グリザイアに射す陽光   作:a0o

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 今更ながら捏造が多数入り組みますが、ご容赦の程を。


収束に向けて

 状況がガラリと変わり取調室は深刻な空気に包まれていた。

 

 今まで娘のために無理に無理を重ねて普段通りを演じていた山科から弱々しい声で経緯が語られた。

 

「私が昔、ネタとして張り付いていた実業家と繋がっていたと名乗る連中からある日突然、娘の命が惜しければ言う通りにしろと連絡が来た……その時は直ぐに警察に届けることも考えたが…………泣きながら助けてと叫ぶ娘の声に言う通りにするしかなかったんだ」

 

 その時の恐怖を思い出し声が震えてく。

 

「主だった奴らが海外に行ってしまえば娘を帰すと……それまでは嗅ぎまわられないようにしろと…………どうしよう、ここに居るのを知られたら」

 

 従順に同行に従ったのも騒ぎを起こしさせないようにする為であり、黙秘を貫いていたのも娘を護る為だった。

 

 一姫から通話記録による娘への連絡の頻繁さと金銭的にもリスクが見合うとは思えず、思想的にも半社会的背景が見えてこないから、もしかしたらとのことだったが出来るなら外れていて欲しい可能性だった。

 

 優先順位が一気に変わり、事件の被疑者ではなく被害者への協力を求める。

 

「娘さんは絶対に助け出します。どんな些細なことでも構いません何か手掛かりはありませんか?」

 

「分からないんだ……昔、接触したみたいなこと言ってたがワタシ自身には見たこと無いし」

 

「じゃあ質問を変えます。娘さんがいなくなったのは、いつ、どういった状況で?」

 

 山科は青ざめた顔を上げて話す。

 

「あれは例の暴動が起こる五日前。体調を崩して入院している女房の見舞いの帰りにお昼にしようと店を探していた時だった。その日は何処もやたら混んでいて、入れそうな店を探して確認のために少し側を離れて……」

 

 言葉を紡ぐ度に顔が苦渋に歪んでいく。

 

 何故あの時、外食に拘らずに家に帰らなかったのかと後悔しているだろう心情は容易に読み取れるが、今はその娘さんの為にも気持ちに寄り添って入られない。

 

「その時の正確な場所とその日はどういったルートを?」

 

 地図を用意させて山科の妻が入院している病院と自宅、娘がいなくなった場所に印をつけて指でなぞりながら説明する。

 

(実行し拘束しているのは教団の手が掛かった奴?

 いいえ、暴動が起きる前からマークはしていたし起きてからは尚一層の監視体制で臨んでいる。上がってきた報告に関係を匂わせるものは無かった……。

 となると必然的に手を貸したオスロと昵懇のあった犯罪組織ということに)

 

 JBは持っている情報を照らし合わせて全体像を把握しようと努める。

 

と、その時、タナトスフォンが震えて内容を確認すると目が飛び出そうになった。

 

(別れても生身になっても彼女は彼女ねぇ)

 

 JBの様子に怪訝な顔をする公安の人間に上司と対応を検討する旨を伝えて、その場を後にした。

 

 

 ***

 

 すっかり日が暮れて暗くなった普遍的な繁華街の路上。

 

 有限会社アサヒクリーンの車の中で作業服を纏った雄二は目を閉じて待機していた。

 

 狙撃兵にとって待つことも仕事の内、出番が来ないままに終了することも珍しくない。

 

 しかし今回は違ったようだ。

 

『ユージ、指令よ。これから指定する建物の一室を制圧し監禁されている少女を保護。

尚、その少女の安全を最優先に』

 

 いつも通りにJBからの命令が下り、目を開けて降りてきた情報を確認する。

 

 指定された場所は現在地から三十分も掛からない距離にある繁華街だった。

 

 続いて人質になっている少女の情報も確認、名前は『山科マキ』短い茶髪の左右をリボンで結んでいる人懐っこい印象のパッと見小学生と思ったが……かつての千鶴とのこともあり名前と顔以上の考察は控えた。

 

 程なくして目的地に着き、先についていたユニットと合流し指定されたビルを囲むように展開する。

 

