ドラゴンネストR短編集   作:ryure

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ルビナート×メリエンデル
時系列:フェザーが綺麗だった頃


Dayflower

 自分の持てる知識を語りながら、メリエンデルに知識をさずけるのを装いながら、私の視線はいつもメリエンデルに向いてしまうのだ。

 

 美しく悲しいエルフの君に、どうしても……ドラゴンである私は、惹かれてしまった。

 

・・・・

 

 メリエンデルは私の話を聞きながら、誰よりも真面目な顔をして、人間がとうに学び尽くしたと言うほどの知識を学んだはずだ。

 

 であるのに、未だ貪欲に知識を貪る様子はひどく好ましい。これほどまでに私の知識を欲しがり、いつまでも学び続けた者はいなかった。皆、無知な顔をしてもう知るべきことはないとか言って去っていったのだからな。

 

 見えない目がなんであろうか、彼女は私が見た、私以外の生物の中で最も賢明で、最も努力家だ。そしてこれは主観が入ってしまうが最も美しい。特に、その、笑顔がな。

 

 メリエンデルが知りたいということを話しながら次第に私はメリエンデル自身に見入ってしまうことが良くある。その輝く金糸、その白い肌をじっと見つめてしまうのだ。幸いにもメリエンデルに不審がられたことはないが。私は一体どうしてしまったのか。

 

 ……嗚呼、分かっている。この感情の名前ぐらいは。分かっているぞ、私は知識のドラゴンなのだから。愚かなる人間が長い間振り回され、人生を棒に振り、しかし追い求めてきたもの。

 

 薄命なエルフの中でも少数だがその感情に押し流されて他の何物も見えなくなるというのはままあること。私は見てきたのだから、分かっている。

 

 恋。恋をしたのだろう、私が、メリエンデルに。愛とはなんだ、慈しむとはなんだと、半分ほどは理解しながら生きて、数千年。人間共に知識を授けていたときも、ランクロウ……レンを育てていた時も理解していたようでしていなかったというのにこんなところで、しかも身をもって経験するとは。

 

「……今日は天気がいいからな、一旦休憩してもいいだろ」

 

 メリエンデルの質問に答え、一呼吸おいて私はかねてから考えておいた言葉を言う。我ながら自然な誘い文句、だ。

 

「え、構いませんが……天気がいい、とは」

「気持ちの良い風が吹いているからな、外に行かないか?たまにはこんな狭いところから出て日光を浴びるのも一興だ」

 

 口から出任せ、という訳ではないがそう半ば無理矢理納得させると、メリエンデルを促すように本を少し音を立てて閉じた。

 

 そして立ち上がってぐいと伸びをしてみれば、それをどう思ったのかメリエンデルは優しく微笑んでいた。

 

・・・・

 

 爽やかな風が頬を撫で、髪を揺らします。隣に立つルビナートの服が風になびいてパタパタと音を立てました。

 

「この先にいい場所があるんだ。きっとメリエンデルも気に入るはずだぞ」

 

 うきうきとした調子のルビナートは、私のすぐ隣を歩調を合わせて歩いてくれ、気を使っているのが分かります。そんなことをしなくても大丈夫だ、と幾度となく伝えても彼は「目が見えないからやっている事ではない」と言って取り合ってくれませんでしたが。

 

 さんさんと照る太陽は汗ばむ程ではない心地良さで、なるほどルビナートが私を誘ったのも理解出来る陽気でした。

 

「いい場所、とはどんなところですか?」

「……それは着いてからのお楽しみ、だ」

「そうですか。楽しみです」

 

 楽しげな様子を含んだ声はいたずらっぽいものに変わり、きっと彼しか知らないような所なのだ、と思いました。なにか特別なものでもあるのでしょうか。

 

「ここから少し登るぞ……気をつけ……」

 

 そっと私の手をとったルビナートが、ぱっと後ろを振り返った気配がします。手はぱっと離され、そして私の横を通り過ぎて後方に向かってひどく飽きれたような、怒ったような様子になりました。

 

「……エリザベス。そしてフェザーよ……なんでいる」

「なんでって、別にここにいてもいいではありませんか」

「……はぁ。なぁフェザー……なんでいる?」

「止められなかった」

 

 申し訳ない、といった諦めを含んだフェザーの声は少し疲れているようでしたが、うきうきとした楽しそうなエリザベスはひどくルビナートを脱力させました。

 

 なるほど、二人は……いえエリザベスは私たちの後をついてきたのですね。最初から一緒に来ればよかったのに……というよりも、二人とも忙しくはないのでしょうか?エリザベスが興味を持つのはまだ分かりますが、わざわざフェザーを連れてくる必要はあったのでしょうか。

 

「二人が仲良く歩いてるのが見えたのよ」

「では一緒に行きますか?今日は天気がいいので散歩していたんです」

「ありがとう。でも邪魔しちゃったから退散するわ」

 

 ……何故エリザベスはこんなに楽しそうなんでしょう?によによ、と形容するに相応しいように笑っているのが目が見えなくてもわかります。楽しんでね、と言ってくれましたが……なぜ私たちをつける必要があったのでしょう?

