今回はかなりグロイ場面が出てきます。
そうして昼前に駅に着き再びタクシーで倫也の実家に向う。最寄り駅からはそれなりに距離があり、レンタカーを借りてくれば良かったかもしれないと思う雄二の横で倫也はただ只管携帯を握りしめていた。
走ることしばらくして年季の入った家の前でタクシーを降り、周りに広がる田園風景を一望する。
「ここがそうか。この家でも何か作ってたりするのか?」
「ああ、夏みかんとか送ってくれる」
他愛無い受け答えをしながら家の中に案内するとお婆さんが穏やかに出迎えて居間に通され、そこに赤いロングヘアの少女、周防天音が正座して待っていた。
「はじめまして・・・周防天音です」
「ああ、風見雄二だ」
挨拶を交わし雄二は天音の前に向い合うように座り、倫也は祖母を連れ退散しようとする。
「構わないから其処に居ろ」
雄二の言葉に倫也は天音を見てみると彼女も異存は無さそうに頷き、居間の隅に座り話しが始まった。
「ここに来るまでに日記は読ませてもらった」
雄二の切り出しに天音は肩を震わせ、倫也も固唾を呑む。
「まず言って置く、俺はお前の過去に同情するつもりは無い。
お前の過去は後悔なんて生易しいレベルじゃないのは理解している。そんな奴にどんな言葉を掛けてもクソの役にも立たないだろう」
突き放すような物言いに天音は兎に角謝罪しようとする。
「・・・あ・・ごめんな―――――」
「言うな。その言葉、大嫌いなんだ。俺の前では絶対に使うな」
雄二主導の会話に天音は萎縮するばかりで倫也もハラハラしながら見ている。
「なにより俺は謝罪を聞きに来たんじゃない。命や体を差し出すと言われてもハッキリ言って迷惑なだけだ。俺の隣には既に居座っている
その台詞に倫也は髪をポニーテールにした同級生を思い浮かべた。
「けど・・・・それじゃ・・私・・・どうすれば?」
天音は懇願するような目で訴え、雄二は親指で部屋の隅にいる倫也を指す。
「そういう気持ちは全てコイツに預けろ」
「「え・・・?」」
雄二の答えに倫也と天音の声が見事に被った。
「聞いてるかもしれないが、一姫は生きている可能性がある。その一縷の望みに賭けて生きろ、結果が出るまで死んだり居なくなったりする事は絶対に許さない」
「・・・・・駄目だった時は・・?」
雄二は考え込む様に腕を組み、目を閉じて僅かな沈黙の後に目を開いた。
「今考え付くのは一生供養しろくらいだな。まぁ、その時はその時で考える」
「随分適当だな・・・」
倫也のおっかなびっくりな呟きに天音も同様の感想を抱き、そんな二人に思いを述べる。
「今此処に来るまでずっと考えてた。一姫は・・姉は本当に生きているんだろうか?倫也の言う妄想にどれだけ信憑性があるのか?」
雄二の言葉一つ一つに耳を傾け次の言葉を待った。
「で、思い至った。一姫なら不可能じゃない・・・そして助けを求めていると」
「だったら今直ぐにでも――――――」
「それは
だから俺はそれに従う・・・そして、その時が来たら全力で助ける、助けた後は思いっきり泣くってな」
天音の言葉を遮り、
「だから、周防天音。どうにかして欲しいって言うなら、お前はその後で一姫を守る事に力を尽くせ、そしてそれまでは一姫が選んだ
「ああ勿論だ。必ず助けてみせるとは言えないが、それでも最善は尽くす・・・・裏切るような結果になったら――――」
「そこから先は言わなくていい。そうなったら面倒でない限りは虐めてやる、お前たち二人ともな」
そのハッキリ言う態度に風見一姫の姿を朧に重ね天音が苦笑する。
「あははは・・・そういう意地の悪い言い方、やっぱり姉弟なんだね」
「ある意味当たり前だな。俺は親の代わりに一姫の背中を見て育ったような部分もあるかな」
「そっか・・・」
天音は古いメモ用紙を雄二に差し出す。
「これは?」
「一姫が用意してくれた〝密林脱出メモ〟だよ。失敗した時は非常食を隠してある所に行けって」
メモに記された地図を指し意を決して話す。
「私もさ、安芸君から話を聞いたときから・・ずっと考えてた。それでさ、もし一姫が生きているならここにヒントが有るんじゃないかな?だから・・・・・」
「いいのか?」
「うん。その為に来たんだから」
話は纏まり倫也のほうを見ると遠慮がちに口を開いた。
「流石に其処までは遠慮するよ。ただ今は道も整備されるから、そこまでの案内なら」
「充分だ。時間が惜しい早速行こう」
雄二の言葉に天音は用意していた線香とお供え物を持ち、倫也は祖母に断りを入れスコップを借りて家を出る。しばらく歩くと掘っ立て小屋とその隣に山道への入り口が見え、倫也は其処に残り雄二と天音は道を進んでいった。
そして掘っ立て小屋で一人待っていると眼鏡にハンチング帽を被ったおっさんが来て同じく山道に入って行った。
「心霊スポット巡りじゃ無さそうだな。ご遺族の方かな?」
大き目のショルダーバックを持って歩いてく様子は墓参りには見えず何処と無く嫌な予感が込み上げる。
(どうする、山の中じゃ携帯は通じないし追うべきか?)
