翌日、夏休みの朝方の風見雄二の部屋に
「呼んだのは澤村さんだけなのに、どうして貴女がここに居るのかしら・・・加藤さん?」
詩羽の問いに恵は淡々と答える。
「この部屋に住んでいる人に頼んでいたからです。わたしも力になるって」
「・・・・・・・・」
この場に居ない風見雄二を引き合いに出され、詩羽は何も言えず一方の英梨々の方もそわそわしながらテーブルに置かれていた機械と安芸家の方向を見ており、これから始まる事に三者三様で緊張していた。
そして、時間にして数分(体感ではその何倍もの長時間)を経て機械からオンスイッチの音がはしり全員が耳を傾けた。
***
同時刻、安芸倫也の部屋では冷たいジュースが置かれたテーブルを挟んで風見雄二が胡坐をかき、倫也が真剣な表情で正座していた。
「で、話しとは一体何なんだ?」
雄二の切り出しに倫也が拳を握りしめながら口を開く。
「私立滝園学園、1年A組、バスケ部所属、風見一姫」
「俺の姉だな」
「6年前の女子バスケ部の夏合宿の帰り道、彼女達バスケ部員と顧問の先生が姿を消した・・・俗に言う滝園学園マイ――――――――」
「講釈はいい。さっさと本題に入れ、姉・・一姫が死んだあの事故とお前がどう繋がってるんだ?」
雄二は淡々とした態度で驚く様子もなく、倫也は予想外の反応と展開に面食らうも改めて仕切り直す。
「ただ一人生き残った女子生徒は畑でキャベツを貪り食っている所を農家の主婦に発見された。その様は〝不気味な生き物が作物を荒らしてるって〟形相で駆け込んできて、武器を持った亭主と現場に行って・・・・もう少し暗い時間帯なら危うく撃ち殺されていたかも知れなかったな」
「・・・・見てきたようだな?」
「見てきたんだよ。この目で」
話しが核心に入り場の緊張が増す。
「あの日、あの時、俺は一族の恒例で母方の実家に行っていて・・・・・近所に住んでたその農家の夫婦とも仲が良かった・・・あの事故の時・・・・・俺は・・お前のお姉さん達の・・・・直ぐ近くに居た」
「・・・・・・・・それで?」
倫也は責めず問い詰めない態度に困惑し、雄二は真剣な目で言う。
「事故現場の近くに居た。それだけ言う為に今まで掛かった訳じゃあるまい・・・そんな理由で責任感じるのも責めるのもお門違いだろ。まだ、話さなきゃいけないことがあるんだろう?」
「・・・・昔の話だ」
倫也は目を瞑り、そう切り出す。
「祖父母の実家に遊びに来ていた二人の子供が居た。遊び盛りの年頃で野原を駆け回ったり、裏山で探検したりと色々な事をしてはしゃぎ回っていた。
そんなある日、山に入った二人ははぐれて迷子になってしまった。辺りはすっかり日が暮れ獣の声が鳴り響き、本当に怖い思いをして震えていた・・・・そうしている内に子供達二人は合流するも片割れは足を怪我していて、オンブしながらなんとか無事に下山したんだ」
「昔話なら『めでたし、めでたし』なんだろうな」
「実際は二人が居なくなって大騒ぎして探し回っていた大人達にこっ酷く叱られた。それこそ一晩中な・・・・・そして、その事が切欠でもう二度とこんな事が起きないようにと、その山と以前から危険だって議論されていた周辺に規制をしく事が提案されて、しばらくして行政からの正式な認可が下りた」
「・・・・おい、ちょっと待て」
「おかしいと思わなかった?確かに現場は予定に無いルートで見つかりにくい場所だし連絡手段もない。でも科学が発展した現代であそこまで悲惨な状況になるまで発見できなかったなんて・・・・・顧問が地元の人間で当然、規制の事を知っていた・・・・その事も盲点を生んだ要因だっただろうな」
倫也の告白に雄二は今度こそ驚愕の表情を浮かべた。
「俺たちの・・・・悪ふざけで・・・何より、旧道の近くなら・・俺なら見つけられたかもしれない・・・・・」
言葉を絞りながら倫也は床に手を着き深々と頭を下げる。
「風見雄二・・・君のお姉さん・・助けてあげならなくて、本当にすまなかった・・・・」
***
風見雄二の部屋で機械越しに話を聞いていた三人の女子達、その場には重い空気が漂っていた。
そんな中、澤村・スペンサー・英梨々が口を開いた。
「あたし、馬鹿だった」
そんな英梨々に普段の霞ヶ丘詩羽なら『何を今更』とからかうだろうが、現状でそんな気分になれるはずも無く同じく重い口調で続けた。
