グリザイアに射す陽光   作:a0o

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 今回、風見雄二は少々偉そうな事を言います。





転機

 

 

 時は流れ、7月下旬の終業式。夏の制服に身を包む学生達はこれから始まる夏休みに思いを馳せる帰宅につく。

 

 それは『豊ヶ崎三大有名人』も例外でなく、華やかな容姿で『ごきげんよう』と挨拶しながら真っ直ぐ自宅に向う、澤村・スペンサー・英梨々と文庫本を片手に周りの方から開けて出来た道を堂々と(畏怖を纏い)闊歩する霞ヶ丘詩羽、最後に学園長室で封筒を受け取りやや遅れてやって来た安芸倫也も待っていた風見雄二と加藤恵と合流し校門を出た。

 

 しかし、その三人の胸中は夏コミとラノベの新作と言うオタク関連の事に締められた『豊ヶ崎二大美女』と期末でこれまでにない成績を叩き出し学園長に何かを了承させた〝暑苦しいオタク〟とそのイメージから全く正反対のものを抱えていた。

 

「安芸くんは、今年は夏期講習に参加するの?」

 

 恵は封筒を鞄に入れる倫也にそれとなく質問する。

 

「いや、そんな暇はなくてな。色々(・・)とハードな夏になるだろうから」

 

「いよいよ探してた女に会いに行くのか?」

 

 雄二が目を細めながらの問いに首を横に振る。

 

「これから直ぐに叔母さんの所に行かなきゃいけないんだ。だからそれが済んでからだ」

 

 そして、その後に訪れるだろう事に一同の空気が若干重くなる。

 

「そうか。気を付けろよ」

 

 雄二は無難な返事でお茶を濁し、少し歩いてから倫也と分かれた。

 

「いよいよ、その時が来るってことかな?」

 

 そして、それまで無言だった恵は駅に向う倫也に手を振りながら語りかける。

 

「全部が全部を話してくれるかどうかは分からないがな。

それで、お前たちは一体いつまで見ているつもりなんだ」

 

 雄二の言葉につられて視線を向けると、いかにもチャラいといった感じで茶髪のふわふわパーマをした同年代の少年と小柄ながらも出るところは出ているお団子ツインテールの中学生ほどの少女が居た。

 

「さっきからずっと俺たち・・いや倫也を見ているようだったが?」

 

「何かの達人なのかい君は?」

 

 少年の方が少々驚いた様子で足を進め少女も続く。

 

「それと、其方の二人もな」

 

 雄二が全く別方向に目を向け例によってつられると、そこには帰宅したと思われた英梨々が少年達から視線を外すように、詩羽がバツの悪い顔で立っており、近づいて来た少年が苦笑しながら呟く。

 

「達人と言うより殺し屋みたいだね」

 

「実はそうなんだ。と言ったら信じるか?」

 

「笑えないよ」

 

「そうか。まぁ、立ち話もなんだし店・・・いや俺の部屋にでも来るか?ウーロン茶ぐらいならあるぞ」

 

「そこの彼を伸して私達をレイプ・・・・・いえ、なんでもないわ。行きましょう」

 

 詩羽が雄二の提案に茶々を入れようとするが側に居た恵の視線が刺さり直ぐさまに了承する。

 

 

***

 

 

 安芸家から目と鼻の先に近いマンションの一室。

 そこに集まった男女六人は物が少ないワンルームでそれぞれのペアと四角いテーブルを囲む。尚、テーブルには人数分のコップにウーロン茶が出されていたが誰も手を付けない。

 

「それにしてもホントに物がないわね」

 

「ちなみに今の倫也の部屋も似たようなものだぞ。主だったものは全部売り払ってしまったからな」

 

 詩羽の感想に雄二は話の核を織り交ぜて返答する。

 

「取り敢えず自己紹介しよう。僕は波島伊織、倫也君とは一時期同じ中学で、今はこう言う者です」

 

 伊織と名乗った少年は『rouge en rouge代表』と記された名刺を出す。

 

「rouge en rougeって紅坂朱音が創設した」

 

 名詞を受け取った英梨々は驚愕し、詩羽はまじまじと見つめ、業界に明るくない雄二と恵は何の反応も示さず眺めていた。

 

「あ、わたしは波島出海って言います。倫也先輩とはまだこっちに居る頃に『リトラプ』ってゲームを切欠に知り合って、それ以来お世話になってました」

 

「純粋無垢な女の子に乙女ゲームを進めるなんて、流石は倫理くん」

 