 

 結局フェザーが何故いたのかも、エリザベスが何故楽しそうだったのかも分からなかったのですが後でルビナートが人の……いやドラゴンの邪魔をするか……恐ろしい女だ、エリザベス……などと少しわけのわからないことを言っていましたが。

 

 二人が立ち去ってからルビナートは私に向け、

 

「気を取り直していこうか」

 

 と言い、今度は手を取らずに歩き始めました。いえ、躊躇したような感じはありましたが結局は何もされなかったので。

 

 しばしとりとめのないことを談笑しながら丘をいくつか歩き、次第に花の匂いが漂ってきました。歩けば歩くほど濃い香りが広がります。花がこんなにも密集しているということは……相当大きな花畑、ということでしょうか。

 

 岩があるから気をつけて、とルビナートは私の横を気遣うように歩いてくれ、おかげで岩に足をかけることすらなかったのは流石というべきエスコートです。なぜ私にそれを使うのかはわかりませんが。

 

「ついたぞ」

 

 ルビナートの一言でとうとうその花畑の中心地まで来たことが分かりました。風に揺られて香りが舞い散るその場所は、夢の世界のように感じられるほどです。吹きあがる様々な花の芳醇な香りは頬を撫で、髪を揺らし、思わずうっとりとしてしまいました。

 

 そっと促されて地面に座れば触れる地面は全て柔らかな花びらに埋れていて。もしかすると地面だけではなく花の咲く木が近くにあるのかもしれません。様々な花の香りの混じったその場所は……ドラゴンのように嗅覚に優れているならば辛いはずですが……。

 

「ルビナート、とてもいい香りのする素敵な場所ですね」

「あぁ、そうだろう?私が空を飛んでいて気づいた場所なんだ、上から見ても綺麗なところでな。つい降り立ってみたらこんなにも花が密集してるとは思いもしなかったから覚えていたんだ」

「そうなのですか? ……ところでドラゴンは嗅覚に優れている、と聞いたのですが……」

「大丈夫だ。というよりもこの花の香りは不自然なものではない……まぁややきついが。香水のようにわざわざ濃縮した劇物でもない限り耐えれるぞ」

 

 機嫌よくそう言ったルビナートですが、すん、と小さく鼻を鳴らしたので本当は気を使っているだけかもしれませんが……。

 

 しかしわざわざこの場所に連れてきて頂けたのです、感謝こそすれわざわざそれを指摘する必要は無いでしょう。

 

「……説明、は必要か」

「この場所のですか?」

「あぁ。まぁ、なくとも分かるようなところだが……」

「ありがとうございます。ですがルビナートの言うとおり、ここの景色が目に浮かぶようですから」

 

 そうか、と返したルビナートも私の隣に座ったようです。しかし座ってすぐに何かを思いついたのかいたずらっぽい調子で、

 

「もし良かったら花びらを降らせようか?」

 

 と、言いました。うなずけばぱらぱらと頬に柔らかい花びらが触れ、隣に座るルビナートが頷いているような気配がしたので魔法かなにかでしたのでしょう。

 

「あ、そうだ……。ちょっと待ってろ」

 

 すぐに立ち上がって何処かに行ったルビナートは程なくして戻ってくると今度はなにやら私の髪に触れてそっと何かをのせたようでした。満足げに息を吐くルビナートは、何故か微笑みを浮かべて私を見ている気がしました。

 

・・・・

 

「……これは?」

「花の冠だ。我ながら良く出来たものだな……よく似合っている」

 

 不思議そうな顔で首をかしげるメリエンデルの手に触れた花の冠。即席にしてはなかなか綺麗に出来上がったと思っているし、メリエンデルの金髪によく似合っている。

 

 シロツメクサとツユクサで作ったそれは日の光に照らされてますます美しく見える。まぁ当然のことだがシロツメクサの花言葉の復讐なんていう意味ではない……花の冠にはシロツメクサが一般的に使われるしな。

 

「そうですか?」

「あぁ」

 

 会話はそこで途切れたが、心地よい沈黙だった。時折すぅと花の香りを吸い込むメリエンデル。つられて噎せ返りそうなほど濃い香りを吸い込み、エルフや人間にはきっとこれが心地いいはずなのだと思う。

 

 実際、穏やかな顔をして時折花びらをすくうようにして触れ、指の間からぱらぱらと落としているのは楽しそうだった。連れてきたことは間違いではない。まぁ、私がこの手のことを間違えるはずは……いや、最近は調子が狂っているのだが。どうもメリエンデルだけにはそうではないらしい。

 

 まったく、本当に恋、というものは恐ろしい。人間共だけではなくドラゴンまでもを……狂わせる。どうもいつものようにはいかないのだ。

 

 

 穏やかな時間、愛しい時間。それはあっという間に過ぎていき、帰ったのは少し肌寒い……であろう夕方だった。

 

 薄暗い中をまたエリザベス達に出くわして……確実にフェザーは巻き込まれている……エリザベスにによによと、面白いものを見る目で見られたのはまた別の話だ。

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