「倫也君と風見君、あの二人の間にここまで重い接点があったなんて想像できないわよ・・・・ただ、それでも悔しいいな・・・一人で苦しんでないで話して欲しかったわ」
「風見一姫の話しが出た時にもっとちゃんと話を聞いてあげれば・・・」
「出来る訳ないじゃないですか」
その言葉に加藤恵は即答し、詩羽と英梨々が注目する。
「安芸くんは二人が大切だったから・・・こんな途方も無い物を背負わせるぐらいなら、泣かれようが怨まれようが、遠ざけた方が良い・・・・そう思い抜いて決心したんですよ。
その位、解ってあげてくださいよ」
恵の口調は静かなれど怒気が含まれており『安芸倫也』を理解しているのは彼女であると言う事実に新たな悔しさと悲しみを感じていた。
そんな彼女達に構わず恵は機械のスイッチを切った。
「これ以上は聞いちゃいけません」
恵の言い分には異存は無いが、何処と無く面白くない詩羽は素っ気無く口を開く。
「風見君の事でもあるのに、本当にいいの?」
「彼の為に何かしたい気持ちはあります。でも・・・聞いたって、わたしには・・・・・安芸くんと違ってわたしが彼にして上げられること無いですから」
顔を伏せながら黒い雰囲気を込めていくも詩羽は引く姿勢は見せず問いかける。
「・・・・あなたに安芸倫也の何が解るというの?」
「
その返答に詩羽は悔しさと悲しみに苛立ちと怒りが加わり勢いよく立ち上がる。
「どうしたんですか?」
恵の普通なれど黒い物を込めた言葉に詩羽は背を向け気持ちを抑えながら応じる。
「私はクリエーターよ。戻って文章を書くしかないでしょう」
その返答に英梨々も立ち上がるが足がすくんでしまい、横目で見ていた詩羽は手を取って半ば強引に連れて部屋を出て行った。
(いつか風見くんが霞ヶ丘先輩は澤村さんの保護者だって言ってたけど、その通りだね)
恵はそう思いながら、更に話を続けているだろう他の二人の居る方角を見た。
***
倫也の頭を下げ震えている姿を目に納めながら、雄二は気持ちを落ち着かせ努めて冷静に言う。
「・・・・・よく話す気になれたな?
と言うか、頭を上げろ。じ・・あの不幸な出来事はお前の責任じゃない」
倫也はゆっくりと頭を上げるも目を閉じたままで、心境を語った。
「恥ずかしい話、風見から『いちひめと書いて一姫』それを聞くまで覚えてすらいなかった・・・いや、聞いた後も実家の近くで事故があった程度の認識だった」
語るにつれ拳を握り震わす姿に雄二は何も言わずに黙って聞く。
「それでも気になって調べて、親戚問い詰めて全てを知ったときはショックなんてものじゃなかった・・・どうしたらいいのか分からなくて、もう耳塞いで蹲ってったら、神様からお告げがあったんだ」
「お告げ?」
「ああ〝座ってないで立ち上がれ、その塞いでいる手を放してこっちに寄越せ〟ってな」
「ビックリするぐらい怪しい話だな」
「ああ、同時にもう一つ思い出したことがあったんだ」
「もう一つ?」
話の流れが変わり沈んでいた場の空気が吹き返す兆しを見せた。
「生き残りの証言から救助隊が現場に行ったとき、俺は現場の近くに居た。その時、ヘリに誰かが運び込まれるのをこの目で見た。でも新聞各紙を見てみても死者は全員事故現場で死んだ、病院に運び込まれたが死亡が確認されたって記述はなかった」
「おい、まさかお前?」
「もしかしたら飛躍しすぎの憶測かもしれないが、風見が俺の前に現れた事と言い、単なる偶然とは思えない。
馬鹿げてるのは百も千も承知だし、こんな事言うのはおこがましいし怒るかもしれないが・・・・頼む、俺にお姉さん、風見一姫を探させてくれないだろうか。この通りだ」
雄二は再び頭を下げる倫也を見ながら冷静に気持ちを整理し考える。
ほんの僅かな時間かも知れないし、ずっと長い間かもしれない沈黙の後で口を開く。
「まず言っておく、あの出来事はお前の責任じゃないし俺は責める気はない。
ただ、それでもお前が俺たち姉弟の為に人生を犠牲にすると言うのなら、俺は全く嬉しくないし、そんな馬鹿げたことはやめろと言うだろう。そして、それが理解できない奴じゃあるまい?」
雄二の問いに倫也は一切偽らずに答える。
