込みをするのか何をするのかって、心をワクワクさせて訊いて来るものじゃない?』

 

「捜査権もない女子高生にですか?不審者扱いされて警察のお世話になるのはゴメンですよ」

 

 極端な例え(皮肉)はやはり雄二(かれし)と泊り込みしたのが響いているのか。

 

 何はともあれその場はどうにか落ち着き、それぞれはタナトスの支持の元に倫也たちは病院内に恵は踵を返して目的地に向かった。

 

 

 ***

 

 

 山科にとって、その日はいつもと変わらない朝だった。

 

 いつも通りに出社し手がけている仕事に取り掛かり、また残業になるのかと考えながら一日が過ぎて行くはずだった。

 

 しかし、その日は残業どころか定時よりも早い時間に仕事を切り上げることになった。

 

「――――大丈夫だ。あの娘はちゃんと信用できるところに預けてあるから、お前はなんにも心配しないで療養に専念しろ」

 

「部長、奥さんですか?」

 

「ああ、ちょっと身体の調子を崩してな……」

 

 部下との何気ない会話をしつつ、一服しようと休憩室に向かっていた時、見たことのない二人の男が声を掛けてきた。

 

「突然、申し訳ありません」

 

「いいえ、別に構いません」

 

 丁寧な口調であるが警戒心を解かず身構えつつも慌てずに応じる。

 

 二人は警察手帳を見せて名乗る。

 

 山科が僅かに目を見開いて驚くが直ぐに営業スマイルを浮かべて用件を伺う。

 

「警視庁公安部のものです。申し訳ありませんがお聞きしたいことがあるので同行を願います」

 

「これは任意ですか?」

 

「ええ、その通りです」

 

「だったら少し準備をしますので待って下さい。なるべく早く済むようにしますから」

 

 協力的な態度に刑事たちも丁寧に応じるが、逃げる為の芝居である可能性もあるので出入り口に一人と少し離れた位置に一人が付くことで了承する。

 

 しかし山科は態度そのままに身内に急用が出来たので早退する旨をスタッフに伝え、文句を言われるも頭を下げて引継ぎを頼んだ。

 

 

 ***

 

 

「はぁ……」

 

 榊由美子は病院の屋上で空を見ながら溜息をついた。

 

 なし崩しに使い形で病院に入り母親の元まで案内されていく途中で、同行している倫也から意思疎通が可能になったこと父親と和解して意識レベルを健常時と変わらぬほどに取り戻したことも聴いた。

 

 特殊な器機を使っているために口外禁止の誓約書や複数の身元確認を済ませエレベーターで地下に向かうはずだった。

 

 しかし由美子自身は踏ん切りが付かないのか地下ではなく屋上のボタンを押して倫也たちが引き止める間もなく外に出た。

 

 その様子を見ている倫也と天音は声を掛けるべきかどうか判断が付かず静かに待つしかなかった……が、流石に飽きたのか天音が近づいて声をかけた。

 

「ねぇ。いつまでそうしてるの?」

 

「そっちこそ、今日はお店はいいのかしら?」

 

「昨日はヘルプだから。

 それに私の本当の雇い主からは今は榊さんに付いてる様にって」

 

「さっきの電話の……確か加藤さん、彼女のお姉さんだったかしら?」

 

「うん。そう」

 

「だったら伝えてくれない。父との仲直りで話しが出来たなら……わたしが行かなくてもいいでしょ。これ以上、他所の家の問題に口を挟まないでくれるかしら」

 

「う~ん」

 

「でもご両親は貴女とも仲直りしたいと思ってますよ」

 

 正論であるため返答に困っていると倫也が引き継ぐように出てきた。

 

 ついさっきまで立ち会っていただけに言葉には説得力があったが、逆効果だったようで更に意固地にしてしまう。

 

「…………それこそ今更よ」

 

 その顔を見たとき倫也は悟った。

 

(この人……少し前の俺と同じだ)

 

 どうしようもない自責の念に駆られて、だけどどうしていいのか分からず自らを追い込み塞ぎこんでいる。

 

 自分には直ぐに手を差し伸べられた。

 

 例えその手がそれまでの自分の全てを破壊するものだったとしても……ここで漸く一姫の意図が見えてきた。

 

(今度は俺の番ってことですか)

 

 

 

 ***

 

 

 市ヶ谷の地下、タナトス(ぶんしん)が表示するリアルタイムの情報を見ながら一姫は頬杖をいていた。

 