『目標のフロアには確認しただけで監視役は三名、人質の側に常に一人置くローテーションと見ると交代のタイミングで突入するのがベターで成功率が高いわ』

 

 装備していたインカムから一姫もといタナトスの声が響く。

 

 そして暗に言いたいことも察してイレギュラー発生の可能性に備えて他の監視者や見張りがいないか。逃走ルートの見落としは無いかを調べていく。

 

「クリア」

「クリア」

 

 他のユニットから報告が上がり、バックアップも完了の知らせが届いた。

 

 そのまま監視の一人が出て来るのを待ち、一分が途轍もなく長い緊張感が走る中でその時が来た。

 

『突入!』

 

 JBの号令と共に監視の一人を取り押さえ透かさず室内に入る。

 

 交代で気が緩みテレビを見ていたもう一人の監視が慌てて銃を抜こうとするが、撃つ前に取り押さえられる。

 

「動くな!」

 

 そのまま奥の部屋に突入、ベッドの上で震えているマキを視界に納めながら最後の一人が銃を発砲。

 

「いやーー!!」

 

 耳を押さえ震えながら悲鳴を上げるマキの背後に回ろうとするのを見て雄二は声を発す。

 

「そのまま耳を塞いでろ!」

 

「――――!!」

 

 雄二は天上に銃を撃ち電灯を破壊、マキが声にならない悲鳴を上げて縮こまる瞬間を目に焼き付ける。

 

 突然の暗闇に最後の一人の動きが鈍り、それでもマキの震えると息を頼りに近づき盾にしようと手を伸ばすが、何者かに力強く掴まれそのまま床に組み敷かれた。

 

「クリア」

 

 雄二が言うとユニットが付けたライトで明かりが確保される。

 

 目が慣れる時間も皆無であり暗視ゴーグルもなく迷う事無く人質の少女の元に辿り着き助け出した。

 この離れ業に取り押さえられた犯人も駆けつけた同僚(ユニット)も驚きを隠せなかった。

 

 視力と想像力を用いて見えない物を見る心眼。

 師と姉のそれぞれから学んだ技術で編み出した技。

 かつては橘千鶴を救い普通の高校に通う一端を担い、因縁の相手オスロを逮捕する際に用いた技だった。

 

 身柄の拘束を代わり立ち上がると震えているマキに声を掛ける。

 

「山科マキちゃんかな?もう大丈夫だ。さ、俺の肩に捕まって」

 

「………………」

 

 余程恐い思いをし続けた所為か怯えは止まらないまま雄二に抱かかえられる。

 

 震える背中をやさしく撫でながら、その場を後にした……そのまま然るべき所に送り届けようと車に乗ろうとしたとき、遠方で見ている加藤恵の姿が視界に映った。

 

 心なしか〝お疲れ様〟と言っている気がしてなんとも面映い気持ちになり、心の中で〝恵もな〟と呟くのだった。

 

 

 ***

 

 

 雄二が行ってしまうのを見送りながらいつも通りにスマフォを弄ろうすると前触れもなく声が響いた。

 

『いつまでもそうしてたら補導されるわよ』

 

「じゃあタクシーでも呼んでもらえませんか。お義姉さん(・・・・・)

 

 全く同じ声なれども感じ入る微妙なニュアンスの違いから、話している相手がタナトスでなく一姫であると直感する。

 

 この場に倫也や天音がいたら間に入って止めようとするだろうが、生憎と二人きりな状況であり奇妙な対決シーンのようだった。

 

『もう帰っていいと指示したのに、どの口がそんな事を言うのかしら』

 

「だって気になるじゃないですか。小さな女の子が監禁されてるなんて」

 

『貴女みたいな素人が出しゃばたって足手まといよ』

 

「解ってますよ。わたしは雄二くんみたいに訓練を積んだ訳でも安芸くんや天音さんみたいに命を懸けてもなんて切実な想いを持ってる訳でも神様みたいな才能だってないですから」

 

 キッパリ言い切る一姫に弁えていると即答する。

 

 そもそも今回、恵に課せられた役割も山科の妻が入院している病院に行って院内を指示されたとおりに歩くだけだった。

 

