ドラゴンネストR短編集   作:ryure

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メインクエ無視話。
時系列:外伝3直後、ミストランド編の手前


友達がいなかった

 それはふとしたタイミングだった。

 

「友達、いないのか?」

 

 それは何気なく言われた言葉だと思う。ルビナートはドラゴンで、人間に近い感性を持っていてもやっぱり人間ではないのだから、悪気どころかただの疑問を口にしただけというところだろう。

 

 ……友達。友達か。

 

 身の回りから考えてみると、小さいジェレイントは友達というよりは弟? 仲間? って感じで友達って柄じゃないみたいだし、今アレンデルにいるエルフのトリアナは……知り合いというとよそよそしいと思うけど、友達という感じじゃない。エルフのシートリーデルとかもそんな感じだ。……アイオナは友達、だったかな。うん、友達だ。

 

 つまりいない訳じゃないけど今はいないってところだろう。アカデミックのカメリナとか、グレーゾーンなら結構いるかもしれない。

 

「アイオナがいますよ」

「……友達、いないんだな」

 

 しみじみと言わなくたって。別に友達がいない訳じゃないってもっとはっきり言うべきなんだろうか。僕は友達がいない悲しいヤツなんじゃなく、単に機会がなくていないだけだっていうのに!

 

 だいたい六十年も前から飛ばされたらいるわけない!ルナリア以外まともに話す相手もいなくてイリュージョンとドンパチやってた僕に何を求めているんだろうか?

 

「その私に似せたイケてる顔があって君は……」

「なんで黄昏てるんです?」

「いやなに、ただ無常を嘆いていただけさ。私のように素晴らしい存在でないとこうも悲しくなるとは……とな」

「失礼な」

 

 だいたい僕にまともに友達がいないっていうのはやむを得ないわけだし、……事実だし、認めても。現状はそんなに酷い訳じゃないぞ。僕の十年後ぐらいの姿だとか抜かすイリュージョンなんてもう、目も当てられないんだし。それに比べたらまともだ、普通だ。

 

 真っ黒くろすけイリュージョンにはなんとか知り合いはいるみたいだけど、ぜんぜんまともな人はいない。イリュージョンが目の赤いうさぎと化してる時点で分かることだけど、本人がおかしいんだ、類は友を呼んでまともな知り合いはいない。それはエレナしかり、カラハンしかりだ。

 

 しかも服装の趣味も悪いし。白目が黒くなってるし。からのフハハ笑い。何言ってるかわからない謎言語。もっとわかりやすく言ってくれ。愚かなとか言いながら、僕を弱いとか言いながら、毎回開幕ピアシングスターで沈むのは何なんだ。控えめに言ってもう駄目かもしれない。

 

 なんてことを考えていると、ヤバイ人代表カラハン並のナルシスドラゴンは何を思ったかやれやれと肩をすくめ、腕を組むと思いついたというようににやりと笑みを浮かべた。

 

 嫌な予感を通り越して最悪だ。絶対ろくなことじゃない。

 

「冒険者どもの所に連れていってやろう。何、心配することはないぞ。私がちゃんと紹介してやるからな」

「それってシアンたちのこと言ってます……?」

「あぁそうだぞ。あいつらとはもう知り合いなんだろ? そこに私の後押しがあれば問題ない」

「問題しかありませんよ! 大体、なんでルビナートが僕を紹介するんです?もう向こうもこっちも分かってるのに」

 

 ひょいと軽々僕の首根っこを掴んでにやにやしたルビナートは何を言ってるんだと言わんばかりのきょとんとした顔で、予想を超える爆弾を投下したのだった。

 

「親が息子の紹介をして何が悪い?」

「一番! 言っちゃいけないこと言う気ですか! この考えなし! ナルシスト! トマト!」

「ははは、面白い事言うじゃないか」

 

 ぐぐぐと目がちっとも笑っていないルビナートに力を込めて持ち上げられ、僕は意識を失った。嗚呼、ほんと、何考えているんだこのケイオス!

 

・・・・

 

 べしゃっと地面に下ろされ、呻きながら目を覚ましたのはレンとかいう名前の冒険者、じゃなかったか。たまに目にする不思議な青年で最近あまり見ていなかった気がしていたけれど。

 

 なかなか顔の整った、ただし中身はごく普通の彼がレッドドラゴンに捕獲されていた経緯がエダンにはイマイチ分からなかった。

 

 集まってくれと言われ、シアンやアンジェリカに声をかけてみんなを集めたらこれだった。首根っこを哀れにも掴まれていたレンは首を痛そうにさすりながら周りを見回して、僕達を見ると……不自然なほどぎょっとした。

 

「なんですか、これ! まだ何も言ってないですよね?!」

 

 悲鳴じみた声でルビナートを恐れる様子もなく文句を言った彼の普通じゃない姿を見て、隣に立っていたシアンが首をひねる。一体、彼はルビナートの、何なのだろう。

 

「これから言うところだ」

「言わなくていいです! ……みんな、お願いだから帰ってくれ! このひと……このドラゴンはちょっといらないお節介をしただけだから!」

「ふむ、私の好意を無駄にするのか?」

「はい!」

「……ははっ」

「意味ありげに笑わないでくれます?!」

 

 必死のレンと、にやにやするルビナート。なんだか哀れなレンはこれから僕達になにかを暴露されるみたいだ。でも……アイオナの力を受け取った者は集まれ、と言われるほど重要なことなんだろうか。可哀想なレンの為にここはさっさと帰るべき、かもしれない。

