ドラゴンネストR短編集   作:ryure

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時系列:レン(アサシン)が意識を持ってから家出するまで。

殺人描写あり。直接表現はありません。


私はなんだ?

 私は、「何」なのだろう。

 

・・・・

 

 私が初めて目を開いた時のことを、これだけは鮮明に記憶している。真っ暗な何もない世界から取り出された私を掴んだ存在のことを。

 

 私は今で言うなら「眠って」いた。目覚めることはない眠りだったが、それを呼び覚まし、名を与え、息をし、血を巡らせる存在にしたのが……太陽が目に焼き付く色の名前、それがルビナートだった。

 

 まだ、「喋る」ことも「歩く」ことも「考える」ことも知らない私に、未知なる「言葉」をかけたのはルビナートだった。今ならなんとか理解できる言葉から全く知らない言葉までたくさんかけたのもルビナート。

 

 私が「意味」のある言葉を話した時に「目」を大きくしたのもルビナートだ。驚いて、それから冷酷に実験するように、そして……親のように慈しむ。

 

 私は、一体、何だ。

 

 そう、ずっと思っていることを、遂に問えばさらりと答えられた。私の考えは大して「重要でない」ことだった。そう、ルビナートにとっては当たり前の事実だった。私は悩む必要もなかったのだ。

 

 君はビヨンドドラゴンだ。

 

 だけども、私の事をルビナートは「ビヨンドドラゴン」とは呼ばなかった。じゃあ私はなんなのだろう。名前で呼ばないなら、なんなのだろう。私が「ビヨンドドラゴン」だとしても、私はどこから来たのだろう。そもそも「ビヨンドドラゴン」とは何なのだ?

 

 結局、考えても答えは出なかった。しかし聞くのはもうしなかった。それは自分で探すものなのだと勝手に「考えた」からだ。

 

 ……君は、よくできた息子だな。

 

 それに、私は「分かりました」と答えた。了承の言葉だったと記憶していたから。するとルビナートは「呆れ」た。どうして「呆れた」のかは分らなかった。

 

 息子だというのだから、私にも親がいるのだと思った。親がいるのが「自然の摂理」なのだと思った。だって私のことを息子と呼ぶなら、私にも親がいると思って、きっとそれはルビナートなのだと思って、ルビナートに「聞いた」。

 

 分からないことはなんでもルビナートに「聞く」をした。「ビヨンドドラゴン」が何なのか、きっといつか私はそれを聞くのだろうと思いながら。きっと考えてもわからない、今は一応、なけなしの探究心を持って考えているだけなのだった。

 

 あなたは私の父親なのですか?

 

 すると理解出来ないことにルビナートは「否定」をした。つまり、ルビナートは私の親ではないということ。親ではなく、ルビナートは私を「再生した」らしい。親は「生む」存在。「再生した」はどちらかというと、「直す」だ。ルビナートは私を直したドラゴンだった。

 

 ルビナートは前に私にルビナートを見て学べと言った。だから私はルビナートを見た。だが、それは間違いだったようでルビナートは「少しは物の意味を考えろ」と言った。物の意味を考えても、私がどこから来たのかは分かりはしなかった。

 

 そして、私は「暗殺部隊」に入ることになった。身を守る方法を知らない私はそこで教えられるらしい。自分で考えるよりはずっと分かりやすくて良かったが、どうして「暗殺」部隊なのだろう。

 

 私は「ビヨンドドラゴン」で人間ではない。人間が人間を殺すように教える場所が「暗殺部隊」なら、私は人間ではないので「討伐部隊」に入るべきだと、言わなかったが考えた。

 

 暗殺部隊は当然、人間がいた。身を守る訓練をした。相手の身を害す訓練も、した。体が「疲れ」たりしたり、「傷つい」たりもしたが、死ななければ動けた。

 

 そこで私は知った。人間にはやはり親がいるみたいだったが、いない人間もいた。いない人間もいたから、私も「親がいないドラゴン」なんだと思った。人間もそうなら私もそうなのだろう。

 

 だが、「親がいない人間」も「親がいないドラゴン」もどこから生まれるのか?

 

・・・・

 

 私は、人間の「親」を殺した。「暗殺部隊」に所属した身で、「討伐」した。命令されたから、「討伐」した。

 

 親を殺したら親は死んで居なくなる。「親がいない人間」がいるのはいなくなったからだと知った。

 

 そうだというなら私の親は居なくなったのだろうか。それとも暗殺部隊の誰かが私の親を殺したのだろうか。いや、ドラゴンの親はドラゴンだろう。「討伐」されたのだろうか。ルビナートは私を直したらしい。暗闇の何も無いところにいた私を。それができるのなら、ルビナートは私の親は直さなかったのだろうか。

 