 娘が監禁されている以上、妻にも監視の目が付いている可能性があるものの確証が無いために正規の命令は出せない。

 

 タナトスシステムで防犯カメラを除き見てもプライバシー問題があって全てを見る事は出来ない。

 

 よってうろついても余り印象の残らない恵に確かめに行かせた。

 

 杞憂で終わるのがベストだったが、要所要所でタナトスフォンでの会話を装いながらデータベースにかけた結果、犯罪組織の一員がヒットし、それとなく待合室の患者に聞いてみると一般の見舞いを装って通っていたようだった。

 

 これが最悪の可能性を補強し、恵をその場から直ぐに立ち去らせた。

 

 定期連絡の通話電波からタナトスシステムで携帯端末をハッキングさせてアジトと人質の所在を特定し完全に立証した。

 

 あとは待機させていた雄二たちに強襲させ人質を救出、保護するように命令を出した。

 

「それにしても、これは緊急事態だから仕方ないにしても……この手の反則技は使わないようにとのことだったんじゃ?」

 

『あら目撃者や関係者の証言を優れた技術で裏付けを取って事実を立証する。

これが一番じゃない。貴女の足を使ったのもそうだし、折角ある物をわざわざ頭を硬くして使わないなんてそれこそ愚かよ。

 何より今回は当人の許可は取っているし、弁明の立つ状況も揃えた』

 

「終わり良ければ全て良しですか?」

 

『危機に陥ってた子供を助け、不当に傷つけられた女性とその家族の無念に片を付け、傍迷惑な連中の息の根を止める。私としては充分よ。

 正義なんて掲げる気は無いし、必要悪だなんて開き直る気もない、あとは各々がどう思うかよ』

 

 結局の所、一姫にとっては仕事でしかない。

 

 しかし、恵にはそれだけでない何か――個人的な思惑、要するに私情が絡んでいるようだと心が言っており、その答えがどうしても知りたかった。

 

「う~ん。こっちに何も無いとすると安芸くんたちの方かなぁ……やっぱり、今のままにはしておけませんか?」

 

『ええ、今度は失敗しないわ』

 

「…………」

 

 あっさり認めたのもそうだが、一姫の口から失敗なんて言葉が出たことに一瞬、言葉を失ってしまった。

 

 そんな恵の今の表情はポカンとしており、電話口から小さくクスクスとした笑いを響かせながら、

 

『前にも言ったでしょう。私は神様じゃない、失敗だってする。

 でも失敗を失敗で終わらせたりしない、それを天才と言うのよ』

 

 自慢するような〝してやったり〟と言うようなニュアンスで締めて通話を切った。

 

 恵はどうにも釈然としない心持ちにされたような面白くない面持ちでタナトスフォンを睨むが、丸で見計らったようにタクシーが到着しモヤモヤした気持ちを抱えながら乗り込み、家に帰った。

 

 

 ***

 

 

 

「ありがとう……とでも言えばいいのかしら?」

 

 倫也から報告を聞いた由美子は乾いた声で言った。

 

 あれから説得を続けようと試みようとしたものの拗れてしまった血縁関係を容易にどうにか出来るはずもなく、自分たちの側の利益の為と言う免罪符では弱いのも解りきっている為に事の核心に入れる状況になるまで側について待つしかなかった。

 

 そこから先は長かった。

 

 事態の推移を逐一、確かめ帰ろうとする由美子を引きとめ、逆に自分の心配事を気にしろと叩きつけられ先延ばしも視野に入れ始めたときに解決に向けての一報が入った。

 

 娘の保護を伝えたことで山科は教団幹部に逃亡資金を移す海外口座と引き出す為の委任状を渡したことを始め全てを証言した。

 

 すぐさま組織的犯行による未成年者略取で令状を取り、来日している他の組織の人間を逮捕。

 余罪追求の形で教団幹部との資金の一部を譲渡することで海外逃亡協力の密約書を押さえ、テロ資金提供処罰法で逮捕状を取り一斉に逮捕に向った。

 

 その情報を誰よりも早く依頼主である榊道昭、娘の由美子に告げ一姫たちの任務(・・)は完了した。

 