 詩羽の感想と呼称に目を細めながら今度は雄二が口を開く。

 

「俺は風見雄二、見ての通り倫也とはご近所さんで同級生だ。春先に知り合ってなし崩しに近い形で一緒に居る」

 

「あ、わたしは加藤恵です。風見くん同様に安芸くんとは春に知り合いました」

 

「私は霞ヶ丘詩羽・・・・・倫也君とは丁度一年前から年末まで付き合ってたわ」

 

「なんで元カノみたいな言いまわしなのよ!」

 

 詩羽の弁に英梨々が猛烈に噛み付く。

 

「と言う事は貴女が『霞詩子』先生ですか。お会いできて光栄です」

 

 それを無視して伊織が握手を求めるも詩羽は取り合わず肩を竦める。

 

「それにしても『柏木エリ』だけじゃなく『霞詩子』まで発掘するとは流石は僕が見込んだ倫也君だ」

 

 伊織の言い回しに奇妙な危うさを感じる女性陣だが雄二は最初に出てきた単語が引っ掛かっていた。

 

「柏木エリ?」

 

「彼女の同人作家としてのペンネーム。知らなかったのかい?」

 

「ああ全然。まぁ、澤村の自己紹介は必要無さそうだな」

 

 英梨々は不満一杯の顔になるも雄二には噛み付かず大人しくする。初対面時の苦手意識は未だに健在のようだ。代わりに伊織に矛先を向ける。

 

「アンタ・・・あたしのこと知ってたの?」

 

「色々とコネがあるんでね、それなりに耳はいいんだ。

 だから倫也君がオタクを辞めたって噂を聞いたときは、そりゃもう驚いたよ」

 

「わたしもビックリしました。お兄ちゃんがやっていた事も含めて」

 

「出海、今は僕の事はどうでもいいだろ。それより聞きたいのは風見君と加藤さん」

 

 出海の抗議をかわして雄二と恵に視線を向ける。

 

「柏木エリの名前さえ知らなかったってことは、君達はオタクじゃない・・・・と言うか倫也君がオタクを辞めた後の友達なのかい?」

 

「正確には俺が切欠でオタクを辞めたんだろうな。ちなみに彼女達(そこの二人)とはオタクを辞めるのに手を貸してたときに知り合った」

 

「どういうことですか?!アナタが倫也先輩を!!」

 

 雄二の言葉に出海が迫ってくるが(何故か)恵が障害物の様な位置に居るので一旦引く。

 

「まぁ、俺も澤村から話を聞かなければ気付く事はなかったんだがな。詳しいことはまだ解らないが、もう直ぐ話してくれるはずだ。知りたければその後で霞ヶ丘から聞けばいい」

 

「なんで彼女からなんだい?」

 

 伊織は恵と詩羽を交互に見て不安そうな顔をする。

 

「霞ヶ丘には少々非礼を働いてしまったからな、その侘びだ」

 

(先輩を呼び捨てにするのは無礼じゃないのかしら)

 

 当の詩羽は心に思うが口に出せば余計なことを知られる可能性も同時に浮かび口を閉ざす。

 そんな心情も知らず雄二は詩羽に目を向ける。

 

「それとも〝あの後〟からえらく静かだったし、もうそんな必要もないか?」

 

「いいえ、お願いするわ。今後のモチベーションにも関わるし」

 

「モチベーション・・・つかぬ事を聞くが今一体何をしてるんだ?」

 

「私は作家よ。やる事は一つしかないでしょう」

 

 詩羽は(大きな)胸を張るように宣言し、透かさずに英梨々が続くようにしゃしゃりで出る。

 

「あ、あたしだって、倫也の心を掴んで放さない最高の絵を―――――」

 

 その演説の如き決意表明は力強くはあったが。

 

「風見くんの予見通りに斜め上の方向に行っちゃった見たいだね」

 

 恵の感想に雄二は頬杖を尽きながら呆れたように口を開く。

 

「気持ちの整理をつけて、ちゃんと話し合うって言う風に行って欲しかったんだがな」

 

「・・・・・それで駄目だったら?」

 

 出海が胡乱な目で尋ねる。

 

「諦めればいいんじゃないか」

 

 その返しに今度は伊織が口を出す。

 

「君は諦めが肝心とか言うタイプかい?」

 

「俺は諦める事が悪い事だとは思わない。諦めたフリしてズルズルと引き摺っているのが悪いこと・・・・とまぁ偉そうな事を言ってみたが、俺も今は新しい道を探している最中でな。だから、俺も倫也と話しがしたい・・・・ひょっとしたらそんな同意が欲しかったのかもしれないな」