少しの逡巡の後に倫也は立ち上がり小屋を出た。
***
ある程度は舗装されていたとは言え少々ハードな山道に雄二は天音を助け励ましながら進んでいく。
「あの時も・・・・・もう少し酷くてもいいから道があれば・・・・」
「落ち込むのは用件を全て済ませてからだ」
悲しそうに顔を伏せて道を振り返ろうとする天音に手を引いて先を歩く。
三時間後、慰霊碑の前で手を合わせている天音と直ぐ側で立っている雄二は各々に思いに耽っていた。
「そろそろ行こう。――――伏せろ!!」
雄二はシャベルを担ぎ天音も立ち上がろうとした瞬間、銃声が鳴り響いた。
「くっ・・・!」
雄二は右肩を抑えて膝を着くと背後から猟銃を持ったおっさんが現れる。
「いや~気付かれるとは思いませんでしたね」
「何者だ?」
肩を抑えながらも怯える事無く詰問する雄二を天音が恐れながらも寄り添う。
「何とも麗しい光景ですね。ああ、私は坂下と言います」
『坂下』と言う名に慰霊碑に刻まれた名を見る雄二と天音、その姿を面白そうに見ながら得意げに語り始めた。
「そう、坂下千秋の父です。この度はアナタに復讐・・・いや制裁を加えに来ました」
「制裁だと?」
「はい。千秋はねぇ決して本位で作った子供じゃなかったんですが、いざ生まれてみると可愛くて、可愛くて仕方ない・・・・そんな千秋が突然行方不明になり、しかも八つ裂きになって発見された時の気持ちが想像できますか?」
その語りに天音は顔を伏せ、その間に雄二はその間に打開策に巡らす。
「一時は不幸な出来事だと諦めようとしてたんですけどね・・・・・もう、そこから先は転落人生まっしぐらでしてね・・・・もう何も残っちゃ居ないんですよ」
そこで雄二に目を合わせ銃口向ける。
「そんな行き詰ってどうしようもない時、京都で周防天音を訪ねに来た男がいると元同級生の方から耳にしましてね。しかもその後、この場所に向ったって言うじゃありませんか。だからずっと待ち伏せて、どういう事なのか見定めてたんですよ」
(倫也の事を知ってる訳じゃないようだな。となると人違いだと言って説得するのは無理か)
「いや正確には期待したんですよ。私に代わってこの気持ちを晴らす何かをしてくれるんじゃないかって・・・・けど、他人なんて宛てにするもんじゃありませんね・・・まさか文字通りに救いの手を差し伸べる姿を見せ付けられるなんて!!」
語りながら自棄を起こしている事を悟った雄二は完全に説得を諦め、改めて状況を確認する。
相手は猟銃で武装し此方側は丸腰であり徒手空拳で撃退する選択肢しかないが、右腕は急所を外れているようだが動かすのは厳しく、背後にいる天音を庇いながら戦うのは至難の技だ。せめて注意を逸らして一瞬だけでも弾切れになれば一時退避ぐらいは出来るのだが、相手のイカレ具合からして望みは薄い。
(どうする・・・?)
焦りが増す思考の中――――トン・トン・トーン・トン トン・トーン――――と音が鳴り響く。
「なんだ?!」
興奮している坂下は辺りを見回し発砲した。
「きゃあ!」
天音が悲鳴を上げるも雄二は落ち着いた顔で耳を傾けていた。
そしてある程度音が鳴った時、坂下はとうとう音源を見つけ続け様に発砲、だがそこには其処には録音再生状態の携帯があるだけだった。
「構わん!寄越せ!!」
突然の雄二の叫びに振り向くと、携帯とは懸け離れた場所から倫也が猟銃を投げ渡した。慌てて弾を装填しようと薬莢を抜くが、左手で銃を受け取り怪我した右腕を強引に動かして姿勢を整え連射、弾は右手と左足に命中した。
「がぁあああ!!!」
悶え苦しむ坂下を尻目に倫也は落とした猟銃を回収し、雄二と天音に近寄った。
「二人とも無事か?!」
「なんとかな」
「って言うか、何時から居たの?」
「おっさんの語りの途中、銃声が聞こえたんで慌てて駆けつけたら、豪いピンチになってたんで焦ったよ。」
倫也は一緒に持って来た救急セットから包帯を取り出す。
「それよりも随分と準備がいいな、この銃といい?」
「詳しいことは此処を出てちゃんと手当てが済んでから、警察も呼びに行って貰ってるから・・・しかし、よく利き腕じゃない方で仕留められたね」
「俺は元々左利きだったのを右に直したんだ。まぁ右の方が慣れてはいるんだが、それでも苦じゃない」
解せないと言った顔の雄二に包帯を天音に渡し、坂下に近づき止血作業を開始する。
「ぐぐぐぐぐぐ!!!」
「大人しくしないと出血多量で死ぬよ」
そう言いながら止血と同時に縛り上げ安全を確保、しばらくして作業着姿の中年男性と警官が数名やって来て坂下を連行しようとし、それを見た倫也は声を上げる。
「坂下さん・・・アナタのやった事は許されないことです。生意気は承知ですが、娘さんも望んではいなかったと思います」
その正論に坂下の目が血走る。
「でも、娘さんが死んでしまった事は心からお悔やみ申し上げます。
そして、俺なら・・・・・娘さん達を・・・助けられた・・かもしれない・・・・本当に申し訳ありませんでした」
目を閉じて頭を下げる倫也だが、坂下の興奮は収まる事無く喚きながら連行されて行った。
繰り返しで恐縮ですが、批判などはお手柔らかにお願いします。