 

「いえ、まだ終わってませんから」

 

「わたしたち家族の仲介はそっちの仕事じゃないんじゃなかった?」

 

「ええ、だからこれは俺個人が勝手にやってることです」

 

「わたしに一目惚れした……は無いわね。好きな娘のために物凄く焦ってたし」

 

「はい。それも問題なくなりましたから」

 

 心底、安心した表情で答えられ由美子は毒気を抜かれる。

 

「だから今度はわたしの番とか?大きなお節介は結構よ」

 

 何処までも意固地になっている姿を見据えながら息を整える。

 

(風見だったら正面から向き合って全部受け止めちまうんだろうな)

 

 倫也はそう思いながら、美佐子の自我を取り戻す過程で聴いた親子関係を思い出す。

 

 榊の家を継ぐに不適格な女子として生まれ母と共に邪魔者扱いされたものの、愛人が生んだ弟が病死し一転、後継者として徹底して自我を殺し、自分の命令に従い思い通りに動き東浜グループを大きくする為の人形になるよう仕立てられた。

 

 だが由美子は親に楯突き家出を決意、それを咎めた母親に、

 

「こんな家もそれにいいなりになるお母さんもみんな無くなっちゃえばいいのよ!!」

 

 と飛び出してしまった。世間体を気にして表向きには寮のある学園に行くとなり以後は音信不通。

 

 愛人の存在で自棄になりかけ、歪んだ形とは言えやっと認められていた美佐子は宗教に救いを求めてのめりこんで行き結果、今回の事件にあった。

 

 事件を知り、母親と交わした最後の言葉に何を思ったか――自分があんな事をいったから、あの時に自分さえ我慢していたなら――。

 

 そんな気持ちは倫也には痛いほどよく解り、それ故の采配なのだろう。

 

 一姫の意図を感じながら意を決する。

 

「まだ終わってない。俺が分かるのはそれだけです」

 

「だから、それは余計な――――」

 

「榊由美子の物語はまだ終わってません」

 

「……物語?」

 

 倫也から出てきた突拍子もない言葉に面食らう。

 

「嫌いなのはご両親じゃなくて、榊って家じゃないんですか?」

 

「馬鹿にしてるの、それとも面白がってるの?」

 

 由美子は不愉快な声で凄む。

 

 だが流さずに怒りを抱いたことは、それだけ彼女の中で大切であることの証明でもある。

 

 由美子にとってはまだ過去でないならば、まだ間に合う。

 

「俺は少し前までゲームやラノベが好きなオタクでした。

 でもたった一人の女性を助け出させる為に、それまでの全てを壊さざる得なかった……その人の為に全てを…………と言ってもまだ引き摺ってるのも思い知らされて情けない限り」

 

 由美子の脳裏に病院前の遣り取りが思い出される。

 

 詳しい経緯は知らないまでも好きな人のための焦りを裏切りと断じられ踏み止まらせられた。

 

「俺は地獄に叩き起こされた……それを乗り越える道に面白いなんて感情が入る余地はなかった。

悲劇のヒロインなんてなるもんじゃないですよ」

 

 泣きたくても泣けない、苦しくて恐くて許せなくて、そんな思いを抱えさせられたのを思い出す。

 そして一転、まだ間に合うのに立ち止まっている彼女に目を指差しながら暑苦しく迫る。

 

 

「貴女はまだ帰れますよ。帰れる場所があるのを俺はこの目で見ました……これが見間違いであるなら目をくり貫いて貰っても文句はありません」

 

「いや……そこまでして貰わなくても」

 

 流石にドン引きしそうになるが、全ての本心を語ってくれた相手に無碍にするほど薄情にはなれなかった。

 

 由美子は一歩下がり、溜息をつく。

 

「分かったわ……騙されたと思ってあげましょう」

 

 全ては勢いに押されたから、そんな与えられミエミエの建前を心の中で呟きながら由美子は恵から渡されたカードを取り出し母親の待つ部屋へと向って行った。

 

 それを病院に備え付けられた監視カメラを通して見ていた一姫も微笑みながら席を立った。

 




 次で終わらせます。
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