 

 するとルビナートは僕の心を見透かしたようにレンの頭をわしゃわしゃと掻き混ぜて言った。

 

「このレンもアイオナの加護を受けている。知っていたか?」

「そうなの?」

 

 知らなかったわ、と驚いたアンジェリカが声をあげる。確かにまだ加護を受けた人がいるとは思っていなかった。

 

 これは別に……レンがミストランドに行きたくないというならともかくみんなが知っておくべきだった。アイオナの加護を受けている以上、行きたくないというわけでもなさそうだったが。

 

「そうだ。だからまぁ役にも立つだろう。だが友達らしい友達がアイオナ以外いなかったとか言うんでな、友達……なってやってくれないか?愚息だが」

「友達もなにも仲間なら……。……は?」

「レンはもう俺の友達だろ? ……ん?」

「えぇ……息子?」

 

 嗚呼、僕達の困惑した声を聞いたレンがぐったりと地面に伏せてしまった。なるほど、言われたくなかったのは、これなのか。

 

 記憶を掘り返しルビナートの息子、それに該当するのは、あのルナリアと共に過ごし、何度もルナリアの前で死んでしまったあの少年しかいないのだ。……言われてみれば、あの少年にレンはよく似ていた。性格があまりにも普通で、ただの人間にしか思えなかったし、あんなナルシストではなかったから今まで気付けなかった。

 

 つまり、このレンはルビナートが再生したビヨンドということになる。それ以外に息子がいるなら話は別だが、そうでもなさそうだ。

 

 ルビナートは前に「自分がビヨンドだという事実を聞きショックを受けていた」と言っていた。だから自分の知らなかったのは確かだろうが……。

 

 いやいやいや、アイオナにしてもルビナートにしても、ビヨンドにミストランドに行ってこいと言うんだろうか?……あぁ、もう言ったのか。そしてレンはそれを受け入れた、と。頭が痛い。

 

「ああ……終わった……親父……骨は拾っといてください……せめて……それぐらいの責任は負ってください……アイオナごめん僕はもうダメだ……」

「父と呼ぶなと言っただろう?」

「痛い痛い痛い痛い痛いッ! 理不尽過ぎます!」

 

 ゴンと鈍い音を立てた拳骨を落とされたレンは再び地面に沈んで痛みにのたうち回り、その様子を真剣な顔で眺めていたシアンはしゃがみこんでレンに話しかけようとした。

 

 それを咄嗟に止めようとしたアンジェリカがシアンにあいつ、別に危険じゃないだろと言われて押し黙る。……アンジェリカが止めていなかったら止めていたのは僕かもしれなかった。

 

「なぁ、レン」

「……何だい」

「俺は友達だって思ってたんだけどなぁ」

「……!」

「別にレンは危険なやつじゃないって知ってる。アイオナが力を託すっていうなら大丈夫、だろ? 気にするなって!」

 

 バンと背中を強く叩かれ、レンはけほけほ咳き込みながらシアンを見上げた。こっちからは見えないが、シアンはきっと輝く太陽のような笑顔を向けているはずだった。

 

「なんだ、余計なおせっかいだったか」

「最初からそう言ってたじゃないですか!」

「ふむ? じゃあ何故ランクロウは嬉しそうなんだ?」

「……わざわざランクロウと言わないで下さい」

「わがままだな。ふむ……何故レンは嬉しそうなんだ?」

「さて、言いませんよそんな分かりきったこと」

 

 そしてシアンが躊躇なく差し伸べた手をレンが取る。正面からこっちを怯えず見てきたレンはなるほど、ルビナートに似ている気がした。ルビナートが私に似てイケてるだろとか言ったのを、シャルロットがぶんぶん首を縦に振って同意した。

 

 ……彼女はシアンとは別の意味ですんなりレンを受け入れたみたいだ。らしいといえばらしい。レン自身は決して悪人ではないのだし。

 

「受け入れてくれとは言わないぞ? ただまぁ、知ったからには一応警戒しておいてくれ。イリュージョン……元第四使徒が出てくるかもしれないし」

「……レン、あなたはテレジアを持って言うのですか?」

「トリアナみたいにないよ。僕は『使命すらない不完全なドラゴン』だしね。ただ僕だったものがやらかしたことぐらいちゃんと正したいって思うのが普通じゃないか?」

 

 彼は苦笑する。そんな彼の手を握ったのはカメリナだった。物言いたげに、だけど何も言わずに彼女はレンの手を取る。にっこり綺麗に笑って見せたレンは彼女に小声でありがとうと言った。

 

 女神は彼を許すのだろうか。いや、何も知らないで再生された彼は自分の正体すら覚えていなかったのだ。そもそもそれが彼の罪になると考えるのもおかしいことだ。

 

 女神の与えた険しい試練をこれから乗り越えようとする仲間であるレンを拒む理由があるのだろうか。彼の性格も言動も、憎むべき対象ではないのだし。

 

 それにもし、僕が彼を拒んだら……選べもしない自己の生まれで彼を差別するなんて、僕は、貴族の家で疎まれたというのに。

 

「……これからも、よろしくお願いしますね」

 

 頭では理解したというのに、感情がついてこない。この世界の悪の根源だった彼を太陽のように眩いシアンでもないのに受け入れることが出来ない。

 

 うまく笑えない僕を諦めたように見て、こちらこそと言ったレンは、ただの優しい人にしか見えなかった。

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