 

 意見を言いながらも己を分析し、今は詩羽と英梨々の決断も尊重し見守るべきと結論付ける。

 そんな雄二の態度に伊織は圧倒され気味の顔で恵に言う。

 

「加藤さんだっけ、君の彼氏って良くも悪くも物凄いね」

 

「ハハハハハハ・・」

 

 以前、全く同じ事を詩羽から言われただけに最早笑うしかなく、創作者(クリエーター)として盛り上がっている二人を見守るしかなかった。

 

 そして伊織はその二人の創作者に真剣な顔で声を掛ける。

 

「あー、柏木エリ先生、霞詩子先生、盛り上がってる二人にrouge en rouge代表としてお話しがあります。二人の目的に僕も一枚噛ませて頂きたい」

 

 その言葉に二人ともう一人いた創作者が注目する。

 

「今度の冬コミにギャルゲーを作る企画があり、それにお二方にぜひ参加して頂きたい。

 そのゲームで僕は伝説を創りたいと思っている・・・・・倫也君にもオタクの心が全く残ってないとも思えない・・・彼の心を取り戻すために僕を利用してみないかい?」

 

 伊織の言葉を勘ぐれば彼の野望の為に倫也をダシに使おうとしているとも取れるが、その言葉には本心で言っていると言う(奇妙な)確信があった。

 しかし、詩羽と英梨々の二人にはそんな疑念ある確信よりも、倫也(おとこ)を取り戻す為の思いを明快に形に出来る道筋の方が、遥かに魅力があり紅坂朱音が作ったrouge en rougeと言う裏付けも手伝い迷う余地がなかった。

 

「いいわ。受けるわ」

「受けて上げるわ、その誘惑」

 

 ほぼ同時に宣言する詩羽と英梨々に一拍子置いて、もう一人の創作者波島出海が声を上げる。

 

「それ、わたしも入れてください!倫也先輩を取り戻す為なら何でもします!!だから!!!」

 

 出海の決意に満ちた目に伊織は溜息を尽きながらも目を合わせる。

 

「・・・・・出来れば出海には、もう少し今のままでいて欲しかったけど、本当に良いのかい?」

 

「はい!!」

 

「わかった。じゃあ、取り敢えず第二原画として働いてもらう。妹だからって甘くしないよ」

 

「望むところです」

 

 即答で返す兄妹のやり取りを詩羽と英梨々は真剣な顔で見ており、そして更に外側ではいつの間にか蚊帳の外に置かれてしまった雄二と恵は呆然とした目で見ていた。

 

「・・・・美しい兄妹愛とは何か違うな。霞ヶ丘と澤村(あの二人)にしても間違ってはいないだろうが何か釈然としないな」

 

「風見くん、もうわたしたちの手に負える範囲じゃないよ。わたしたちはわたしたちのやり方で安芸くんと話そう。あちらはもう見守るしかないよ・・・・・」

 

「望めるなら、穏やかに済んでもらいたいな」

 

 雄二の声に内心で同意しながら目に映る新作ゲーム作りに熱を上げる一団は、これからのスケジュールや詳しい企画に関する話をしていき、その話し合いは日暮れ近くまで続いた。

 

 丁度その頃、用事を済ませた倫也はそんな事が行われているとは全く知らないままに風見雄二のマンションを一瞬眺め帰宅し学園長から貰った物とは別の封筒から中の書類を取り出す。

 

「いよいよか・・・」

 

 そこには『周防天音に関する報告書』と題され、彼女の現住所である京都にある母方の実家や現在の彼女の写真が載せられていた。

 

「あの時はひ弱なイメージだったのに、随分と健康的に育ったな。これは手土産も考え直さないといけないかな」

 

 先日の堀内奏同様、手ぶらで訪ねる訳にも行かないので予想よりも浮いた金で何か失礼のない物をと考えながら百貨店などのホームページを閲覧し、同時に京都までの切符代や訪ねていくまでの道のり、更には会った時の覚悟を固める為に只管にイメージを繰り返す。

 

「ハァ、ハァ、ハァ」

 

 動悸が襲い目眩が襲いそうになるが、残してある意味不明な携帯メールを呼び出して意識を保つ。

 

「やらなくちゃ・・・これは俺が乗り越えなきゃいけない・・壁なんだ」

 

 呼吸を整え落ち着いた倫也は〝彼女〟への宣誓を再認識し就寝した。

 

 

 




 色々と苦しめてます。

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