 しばらくしてルビナートの所に戻った私は、新しいことを知った。私は「ビヨンドドラゴン」の欠片から作られたらしい。親の「ビヨンドドラゴン」から作られたというよりは、私自身が「ビヨンドドラゴン」なのだろう。つまり、親がいない。

 

 「親がいない人間」も、「親を殺された人間」と「親から作られた人間」がいるのだろうか? わからない。ルビナートはドラゴンらしいから、分からないかもしれない。人間に聞きたくても周りにルビナート以外の「息する者」はいないのだ。

 

 ドラゴンは「宝玉」から生まれるものだ、と教えられたが、私は違う。生まれたのではなく「直された」のだ。私は人間ではない、ドラゴンだ。だがドラゴンだって宝玉から「生まれる」のだ。

 

 ならば、私はなんなのだろう。私は「振り出しに戻った」。

 

 ……ランクロウ。

 

 私には、名前がある。「赤いドラゴン」の名前が「ルビナート」であるように。「ビヨンドドラゴン」の名前は「ランクロウ」。私は、名前には「意味」があるものだと人間に聞いたから、ある時「ルビナート」の意味を尋ねた。

 

 ……ん? 私の名前の意味か? 君はなんでも知りたがるな。感心だ、だから特別に教えてやろう。私の名前は赤い痕跡、雪原の椿、鮮血という意味だ。良いだろう、自分で考えたんだぞ。

 

 ルビナートは赤いドラゴンだ。髪の毛も目も赤かった。そう意味を持つならば、これ以上ふさわしい名前はないように思えた。ならば、茶色の髪の毛をして、色のないような色をした目をしている私の名前、「ランクロウ」にはどんな意味があるのだろうか。

 

 自分が一体「何か」が、分かる気がして私は口を開く。質問は考えるまでもなく口ついて出た。ルビナートも、なんということもなく答えた。大した問題もないのだろう。少し「嬉しい」顔をしていたようにも思えた。聞かれたかったのだろうか。

 

 君の名前の意味か? よくぞ聞いてくれたな。君の名前はいつか探し出すことができる希望、または可能性。もしくは第三の道。そんな意味さ。

 

 …………、あぁ。

 

 どうしたんだ、ランクロウ。

 

 そんなの、私に似合わない。呪い……そうだ、呪いだ。

 

 私は、私が「何か」もわからないのに。「希望」とは、主に人間が抱く、温かな想いだと聞いた。可能性とは良いものだと知った。名前は、私の名前は……自分を知らずとも「私」を「捉える」。

 

 私は希望になりえないのに。私は、私を直したドラゴンのように、強くも賢くもなく、何も知らない無知な存在なのだから。

 

 どうした……?

 

 私には、そんな名前は、似合わないのです。

 

 私にはその時、「嫌だと思うこと」がわからなかった。「何」をしても、何も大して感じなかった。そういうものなのだと思っていたからだ。

 

 でも、今はわかった。「嫌なこと」を理解した。これこそが「嫌悪」なのだと。私は断じて「希望」ではない。私は「可能性」になりえない。私はルビナートの思うような「ランクロウ」ではない。いや、「ランクロウ」にはなれないのだ。私は私が分からないのだから。

 

 ……、そうか。そんなに嫌なのか。ならば……少し変えて、君のことはこれから「レン」と呼ぼう。

 

 分かりました。

 

 「レン」。「レン」か。そうか。私は「希望」ではないのだから。「可能性」のランクロウではないのだから。短く、ただ、ただのレン……自分を理解しない者の名前。

 

 嗚呼、私はなんだ? 何のために生まれてきた? どうしてここに私は存在するのだろう。

 

 その回答は得られない。ルビナートにはもう、自分については聞かないことにした。私は私を探さなくてはならないのだ。「ビヨンドドラゴン」について聞けても「レン」はただの「レン」なのだから、聞いたって仕方がないだろう。

 

 ……探す?そうだ、私は探さなくてはならない。それは、何を?何だろうか。あぁ、また、分からない。探すものを、探せばいいのではないか。なにか大切なものが、私を待っている気がする。

 

 私を必要としている者が呼んでいる気がする。

 

 そう、思った瞬間、私は不意に「理解した」。私がなにかは相変わらずわからないが、何をしなくてはならないのかを理解したのだ。いますぐ、そこへ向かわなくてはならなかった。

 

 私は、レンだ。ただのレンでも意味ができた。

 

 そのまま私は、本能の赴くままに「飛んだ」。「驚い」て、「手」を「伸ば」して、私を見たルビナートの姿は、今度はすぐに忘れた。焼き付かない赤はすぐに瞼の裏から消えていく。

 

 今の私は探さないといけないから。私は、私は、私は……僕は、「彼女」を探さないといけないのだから。

 

 嗚呼、呼んでいる、呼んでいる、呼んでいる!

 

 待っていて、待っていて、僕が今すぐ君の元へ行くからね。 

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