深海棲艦が人間を見ていたと言うのならば、
人間もまた深海棲艦を見ていた。
人が兵器で戦っていたのだから、
兵器は人と共に戦っていた。
◆◇◆◇◆◇
R-9Aから代替わりしたR-9A2を駆る男がいた。
ダンサー隊。
対深海凄艦武装試験運用部隊としての側面をもつこの部隊は、その目的とは裏腹に多大な戦果を挙げてきた。
試験兵装を積んだまま、なし崩し的に他作戦に取り込まれていたり。
現存する部隊でもっとも深海棲艦を鹵獲している実績だったり。
突如現れた大艦隊相手に住民の避難時間を稼いだり。
そんな部隊を率いる隊長が、海を駆けていた。
「……試験運用部隊ってのは、こんな役回りだっけかねぇ」
なぁ、と併走する
彼女からの返信はモニターに緑色で表示される。緑色――彼女が不承不承な反応を示すときに使う色だ。言葉にするなら、『こんな役回りだというなら、国語辞典の改定が必要』といったところか。
結局海軍に正式採用されなかったこの軍用イルカだが、この部隊では未だ第一線級の偵察兵器として任務についている。
――いや、兵器というには彼らの間には奇妙な感情があった。
信頼、親愛、友情。イルカという判りやすい動物で、長い間作戦を共にした仲であるから、隊の一員として迎え入れることに然程抵抗は無かった。
そんな彼らの周囲に、多数の船影。
全てが、敵性。
「こんなんばっかだ……お払いでもしてもらうべきか?」
青いアイコンが表示される。
「肯定、って……お前さん、暇というか律儀というか」
短くも長く思える間共に走ったマメな戦友に、苦笑を一つ。
モニタを介さなくても彼女がムスッとしたのが判った。
「逝くか」
前進を始めた彼の背に、恨みがましい一声が届いた。
◆◇◆◇◆◇
死んだ。
はっきりと判った。俺は死んだんだ。
不死身のダンサーなんて長らくやってきたが、それも今日で退職するらしい。
ああ、くそ。妙に頭がすっきりしやがる。
死んだとはいってもあっさりとは死ねないって訳か。
そうだ。確かあれは戦艦級を雷撃で沈めて、空母の左舷を通り過ぎた後に……。
意味不明な箇所から来た魚雷。
……
どうせこの戦闘もあいつらどっかで観戦してるだろ。新しく前線に脅威が来たことは伝わるはず、って随分御利口さんな思考をしてるな俺。
ん、ここは何処だ? 情報が錯綜しすぎて何を考えれば良いのかどの順番が良いのかさっぱりわからん。
ここは、海中? 視界の右は真っ暗で、左はきれいな水色だ。
横になったまま沈んでいるのか。おいおい。
爆発と水柱は少し俺の小型艇から離れていた、ような。
……そうか、
俺も一緒に沈むから許してくれや。
何だかんだでキュイキュイ寄ってくる彼女が見えた気がする。
光から何か落ちてくる。良くわかる。それは俺の船だ。
なんてこった、コイツも沈んじまったか。
人も、イルカも、船も。
みんなみんな沈む――
(――沈みたくねぇなぁ)
◆◇◆◇◆◇
それは偶然だった。
それは必然だった。
その戦場は絶望的な戦力差だった。
その戦いで唯一希望を担っていた。
彼は死んだ。
彼は死んでいない。
それは
数多の骸が式となり。/海で戦うモノ。
一つの声が条件を定義し。/人の生への渇望。
イルカの命が核となって。/海に地球に届いたオモイ。
残った弾が攻性を、残った燃料が持続を、残った二種の金属が守性を。
格納されていた自立半有機機械――『Fairy』が反応を促進させる触媒に。
そして、彼が背負ってきたものたちも、まあ結果的に手を貸した。
その結果――
「はじめまして、吹雪です。よろしくお願いいたします!」
「――あ?」
――実に陳腐な出来事が起こってしまった。
深海棲艦の手を逃れたダンサー1が待っていたのは、また地獄だった。
奇跡の後に住み着いた研究の変態。
100日のデスマーチが生み出したソドムの街。
未知と探索欲求、好奇心と冒険心とをコンクリートミキサーにかけてブチまけた、
ここは海域サボ島沖のゴモラ。
次回、最終回『大円団』
実は次回は最終回ではない。