「確かに負い目とかって気持ちが無いって言ったなら嘘になるが、同時に予感があるんだ」
「予感?」
「ああ、この道を行った先には大きな花火にぶち当たるって、その先にとても大きな何かがあると」
「死と隣り合わせかもしれんぞ?」
「正直、直接的な命の危険に晒されたらって考えると怖い。だが、それ以上に行かなければ一生後悔する。その確信はある・・・だから俺は彼女に会いたい・・その先にある舞台に辿り着きたいんだ」
目を開けた倫也にはしっかりとした強い意志が宿っていた。
「倫也の覚悟は理解した。ただ一つだけ条件がある、もしも俺の期待を裏切るような結果になったとしても堂々と伝えに来い」
「裏切るなとは言わないんだ?」
意外な申し出なれども倫也は真剣な態度で聞き返す。
「お前の意思でどうこうなる問題じゃないだろう。いやお前の意思でなる場合であったなら尚更、不貞を働くような真似はするな。
会わせる顔が無い、見たくないなんて虫の良い事を言って、後ろから刺す様な真似はするな。どうせ刺すなら正面から刺せ、俺にどんな顔してそうしているのかを見せろ、そしてお前も刻め、刺した相手の顔をそこにある気持ちを・・・・・そうすれば少しはマシな答えに行き着く・・かも知れない?」
「・・・・・なんとも厳しい、そして強いな、本当に。解った、約束する。絶対に誠意・・・いや信義に反するようなことはしない」
倫也のハッキリとした回答に雄二は改めて仕切り直す。
「ならば、その上で頼みたい。実の所、俺も一姫が死んだ事には疑問だった・・・発見された死体はバラバラで一姫の頭部だけは発見されてないって聞いたからな。
それだけなら希望的観測だが、お前の話で確かな望みを持つことが出来た。だから頼む、一姫を俺の姉ちゃんを助けるのに力を貸してくれ」
「えっ・・・・えっ・・・え・・?!」
責められる覚悟はしていても頼みごとをされる展開は想定していなかったので、困惑を隠しきれず返答に詰まっている所に更に追い討ちが来る。
「それで具体的にどうするんだ?俺は何をすれば良い、全てかどうかは分からないが、それなりに準備は出来ているんだろ?」
「あ・・ああ。ただそれには四、五年は掛かる。風見は今まで通りの生活を送って暮れればいい。準備については―――――」
「長いとまでは言わんが時間を掛ける理由は?」
「う~、風見一姫が望んでるかも知れないから、って言ったら怒るか?」
「いや、そういうことなら納得だ」
「え、いいの?」
「姉ちゃんが望んでるんだろ、だったら俺が言うことは何もない」
余りにもすんなりと受け入れすぎる姿に流石に違和感を覚えるもどう聞くべきか分からず途方にくれる。
そんな倫也に雄二は遠慮なくあっさりとした口調で更に話を進めようとする。
「じゃあ、そろそろ周防天音って人に会わせてくれないか?この家には居ないみたいだが、何処で待たせてるんだ?」
「ああ、俺の実家に居る・・・って、どうして?!」
「どうしてって、その為にずっと探してたんだろ?」
「知ってたのか!?」
「最初からって訳じゃないんだが、色々とな。今日もそれなりに重い話しになると思ってが、流石にここまで嬉しい誤算が待ってるとは思わなかったな。
もしかして逆上して殺そうとするとか考えてたりしたか?」
「あ~、それなりには・・・・」
オズオズと答える倫也に雄二は肩をすくめる。
「なら心配は要らん。彼女にも危害を加えるつもりはないから安心しろ。と言うか、そうなると何か言伝や預かり物があったりするんじゃないか?」
「何もかもお見通しかよ」
そう言って一冊の日記帳を差し出す。
「あの日のことが書いてあるって、当然俺は読んでない。風見雄二にだけって条件で貸してもらった」
「ならこれは移動しながら読ませて貰うとしよう。ってな訳で早く行こう」
「あー、ちょっ、ちょっと待って」
雄二は立ち上がり玄関に向かい、倫也も慌てて追いかけて行った。
雄二は道路を歩きながら携帯で何処かに連絡を取り、タクシーを呼んで駅に向う途中、電車で目的地に着くまでの間に日記を読みふけっており一緒に居た倫也は居心地が悪い心境の中、無言で携帯の画面を見ていたが目的地に着くまで終始何の着信も無かった。
一応、問題になりそうな部分は省略しましたが・・・・不十分でしょうか?