「順調に行くものもあれば、そうでないモノもありか……どうするんだ、姉ちゃん?」

 

「ユージは装備を整えて待機、春寺さんは公安の取調べの立会いに向ってちょうだい」

 

 雄二が問うと間髪いれずに命令が来た。

 

「待機って、何を想像してるんだ?」

 

「同行が余りにも順調すぎるのよ。集めた情報からして導き出される最悪にはアナタの力が必要になる」

 

「俺が言うのもなんだが、越権行為は控えるようにとのことじゃ?」

 

「あくまで最悪に備えてのものよ……それにもしも私の予想通りなら越権でも超法規的でもなくなるわ」

 

「物騒なことだ……出番が無い事を願うよ。

 それともうひとつ、恵にやられせてるのは――――――」

 

「危ないことじゃないわよ。寧ろそんな場面になるならユージや他に指示する。素人に任せるなんて真似はしないわ」

 

 決然と言い切る姿に納得を示して命令通りに待機に入っていく。

 

「それでは私も行きます……くどいようですが管轄(なわばり)を乱すような事態にはならないんですよね?」

 

 タナトス時代からの付き合いで一姫の手腕は信頼しているが、それでも全く間違えなかった訳では無いので一抹の不安は拭いきれない。

 

「言うなれば貴女に行って貰うのはダメ押し、いえ念の為かしら……余り当たって欲しくないのだけれど」

 

 そして聴かされた一姫の危惧に無駄足になった方が良いと思いながらも備えない訳にはいかず、またその様なことほどよく当たるのも経験しているので溜息をつきながらも気を引き締め指示に従う。

 

 そのまま誰も居なくなった部屋で一姫は背もたれに深く沈みながら事態の同行を見守る。

 

 

 ***

 

 

「暴動が起こる少し前、あなたが教団の幹部と会っていたと言う目撃証言が出た」

 

「その時、何か受け取った或いは渡したりは?」

 

「………………」

 

 取調室で尋問を受けている山科は黙秘を貫き続けていた。

 

 黒幕と目簿される幹部の写真や過去にスキャンダラスなネタを追いかけて褒められない取材をしていたときの事などで揺さぶりをかけてみるも否定も肯定もしない。

 

 同行に協力的だったにも関わらず全く手ごたえが無い反応に苛立ちながら投げやりに言う。

 

「山科さん、これは任意ですから話す気が無いなら帰ってもらっても結構ですよ」

 

「………………」

 

 それでも何も言わない姿をマジックミラー越しに見ていたJBは違和感を覚えていた。

 

 そもそも今回、関係が浮かび上がったのは違法もとい超法規的手段によるもので明確な根拠の提示を求められれば反撃の術は無く、それでなくても不当として弁護士の立会いを求める権利を主張することもしない。

 

 全く抵抗なく任意同行に応じたと聞いたときは死傷者が出たことに関わった罪悪感から償いを求めているのかとも思ったが様子を見ている限りそれもありえない。

 

 考えられるいくつもの仮定が否定され、地下の一姫(かのじょ)の言っていた最悪が頭を占めていく。

 

 一秒一秒が長く感じられタナトスフォンを取り出し指示を仰ごうかと正に示したようなタイミングでメールが届いた。

 

〝その人が護ろうとしているのは自分じゃない〟

 

 その切り出しから続く文面を確認して直ぐに取調室に入る。

 

「……?」

 

 突然入ってきた白い肌に金髪の外人女性に目がいき担当刑事が嫌な目を向け、山科は訳が分からずに眺めていた。

 

 小声で幾つかの遣り取りを交わして尋問が再開される。

 

「娘さんはお元気ですか?」

 

「…………」

 

 山科は面を喰らいJBに目を向けるが何も応える事無く話は進んでいく。

 

「職場や奥さんには預けてあると言ってましたが、そこは本当に信用できる所ですか?」

 

「………………」

 

 山科は何も言わないが額に冷や汗が浮き出てきた。

 

「分かりました。では御社の弁護士を呼んで身元引受人を頼みます。ここで取調べを受けたことは――――――」

 

「やめてくれ!」

 

 山科の悲鳴のように懇願する。

 

「そんな事されたら……娘が殺される」

 

 張り詰めた気が切れたのか表情には絶望があふれ出し机に突っ伏す。

 

 そこには黙々と仕事をしていた姿も黙秘を貫いていた姿もなく我が子を案じ不安に押しつぶされそうな父親しか居らず、無理が剥がれ一姫の言っていた最悪を目のあたりにしJBは額に手を当てた。

 




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